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優しすぎる悪役令嬢は、それ故に傷つき、涙を流す  作者: 神輝結星
第2章 遅すぎた王太子と、宝石樹の天女
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第6話 姉弟喧嘩

ルハロ殿下(?)視点に戻ります。

 **


 どうしたんだ急に。

 ミハーリアはこんなことを言うような人ではなかった。そりゃあ、ボクと同じだから当たり前だけど‥‥‥‥。





 いや、待てよ。()()()()()



 まさか、貴方は‥‥‥‥姉上?

 それなら納得がいく。姉上は口が悪かったし、冷酷で残忍だったから。でも、なんで母上の──「ルナ」の利益になるようなことをしたんだ?

 姉上は母上───「ルナ」が嫌いだった。だからボクもろとも見限られた。唯一の肉親だというのに、薄情だなと思った。


 だから、有り得ないんだ。姉上がルナの利益になるようなことをするのは。






 ───────────何を企んでいる?



「ビューラルヘン嬢‥‥‥いや、姉上。貴方は何をなさっているのですか?」


「‥‥‥‥あら、愚弟にしては早めに気づいたのね。なぜワタシが分かったの?」


「そりゃあ、分かりますよ‥‥。ミハーリア・ビューラルヘンがこんなことを言うはずがないし、何故か心酔している婚約者であるはずのルハロ・エヴァルノールへの対応が冷たいし‥‥‥‥。何より、言動が姉上らしかったし」


「へえ、よくそんなことわかるのね。ワタシは最近気づいたのよ、貴方が弟だって。ていうか、貴方っていちいち呼びにくいから、名前をつけてもいいかしら?」


「構わないですよ、別に。ボクが母上に認知される一種の道具となるならそれでいい」


「相変わらずねえ‥‥。あの女の何がいいんだか。‥‥‥まあいいわ。で、貴方の名前なんだけど、マディルっていうのはどう?」


 姉上にあのお方の良さは一生分からないだろう。ボクのみがそれを理解し、ボクだけが彼女を真に「愛する」ことができる。

 ‥‥‥‥‥マディル。どういう意味の名前かは知らないが、これで母上が────ルナがボクのことを認識してくれるきっかけの一つとなってくれるなら‥‥。



「‥‥‥悪くないな」


「急に素直になったわね、気持ち悪い。‥‥気に入ったのなら貴方の名前は今日からマディルよ。ワタシのことはラフィアでも姉上でも、好きに呼びなさい」


「分かりました、姉上。‥‥名を授けてくれたことは大いに感謝します。ですが、ボクの最初の質問に答えてください───────貴方は何をしているのですか?」


 そう尋ねた瞬間、彼女の臙脂色の瞳が一瞬だけ、ほんの一瞬だけエメラルド色に光った。



 暗い、昏い光だった。冷たい、という一言で表してもいいのかというほどに。



「何って、考えたらわからないのかしら?だから貴方はいつまで経っても愚弟のままなのよ、はあ。教えてあげましょうか、ワタシの目的を。愚弟(マディル)よ」



 そういわれた瞬間、カチンと来た。先刻から愚弟と呼ばれ続けて、我慢の限界が来てしまった。

 お前だって、お前だって‥‥ボク達を捨てた馬鹿姉貴だよ、ラフィア。


「教えてください‥‥‥‥いや、教えろよ馬鹿姉貴(ラフィア)。お前の目的は何なんだよ」


「ワタシの目的は‥‥‥‥‥‥‥‥復讐よ。愚弟と馬鹿な母親に対する怒りをそのままぶつけるだけ。ワタシの愛する対なる半身(ミハーリア)を、何の罪もないあの子をずたずたに引き裂いたお前たちには───────それ以上の苦しみを味わってもらうわよ」









 へえ、面白い。やれるものならやってみるがいい。お前のような、母上の愛を求めても得られずに苦悩しては対なる半身を見つけてソイツに乗り換えるような弱者に、諦めずに愛を乞うて実行に移すボクが負けるわけがない。


「やれるものならやってみろよ‥‥‥‥‥馬鹿姉貴。ボクや母上がお前ごときの力に屈してたまるものか。返り討ちにしてやるさ」


「生意気な口を利くようになったわね、愚弟。いいわよ、そのぐらいの張り合いがないと面白くもなんともないわ。せいぜい足掻くことね」



 先程よりも幾分か好戦的なエメラルドが、仮初の肉体の濃い臙脂色の瞳に宿っているようだった。







 ────この瞬間、余所余所しくて何処かぎこちなかった姉弟は決別し、馬鹿姉貴と愚弟のセカイを巻き込む大喧嘩の火蓋が切って落とされた。



読了ありがとうございました。

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