第二十七話 光に差す影
戦いの余韻が残る大森林。
焼け焦げた木々の間に、巨大な影だけがぽっかりと残っていた。
倒した神話級魔物《天角獣ベヒモル》が残した死体。
ユウはその前にしゃがみ込む。
「……神話級の影。どれだけ強いのか、楽しみだ」
影に触れると、黒い霧が指に絡みつき、不気味なほど濃密な魔力を放つ。
普通の魔獣ではありえない重さだ。
ユウは影の奥深くへ手を突き入れ――
「出てこい」
世界の光が吸い込まれたような感覚が走り、
地面の影がまるで液体のように波打ち、渦を巻き始めた。
影が膨れ、形を成していく。
蹄の音が、地面の奥から響いてきた。
ユウは思わず笑みを浮かべる。
「来たな……」
影から這い出したのは、黒鉄のような体躯を持つ獣。
巨大な角は禍々しく黒光りし、
赤い魔眼がユウを見下ろすように光る。
影火竜とはまったく違う質感。
もっと重く、もっと純粋な暴力。
ユウは手を差し出す。
「俺の影になれ。」
影の獣はしばらくユウを見つめたあと、
ゆっくりと前足を屈めて頭を垂れた。
絶対服従の姿勢。
巨大な影獣の額に触れた瞬間、
ユウの影がぐわっと広がり、天角獣の全身を取り込むように覆い尽くす。
黒い渦が消えると、獣はすでに
ユウの影獣軍団の一員になっていた。
その巨体が空気を揺らした。
「ふ……ふふ。いい。これなら……」
深淵の底へ向かう自身の道が、さらに加速した気がした。
ユウが背を向けたとき、
影獣たちが静かにそれに続いた。
森の奥へ、より深く。
光の届かない場所へ。
まるで――影の王が進軍するように。
王都。
戦勝報告が伝わり、街中は騒然としていた。
神話級魔物の討伐。
しかも英雄アレンが討伐に参加した。
人々はアレンを見れば口々に言う。
「アレン様が光の柱を放ったんだって!」
「やっぱり英雄だ!」
「次代の王国を支える光だ!」
アレンは苦笑しつつも手を振り返した。
人々の期待は素直に嬉しい。
だけど、同時に胸が落ち着かない。
(……ユウは、どう扱われているんだ?)
王宮へ向かうと、貴族たちが集まっていた。
「騎士団長アレン殿! まさに英雄だ!」
「しかし、あの影の少年……あれは危険だ。アレン様よくぞご無事で!」
「闇の魔法など、魔族と同じではないか!」
アレンは眉をひそめる。
「ユウは……仲間だ。あれがいなければ勝てなかった」
だが貴族たちは聞く耳を持たない。
「影魔法を使う者を野放しにするなど――」
「影火竜などという不気味な怪物達を従えているんだぞ?」
「王都へ戻らせるなど愚の骨頂!」
アレンの拳が震える。
だんだんと、人間の愚かさが分かってきた気がした。
(……ユウが何をした?
何も悪いことはしていない。
むしろ命を張って国を守ったのに)
だが、王都はユウを「英雄」とは呼ばなかった。
その代わり、
「異端者」
「闇持つ者」
「災厄の子」
そんな噂ばかりが広がっていく。
アレンは強く奥歯を噛んだ。
(ユウ…一人で背負わせて、いいはずないのに)




