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満の思い

「あー……」満は何気なく欠伸をした。


これから彼だけの休憩時間が始まる。


彼のシフトはほかのホストたちとは少し違っていた。というより、ホストは副業に近い。本業は裏方で、ドリンクの管理、まかないの準備、スタッフのトレーニングなど、想像以上にやることが多い。けれど彼は今の生活が気に入っていた。


ただ、ひとつ厄介な癖があった。夜十二時前に眠らないと、必ず悪夢を見続けてしまうのだ。それは避けられず、仕事にも大きく影響していた。美紀子も彼もどうしようもなく、別のやり方を取るしかなかった。彼のホストとしての仕事は夜七時半から十一時まで。


更衣室でいつもの私服に着替えると、スマホを開き、翌日の家事リストを確認し、美紀子とも連絡を取った。そのあとは自由時間だ。満は気まぐれにひとつの番号へかけた。すぐに、耳が甘さで痺れそうな声が流れてきた。


「満くーん♡」

「ああ、私だよ。今日は貴女のの家に行く約束だったよな?」満も蜂蜜のように甘ったるい声を出す。相手を舐め尽くすような響きで。相手も熱を帯びた声で応える。

「そうよ〜。もう全部準備して待ってるんだから〜。今日は他の女の子が急に現れて『今日は私の日じゃなかったの!?』なんてこと、ないわよね?」

「もちろんだよ〜」満は媚びるように声を作り、彼女に合わせる。「ちゃんと覚えてる。今日は貴女に会いに行くんだ。私の可愛い天使に。」


「やだぁ〜、いつもそんなにクサいんだから〜。でも早く来てね、ご飯冷めちゃうから。待ってるわ〜、ちゅっ♡」女の子が投げキスを送る。その余韻を受けて満が口を開いた。

「そうだ、前に言ってたあれ、捨ててくれた?」突風に吹かれてロウソクが消えるように、さっきまでの甘い雰囲気は一瞬で消えた。二人とも息をひそめる。女には言えないことがある。満は答えを待っていた。


やがて彼女はようやく声を出した。「……捨てたわよ、全部」

ビデオ通話じゃないから、彼女には見えない。満の顔に浮かぶ愉快そうな笑みを。「そっか。じゃあ出発するよ。下で待ってて」


また満は明るい調子に戻る。相手の声色も一気に高まり、気分は最高潮に戻った。


電話を切ったあと、満はしばし考え込む。だがやはり彼女の名前は思い出せなかった。それでも一つだけ覚えている。彼女の料理は壊滅的にまずい。一口食べただけで死ねるほどに。


しかし彼もまた逃げることはせず、他の女性に慰めを求めてしまう。それをどうして責められるだろうか。あの夜以来、彼はそうすることでしか虚ろな心を埋められなくなっていたのだ。心は病んでいて、やっとの思いで回復したというのに、ある日また再発してしまった。自分でもこんな自分が嫌になるが、そうしなければ精神が崩壊してしまう。ため息をついたその時、不意にドアの開く音が聞こえた。


仕事モードではない今、誰にも会いたくない。慌てて狭い物置きの中に身を隠し、外の会話に耳を澄ませる。


数人の社員が入ってきて、着替えの準備を始めた。


「はあ、立春はもういないのか? もう退勤したんだろ?」

「帰っただろ。そんなに急いで……まるで転生でも急いでるみたいだ。羨ましいよな。働きは最小限なのに、一番早く帰れるなんて。」

「美紀子様も甘やかしすぎだよな。問題を起こすとは思わないのか?」

「分別があるって? 分別があったらあんなことしないだろ。精神に問題があるって言われてるが、問題なのは下半身の方じゃないのか?」

「もうきちんと処理したって話だが……そんなの処理できることじゃないだろ。義姉が首席の一人ってだけで威張り散らしてる張り子の虎だ。大したことはないよ。この前、立夏月光に勝てたのだって、ただの幸運だろ。」

「そういや、あの試合は本当に番狂わせだったな。いくら彼でも、立夏月光には敵わないと思ってたんだ。俺なんか彼に賭けて大損だよ!」

「まあ、立夏月光だってまだまだだろうしな。立春と肩を並べるなんて、まだまだ先の話だ。」彼らは口々に話しながら更衣室を出ていった。うるさい声は遠ざかってもなお耳に残る。


彼らが去ってから、満はようやく物置から出て、肩を落としながら更衣室を後にした。



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