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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
第一章 王の誕生
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第二十九話 語られぬ影

しばらく笑顔で談笑していたリアナが、ふと表情を柔らかくした。

「……アレン様。昨日からずっと、胸の奥に迷いを抱えていませんか?」

アレンの手が止まった。

(気づかれてた……?)

「無理に話す必要はありません。ただ――」

リアナは軽く首を傾け、心配そうにアレンを見つめる。

「……私は、あなたの隣に立つ者です。

 あなたの苦しみも、迷いも、支えたい」

言葉が優しすぎて、胸が痛む。

ユウの影。

置いてきた友のことを思い出し、何も言えなくなる。

リアナは静かに続ける。

「英雄とは、強さだけで作られるものではありません。

 迷い、苦しみ、立ち上がる……その姿が、人に『光』を与えるのです」

「俺が……光、か」

アレンは息を呑む。

王女の瞳が、わずかに潤んでいた。

「アラン様。

 あなたと――本当に良い関係を築きたいのです」

その声は、政略ではなく、ひとりの少女の願いだった。

アレンは静かに頷く。

「……ありがとう、リアナ。」

リアナは嬉しそうに微笑み、そっとアンの手に自分の手を重ねた。

王女と英雄の、初めての触れ合い。

一瞬の沈黙。

心臓の鼓動が互いに聞こえそうなほど近い。

「アレン様。これから……どうかよろしくお願いします」

「こちらこそ、リアナ」

二人の距離は、昨日より確実に近づいていた。

外では王都の夜風が吹く。

だが、部屋の中は春のように暖かかった。


叙爵式と婚約の発表から数日後。

王都はまだ祝祭の余韻に包まれていたが、アレンの胸の奥にはどうしても消えぬ影があった。

夕日に照らされた王城の庭園。

白いドレスに身を包んだリアナが静かに花を撫でていた。

「アレン様、最近……少し疲れているように見えます」

振り返ったリアナの瞳は、騎士団長の婚約者ではなく、一人の少女としてただ心配していた。

アレンはしばし口を閉じ、息を整える。

「リアナ……君に話さなければならないことがある。

 私がここ数日、胸に抱え続けていたことを」

リアナは不安げに眉を寄せたが、逃げずに見つめ返した。

「どんなことでも……聞きます」

アレンは、深く、深く息を吐き出す。

「俺の親友、ユウのことだ」

リアナの指がわずかに震えた。

「……ユウ様が、どうかしたのですか?」

「彼は今、王都にはいない。

 いや……帰れないと言った方が正しい」

アレンは語る。

・教会がユウを「魔族の魔法を使う異端」と断じたこと

・教会本部を壊滅させるほどの戦いが起きたこと

・王都に戻ったユウが、市民から迫害と恐怖の目で見られたこと

・そして心を壊され、ひとり深いダンジョンへ姿を消したこと

言葉を絞り出すたび、アレンの拳は強く握りしめられていった。

「私は……ユウを救えなかった。

 あれほど近くにいたのに、何も気づけなかった」

沈痛な告白に、リアナは胸元を押さえるようにして聞き入っていた。

________________________________________

■リアナの涙

「そんな……そんなことが……」

リアナはふるえる声で呟き、瞳に涙を浮かべた。

「ユウ様は優しい方でした。

  私が騎士団の視察に行ったときも、そっと手を貸してくださって……

  そんな方が……そんな」

アレンは驚いてリアナを見つめる。

「……ユウと、そんなやり取りが?」

「はい。

  彼は、人の痛みに敏い方です。

  だからこそ……その分、深く傷ついてしまうのでしょうね」

リアナの涙は、誰も救えなかった罪悪感ではなく、

“ただ一人の青年への純粋な哀しみ”だった。

その姿を見て、アレンの中では迷いが無くなる。

「リアナ……私は旅に出ようと思う」

リアナの肩が跳ねた。

「旅……? どこへ行くのですか」

「ユウを探しに行く。

 彼は今、誰にも頼らず、一人で闇の中にいる。

 あのままでは……いつか、本当に戻れなくなる」

アレンはリアナの手をそっと取る。

「婚約者である君を置いていくのは、責任を放棄するように見えるかもしれない。

 だが……私には、ユウを救う義務がある。

 彼は……私の、たった一人の親友なんだ」

リアナは涙を一つこぼし、それを拭わずに言った。

「……アレン様。

  あなたの決意は、優しさそのものですね」

リアナの中でも意思が固まりつつあった

その夜、アレンは地図、武具、食料をまとめ、旅の準備を整えた。

影に堕ちたユウ。

英雄として祭り上げられた自分。

二人の道は大きく離れた。

それでも。

――アレンは騎士として、そして友として。

闇へ沈んだユウの手を、必ず掴み上げると誓う。



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