第四十二話 覚悟
三日後。
王都は、答えを出す。
そして、アレン自身も。
城へ戻る途中、
アレンは一言も話さなかった。
城門が閉じ、重い音が背後で響いた瞬間――
ようやく、膝から力が抜けた。
「……っ」
壁に手をつき、呼吸が乱れる。
翼は畳まれ、光も、ほとんど消えていた。
「アレン様!」
駆け寄ってきたのは、リアナだった。
聖女として覚醒した彼女は、
城内に満ちる影の圧を誰よりも早く感じ取っていた。
その目の前の彼は――
英雄でも、騎士団長でもなかった。
アレンは、何も言わずに、顔を覆った。
肩が、震える。
次の瞬間――嗚咽が、漏れた。
「……っ、く……」
「……ユウが……」
声が、崩れる。
リアナは、一瞬だけ迷い、
それから、そっとアレンを抱きしめた。
「……いいの。今は、英雄じゃなくていい」
アレンの額が、彼女の肩に触れる。
涙が、衣を濡らす。
「……俺は……
王の言葉を伝えた……
降伏も……首も……」
言葉が、続かない。
「それなのに……」
アレンは、喉を押さえながら言った。
「……あいつは……俺を……誘ったんだ……」
リアナの身体が、わずかに強張る。
「……誘った?」
アレンは、震える声で続ける。
「一緒にやろう、って……」
「壊すんだ、って……」
「俺は……中から変えられる側だったのに……
何も、できなかった、って……」
リアナは、
アレンの背中に手を回し、ゆっくりと撫でた。
「……それで、あなたは……どうしたいの?」
その問いに、
アレンはすぐ答えられなかった。
しばらくして、やっと、言葉を絞り出す。
「……分からない……正しいことが……どこにも、ない……」
リアナは、アレンの顔をそっと上げさせた。
涙で濡れた瞳を、まっすぐ見る。
「ね、アレン様……ユウ様は、苦しんでいる。
それは、あなたも分かっているでしょう」
アレンは、小さく頷く。
「でも」
リアナは、続ける。
「苦しんでいるからといって……していいことと、してはいけないことがある」
一拍。
「……それでも」
彼女の声は、震えていた。
「それでも私は……ユウ様を……救いたい」
アレンの目が、大きく揺れる。
「……救う……?」
「ええ」
リアナは、
胸に手を当てる。
「殺すことでも、止めることでもなく
……戻ってきてもらうこと」
アレンは、目を伏せた。
「……もし……俺が……
あいつの隣に立ったら……」
リアナは、はっきりと言った。
「私は、止める」
アレンが、顔を上げる。
「でも」
リアナは、
柔らかく、微笑んだ。
「あなたが……彼と向き合うために行くなら、
私は……あなたの味方よ」
アレンの喉が、鳴る。
「……怖い……」
リアナは、
その言葉を否定しなかった。
「……うん、怖いわよね」
「それでいいの」
しばらく、
二人はそのまま立っていた。
城の外では、影の軍団が、動かずに待っている。
アレンは、涙を拭い、深く息を吸った。
「……俺は……三日後までに……答えを出す」
リアナは、小さく頷く。
「ええ」
「一人じゃないわ」
アレンは、窓の外を見る。
遠く、影の中心に立つ、一人の親友を思い浮かべながら。
(……待ってろ、ユウ)
(答えは……必ず、持っていく)




