第二十話 深くなる影
街門をくぐった瞬間、兵士が槍を向けてきた。
「そ、そこで止まれ!
お前は……神に刃を向けたもの……!」
この前までは笑って挨拶してきた兵士だ。
俺は手を上げ、何もしない意思を見せたが――
「近づくな! 影に触れたら呪われるって教会が……!」
「教会が」
その言葉が、胸の奥に刺さる。
影魔法を持って生まれただけで、もう俺は魔族の側か。
兵士は震えながら、町内への立ち入り許可を渋々出した。
その顔には明らかな恐怖と嫌悪があった。
「あっ! 影の人だー!!」
「だめっ、見ちゃいけません!」
母親は子供を抱えて走り去り、こちらを見もしなかった。
普通に遊んでいた子供だったのに。
(……俺が、何をしたっていうんだ)
心が少しずつ冷えていく。
泊まっていた宿屋へ戻ると、入口に俺の荷物が放り出されていた。
「ユウ様……すまない……」
宿主は青ざめた顔で言った。
「教会の信徒が来てな……影魔法の使いを泊めるなって。従わないと宿を燃やすって……」
言い訳だと思った。ただの恐怖だ。
俺に触れたくないから追い出しただけだ。
「……分かりました」
声が、自分でも驚くほど冷たかった。
夜、城壁沿いを歩いていると、兵士に囲まれた。
「おいおい、化け物がこの街に出歩くなよ」
笑っているが、目は笑っていない。
恐怖と苛立ちを、ごまかすための“嘲笑”。
「……ほっといてくれ」
そう言うと、兵士の一人が石を投げつけてきた。
影が反射的に弾き返す。
すると――
「ひっ……!見たか! 影が勝手に動いたぞ!」
「やっぱりこいつ、魔族だ!」
その瞬間、俺をにらむ目が一斉に増えた。
(……ああ、もう駄目だ)
人間の心は、想像以上に簡単に“敵”を作る。
翌朝、街の掲示板に貼られている紙を見て息が止まった。
【影魔法の使用者を街への出入り禁止とする】
【接触・接近は危険】
【影に触れると呪われる可能性がある】
――教会より
こういうときあの国王は、何もしない
この国の貴族とやらに吐き気がした。
まるで犯罪者のように扱われていた。いや、犯罪者以上だ。
存在そのものが危険と書かれている。
最初は怒りより悲しみが大きかった。
だが、三日、四日……一週間と続くと、心のどこかが麻痺し、冷たく凍りついていった。
(人間は……こんなにも簡単に裏切るものだったのか)
それは、初めて湧いた本物の憎悪だった。
そして決定的な出来事が起きた。
国王に呼び出され、ユウは封鎖中の高ランク未踏破ダンジョンの調査を命じられた。
表向きは昇進と期待を込めて。
だが実際は——
・護衛ゼロ
・装備は最低限
・帰還報告の期限も曖昧
「実質……捨てられた、ということか」
その確信が心を黒く染めた。
こうしてユウは、誰にも見送られず、誰からも期待されず、ただ厄介払いとしてダンジョンへ向かった。




