表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
第一章 王の誕生
28/43

第二十八話 置き去りの影

ユウとアレンが出会って5年がたった。

王宮の大広間。

紅い絨毯が奥の玉座へと伸び、両脇には王国の重鎮たちがずらりと並んでいた。

その中心で、アレンは膝をついていた。

天角獣を討伐した功績は王都中に鳴り響き、

今や誰もが彼を「光の英雄」と讃えている。

――ユウのことを誰も話題にしないまま。

ユウの名は記録から除かれ、噂では「行方不明」とだけささやかれる。

王は「現在調査中だ」と短く言うだけで語らない。

アレンは胸の奥で重たいものを抱えたまま、

王の言葉をただ静かに待っていた。

◇◆

王は立ち上がり、アレンの頭上に宝剣を掲げた。

「アレン・フェルノート。

 そなたは神話級魔物を討伐し、王国に多大な貢献を果たした。

 ゆえに本日より――」

剣がアレンの肩へ軽く触れる。

「伯爵 の爵位を授ける」

大広間がどよめいた。

伯爵位は国家でも指折りに重い地位。

若干19の少年に与えられるなど、異例中の異例だ。

アレンは深く頭を垂れた。

「……身に余る光栄です、陛下」

王は微かに微笑むが、その眼は政治の光で冷えている。

「そしてもう一つ、報せねばならぬことがある」

ざわめきが止む。

王の視線が、客席に座る豪奢なドレスの美しい少女へ向けられた。

淡い金髪、冷静な瞳。

若くして政務に通じると噂の、王国第二王女――

リアナ。

「アレン。

 そなたには……リアナ王女を娶ってもらう」

大広間が再びざわめいた。

だが今度は驚愕よりも、納得と期待の空気のほうが大きい。

「英雄アレンと王女の婚約」

――王国の安定を象徴する、美しい物語。

アレンは目を見開いた。

(……婚約?

 俺が……あの王女と?)

王は続ける。

「リアナは聡明だ。そなたの力と心を支える伴侶となろう」

リアナ自身がゆっくりと立ち上がり、薄く微笑む。

「アレン様。お会いできる日を、ずっと楽しみにしておりました。

 ……どうか、よろしくお願いいたします」

声は柔らかいが、その裏に

政治の重さ

王族としての覚悟

が垣間見える。

アランはようやく立ち上がる。

膝が震えたのは、重責のせいか。

それとも、もう戻れない未来を悟ったからか。

「……こちらこそ。リアナ王女、よろしくお願いします」

その瞬間、王宮には歓喜の拍手が広がった。

兵士たちは「英雄がついに王家の一員になる」と盛り上がり、

貴族たちは各家の利権がどう動くか、早くも駆け引きを始めていた。

アレンは笑顔を向ける。

しっかりと、堂々と。

けれど胸の奥底で、ひとつの影が揺れる。

――ユウ。

孤独な少年の背中。

英雄と呼ばれることなく、

闇の中へ消えていった友。

(俺は……お前を助けるべきなんじゃないか?

 それなのに……こんな場所に立っていていいのか?)

リアナがそっとアレンの袖を引いた。

「アレン様。顔が少し曇っています」

「……すみません。少し考え事を」

「大丈夫です。これから、肩を並べる者同士ですから。

 ……いつか、何でも話してください」

優しい言葉。

でもアレンの胸は、なぜか締めつけられた。

王都は祝宴に包まれた。

ただ一人――

闇の中で進む少年の名を知っている者は、

この場にほとんどいなかった。

光の英雄が誕生したその日、

影の王は、さらに深い闇を歩んでいた。


アレンの叙爵と婚約が発表された翌日。

王城の一角――まだ新しい家具の匂いが残る、伯爵となったアレンの専用居室。

そこへ、軽いノック音が響いた。

「アレン様、リアナです。……お入りしてもよろしいですか?」

昨日の婚約式以来、初めて顔を合わせる。

アレンの胸が少しだけざわついた。

「もちろん。どうぞ」

扉が開くと、リアナが丁寧に微笑みながら部屋へ入ってきた。

今日の彼女は、式典のような豪奢なドレスではない。

柔らかい白布のワンピースに、淡い青のリボンを合わせた軽装。

王女というより、年の近い少女の顔がそこにあった。

「突然お伺いしてすみません。

 ……昨日は、きちんとお話しできませんでしたので」

アレンは少しだけ照れながら椅子を勧める。

「俺も……こっちから話しに行こうと思っていたところだったよ」

リアナは嬉しそうに目を細めた。

王女直々の提案で、今夜は二人でささやかな夕食をとることになった。

円卓には温かいシチューと焼きたてのパン。

王城の晩餐にしては質素だが、リアナが「これがいい」と選んだらしい。

「騎士団や貴族たちとの夕食は、緊張してしまって。

 今日は、アレン様とゆっくりお話ししたかったのです」

「……俺でいいのか?」

「ええ。あなたとなら……自然でいられる気がします」

リアナは花が開くように笑った。

アレンは顔が熱くなる。

だが彼女は王女。隣に座られるだけで背筋が伸びる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ