第6話 *ルハロ殿下視点Ⅱ(過去編)*
愛称はノリと感覚で決めているので、細かいことはわかりません。
***
彼女は驚いた様子でこちらを振り返り、僕を見るなり怪訝な表情を見せた。
「‥‥私でしょうか、王太子殿下?」
「ああ、君だ。‥‥‥名は何というのだ?」
「ノスタルナ・エヴォベアンと申します。男爵家の長女でございます。以後お見知りおきを」
ノスタルナ‥‥美しく輝かしい響きの名だ。
「私はルハロ・エヴァルノール。王太子だ、よろしく。
‥‥‥‥突然だが、どうやら私は君に一目ぼれしたらしいんだ。どうか、思いを受け入れてはくれないだろうか‥‥?」
あ、やってしまった。
つい思っていた(?)ことが口に出てしまった‥‥!!
不覚‥!!王族として一生の恥だ‥‥‥‥!
僕は一人で恥ずかしさに悶えていた。絶対意味が分からないと思うし、彼女にとっても重荷だっただろう。きっと困惑しているに違いない。
だが意外なことに、ノスタルナはとても落ち着いていた。
しばらくの間、彼女は無表情だったが、突然微笑んだ。
あざとく、柔らかい表情だった。
「お戯れを、王太子殿下。私のような新興貴族が、貴方様のお眼鏡にかなうはずございませんわ。なにより、貴方様には婚約者殿がいらっしゃる筈では?」
‥‥‥‥そういえば、そうだった。
ノスタルナのことで頭がいっぱいになっていたから、自分の立場を理解していなかった。
また失態を犯してしまった‥‥‥‥。
今日はなんだかだめだな。
「そうだな。だが、私は君のことが好きなのだ」
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あれ、また思っていることが勝手に‥‥‥‥。思っている??
何なんだ??
すると彼女はますます笑みを深くした。
「では殿下、私と賭けをしませんか?」
「賭け?」
どんな内容なのか、何故かとても気になった。普段はあまりこういうことには興味がないはずなのだが。
「ええ、賭けです。2週間だけ私と疑似交際をしていただいて、私が殿下に惚れたら殿下の勝ち、惚れなかったら私の勝ちです。勝った方が負けた方に何でも一回だけ命令できる、というのはどうでしょうか?」
「‥‥‥‥いいだろう」
つい賭けに乗ってしまった。本当にどうしたのだろうか僕は。
何か大きすぎる力が僕を縛り付けて操っていて、抵抗もできずされるがままになっているような、そんな感じがする。
「では、決まりですね。早速始めましょう。
ところで、恋人ならば愛称で呼び合うと思うのですがどうしましょうか?」
「ああ、そうしようか、ノシューナ」
ノシューナとは、ノスタルナの愛称だ。彼女も友達から多分こう呼ばれているだろう。
ところが、彼女は急に不機嫌になった。
「ルー、私のことはルナと呼んでください。他とは違う感を出したいので」
僕は面食らった。完全に彼女の方が一枚上手だった。オマケにきちんとこちらのこともルーと呼んでくれている。
でも、ここは反撃をしようじゃないか。
「ルナ、恋人相手に君は敬語で話すのかい?」
ルナは少し驚いたようだったが、微笑んだ。
僕も楽しくなって微笑んでいた。
「この勝負、面白くなりそうだわ」
「全く同感だよ」
負けられない戦いが始まった。
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