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『Echoes of Logos ― 夢幻令嬢、迷宮に堕つ。―』  作者: ちょいシン


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第5話:彼女は誰だったのか

「“わたし”の名前を呼ばないで。あなたの中に、入るから」


紗雪が手にしていたメモに記された、警告のような一文。それは縷々が“あれ”に捕まった状況と重なり、紗雪の心に冷たい予感を呼び起こす。「名前を封じられている?」紗雪の問いに、縷々はモノクロの記録簿に映る、黒く塗りつぶされた少女の影を指差す。


火災があった年の記録に、消された存在。まさか、あの火事で……紗雪が言いかけたその時、背後の棚から落ちた新聞のスクラップ帳。そこには**「身元不明の少女、一名死亡」**の文字が。だが、事故後の旧校舎の写真には、あの黒い影が写っていた。


「この“彼女”……外部からじゃない。あたしたちの**“記憶”から、消されただけ**なんじゃない?」紗雪の言葉に、縷々もまた、クラスにいたはずの誰かの“気配”を思い出していた。この学園が、彼女を“いなかったこと”にした?


真実に近づく二人の目の前で、一冊の本から学生証が落ちる。滲んだインクの下には、記録簿の少女と全く同じ顔写真が。**「――やっぱり、あの子は、ここに“いた”」**紗雪の背筋に冷たいものが這い上がった瞬間、真夜中の学園に、鳴るはずのないチャイムが響き渡る。


「……来る」縷々の囁きが、その少女が“わたし”を探しに来ることを告げていた。

「“わたし”の名前を呼ばないで。あなたの中に、入る(いる)から」


その警告のようなメモを手に、九重紗雪はしばし言葉を失った。


名前を呼ばれた瞬間、縷々は“あれ”に捕まった。


そしてこのメモの主もまた、名を奪われ、誰かの中へと“侵入”されたのだとすれば――


「……名前を、封じられてる?」


「記録からも、写真からも、“彼女”の存在だけ消されてるのよ」


縷々は、消えかけたモノクロ写真を指差す。


黒く塗りつぶされた少女の影は、どこか哀しげに見えた。


「これってさ、火災があった年の記録でしょ? つまり“彼女”は――」


「火事で……亡くなった?」


紗雪が言いかけた瞬間、背後の棚から、またしても本が一冊、ぽとりと落ちた。


それは、同じ年の新聞のスクラップ帳だった。


拾い上げ、破れかけたページをめくる。


『花桜学園 西棟旧校舎火災事故』


「一名死亡。一時的に生徒の行方が分からなくなるも、のちに全員無事と確認」

「死亡したのは外部から侵入したとみられる身元不明の少女。名前・通学記録ともに不明」

「外部から? そんなのおかしいわ……。学園に入り込めるわけがない。しかもこの写真」


縷々が見せたのは、事故後の新聞に添えられた焼け焦げた旧校舎の写真。


窓の内側に、人影が写っていた。


それはまるで――あの、黒い影。


「この“彼女”……外部からじゃない。あたしたちの“記憶”から、消されただけなんじゃない?」


「消された?」


紗雪の脳裏を、旧校舎の夢と、縷々が呟いた言葉が過った。


『名前がないの……』


「思い出そうとしても、思い出せない。クラスにいたはずなのに、記録も記憶も残ってない」


「でも、気配だけは残ってる……教室の空気とか、誰かと話してた“間”とか」


ふたりは、同時に息を呑んだ。


(それってつまり――)


「この学園が、彼女を“いなかったこと”にした……?」


静かな夜の図書室に、ただページをめくる音だけが響く。


と、そのとき。


一冊の本の中から、何かが落ちた。


「これ……学生証?」


そこに記された名前は、インクが滲んで読めなかった。


けれど、顔写真はあった。


それは、モノクロの記録簿にいた“黒い影”の少女と、まったく同じ顔だった。


「――やっぱり、あの子は、ここに“いた”」


紗雪の背筋に、冷たい感覚が這い上がる。


その瞬間、学園のどこかから――チャイムの音が鳴った。


真夜中なのに、鳴るはずのない音。


それは、まるで授業の始まりを告げるように。


「……来る」


縷々が囁いた。


「“彼女”、ここに来る。……“わたし”を、探しに」

空白の記録、そして身元不明の少女の死。謎が謎を呼ぶ中、紗雪と縷々は、学園によって存在を消された少女の影にたどり着きました。彼女はいったい誰だったのか? なぜ、その存在が消されたのか?


真夜中のチャイムは、彼女の「来訪」を告げるものなのでしょうか。紗雪と縷々は、この学園に隠された真実、そして「彼女」の願いを知ることができるのでしょうか。次回、さらに深まる学園の闇と、二人の運命にご期待ください。

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