表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Echoes of Logos ― 夢幻令嬢、迷宮に堕つ。―』  作者: ちょいシン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/49

第13話:霧深き庭園、囁きは歪む夜

中庭を満たす霧は、“名無し”の囁きを宿す亡霊のように。紗雪とみよりは、記憶の幻影と対峙する。そして現れたのは、謎多き執事・神明隼人。彼の知識と行動が、物語に新たな気配をもたらす──。

――花桜学園(かおうがくえん)・中庭庭園

午後11時30分。


夜の帳が落ち、月光が石畳や錆びついた手すりを淡く照らす。

足元にはうっすらと白い霧が立ち込め、湿った夜の空気が肌を撫でた。


九重紗雪(ここのえさゆき)は、先の会長室での真観との会話を胸に、決意を固めてここへ来ていた。

振り返れば、生徒会副会長・草野みよりも静かに立っている。互いの存在だけが、霧の中に明確に浮かび上がっていた。


「ここを越えれば、噂の“庭園”ですね……」


みよりの声は冷たく、だが真っ直ぐだった。

紗雪は微かに頷くと、霧の中へ歩を進めた。


──霧はただの雲ではない。

それは、名を奪われた誰かたちの記憶の残滓(ざんし)であり、“名無し”の微かな呟き(つぶやき)が音もなくこの空気に混ざっているようだった。


石灯籠(いしどうろう)傍ら(かたわら)、黄色い結界札――紗雪が隼人と共に張った紙札のひとつがひらりと鈍く光る。

紗雪は一歩ずつ、慎重にそこへ近づいた。


その瞬間、

──「さゆき……」

辺りを満たすような低い囁き。


紗雪は息を飲んだ。

霧が濃くなり、足元の視界を遮る。

その向こう、みよりの顔も、夜の灯りに揺れる。


「……ねぇ、聞こえた?」

紗雪は小さく囁く。


「ええ、“誰か”が呼んだ気がします」

みよりの答えは震えていたが、それを感じ取らぬよう顔を上げていた。


霧の中から、うっすら人影が現れた。

少年のような姿。紗雪には馴染みのある顔に思えた……が、一瞬で混乱が訪れる。

その姿は、縷々にも、そしてどこか自分にも似ているようだった。


「あ……?」


その影は揺れ、顔の輪郭が歪む。声が続いた。


──「さ…ゆき……縷々が、ここに……」

だがその囁きは、かつて紗雪が聞いたものではなく、どこか歪んで(ゆがんで)歪んで(ひずんで)いる。


みよりもまた、その人影に気付く。


「紗雪さん、異形です。……これ、“名無し”の影かもしれません」

その声に、紗雪の胸が激しく脈打った。

縷々の意識はどこにあるのか、と。


「違う……縷々じゃない!」

紗雪はお守りを取り出すと、胸元で強く握った。


霧の中で人影が一歩近づく。

そして、「名を詐る者」、偽アグニが使うような、炎の朱色があたりに散った。

細い火の粒が散り、小さな炎が舞い踊る。


──影が声を上げる。

「縷々……! 縷々はアグニを讃え(たたえ)た……」

続いたのは歪んだ幻唱で、アグニの詠唱を模したかのような音——

だがその音は、優しさの影だけが歪んでいた。


紗雪は声を張った。

「やめて! 縷々の名前はその口にするな!」


だが影は笑うように揺れ、

「縷々はアグニを信じた……だから縷々は今もここにいる……」

と紗雪を諭すように囁いた。


その時、

──「お嬢様、御退避を」

低い声が背後から響く。


振り返ると、執事・神明隼人(じんめいはやと)が影を背景に侍るように立っていた。

彼の眼には、どこか静寂の中に燻る確固たる意志が宿っていた。


「紗雪お嬢様……この霧は“名無し”の闇です。距離を取ってください」


隼人はポケットから小さな護符らしきものを取り出し、それを地面に静かに置いた。

「結界符・急々(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)!」──僅かな光が地を照らし、霧の中で揺れる炎と影を押し返す。


影の人影は揺らめき、しぶく消えたかのように霧の中へ溶け込んでいく。


紗雪は深く息をついて、更にお守りを強く、強く握りしめた。


「縷々を……取り戻すんだ」

彼女の声は震えていた。


みよりは頷く——

「次は“名を取る者”の核心に迫る時です」

紗雪の目に、闘志がまた、一層明確(そうめいきゃく)に灯った。


そして三人は、庭園の中心にある小さな(ほこら)へ向かって、霧の奥へと進んでいった。

そこには、もう一つの儀式の痕跡——


悠久(ゆうきゅう)の夜風が頬を撫で、深い霧は二人を飲み込みつつあった。

“名を詐る”力が形を取り始めました。次なる舞台は、霧の中に隠された祠。紗雪とみより、そして隼人。それぞれの決意が交差する中、物語はいよいよ核心へと迫っていきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ