出場する各チーム
公会戦の正式な開始まで、あと五分。
星児はソファにじっと腰掛け、額から冷たい汗が一筋流れ落ちた。緊張で体が固まっている。
一方、海棠はずっと拳を握ったり開いたりして、手のひらにはびっしりと汗。口元では何やらぶつぶつと呟き続けていた。
「六月……」月光はいまだにあの日の出来事に打ちひしがれ、魂が抜けたような表情をしていた。忙しい日々のせいで、六日とまともに話すことすらできなかったのだ。
「見で、あいつのあの抜け殻みたいな顔……」海棠と星児はひそひそ声で囁き合う。
「女たらしなことさえしなければいいのにね。」
「だから、いつまで私を誤解してるんですよ!?」月光が叫んだ。
海棠と星児は顔をしかめてそっぽを向く。やがて海棠は堪えきれず、勢いよく月光の顔へと迫った。
「ねぇ、あんた……六日に対して、本当はどういう気持ちなの?」
その問いに、月光は一瞬言葉を失った。星児は拳を固く握りしめる。彼の胸には相反する感情が渦巻いていた――月光の本音を聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ち。二つの思いがせめぎ合い、心臓が宙吊りにされるように重くなっていく。
そして月光の答えは、やはり予想通りだった。「悪魔は一度手に入れたものを、決して手放すことはありません。それが当たり前というものでしょう?」
当然だと言わんばかりの態度。
その無頓着さに、海棠の顔色は見る見るうちに暗く沈んでいった。
「六日を……六日を何だと思ってるのよ、このクズッ!」拳に力を込める海棠。抑え込んできた不安も苛立ちも怒りも、もう堪え切れなかった。
ソファにだらりと横たわっていた月光の肩が小さく震える。彼は今まで一度も見たことがなかった――あの臆病で風変わりな眼鏡の少女が、これほどまでに激昂する姿を。
だが月光も、引き下がる気はなかった。「悪魔は皆そう考えるものです。これが普通なのです。」彼は静かに言い放ち、ゆっくりと立ち上がる。大柄な体が放つ威圧感に、海棠と星児は思わず数歩後ずさった。
だが、六日のこととなれば海棠は退かない。「六日は人間よ! あんたのモノなんかじゃない!」そして、彼女は敢えて月光の弱点を突いた。「無力でどうしようもないあんた自身が、一番よく分かってるんじゃないの!? 六日があんたの“所有物”なんかじゃないって! そうでしょ!? 立夏月光!」
その勢いに、星児は思わず息を呑んだ。
海棠がここまで口鋒鋭く迫る姿を、彼は想像すらしたことがなかった。積もりに積もった怒りが、ついに噴き出したのだ。
「……ふん。あなたのものを奪われたら、やはり動揺なさるのではありませんか?」さっきまでの抜け殻とは打って変わって、月光は強気に言い返した。見下ろす視線の中で、海棠は小さく見える。
返す言葉を探す海棠が口を開こうとしたその時――星児が割って入った。だが止めるためではない。挑発するために。
「こうしよう。ギルド戦で、勝利数が多い方が勝ちだ。負けた方は勝った方に絶対服従だ。」星児は立ち上がり、まるで獅子のように堂々と宣言した。
「な、何言ってんのよ!」海棠が慌てる。だが月光は冷笑し、答えた。
「なぜ私がそんな賭けに乗らなければならないとおっしゃるのですか?」月光より背の低い星児は、首が痛くなるほど見上げながらも引かなかった。
「勝った方は、相手に六日から手を引かせる。それだけだ。」
その言葉に、月光は鼻で笑った。「バカですね。」
「星児、やめでよ!」海棠が止めようとするが、月光が先に応じた。「面白いではありませんか。乗って差し上げましょう。」
「……ビビってるのか?」星児の声も力強くなる。
「私が怯むわけがないでしょう。舐めるなよ。」挑発に乗った月光が声を荒げる。オフィスの空気は、今にも爆発しそうなほど張り詰めていた。
――その時。
扉が開き、雨水が入ってきた。「……ギルド戦開始まで、あと五分だ。準備はできているか?」
緊張の糸が切れたように、三人は黙り込む。
「もちろん準備万端です。」月光は胸を張り、執事服仕立てのスーツを誇らしげに見せつけた。まるで得意げな雄鶏のように。
「……ふん。さっきまで何か揉めてたみたいだな?」雨水の目には苛立ちが宿る。「大戦前に内輪揉めなどするな。行くぞ。」
三人は気まずそうに彼の後を追った。雨水が指を鳴らすと、その服は一瞬で戦闘服に切り替わった。「さあ、専用のエレベーターに案内しよう。他のみんなも到着しているはずだ。」
「へえ、そんな着替え方があるのね。」海棠は星児に小声で囁き、感心していた。
――ホテルの外では、都市百年記念の旗が静かに翻っていた。色とりどりの旗と灯籠が夜風に揺れながら、まるで眠るように閉じている。
華やかな装飾と眩い光、そして無数の旗が祭典の始まりを告げる。エレベーターの中でも、月光の耳には群衆の歓声が響いていた。
扉が開けば、そこは熱狂に包まれた会場。地底にありながら、頭上には暗い藍色の夜空と満天の星々。夏の星座が煌めき、まるで美の競演だ。――それは悪魔の力で創られた人工の夜空。しかし、その美しさは本物に勝るとも劣らなかった。
磁気飛行船に乗った雨水のぬいぐるみ――白猫ダニュルととらのとらが声を張り上げる。
「さあ! 皆さまお待ちかねのギルド交流戦が、ついに開幕です! 今年も熱く盛り上がってまいりましょう!」
とらもまた解説を始めた。「では、今回まだ大会のルールをよく理解していない観客の皆さんに説明させていただきます! 今回のギルド戦の編成ルールは例年通りです。まず、ギルド戦に参加する小隊は会長を含めて4人で構成されなければなりません。そして交流戦の目的を達成するために、各種目は小隊の合計得点を基準に計算されます。ポイントの配分は試合後に行われます。各チームは種目ごとに代表を一人ずつ出し、さらに全員が参加できるフリー戦も行われます!」
「大会は七日後に終了します。当然、評価されるのは競技の得点だけではありません。礼儀・行動、さらには知恵までもが審査の対象です。優れた者は追加ポイントを獲得できます! 交流戦の目的は昇進や役職交代でもありますから、次期会長やボス候補がいるのなら、なおさらこの勝負を逃すわけにはいきません! 大会の種目は順次発表され、ギルド会長といえども内容を事前に知ることはできません。もし不正が発覚した場合には……」
月光は堪えきれずに問いかけた。「これはあなたの人形でしょう? 裏で操作するような真似はないのですか?」
「私は規則は守るし、それ以上に卑怯な真似は嫌いなんだ。」と、雨水は誇らしげに答えた。
「もし不正行為があれば、そのチームは三年間ギルド戦への参加資格を剥奪されます。」とダニュルが引き継ぐ。とらは不満げに叫んだ。「おい、それは本来オレが言うはずだったのに!」
「それでしたら問題ありません。」月光はそう評価した。
「ではここで、ギルド戦のスポンサーをご紹介しましょう!」……とはいえ、来賓席は空っぽだった。
「誰もいないじゃないか!」ダニュルが慌てて叫ぶ。とらが慌てて電話をかけようとしたその時、頭にアンテナを立てた毛むくじゃらの者が船に乗って飛来し、とらと耳打ちを交わす。すぐにとらは苦笑して発表した。「スポンサーはまだ道中のようです! 皆さま、どうか今しばらくお待ちください! なるべく急ぐように……!」
観客席からは一斉にブーイングが巻き起こった。
「では、今からこの大会に参加するチームを発表します!」
「まずは大会の常勝軍――Urikus!」
Urikusの一団はまるで妖精のように、空から舞い降りた。鳥が枝に止まるかのように、蝶が花に舞い降りるかのように、優雅に着地する。先頭の美紀子は艶やかに手を振り、多くの歓声と喝采を浴びた。彼女の隣に常に寄り添う満もまた紳士的に振る舞い、着地の際には彼女の手を取りエスコートする。その姿は当然ながら月光の視線を惹きつけ、彼女は彼を睨みつけるように、今にも喰らいつかんばかりの目で見つめていた。
満は一人の女性が熱い眼差しを送っていることに気づくと、優雅に歩み寄り、バラの花をひとつ差し出してみせた。さらに投げキスまで贈られると、女性は幸福のあまり気絶してしまう。隣で同じ待遇を受けられなかった女性は、ただ悔しげに頬を膨らませるしかなかった。月光はそんな様子を見て、ただ鼻で笑っただけだ。
彼らだけではない。他の隊員もまた美しく魅力的で、人ならざる天仙のごとく舞い降りてくる。その衣装はまるで中国の古装劇に登場する漢服のようであり、一層の神秘さを添えていた。
とらの声が響く。「美しさと危険を兼ね備えた色欲の申し子たち! 今回も彼らの活躍を楽しみにしている者は多い! 果たして彼らは再び優勝を手にし、連勝を重ねることができるのでしょうか!」
「続いては、氷の嵐を巻き起こす海賊団で名を馳せる南の王・アモン(Amaimon)**! 昨年は優勝を逃しましたが、今年こそ雪辱を果たし、栄冠を勝ち取ることができるのでしょうか!?」
大霧が一帯を覆う。月光が驚きの目で見守る中、ぼろぼろの海賊船が霧の中からゆっくりと姿を現した。海賊風の装いをした者たちが現れ、その先頭に立つ男はどこか哀愁を帯びた表情をしていたが、その眼差しには野獣が獲物を狙うような殺気が潜んでいた。熱気あふれる会場の中でも彼は冷静に背を丸め、前方を見据えている。刹那、彼の視線が不意に月光へと向けられる。月光の背筋に冷たいものが走った。まるで狙い定められた獲物のように、その目は血に飢えた殺意で満ちていた。背後に従う男女もまた海賊姿で、ただ一人、観客に笑顔で手を振る水夫の少女を除けば、他の者たちは皆、冷徹に抑制された態度を崩さず、氷のような空気をまとっていた。彼らが月光の脇を通り過ぎるとき、冷風が体の芯まで吹き込んでくるように感じられた。
「続いては西の王・**パイモン(Paimon)**! 常にワイルドなパンクスタイルを貫いてきた彼らが、今回の大会にどんな革命をもたらすのでしょうか!? いやがおうにも期待が高まります!」
五色のドライアイスの煙が噴き上がる中、黒一色のスパイクだらけのパンク衣装に身を包んだ集団が現れる。その姿は、この世界への反抗そのものを体現していた。パンクメイクを施した女――**マリア**が、小指と人差し指を突き立てて叫ぶ。「ワイルドに行くわよ!」
彼女の手にした鞭が会場の熱気をさらに煽り、観客たちは我を忘れて狂乱状態に陥り、中には涎を垂らす者まで現れる。そのとき月光は、向こう側から突き刺さるような熱い視線に気づいた。相手を確認すると、強烈な鳥肌が立つ。
「ダーリン、出番を楽しみにしていてね!」冬至円子が大きく手を振る。その瞬間、月光の背中に冷たい悪寒が走る。視線の主は**冬至マリア**――彼女は月光に強烈な殺意を注ぎ込んでいた。
「そして北の王――**エイグン(Eigun)**! 無機質で冷徹な機械の運行こそが彼らの誇り! 省エネ主義を掲げながらも、この大会においてはどんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか!」
歓声とともに現れた彼らの周囲には、大型の無機質な電子制御システムが展開していた。作業服に身を包み、まるで大会に出場している自覚すらないかのように、黙々と電子作業に没頭している。彼らは浮遊する電磁プラットフォームに腰掛け、その姿に月光は小さく驚嘆の声を漏らす。煙が彼らを包むころ、ようやく自分の番が近いことに気づくのだった。
「もちろん忘れてはならないのが、敗北してもなお王者の風格を失わぬ**ルシファー会**!」
突如として放たれたフラッシュに月光は思わず身をすくめる。
「いちいち驚きすぎよ。」
耳に馴染んだ女の声に振り返った月光は、危うく露骨な嫌悪の色を瞳に浮かべてしまいそうになった。
則保が言った。「お前なぁ、あんなに強くてカッコいいくせに、田舎者みたいな格好するなよ。バカにされるぞ。」
「貴方に関係ないでしょう……」
「久しぶりだな、立夏月光。」
桜園浅行も姿を現した。鋭い眼差しで月光を睨みつけるが、月光は気にも留めず、顔をそむけて知らんぷりをする。彼らは炎暑祭で月光たちと敵対したチームであり、どの組織にも属さない私設チーム──その名も\*\*「流浪者」\*\*。
「彼らには大きな期待が寄せられる一方で、不安もつきまとう。なぜなら、どれだけルシファー会が努力しようとも、優勝は必ずUrikusに奪われてきたからだ! ……おっと?どうしました、雨水さん? ご発言ですか? ではマイクをどうぞ!」
雨水が口を開く。「確かに、この三年間、我らルシファー会は優勝を逃し、Amaimonと同じ立場に甘んじてきた。」
そう言いながら、雨水はAmaimonのメンバーに視線を送り、相手も負けじと鋭い目を返す。そして突然、雨水は月光の肩に腕を回し、声を高めた「だが、今年は違う! 今年こそ、我らが栄冠を手にする! なぜなら、この誰も無視できぬ**晨星──立夏月光**がいるからだ!」
その熱を帯びた言葉とともに、月光の驚いた顔が巨大スクリーンに映し出される。観客席はざわめき、再び月光は大会の話題の中心へ。雨水はマイクを月光へ差し出した。
月光は一瞬の戸惑いを振り切り、力強く叫ぶ。「必ずここで最強になります。ここにいる皆様、私が打ち倒してみせます!」
その瞬間、観客席のボルテージは一気に最高潮へ。各チームがルシファー会に鋭い視線を投げかける。特に満は、一瞬たりとも月光から視線を逸らさなかった。
「もちろん、全明星の面々だけではない。今年も見逃せぬ明日の星がいる! その名は──!」
大鈕がじらすように声を張り上げる。観客も出場者も息を呑み、その名を待ち望む。
……だが、五分経っても彼らは現れなかった。
ダニュルは頭が真っ白になり、額に汗を浮かべながら言った。
「えっ……あ、あれれ? 本来ならここで登場するはずなんだけどな……まさか遅刻か……? あれ、おかしいぞ……」彼はハンカチを取り出して汗を拭った。アトラが何か囁くと、ようやく少し落ち着きを取り戻し、こう続けた。「では、先にほかのチームを発表しましょう。もっとも、新参の《ゴールデン・ウィングス》が最後まで現れなければ、彼らの失格を――」
「ここにいる!」突如、月光にとって妙に聞き覚えのある女声が響いた。観客が一斉に声の方向を見やると、高空から一台の高級車が落下してきた。運転席では一人の男が愉快そうにハンドルを操り、他の者たちは必死にフレームをつかんで落ちまいとしていた。だが、ついに一人の少女が振り落とされ、地面に激突する。
月光、海棠、星児は青ざめて、その顔面を打ちつけ鼻血を流している六月六日を見つめた。助けに行こうとするが、雨水が遮る。「今は敵同士だよ。」月光は聞く耳を持たず飛び出そうとするが、その前に六日はすでに誰かに抱き起こされていた。
車は地面に着地し、立秋が降り立つと六日を支えながらぼやいた。「お前さ、ちゃんと掴んでないから真っ先に落ちるんだよ。本来なら隊長が一番に登場するはずだろ?」そして月光の憎しみを込めた視線に気づくと、勝ち誇ったように笑った。「自業自得だな。」
月光と星児は今にも飛びかかりそうになるが、またもや雨水に制止される。「借りは試合で返せ。それに、これ以上彼女の心証を悪くするな。」月光は不承不承、拳を下ろした。
観客席では、このかつて悪名を轟かせた金烏を目にしてざわめきが広がる。
「こいつ、弱いやつばっか狙ってた奴じゃ……?」
「去年も出てたよな……」
「応援する気にはなれないな」
「しばらく姿を消してたと思ったら、こんな準備してたのか……」
そのざわめきをかき消すように、立秋は声を張り上げた。
「私たちは《ゴールデン・ウィングス》! 今ここに参上した! 失格など断じて認めない!!」
アトラは肩をすくめ、大ニュウはしぶしぶ発表を続けた。
「……遅刻ではあったが、《ゴールデン・ウィングス》の登場だ!隊長は、かつて悪名を轟かせた冬森立秋! 卑劣無比の烏にして、地獄から舞い戻った復讐者!そして仲間は――“炎爪の英雄”の異名を持つ大暑紅葉!さらには、期待の新人、六月六日!孤狼と称された彼も、今回は多くの仲間を引き連れての参戦だ! 三人は皆新人ながら、その力は未知数!彼らがどんな舞台を見せてくれるのか……大いに期待しようではないか!」
大暑は情熱的に観客席へ手を振った。観客席のざわめきはさらに大きくなる。
「えっ、大暑紅葉があいつと組んだの?」
「うわ、終わったわ……」
「なんであんな奴と組むのよ……」
「大暑紅葉も人を見る目ないな。」
「確かに綺麗な人だけど、正直印象薄いわ……」
「六月六日?小賢しいだけで、よく分からないまま作者に贔屓されてる子でしょ?大したことないよ。」
そんな声が飛び交う中、闘技場の熱気はますます高まっていった。
「では、次に他のチームを紹介します――ん?マイクが欲しいって?まあいいけど……叩かれてもぼくのせいじゃないからな。」ダニュルは仕方なくマイクを立秋に手渡した。
立秋は毅然とした態度で口を開いた。「皆さん、確かに私は卑劣で、弱い者いじめをする金の烏だ。」そして続ける。「だが、それが何か悪いか? 悪魔の世界なんて元々、強者が弱者を狩るものだ。このゲームは常に弱肉強食で成り立っている。」
観客たちは顔を見合わせる。立秋の言葉に、確かに一理あると思わざるを得なかった。
「私には私の信念がある。その信念に後悔はない。だから罵られようが構わない。もし本当に私が間違ってると思うなら、堂々と私に殴りかかってこい。背後で陰口を叩くんじゃなく、正面から暴力で示せばいい。悪魔は、いつだって暴力で語るんだからな。……あの男のようにな。」
カメラは再び月光を映し出す。今日二度目の大注目を浴び、月光は黙したまま鋭い視線を立秋に送った。
立秋ははっきりと宣言する。
「立夏月光。私はお前に宣戦布告する。首を洗って待っていろ。」
月光は目を見開き、無言で睨み返す。その頃、六日はようやく目を覚まし、大暑が彼女を支えながら今の状況を説明していた。
一方、星児は立秋のチームにいる覆面の男から目を離せずにいた。なぜか、その男の纏う気配に妙な既視感を覚えるのだった。
海棠は冬森立秋の月光への異様な執着に気づき、冷や汗を流しながら思う。(立夏月光……あんたはいったいどれほどの罪を背負っているんだ……)
立秋はマイクを持ったまま、ダニュルを見て言った。「――マイクを返してもらえますか?」




