episode. Gier Regina~Ⅱ~
遅くなり申し訳ございません。
***
───────数週間後
「友奈、そこの水筒を取って頂戴」
「かしこまりました、美凰様!」
ああ、世界は何でこんなにも、残酷で、ひどく美しいのだろう。
その場にいた全員がこんな風に思うほど、その光景は異様で、歪み切って原型のない愛が蔓延している状態にあった。
予想通り、というか当たり前なのだが、少女───────指田 友奈は完全にジアー・レジーナのもとへ堕ちた。
これだけで済んだらまだマシだろう。そのうちに飽きて見向きもされなくなるのだ。
そうなればどうなるかなんて、想像したら負けだ。
そのカリスマ性、残虐性、そして歪んだ優しさは、異様で、美しい。その言葉が一等似合う。
代々の『ジアー・レジーナ』もそうだった。
‥‥‥‥説明するのを忘れていたが、『ジアー・レジーナ』は襲名制だ。
今代のジアー・レジーナである夜櫛美凰は第36代目に当たる。
影東高校は50年以上続く学校だ。だが、その割には市内の学校の中で最も低い偏差値を必ずたたき出している。
だが、そうなるのも仕方がないと思う。むしろ、大学合格者を輩出できているだけでもう奇跡と言ってもいいような状態だ。
何故かって?それでは影東高校のルーツを遡ろう。
***
影東高校の初代理事長は、はっきり言って頭が悪かった。
家がないほど貧しくて教育が受けられなかったとか、片親しかいなくて家の手伝いをするしかなかったとかそういう理由はない。ただただ、勉強から逃げただけだ。
だが、元々は頭が良い部類だった。彼はあの超名門中高一貫校の光西高等学校の生徒だった。しかも特待クラスの出身だという。まあ、そこから勉強を全くせずに成績はどん底、しかも素行が悪く、常に何かやらかしていた。
そういうことばかりだと、どうなるのかは目に見えていた。
中学4年生───つまりは高校1年生の時、彼は退学処分を下された。
当然憤った。学校に抗議もした。でも結果は変わらずそのまま退学となった。親とはこれを機に大きな溝ができてしまい、半絶縁状態となってしまった。
彼は絶望した。悲しかった、憎かった、恨めしかった、全てが!!
だから、復讐しようと思った。自分をこんな状況まで追い込んだ学校や両親、そして、明日がどうなるかなんて何も考えずにのうのうと生きている同級生たちに。
数年後、高いカリスマ性でスポンサーからの資金を得て、高校を設立した。彼はその高校の初代理事長となり、大いに権力を振りかざした。彼の経営は正に「暴虐」。人間が考えうる全ての悪事という悪事にこれでもかというほど手を染めていた。
そして、彼はそれだけでは止まらなかった。
彼の妻は、彼と同様に確からしく悪人だった。そこで、彼は彼女を影東の初代会長とし、生徒の中でも恐怖で人を縛り付け、カリスマ性の高いものを一人選び、生徒会とは別に単独で「秩序」を築いて守り抜いてもらおうと考えた。
そうして、彼の妻によって選ばれたのが初代『ジアー・レジーナ』だ。
***
ジアー・レジーナ。英字で表すと「Gier・Regina」となる。
「Gier」はドイツ語で「強欲」を意味し、「Regina」はイタリア語で「女王」を意味する。
人々はジアー・レジーナの本質を「残虐」だとも「残酷」だとも言う。
強欲、それは七つの大罪のうちの一つと言われているものであり、貪欲とも称される。あらゆるモノを強く欲する。
ジアー・レジーナはモノを、時に生かし、活かし、時に捨てる。いかすときはあらゆる手段を用いて、捨てるときは呆気ない。そしてまたすぐ、次のモノを欲する。
その様は正に「強欲」だ。ありとあらゆるモノを駒のように扱う姿は正に「女王」だ。
「強欲の女王」という名は、ジアー・レジーナの性質を的確に言い表している。
初代ジアー・レジーナは、学園唯一の「必要悪」、そして世界に名を轟かすほどのカリスマになるために、「強欲の女王」という冠形の仮面をつけ、「美しい悪の"正義"」を掲げ、『ジアー・レジーナ』として在ることを誇りとしていた。
その初代の精神は代々のジアー・レジーナたちに脈々と受け継がれてきた。その根幹は今でも変わらない。
唯一変わったところと言えば、今代のジアー・レジーナ、つまり夜櫛 美凰は間違いなく歴代で最も残虐性、残酷性とそれに伴うカリスマ性が異常に高い。
正に、ジアー・レジーナになるべくしてなった者だ。
取り巻きの彼らは、自分が贄となるのを恐れて媚びへつらっているし、そのことについてジアー・レジーナは何とも思っていない。
彼女は、物事が全て自分の思い通りになるのが当たり前だと思っているから。
***
影東高校と光西高等学校。「影東」という名は「光西」に対抗して初代理事長が付けた名だ。まさに対極の関係で、交わることのない存在、そして均衡を保っている、はずだった。
今、とある者たちの手によって、その均衡が壊れようとしていた。
***
生きていることを示す電子音が規則的に鳴る、海の見える白い部屋で、焦げ茶色の髪を持つ愛らしい見た目の少女が一人佇んでいた。
彼女は手に大きいタブレット端末のようなものを持ちながら、果物に噛り付いている。窓際には茉莉花が奈落の底に落ちそうなほど深い花瓶の中に在る。
「ねえ■■、あの計画は順調?」
彼女が、なんとなく雰囲気の似ているもう一人の少女に、端末の画面越しに話しかけた。
話しかけられた少女は、くるりと、ストレートの髪をなびかせながら答えた。
「ええ、もちろんよ。アタシの手にかかれば余裕だわ。■■■■■■のセカイはいつものオモチャたちがいなくて少し退屈だけどねえ。
‥‥‥‥あ、でもアタシ、新しいオモチャを見つけたのよ、■■■。今はそれで満足だわ」
「そう、ならよかった。あ、そうだ、言うの忘れてたけど、そちらのセカイに私たちも行くわ」
そう告げられた少女は瞠目し、不敵に微笑んだ。
「あら、貴方たち二人とも行くの?面白いことになりそうだけど、■■■は大丈夫なのかしら?好きな人が亡くなって傷心中だと聞いたけど」
「大丈夫よ、その好きな人は貴方と同じセカイにいるもの。■■■はきっと行きたがるわ」
「あら、じゃあいいじゃないの」
「ええ、早く行きたいわ。■■のオモチャも見てみたいことだし」
「貴方も悪い女ねえ、まあお互い様かな」
「そうね、さて、見られたらまずいから切るわよ、お休み、■■」
「ええ、お休み■■■」
To Be Continued……
読了ありがとうございました。




