順位
試合の結果は無情にも配られた。
明らかに冴えない成績を目にした月光は、すぐさま不満を露わにした。自分も失敗はしたものの、この結果を招いたのは星児と海棠に違いない。
月光の背後で、星児と海棠は気まずそうに顔を伏せ、何があったのか説明する気もなかった。
試合全体で一番努力していたのは雨水だけだったが、それでも形勢を覆すことはできなかった。
彼の不機嫌さは重く、顔はまるで燃え尽きたばかりの炭のように真っ黒だった。その声色には濃い怒りが滲んでいた。「お前ら、一体何をやっていた……?」
言うまでもない。言ったところで責められるだけだ。
「試合の課題は“あらゆる誘惑に打ち勝つ”だろう? 分かっていたはずだ。」雨水の怒りは大海のように、静かな波の下に荒れ狂う嵐を秘めていた。
彼の操る磁力は水のようにうねり、事なかれ顔をしている星児と海棠をきつく絡め取った。怯えた二人は、悲鳴すら上げられない。
「高校生だから目の前の誘惑に勝てないのは仕方ないかもしれない。だが、それにしてもお前らは堕落しすぎだろう。まさか私に“最近の若者は”なんて言わせたいのか?」
雨水はさらに力を込め、二人は内臓が押し潰されそうな苦しみに顔を歪めた。「一人は幻影に惑わされ、二時間以上も無駄に走り回り……もう一人は意味もなくさまよい歩き、コイン一枚すら拾わない。私に嫌がらせをしているのか?」
二人はやはり口を閉ざしたままだった。
その隙に月光はそっと数歩後ずさり、この場を抜け出そうとした。だが、雨水の蹴りが飛び、月光は泡を吐いて地面に叩きつけられる。
「お前だけは無関係だと思うなよ。最初からミスだらけのお前が!」
「ぐっ……う、ぐ……」
「わざとかどうかなんて知るか。あんな厄介な女に誘惑されて手も足も出ず……それどころか一度に二人も怒らせやがって。私だって麻理亜に絡まれなかっただけマシってもんだ、分かってんのか?」
「ぐ……うぅ……」
「しかも、お前が気にしてる女の幻影にまで引っかかり、あいつが絶対言わないような言葉に振り回されるとはな。本気でその女を大事に思うなら、最初から正しい道を歩めよ!」
「うっ……ぐっ……」星児と海棠は、まるで生き地獄を味わっているかのように苦しむ月光を見つめ、その想像を超えるやりすぎぶりに呆気に取られていた。二人は視線をランキングに移すと、自分たちのチームが悲惨にも最下位に沈んでいることを確認した。
一方で、六日の所属するチームは三位、まさに幸先の良いスタートを切っていた。
一位は、まるで海の亡霊そのもののような、陰鬱な雰囲気をまとったチーム。
二位は、公会戦の常勝軍団「Urikus」。
「ルシファ会ももう昔日の輝きじゃないにしても……ここまでみっともなくはなかったはずだ。無理やりお前たちを参加させたのは、やっぱり私の間違いだったのか?」──確かにアンタ/あなたの間違いだよ/です……三人は心の中で同時に思った。
「でも、まだチャンスは残ってるでしょう? 公会戦はあと六日ある。十分に挽回の余地はあるはずだから。」月光は雨水をなだめるように言い、そしてふと険しい目をして続けた。
「それに……冬森立秋……あいつとの決着は、まだ終わっていないんです。」立秋の人を見下すような背中を思い出すだけで、月光の胸に怒りの炎が燃え上がった。
――その頃の六日。
六日は仮面の男から差し出された飲み物を、おずおずと受け取り口にした。彼女はこっそりとランキング上の立秋を見やり、どこか思い込み気味に呟いた。「もし私が、もう少し頑張っていれば……」
だが立秋は取り合わない。「コインは全員で稼いだものだ。責任も全員で負うべきだ。全部自分のせいだなんて思ってるなら、自意識が強すぎる。ずっと優等生で前を走ってきたからって、勝手に先導者のつもりか?」その言葉は刃のように鋭く、六日の胸をえぐり、思わず血を吐かせるほどだった。
……てっきり、もっと頑張れって言ってくれると思ったのに。六日はそう考えた。
「まあ、一位のアマイモンは確かに強い。あの隊長、渡瀬寒は一目で人を怯ませる逸材だな。」仮面の男は相変わらず、営業用の笑みを浮かべる。それはどこか薄っぺらく、わざとらしい。
「私はただ、面倒だと思っただけだ。体が告げてきたんだ──あいつと私は相容れないってな。さっきも視線を合わせただけで、骨の髄まで吸い尽くされそうだった。」立秋は先ほどの戦いを思い出し、偶然目が合っただけで背筋を凍らせたあの感覚を語った
「本当に恐ろしいですね……隊長がああだから、隊全体がまるで略奪者のような雰囲気を放っているんですよ。」仮面の男は相変わらず作り笑いを浮かべながら言った。
――これがいわゆる同族嫌悪ってやつか……六日はそう思った。
すると立秋が六日に背を向けたまま言った。「悪魔は心を読む。失礼なことを考えないよう、心を遮断する訓練を積まないといけない。」六日は不安と羞恥にかられ、うなだれた。思えばあの時の食事を、よくもまああんなに安心して口にできたものだ……。
「諸君、短いが休憩は終わりだ! 呼ばれた隊は戦場へ配置につけ!」ダニエルが宣言した。「次の競技はさきほどと異なり、二つの隊による対決だ。ただし、それぞれの隊員はさらに二組に分かれ、東西南北に待機せよ。太鼓が鳴り響いたら、戦いながら中央の黄金のリンゴを奪い合え! 今回のお題は“耐え忍ぶ嫉妬”。この課題を克服できた者だけが、黄金のリンゴの祝福を受けられる! この試合の得点にはボーナスが加算される! では、一位アマイモンと二位ウリクス、前へ!」
満と美紀子が堂々と歩み出る。一方、渡瀬も仲間を一人引き連れて堂々と戦場へと進んだ。首位の渡瀬の顔はなお陰鬱で、人の命を今にも奪わんとする亡霊のように見える。彼らはそれぞれ、どちらがどの方角に立つかを話し合っていた。
「一位と二位ですか……」月光は思案するように呟いた。
「私たちはまだ出番じゃないな。今のうちに作戦を立てないか? 今度こそしっかりやるぞ。」雨水が言った。
「えぇぇ……」海棠は情けなく声を上げた。
その時、雨水は視線の端で貴賓席に目をやり、思いがけず誰かと目が合った。相手は親しげに手を振り、まるで親密な関係を示すようだった。
雨水は舌打ちし、不快そうに顔を背けて仲間に言った。「私は後ろに立つ。立夏と月光は、後で頭を低くしておけ。」
いきなり名指しされた月光は戸惑いながらも「お、おう」と返事した。海棠と星児の呆れた視線を受けると、胸を張って言い放った。「気に入らねぇなら牛乳もっと飲めばいいんですよ。」
――なんでそこで偉そうなんだよ……二人は同時にそう思った。
海棠は我慢できず尋ねた。「す、すみません、貴賓席の方は……」
雨水は鋭い目でにらみつけた。「お前に関係ないだろ。」
海棠は恥じ入るように視線を落とした。
ダニエルとトラは汗だくになりながら駆け込んできて、安堵の声をあげた。「マモン様、ようやくお越しになりましたか! 今回はもういらっしゃらないのではと……!」
紫の髪に黒い肌を持つ男は、朗らかに笑った。「何を言っているんだ? こんな大事な日に来ないはずがないだろう。……それにしても、君の主人も今日はずいぶんと元気そうじゃないか。」
「雨水様は……もう連敗の日々に耐えられないご様子で……」ダニエルは苦笑いを浮かべて答えた。
「君たち、彼を手助けして不正を働くつもりはないのか? 君たちなら絶対にできるだろうに。」
「そ、そんなことできるわけないでしょう?!」ダニエルは信じられないといった声をあげる。
「そんなことをすれば雨水様に殺されます! 裏工作なんてやったら、彼の誇りは無惨に踏みにじられてしまいますし、ぼくたちだって綿くず同然にされちまいます!」トラも慌てて付け加えた。
「ははは、わかっているさ。冗談だよ。」アレクスは気にも留めない様子で笑い飛ばした。
――絶対に冗談なんかじゃない……。
二体のぬいぐるみは、震え上がりながら心の中でそう叫んだ。
「ところで、なぜ今回は遅れてこられたのですか? 普段は遅れることなどないのに。」
普段は飄々としているアレクスだが、この時ばかりは笑みを消し、視線を戦闘員席に送った。そこには六日がいて、大暑と談笑している。「……少々、続けたくないものに足を取られてしまってね。」
ダニエルとトラは身震いした。これまで軽薄で、いつも笑みを絶やさない彼が怒りを見せる姿など一度も見たことがなかったのだ。二体は沈黙を守ろうとした。だが、アレクスは自ら言葉を継いだ。
「金を渡したら……おまえたちも雨水のチームを敗北させたりはしないだろう?」
「?!」
「どうかぼくたちを困らせないでください!」
「ははは、今回もさっきと同じで冗談だよ。」
「絶対に冗談じゃない……」
「ぼくたちを脅かさないでください。」
霎那、月光は再び冷たい視線を感じた。それはまるで刃が背中に突きつけられているかのようで、全身の毛が逆立ち、狩人の骨まで凍るような血に飢えた眼差しにより、周囲の気温が数度下がったように思えた。抑えきれない震えが走り、必死に取り繕いながら視線の源を探すと、そこには無名の小隊がいた。
冷ややかなその瞳が自分を射抜き、月光の全身を一つひとつ観察するかのように見つめ、まるで鱗も皮膚も剥ぎ取ろうとするかのようだった。
月光は慌てて視線を逸らし、雨水に尋ねた。「彼らの小隊は全員同じ刺青をしているのですか?」
雨水は淡々と答えた。「雷道驚蛰のやり方はそういうものだ。あのモヒカン頭の男は現実ではどうやらヤクザのナンバー2らしい。私たちなんかよりもずっと多くの命と血で手を染めている。ここにいる間はまだマシだが、現実で出会ったら避けて通るしかないな。」
海棠はさらに大きく身震いした。「そう言えば、ニュースで見たことがあるような……」声までも震えている。
「その刺青……まさにヤクザだな……」星児もつぶやいた。
「注意しろ、始まるぞ。」
闘技場は十字に走る運河によって分断されていた。水流はゆるやかに流れているが、時折その下に巨大な影がのぞき、見る者の背筋を凍らせる。各チームはそれぞれ準備運動をし、戦いに備えていた。
月光は満の隣に立つ、肥満体の男を目にして思わず問う。「……あの人は誰ですか?」
「Urikusにあんな奴がいるようには見えないけど……」海棠も首をかしげる。
「戸川剛だ。立春満とは高校時代の同級生だったらしい。昔からの縁で仲が良かったそうだ。だが、満が悪魔になった後も関係が続いているとはな……」雨水もどこか興味深げに答える。月光と星児はその言葉に何かを感じ取ったが、今は追及する気にはならなかった。
再び太鼓が激しく鳴り響き、各チームが配置から走り出す。
満と戸川は鬱蒼とした植物が生い茂り、身動きの取りにくい西の斜面に。
美紀子ともう一人の仲間はぬかるみに覆われた南方へ。
渡瀬とその相棒は平坦で走りやすい北側へ。
そして最後のチームは、川の水が草地にまであふれた東の湿地に配置され、驚くほどの速さで前進していた。
「見て!」海棠がフィールドを指さし、大声で叫んだ。
皆の視線の中で、フィールドは徐々に高空へと浮かび上がり、同時に縮みながら融合して、空中で球体の形に変化した。まるで小惑星のようだ。
それでも、フィールド上の隊員たちは落ちることなく、場の重力に引かれてしっかり立っている。時折、上下逆さまになった状態の者も見え、いたずらに面白い光景だ。
「星みたいな形になった……」月光が感嘆する。
「すごいな……」星児は目を輝かせた。重力を習得してから、こういうものに特に興味を示す。
「このフィールドだと、金のリンゴを探すのは難しくなるね。」雨水が言った。「……でも、実力のある奴には影響はないけど。」
その中の一人、Amaimon所属の隊員が北から突進してくる渡瀬たちを見て、少し嫉妬交じりに漏らす。「隊長たちはいいなぁ……あんな走りやすい場所からスタートできるなんて。」
いつも明るい少女が苦笑いしながら答える。「運が良かったんだから仕方ないよ。」
そう話す間もなく、突如として川の水が勢いを増し、湿地を覆い尽くしていった。あっという間に腰の高さまで水が迫る。
「えっ、水が急にあふれてきた!」
「なんでこんなに早く水が上がってくるんだ?!」
「水がどうしてこんな速度で押し寄せてくるんですか?」「あの術、そんなに強いのか?」と月光と星児は次々に疑問を口にした。
「確かに術だ。でも、この会場の一番の奇妙なところは、なぜか人の嫉妬を増幅できる点だ。何を仕込んだのかは不明だがな。」雨水は限られた情報の中で答えた。「立春満、立春美紀子、そして渡瀬寒――よく見ておけ。大会で注意すべきはあの連中だ。」
立春満と立春美紀子の動きも侮れない。焦らず、緩まず、着実に前進している。泥濘も草木も二人の行く手を遮ることはなかった。美紀子はまるで軽功を使うように、泥濘を軽やかに蹴って一気に前方へと飛び出す。満は満で、猿のように樹上を機敏に渡り歩いていく。一方、肥満体の戸川はそうはいかず、茂みをかき分けながら必死に追いすがるのがやっとだった。
そして、もう一人注目すべき人物――渡瀬。進路が比較的整っているせいか、彼の進みはゆったりとしており、どこか「勝利は確実だ」と言わんばかりの余裕が漂っていた。
「いくらなんでも余裕すぎじゃないか。」
「何を企んでいるんですか?」星児と月光は思わず同じ感想を口にした。
その刹那、渡瀬は足元の大地を強く踏み鳴らした。山が揺れ、大地が震え、震源から離れていた月光たちでさえ足を取られそうになる。月光は渡瀬の足元から魚のヒレのようなものが幾つも現れ、四方へ泳ぎ出していくのをかすかに見た。
「え、あれは……」月光が言い終わらぬうちに、巨大な魚が突如飛び出し、他のチームの進路を塞いだ。そのサメたちは、水のない環境でも泳げるらしい。不意を突かれた瞬間、サメの一体が他のチームを襲撃しながら激しく自爆し、会場を吹き飛ばしかけた。
「うわあっ!」と誰もが驚愕の声を上げる。やがて煙が晴れていくと、会場は完全には崩壊していなかったものの、地形には大きな変化が生じ、他のチームの前進は一層困難となった。湿地の仲間は泥を全身に浴び、そのうちの一人が吐き捨てるように言った。
「隊長……何も俺たちまで巻き込まなくても……」
それでも、これはまだ序章にすぎなかった。
連続した爆発は運河の下に潜む大魚を刺激し、その怪物の骨ばった姿が水面に躍り出たことで、彼らがとんでもない存在を呼び覚ましたのだと誰もが理解した。
大魚は血に染まったような大口を開き、鋭い牙を見せつけると、巨大な尾で水面を打ちつける。案の定、運河の水は一気に溢れ、半分のフィールドを呑み込んだ。
それだけでは終わらない。地上に上がれない大魚は、溢れた水の流れに乗ってある小隊へと突進する。狙いは捕食ではなく、脅しと警告。その標的は美紀子のチームだった。
突然の襲撃に驚いた美紀子はバランスを失い、泥沼に転げ落ちそうになる。周囲が一斉に緊張する中、ただ満だけが人知れず勝利を確信したように口元を歪めた。
美紀子はすぐさま足元に柱を生み出し、支えを作る。水はなおも激しく押し寄せるが、美紀子は落ち着き払って柱の上に立ち、遠くに閃光を見つける。彼女はそれが何かを悟り、次々と柱を作り出しては軽やかに跳び移り、光の方へと進んでいった。
思うように獲物を得られなかった大魚は怒り狂い、次々と柱を破壊しながら美紀子を追う。
光点は瞬く間に大きくなり、気づけば黄金の林檎が目前にあった。
「くそっ、逆転される!」渡瀬の仲間が焦燥の叫びをあげるが、渡瀬自身は落ち着き払っていた。彼は再び鮫の悪霊を呼び出し、その背に飛び乗ると、美紀子目がけて突進させる。
しかしその前に、満が水に倒れた大木を足場にして現れ、渡瀬の行く手を阻んだ。いつの間にか手にしたのは一輪の蒲公英。相変わらず優雅な紳士の微笑みを浮かべながら、「わたしが相手をしてやろう。」
と告げる。
次の瞬間、美紀子は金の林檎を手に入れた。――この勝負、勝者はUrikus。
「まさか、逆転だと……」月光は息を呑む。
「だから言っただろ。Urikusを甘く見るなって」雨水が静かに答えた。




