第三十二話 影の中の光
崩壊する森の中、巨大な魔獣がユウを押し込む。
影獣たちも攻撃を受け、吹き飛ばされる。
「や……やばっ……!」
体は切り傷と打撲で血まみれ。
影鎌の力を振り絞るたびに、痛みに顔を歪める。
「……ここで終わるわけには……!」
影鎌を振るい、影を使い攻撃するも、魔獣の圧倒的な力には届かない。
巨体の足が地面を砕き、ユウの体が吹き飛ばされる。
ユウは、リアナのいる場所まで吹き飛ばされた。岩肌にめり込み意識などとうに吹き飛んでいた。
利き手である右手は、ひしゃげ、脇腹は先の攻撃で抉られていた。
かろうじて息はある、そんな感じだった。
「ユウ様……耐えて! 早く回復を……」
光がユウを包むが、魔獣の一撃で衝撃波が押し返され、リアナの結界も揺れる。
治癒魔法では限界まで消耗しており、全ての傷を即座に治すことはできない。
意識の戻ったユウは血と泥にまみれ、体を震わせながらも立ち上がる。
「……まだ……行く……!」
鎌を握る手は血で滑り、鎌の影は波打つように不安定だ。
「……くそ……!」
呼吸は荒く、鎌は手から何度も滑り落ちる。
影の魔法も消耗しており、再び立ち上がるのがやっと。
リアナは必死に光を集中させ、ユウの胸に手を置く。
「……ユウ様、少しでも……」
光がユウの痛みを和らげるが、完全に回復することはできない。
ユウは血まみれのまま、なお立ち上がるしかない状態。
魔獣の咆哮が森を震わせる。
影獣たちはほぼ壊滅、再生させるための魔力も使い切り、血を流しながらギリギリの状態で立っていた。
「……っ……は……」
口の端から血が滴り、胸の奥が焼けるように痛む。
肋骨が何本も折れているのが自分でも分かった。
「ユウ様――!!」
治癒魔法で精一杯のリアナが駆け寄る。
その瞳は涙で濡れ、ユウの体に縋りつく。
「もう……もう戦えません!!これ以上は……死んでしまいます!!」
ユウを治癒しようと、震える手から光が零れる。
しかし治癒は追いつかない。
ユウの傷は深すぎる。
「……げふ……っ」
喉の奥が熱く、次の瞬間、血が口から溢れた。
リアナの瞳が恐怖で揺れる。
「ユウ様ッ!! やめて、もう戦わないで!!
お願いです……お願いだから……!」
泣きながら胸にすがるリアナ。
しかしユウは、自分の心臓を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
足が震え、何度も崩れそうになる。
だが――鎌を拾う手だけは、決して止まらなかった。
「君……名前は……?」
「へ……?リ…リアナです!!貴方の親友のアレン様の妻です!!」
ボロボロ泣きながらも強く答えた。少々困惑したが、
「ははは、アレンもいい子を……捕まえたな」
……リアナ……
俺は……ここで倒れるわけには……いかない」
影鎌を支えに立ち上がり、血の滲む唇で続ける。
「俺が動かなきゃ……お前も、アレンも……この国のみんなが死ぬ」
リアナは首を振る。
涙が頬から落ち、ユウの手を掴む。
「そんな理由じゃない……!
ユウ様が死ぬほうが……私……私のほうが……耐えられません……!」
その声は、喉が潰れる直前の悲鳴だった。
ユウは、震えるリアナの手をそっと外す。
痛みに歪みながらも、穏やかな微笑を浮かべる。
「大丈夫だ、リアナ。
……お前は、守られる側じゃない。
俺が……アレンが……守りたいと思った人間なんだろ?」
リアナは崩れ落ちるように泣き叫ぶ。
「ユウ様ぁぁあああ!!」
禁忌魔獣のブレスが、森を焼く。
ユウは血を擦りながらも、その巨体へ向かって歩き出す。
一歩。
二歩。
影鎌を引きずるように前へ――
まだ倒れるわけにはいかない。
「俺に、まだこんな感情が残ってるとはな……」




