第1話 復讐の火蓋
大変遅くなりました、申し訳ございません。ちょっと短いです。
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ああ、実に愉快だ。
ワタシは貴方のその表情を見るために生まれてきたんだ、と本気で思うほどに、彼の驚愕と絶望が絶妙に入り混じった表情は、ワタシに強い快感を与えた。
ああ、これは‥‥‥‥やめられない‥‥‥‥‥‥‥。
いい気味だわ、自分がやったことがそのまま自分に返ってきただけなのに、あんな表情をするなんて。これが俗に言う「ざまあ」なのかしら。
しかし、王太子ともあろうお方が表情を分かりやすく顔に出すなどあってはならないはず。何かがおかしい
わね‥‥‥‥‥。
(これは、調べる価値がありそうね‥‥‥‥。)
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先程、ワタシは王太子に、ワタシとしての本音を告げた。
するとどうだろう、彼は、肉体の支配権が揺らいだ時の「私」と同じ表情をしていた。
「私」とワタシは似て非なる存在だ。ワタシが嬉しく思うことでも、「私」にとっては悲しいことかもしれないし、ワタシが辛いと感じても、「私」にとっては喜ばしいと感じるかもしれない。そのくらい違うのだ。
肉体は同じ『ミハーリア・ビューラルヘン』なのに、どうしてこんなに違うのだろう。
ワタシを生み出した人間は何を考えているのだか。
それでも、今現在「私」とワタシで共通している目的がある。それは、この世のどんなものよりも揺るぎなく硬いものだ。
─────王太子ルハロ・エヴァルノールと、その恋人、男爵令嬢ノスタルナ・エヴォベアンに復讐すること。
それが条件で、「私」はワタシに肉体の主導権を明け渡した。
ワタシにとっても彼らは憎き存在であった。ワタシは彼らに対して、人の尊厳をあんなに容易く踏みにじることができるのか、と怒りを通り越してもはや感心していた。だから憎い。対なる存在とはいえ、半身である「私」の心を壊したから。
「私」の対なる半身となったワタシには最初、元の「私」の思考や目的は一切と言っていいほど分からなかった。
けれど、体の支配権を明け渡す際の契約でワタシは「私」の想いを、悲しみを、全てを知り、理解した。
結局は「私」も人間だった。
『完璧な淑女』と呼ばれ、周りからの期待に当然のように応え、上位貴族らしく高貴にふるまうのは仮初の姿で、本当は素直で、優しい、勇敢な、普通の少女だった。
そんな少女の、何の罪もない普通の女の子の、儚く繊細な心を、壊した。
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
恨めしい、恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい。
ワタシは彼らを───────────ルハロ・エヴァルノールとノスタルナ・エヴォベアンを、
絶対に許さない。許せない。許されない。
彼らのせいで「私」は─────ミハーリアは心を壊して精神を病んでしまった。何の罪もない少女が。婚約者が他の令嬢と浮気をしているのにも関わらず、濡れ衣を着せられ、尊厳を破壊されたせいで。
復讐してやる。
何年かかっても、死んで別人に生まれ変わっても、絶対に、絶対に復讐してやる。彼女が味わった痛みはこんなものじゃないのだと身をもってわからせてやる。
そして必ず─────地獄に、落としてやる。
死んだほうがマシなくらいの、生き地獄に。
読了ありがとうございました。




