第4話:空白の記録
目を覚ました紗雪と縷々(るる)が見たのは、月明かりに照らされた図書室の片隅。あの教室での出来事は夢じゃなかった。縷々の震える声が告げる、「もうひとりの私」の存在。その言葉は、冷たい現実として二人にのしかかる。
そして、奇妙な風の音に導かれ見つけたのは、五年前に焼失した旧校舎の**『学級記録』。ページをめくると、あるべきクラス全員の名前が「空白」に塗りつぶされていた。さらに、一枚の写真に写る「顔のない少女」**。その異様な光景に既視感を覚えた瞬間、図書室のドアが静かに、だが確実に閉まる。
「…“あれ”、ここに来た」縷々の囁きに、部屋の空気が一変する。逃げられないと悟った紗雪は、記録簿の裏に挟まっていた震える筆跡のメモを手に取る。そこには、背筋を凍らせる一文が記されていた。
「“わたし”の名前を呼ばないで。あなたの中に、入るから」
この空白の記録が示す真実とは? そして、迫りくる「あれ」の正体は? 紗雪と縷々の、終わらない悪夢が今、再び幕を開ける――。
「……ここ、どこ……?」
目を覚ましたのは、図書室の隅、カーテンの影。
月明かりが差し込む静かな空間に、紗雪と縷々は肩を寄せ合って座っていた。
「……夢じゃ、なかったよね」
紗雪の問いに、縷々は小さく頷いた。
「でも、あたしは――あの教室に閉じ込められてた。“名前”を呼ばれた瞬間から、何かが私の中に入ってきて……」
「……でも、あんたはあんたのままだった。だから、助けに行けた」
ふたりは目を合わせ、微かに笑みを交わす。だが、それも束の間。
縷々がふと顔を曇らせ、震える声で告げた。
「ねえ、紗雪……“あたし”がふたり、いたよね」
「……見えたんだ」
「うん。あの影……あたしの“形”を真似てた。今も、あれがどこかにいる気がする。
“あたし”の代わりに、ここに残ってる」
紗雪は無意識にポケットの中のお守りを握りしめた。
お守りは冷たく、だが確かな存在感を持っていた。
そのとき、図書室の棚の奥――普段は施錠されている資料保管棚の隙間から、風のような音が響いた。
「……開いてる?」
ふたりが近づくと、そこには分厚い一冊の記録簿が置かれていた。
『桜咲学園 学級記録 第七号』。
年代は五年前。ちょうど、旧校舎が火災に遭った年と一致していた。
「これ、何?」
紗雪がページをめくる。出席簿、備考欄、行事記録、写真……だが――
「……おかしい。あるべき“名前”が、全部、消えてる」
まるで、誰かが意図的に修正液で塗りつぶしたように、クラス全員の名前が「空白」になっていた。
縷々が震える指で、一枚のページを指差す。
「この写真……見覚えある。あたしたちの教室……でも」
写っていたのは、整然と並ぶ机、笑顔の生徒たち。そして――
その中央に立つひとりの少女。
顔が、ない。まるで塗りつぶされたかのように、黒い靄に覆われていた。
「この子が、“あれ”……?」
紗雪は強い違和感を覚えた。
(この写真の“気配”、どこかで……)
と、そのとき。
ぱんっ
図書室のドアが、勝手に閉まった。
風もないのに、本棚の一角が揺れ、本がひとりでに崩れ落ちる。
縷々が息を呑む。
「……“あれ”、ここに来た」
一瞬にして、部屋の空気が変わる。冷気とも、重力とも違う、“視線”のような圧が押し寄せてきた。
だが、紗雪は静かに立ち上がった。
「逃げても、追ってくるなら――あたしたちの方から、正体を暴くしかない」
そう言って、記録簿の奥、ページの裏に挟まれていた一枚のメモを取り出す。
そこには手書きの文字が、震える筆跡で綴られていた。
「“わたし”の名前を呼ばないで。あなたの中に、入るから」
空白の記録、顔のない少女、そして不可解なメモ……。旧校舎の火災から五年、封印されていた過去の断片が、今、紗雪たちの目の前に姿を現しました。そして**「あれ」**は、ついに二人のいる図書室まで追いついたようです。逃げ場のない状況で、紗雪が手にしたメモに書かれた言葉の意味とは? 次回、二人はこの謎にどう立ち向かうのでしょうか。




