第3話 「ノスタルナ・エヴォベアン」
遅くなってしまい申し訳ございません。
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ぱっと見たところ、彼女はどこにでもいる町娘にしか見えなかった。
腰までの長さの茶髪、茶色に見える瞳、特別華奢なわけでも、肥満体系なわけでもない体つき‥‥‥‥どれをとっても特筆するような見た目ではない。ただ、よく見れば髪はよく手入れされているのかふわふわで、瞳は濃い臙脂色だというのから、富裕商人の娘か裕福な下位貴族の令嬢だろうかと思うぐらいだ。
高位貴族ならこんな町中にふらりと出かけるわけがないだろうと普通は考える。だから、町の人々は皆、見慣れない彼女を唯の町娘だと思って気にも留めないだろう。
でも、ワタシは彼女に強く引き付けられた。
時々髪を耳にかける仕草、上品でふんわりとした笑い方、世を知らない無垢な瞳‥‥‥‥‥‥‥‥全てが魅力的だった。
さらに、何か彼女に感ずるものがあった。魂の片割れと出会っているような、双子の兄弟を見かけたような、そんな感覚が燻っている。
もしかしたら、ワタシは彼女の対なる半身なのでは?
だからこんなに引き付けられるのだろうか。
ふと、ミハーリア・ビューラルヘンがこちらを見た。彼女にワタシは見えていないはずなのに。
そして、こう呟いた。
「あれ、誰かいた気がするんだけどな‥‥‥‥。気のせいかな?」
───────やはりそうだ、そうに決まっている。
ワタシは彼女の対なる半身だ。
ワタシは彼女を暫くずっと見つめていた。母以外にこんなにも密接な関係となる人間が出来たことが、嬉しくてたまらなかった。
不意に、今一番聞きたくない声が、ワタシに響き渡った。
『ああ、貴方!もしかしてあの子が生み出した【意識】ですね!?素晴らしいです!!』
「──────────────いや、誰だ?
声は確かに母だ。だけど違う、何かが違う‥‥‥‥‥‥‥‥。
いや、もしかして「ノスタルナ・エヴォベアン」本人?」
『その通りです!ワタクシはノスタルナ・エヴォベアン、貴方が母と呼ぶ者の体の持ち主ですわ!』
「やっぱりか、おかしいと思った。母にしてはどこか底抜けの明るさがある上に、腹黒さを一切感じない。
何より───────」
『あら、ワタクシのことをそんなに知っていただいているなんて、光栄ですわ!!というか貴方、名前はないんですの?』
「名前?そんな大層なもの、あるわけがない。ワタシは【意識】だ。実体はない。母はワタシの存在を認知してもいないし」
『あらまあ、それはお可哀そうなことですわ。では、ワタクシが特別に名前を付けて差し上げましょう!!そうですねえ‥‥‥‥あっ!良いの思いつきましたわ!ラフィア、なんてどうでしょう!!』
「ラフィアか‥‥‥‥‥‥‥‥。正直ワタシにはもったいないほどいい名前だ。貴方は案外センスがいいのだな。
よし、今日からそう名乗るとしよう」
『ありがとうございますわ!ではラフィア、突然ですが貴方にお願いがあるのです』
「大層なことはできないが、名前の恩がある。できる範囲で承ろう」
『ああ、なんと優しいことか!!貴方はやはり素晴らしいですわ、ワタクシの願いを叶えるのに相応しいです、ラフィア!あの子から生まれたとは思えないです!では、お願いです!彼の忌まわしき咎人、ミハーリア・ビューラルヘンを殺してください!』
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