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優しすぎる悪役令嬢は、それ故に傷つき、涙を流す  作者: 神輝結星
第1章 心の壊れた悪役令嬢
6/18

第6話 *ルハロ殿下視点Ⅱ(過去編)*

愛称はノリと感覚で決めているので、細かいことはわかりません。

 ***


 彼女は驚いた様子でこちらを振り返り、僕を見るなり怪訝な表情を見せた。


「‥‥私でしょうか、王太子殿下?」

「ああ、君だ。‥‥‥名は何というのだ?」

「ノスタルナ・エヴォベアンと申します。男爵家の長女でございます。以後お見知りおきを」



 ノスタルナ‥‥美しく輝かしい響きの名だ。


「私はルハロ・エヴァルノール。王太子だ、よろしく。

 ‥‥‥‥突然だが、どうやら私は君に一目ぼれしたらしいんだ。どうか、思いを受け入れてはくれないだろうか‥‥?」


 あ、やってしまった。


 つい思っていた(?)ことが口に出てしまった‥‥!!

 不覚‥!!王族として一生の恥だ‥‥‥‥!


 僕は一人で恥ずかしさに悶えていた。絶対意味が分からないと思うし、彼女にとっても重荷だっただろう。きっと困惑しているに違いない。




 だが意外なことに、ノスタルナはとても落ち着いていた。

 しばらくの間、彼女は無表情だったが、突然微笑んだ。


 あざとく、柔らかい表情だった。



「お戯れを、王太子殿下。私のような新興貴族が、貴方様のお眼鏡にかなうはずございませんわ。なにより、貴方様には婚約者殿がいらっしゃる筈では?」


 ‥‥‥‥そういえば、そうだった。

 ノスタルナのことで頭がいっぱいになっていたから、自分の立場を理解していなかった。


 また失態を犯してしまった‥‥‥‥。

 今日はなんだかだめだな。


「そうだな。だが、私は君のことが好きなのだ」


 ????

 あれ、また思っていることが勝手に‥‥‥‥。思っている??

 何なんだ??


 すると彼女はますます笑みを深くした。


「では殿下、私と賭けをしませんか?」


「賭け?」


 どんな内容なのか、何故かとても気になった。普段はあまりこういうことには興味がないはずなのだが。


「ええ、賭けです。2週間だけ私と疑似交際をしていただいて、私が殿下に惚れたら殿下の勝ち、惚れなかったら私の勝ちです。勝った方が負けた方に何でも一回だけ命令できる、というのはどうでしょうか?」


「‥‥‥‥いいだろう」


 つい賭けに乗ってしまった。本当にどうしたのだろうか僕は。

 何か大きすぎる力が僕を縛り付けて操っていて、抵抗もできずされるがままになっているような、そんな感じがする。


「では、決まりですね。早速始めましょう。

 ところで、恋人ならば愛称で呼び合うと思うのですがどうしましょうか?」


「ああ、そうしようか、ノシューナ」


 ノシューナとは、ノスタルナの愛称だ。彼女も友達から多分こう呼ばれているだろう。

 ところが、彼女は急に不機嫌になった。


「ルー、私のことはルナと呼んでください。他とは違う感を出したいので」


 僕は面食らった。完全に彼女の方が一枚上手だった。オマケにきちんとこちらのこともルーと呼んでくれている。


 でも、ここは反撃をしようじゃないか。


「ルナ、恋人相手に君は敬語で話すのかい?」


 ルナは少し驚いたようだったが、微笑んだ。

 僕も楽しくなって微笑んでいた。


「この勝負、面白くなりそうだわ」


「全く同感だよ」


 負けられない戦いが始まった。

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