第十五話 見えない影
謁見が終わり、城を出る途中。
「……これ、俺たち、めっちゃ難しい任務じゃない?」
「戦うよりむずいな。政治ってこんな厄介なんだな……」
「影の好感度上げ……できるかな」
「光は見せ方間違えたら余計に“王家の武器”扱いだしな」
二人は同時にため息をついたあと、
「でも」
「まぁ」
少しだけ笑った。
「こういうのも……指揮官の仕事か」
「最近でだいぶ慣れたしな。やれるだけやってみよう」
影が前に伸び、光が小さく照る。
それはまるで政治の道に踏み出す二人を後押しするようだった。
王都は外から見れば平和そのもの――だが、王宮の内側では次第に力の再編が始まっていた。
ユウとアレンはそれぞれ小規模とはいえ独立部隊を持ち、王国の中で急速に存在感を増していた。
だが、急速に伸びる若者は、必ずしも全員から歓迎されるわけではない。
「……陛下。ご再考を願います」
執務室にひざまずくのは、古参貴族のひとり、シャルマ侯爵。
その声には焦りと、ほんの少しの恐れが混じっていた。
「ユウ殿とアレン殿に、あまりに多くの権限を与えすぎております。このままでは宮廷の均衡が――」
「均衡?」
国王ルドガルドはゆっくり目を細める。
「私は均衡より、現実を取る。あの二人は国の未来を担う“本物”だ。妬みや古い序列で縛れる器ではない」
「……しかし――」
「しかし、何だ?」
静かな声音なのに、侯爵は額から汗を垂らした。
半年で明らかになったことがある。
ユウの作る部隊と影の軍団は、王国軍の戦術そのものを刷新しつつあった。
アレンの光魔法は、もはや教本にも載らぬ規格外。医療、偵察、戦闘、その全ての分野を覆す力を持っていた。
古参貴族からすれば、自分たちの立場が脅かされるのは当然だった。
「……覚えておくがいい、シャルマ。力を持つ者を妬んだ国は、滅びる。私が恐れるのは、あの二人ではなく――」
国王は窓の外を見る。
「――彼らを利用しようと蠢く内側の影のほうだ」
侯爵の肩がびくりと震えた。
一方その頃。
アレンは文官たちに呼び出され、なぜか会議室に押し込まれていた。
「光魔法を“軍事以外”に使う計画書を書いてほしい? 僕が?」
「はい! はい! ぜひとも!」
「アレン殿の光魔法は農作業の効率化にも役立ちますし、街道照明にも……!」
文官たちはまるで宝を抱えた子供のように目を輝かせていた。
「え、えぇ……? いや、あの……僕、そこまで頭はよく……!」
(戦場よりこっちのほうが怖い……!)
アレンは泣きそうになっていた。
同じ頃。
ユウは兵士たちから妙に距離を取られて困惑していた。
「……なんか俺、怖がられてない?」
「い、いえ! そんな恐れ多い!」
「ユウ様の武器、ネザーハーヴェスター……あれ、近距離で見たら心臓止まるかと思いました!」
本人だけが知らぬところで、ユウは王国の神器を操る天才として祭り上げられ始めていた。
そんな流れが渦巻く夜。
王宮の暗い一室で、密かに集まる影たちがいた。
「……動くべきだろう」
「二人をこのまま野放しにはできん」
「いずれ王の後継ぎ候補に担ぎ上げられるやもしれん」
低い声が続く。
「事故に見せかけて排除するか?」
「いや、今のうちに懐柔し我らの派閥につけるべきだ」
「光魔法の若造はまだ扱いやすそうだ。問題はもう片方だ……ユウとかいう小僧。あれは危険だ。才能も、あの妙な武器も」
静寂が落ちる。
「――まずは揺さぶりをかけよう」
影が部屋を出ると同時に、蝋燭の炎がふっと揺れた。




