ルシファー会 V.S. 無名チーム
無名チームの雷道驚蛰の行動スタイルは、まさに電光石火。冷酷無情で、彼の思考と決断は常に本業と同じく、一点の迷いもない。二つ目の選択肢など存在せず、ましてやそれが優しさに満ちた答えであることなど決してない。
それでも――そんな彼にも、まるで乙女のように繊細で哀愁を帯びた一面があった。
行動と感情がまるで一致しない。ルシファー会のメンバーたちが、いつものように貴族の寝室にかかるカーテンのように整然とした冷静さと優雅さを見せることもなく、むしろ挑発的な赤布を振りかざす闘牛士のように粗暴で衝動的だったのを見て、驚蛰はふとした同情を覚えた。
雨水はいつも唐詩の中にある風に揺れる柳枝のように、しなやかで上品だった。しかし彼の傍らにいる三人の不確定要素は、まるで『ハリー・ポッター』に出てくる打ちつけ柳のように、雨水の判断を容赦なく打ち据えていた。その様子からは、もはや余裕の影すら見えなかった。
今回の戦場は、岩場と、何故か凍りつく巨大な湖。二つの場が、鮮やかな対比をなしていた。月光は周囲を見渡す。自分を宿敵視し、あからさまに嫌っている冬森立秋と立春満だけでなく、多くの者が彼を潜在的な敵として見ていた。その視線が、まるで肉を噛み砕くように彼をじりじりと食らおうとしている。だが月光はそれを許さない。彼は海棠とペアを組み、湖の端で拳を握り、敵の出方を待っていた。
氷の下の水面を一瞥すると、あの巨大な魚の姿はすでに見えない。月光は思わず唾を飲み込んだ。
「えっと……本当に、私は何もしなくていいんですか?」海棠は頼りなげに尋ねる。その声は次第に小さくなり、もともと華奢で小柄な身体がさらに縮こまるように見えた。
月光は苛立たしげに吐き捨てた。「そうです。ここで黙って見てなさい。」その言葉の冷たさが、氷よりも深く海棠の心を突き刺した。海棠は小さく数歩下がり、彼らの舞台に踏み込まぬよう、静かに身を引いた。
「海棠……」その様子を見ていた六日は、胸を締めつけられるような不安に駆られた。誤解していた――海棠の立場は、想像以上に苦しかったのだ。いつも誇らしげに見えた彼女も、今は肩を落とし、息を潜めている。冷たく突き放してきた自分に、どれほど気を使っていたことか。後悔が心を覆い、六日は決意した。どんな形であれ、今度こそ彼女を支えたい、と。
「海棠、頑張って!」六日の声がアリーナに響き渡る。その声はしっかりと海棠の耳に届いた。六日の態度がようやく柔らいだことを感じ、海棠は苦笑しながら小さく手を振った。その表情には、照れと戸惑い、そして少しの安堵が混ざっていた。
六日は星児も心配していた。こんな熱く激しい戦いこそ、もともと星児がずっと望んできたものだった。だが、彼は昔から自分の身を顧みない。今や悪魔の力を身につけたとはいえ、それで少しは無茶をしなくなるのか。それとも、相変わらず突っ走るだけなのか――
それが、六日が何度も何度も星児に「戦うのをやめて」と言い続けてきた理由だった。
優しくも、厳しくも、真実も嘘も織り交ぜて説得してきた。けれど星児はいつだって頑なに自分を貫く。
六日は大きくため息をつき、目を閉じて呟く。「……ほんと、もう説得できないんだから。」
――月光?どうでもいいわ。
試合開始の鐘が鳴り響いた。ルシファー会が先制攻撃を仕掛ける。雨水が先導し、星児を引き連れて一気に突撃した。無名チームの二人が雨水の磁力攻撃をうまく避けるも、星児の重力支配からは逃れられなかった。二人の身体が宙に浮き上がり、悲鳴を上げながら空へと舞う。その隙に雨水は驚蛰ともう一人のメンバーに挑む。
魔力と魔力が激しくぶつかり合い、会場中が震える。観客も司会者も貴賓席も、皆が息を呑み、歓声が絶えなかった。
その熱気の中、月光は好機を逃さず金のリンゴを奪いに走った。だが――「時すでに遅し」。
血のように赤い巨大な虫が、いつの間にか月光の足元に迫り、毒液を吐きながら跳びかかってきた「な、なんですがこれは!?」
戦場に取り残された海棠は、生存本能を爆発させて岩場をよじ登る。無名チーム側の岩石地帯を必死に駆け上がり、身を隠そうとする。巨大な虫たちは鈍重な見た目に反して、車のような速さで這い寄ってくる。海棠は必死で岩の上から石を投げ落とし、少しでも時間を稼ごうとする。
虫たちは次々と叩き落とされ、地面に叩きつけられるも、また新たな群れが重なり合い、まるでピラミッドのように積み上がっていく。
その頃、月光は冷静さを取り戻し、雷を放った。
閃光が走り、虫たちを一瞬で焼き払う。
絡み合っていた虫の群れは、まるで乾いた糊のように崩れ落ち、地面に激突して血肉を撒き散らした。
飛び散った血が月光の頬を染める。
「……っ!」と息を呑む月光の脳裏に、雨水の声が響いた。
――「あれは雷道驚蛰の能力、“血蟲”。 自分の血を使って虫を生み出し、一瞬で軍勢を作り出す。気をつけろ。」
その言葉と同時に、驚蛰の背後からさらに無数の虫が湧き上がる。それはまるで万の兵が地より蘇ったかのようだった。
観客席から悲鳴が上がり、吐き気を催す者まで出る。だが、ルシファー会の三人は誰一人怯まない。
雨水が仲間を守るように磁力の盾を展開し、月光の進路を開く。
月光は一気に走り出し、金のリンゴへと手を伸ばした――。
「これ以上の情報はないの?」星児るが思わずテレパシーで問いかけた。
「残念ながら、雷道驚蛰は今年初めての参加らしい。それに、本人の行動は極めて秘密主義的で、彼に関する情報はほとんど存在しない。」
「なら、一歩一歩探っていくしかないですね。」月光は冷静に答えた。
雷道が皮肉っぽく笑う。「意外だな。あんな先鋒を金のリンゴ奪取に選ぶとは……本気なのか?」
雨水は何の迷いもなく応じた。「私の選択は、間違っていない。」
その声は当然、三人の耳にも届いていた。実際、月光の活躍は期待を裏切らなかった。防御に使う青い雷電の力場も、相手の速度を凌駕する緑の雷電も、彼は自在に操ってみせた。
「――少し借りさせてもらおうか。」雷道が口の端をつり上げた。
「……何を?」雨水は不穏な気配を察しながらも、雷道の心の内までは読めない。彼はすでに精神遮断技術を使っていたのだ。
月光はすぐに異変を察した。
攻撃はいつも通り自在のはずなのに、どうしても前に進めない。気づけば彼の身体は、無意識のうちに金のリンゴから離れていた。
無名小隊の他の三人が一斉に突進し、リンゴを奪おうとする。
止めようとしたその瞬間、月光ははっきりと感じた――
自分の攻撃は、なぜか無名小隊の誰にも向かわない。
まるで、自分が彼らの仲間になってしまったかのように。
「奴の血虫……人の心を操れるのか……!」星児はようやく異変の核心を察した。
「血に触れただけで支配の発動条件になるってことか?!」海棠も思わず声を上げる。
その瞬間まで静止していた雷道は、手の中に銃を生成し、雨水の磁鉄を次々と撃ち砕いていく。さらには雨水を支える電磁プレートまでも狙い撃ちにし、彼女を高空から落としかけた。
雷道の表情は一切変わらない。終始、自信と余裕を漂わせ、まるですべてが自分の掌中にあるかのようだった。
雨水が雷道の相手に専念せざるを得ないと悟った星児は、無名チームへの攻撃を中止し、攻撃を避けつつ金のリンゴを奪い取ろうと動き出す。
だがその時、地面に散らばっていた血虫がいつの間にか繭となり、そして破裂する。そこから現れたのは――血肉のように紅く、美しくも毒々しい蛾の群れだった。嗜血の翼が星児を包み込み、その身に群がる。
まさに泣きっ面に蜂。必死に抵抗する月光の前に、今度は操られた星児が立ちはだかった。
巨大な重力波と雷撃の剣がぶつかり合い、轟音と爆発が戦場を揺るがす。
二人の身体はすでに満身創痍。
「……自分の身体が、制御できない……!」
「くそっ、完全にハメられちゃったじゃないですか!!」
二人は怒りと焦燥のまま激しくぶつかり、爆発が連続して巻き起こる。衝撃波が岩を粉砕し、氷面を砕き、その下に潜んでいた巨大な魚を呼び覚ました。
水面下から飛び出した大魚は、空を舞う二人を獲物と見定め、巨大な口を開けて襲いかかる。凶暴なヒレと尾で打ち据えようとするたび、轟音が鳴り響いた。
海棠は雨水に覚醒させられたばかりの能力を使おうとするが、無名チームの三人に包囲され、脅され、手を上げて降参するしかなかった。その光景を見た六日は、ハラハラと息を呑むばかりだった。
雷道はようやく雨水と真っ向から渡り合える相手を得て、興奮に満ちた笑みを浮かべる。拳、蹴り、そして武器の応酬――彼の全ての動きが研ぎ澄まされた戦闘本能を示していた。
「ずっとやりたかったんだよ、傲慢首席さんよーー!」雷道は心底楽しそうに笑った。そんな笑みを浮かべるのは、彼の人生でも滅多にないことだった。
「くっ……このっ……!」雨水も負けじと叫び、電磁砲を展開。全力の一撃を放ち、雷道を吹き飛ばそうとする。
しかし雷道はすでに血虫を肉の盾として呼び出していた。その上で挑発的に笑い、「もう一発どうだ?」と余裕の言葉を吐く。
雨水の堪忍袋の緒が切れた。歯を食いしばり、全力で叩き潰そうとした――その時。
「勝負あり! 金のリンゴを手にしたのは――無名チーム!」審判の声が響き渡る。
四人が一斉に視線を向けると、無名チームの一人が金のリンゴを高々と掲げ、得意げに笑っていた。
貴賓席ではマモンが幸災楽禍の拍手を送る。
観客席からは嘲笑と歓声が入り混じった大合唱が起こり、六日は茫然と立ち尽くす。
雷道が能力を解いた瞬間、雨水と共に高空から落下し、地面に叩きつけられそうになる。
スクリーンに映し出された順位――
ルシファー会、最下位。
その瞬間、雨水は初めて思った。
――こんな茶番、はやっていられない!!




