第二十四話 深淵
豪華な白銀の装束をまとった骸骨が、玉座に座っていた。
金糸がふんだんに使われた王衣。
胸には影の紋章。
指には宝石の指輪がいくつも残っている。
骨は乾き、どれほどの年月が経ったのか見当もつかない。
しかし——ただの骸骨ではなかった。
骸骨の周囲だけ、影が濃く渦巻いていた。
まるで、まだ死んでいないかのように。
ユウが近づくと、影たちがざわりと揺れた。
〈王よ…〉
〈我らが王…その最期〉
〈ここに眠る〉
影の王——シャドウロードの亡骸。
「これが……影の王……?」
影が肯定するように震える。
玉座の前まで進むと、骸骨の胸元に黒い宝石がはめ込まれているのに気づく。
光を吸い込むような、底の見えない黒曜石。
触れた瞬間、影たちが一斉に膨れ上がった。
〈抽出せよ〉
〈王の魂の欠片〉
〈影の核〉
〈新たな王よ〉
骸骨から影がゆっくりと滲み出してくる。ただの死体ではない。
死後もなお影の力を宿し続けた影王の核。
ユウは無意識に手をかざしていた。
影が指先に集まり、渦を作る。
黒曜石の宝玉——その中から黒い煙のような影が立ち上った。
骸骨が音を立てて揺れ、
顎がカタカタと震え、抽出を拒む。
最後の抵抗のように王衣が揺れた。
そして完全に力尽きるように、玉座で静まり返る。
ユウの手の中に、影王の影”が凝縮した黒い核が宿った。
〈継承を〉
〈力を受け入れよ〉
〈新しき影王よ〉
影の声がユウの頭の中を満たす。
核を握った瞬間、影が爆発的に広がった。
玉座の間全体が黒に染まり、
ユウの身体が地面からふわりと浮き上がる。
胸の奥へ熱が流れ込み、
痛みとも快感とも言えぬ感覚が全身を支配する。
影の王の記憶が断片的に流れ込む。
◆エルフとの千年戦争
◆裏切り
◆敗北
◆滅びの瞬間
◆“いつか現れる新王”への願い
影王の最後の言葉——
〈世界の裏側を見よ〉
〈光と影はひとつ〉
〈影は光でより濃くなる〉
ユウは声をあげることもできないまま、影に包まれ——
そして静かに降り立った。
ユウの周囲に影の霧が漂い、
影兵たち全員が遠くでひれ伏している感覚が伝わる。
外にいる影地竜でさえ、王に跪いた。
「これが……影王の力……」
影魔法ではない。
もっと根源的なもの。
世界の裏側そのものを操る支配者の力。
玉座の骸骨は完全に崩れ、灰となり、
その役目をユウへと明け渡した。
王座の背後の壁が、音もなく裂ける。
黒い空間。
底の見えない穴。
〈ここが影世界〉
中から先代に仕えていたであろう影兵達が姿を現した。
どれもS級冒険者に匹敵する強さだ。
ユウは一度振り返り、骸骨の王衣の残骸を見た。
「……受け継ぐよ。全部。」
影の軍団は、王国を軽く滅ぼす力を手に入れた。




