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黒羽雨水

誰もが呆然としながら、突然現れた男を見つめていた。清明な朝の眩しい陽光さえ、彼への視線を遮ることはできなかった。灰白色にわずかに淡い青が混ざった空の下、彼の身体もまた、徐々に透明な青い光に包まれていった。高所に立つ彼は、自然と底辺にいる呆然とした下僕たちを見下し、軽蔑を込めた視線を向けたあと、ふいと顔を背けた。そして、瀕死の三つ首の犬に視線を移し、その目にはため息と軽蔑が浮かんでいた。六日は慌てて三つ首の犬の様子を見に走った。


その時、黒羽雨水が不気味な笑みを浮かべ、指を自由に動かし始めた。三角形の電磁フロートが四方へと散らばっていく。突如現れた不気味な笑顔に、星児は思わず身震いした。これからこの悪魔と関わらねばならないのだと思うと、背筋に寒気が走った。


その刹那、電磁フロートが反応の遅れた者たちに向かって突進し、哀れな子羊の一人を拘束した。子羊はようやく自らの状況に気づき、地面でもがき苦しむが、もがけばもがくほどフロートはさらにきつく締め付けた。人々はようやく四散し、逃げ出そうとしたが、電磁フロートはまるで増殖するかのように次々と追いかけ、捕らえていった。この場はまさに地獄絵図、悲鳴と泣き声、罵声が入り乱れた。


やがて大半の悪魔たちは拘束され、まるで焼かれる直前の豚のように無力になっていった。六日はまだ状況が飲み込めないまま、大暑に連れ去られた。逃げる途中、なぜか月光の姿が見えなかった。驚飛も後に続こうとしたが、なぜか体が硬直し、一歩も動けなかった。


大暑は六日を引き連れて逃げた。彼らはとある場所に身を隠し、大暑は六日に真実を語り始めた。「かつて、炎暑祭に参加した悪魔たちが戻ってこなかった……今、やっと分かった。」


彼は悔しさに歯を食いしばりながら言った。電磁フロートを自在に操りながら、残った者たちを冷徹に探しているその姿は、ゆっくりとした足取りでありながら、まさに怪物そのものだった。


「……あの人は誰なんだ?なんであんなことが許されるんだ?」六日は答えを知りながらも、認めたくない気持ちから問いかけた。


「答えは簡単だ。あいつは、今、傲慢首席──悪魔の中の悪魔、ランキング第一位の座にいる男だ。」

大暑は続けた。


「1960年から続く、不敗の神話を築き上げた存在……!」


逆光を背にした彼と電磁フロートの姿は、もはや人の領域を超え、手の届かない怪物に見えた。


「奴は力を持つが故に、好き勝手に振る舞う。その傍若無人さを打ち破った者は誰一人いない。誰であろうと、その圧倒的な力の前に屈服するしかなかったんだ。不満を抱いても──その力に無理やり飲み込まれるしかない。」


「そんなに強いのか……」 六日はきょろきょろと周囲を見渡し、月光の姿を探した。


「今の大会最強組織であるルシファー会も、あいつが創設した。でも、なぜ創設したのかは誰にもわからない。炎暑祭の後にあいつが現れたことで、やっと分かった。炎暑祭なんてのはただのカモフラージュだ。あいつの本当の目的は──」 大暑がそう言いかけた瞬間、電磁フロートが彼らの隠れていた瓦礫を打ち砕き、石片が空中に散った。二人もまた、飛び散る瓦礫と共に逃げ出した。


電磁フロートはしつこく追いかけてきた。まるで暴走する車のように瓦礫を粉砕しながら、彼らを執拗に追い立てた。二人は必死で逃げたが、その途中、電磁フロートの破壊によって飛び散った石に何度も打たれ、傷を負った。


ついに耐えきれなくなった大暑は、どこからか拾った鉄の棒を手に取り、まるで野球のバットのように振り抜いて、電磁フロートを打ち飛ばした。大暑は怪力の持ち主だったため、電磁フロートはあっという間に遥か彼方へと吹き飛ばされた。吹き飛ばされたフロートは、さらに瓦礫にぶつかりながら、まるで意識を失ったかのように空中をふらふらと旋回し、最後には地面に叩きつけられた。


だが、それで危機を脱したわけではなかった。もっと多くの電磁フロートが、失敗を取り戻そうとするかのように猛然と追いかけてきた。大暑は六日を連れて、近くの廃屋へと逃げ込んだ。ぼろぼろの廃屋は決して良い隠れ場所ではなかったが、もはや他に選択肢はなかった。


彼らは錆びついた壊れかけの鉄扉をなんとか開け、急いで中へと滑り込んだ。そして、廃屋の中のガラクタをかき集めて入口を塞ぎ、必死に電磁フロートの侵入を防ごうとした。外では、電磁フロートが鉄扉に激しく体当たりし、二人を捕えようと執拗に衝突を繰り返していた。


六日と大暑は、今にも破壊されそうな鉄扉を見つめながら、緊迫した空気の中で対策を話し合っていた。


一方、その様子を見ていた星児は、冷や汗をかきながら抗議した。


「黒羽さん……それは、やりすぎです!」


しかし雨水は鼻で笑いながら答えた。「今は私のやり方を見せているだけだ。口を出すな。」


「それでも……!」 星児は六日たちに対する理不尽さをどうしても見過ごせなかった。


そんな星児の様子に、雨水は少しだけ態度を和らげた。「なら、お前が行ってこい。六月六日と大暑紅葉を、お前の言う『平和的な手段』で連れて来い。……お前が一番だと思う方法でな。」それでも彼の声には、なおも嘲るような響きがあった。


雨水はさらに巨大な電磁フロートを呼び寄せ、力任せに突破しようとした。大型フロートが指示を受け、鉄扉に突撃する。あっという間に、鉄扉は破壊され、大暑たちは完全に追い詰められた。


冷酷な足取りで廃屋に踏み込む雨水。その前方では、電磁フロートたちが手際よく障害物を取り除き、彼の道を開けた。


しかし衝撃があまりに大きかったため、廃屋全体が崩壊し始めた。その直前、星児が六日と大暑を外へと押し出し、自らは瓦礫の下敷きになって意識を失った。


六日と大暑は無事だったが、電磁フロートによって捕えられ、身動きが取れなくなり、ついに抵抗を諦めた。


一方、電磁フロートに守られていた雨水は、塵を払いながらぼそりとつぶやいた。「バカめ。」


彼は瓦礫の中から星児の遺体を掘り出そうとした。


廃屋の崩壊により、彼の電磁フロートたちも大半が力尽き、廃墟の中に無力に倒れていた。それでも雨水は気にも留めず、倒れていた一台の電磁フロートを拾い上げ、まるで古いテレビを叩くように軽く叩いた。


すると、叩かれた電磁フロートはまるで生き物のように目を覚まし、ふらふらとした声でこうつぶやいた。


「あれぇ……気絶しちゃってたぁでもまだやるのぉ?」その声は、機械であるにもかかわらず、アニメのマスコットキャラのように甘く幼い響きを持っていた。


「気絶なんかしてないだろ。ただみんなが倒れたのを見て、ついでにサボろうとしただけだ。」 彼は冷たく指摘した。


「ち、違うよぉ! 本当に力尽きたんだって! お願いだから許してぇ!」 電磁フロートは必死に懇願し、その姿はまるで本物の生き物のようだった。


「そんなことが言えるうちはまだ元気だってことだろ。さあ、しっかりしろ。」 彼は再び電磁フロートを軽く叩いた。その様子は無情にも見えた。


電磁フロートは小さな悲鳴を上げながら、ふらふらと浮かび上がった。まるで今にも倒れそうなほどに。


彼が星児を掘り出そうとしたその時、鋭い殺気を感じ取った。


しかし、彼は微動だにせず、飛び込んできた剣を片手で受け止めた。剣先は彼の首筋に迫っていたが、彼は頭一つ動かさなかった。


反作用の衝撃も、彼には何の影響も与えなかった。


電磁フロートは彼の掌から滲み出る血に慌てふためいたが、彼は気にも留めずに言った。


「どこに行ったのかと思ってたところだ。」 彼はようやく顔を向け、出現した新たな存在を冷ややかに見据えた。


「隠れていたんだな。」


月光は冷たい眼差しを浮かべ、まるで感情のない処刑人のようだった。 彼は雷撃を放ち、目前の怪物を気絶させようとした。


だが、さすがは怪物、男も手から強烈な電撃を放ち、二人の放った雷が激しく衝突した。


二人はその衝撃で弾き飛ばされ、なんとか体勢を立て直した。 男の冷たい目と、燃えるような月光の瞳が対照的に輝く。 そして今回は、男はわずかに頭を下げ、正面から月光を見据えた。


互いに身にまとう電流が唸りを上げる。 男は満足げな冷笑を浮かべてつぶやいた。「いいね。この激しさ、役に立ちそうだ。」


「何を言ってるのか分かりませ。」 月光は冷たく答えた。


電撃を受けた瞬間、彼はこの相手がただ者ではないことを悟った。 この怪物には、血路を切り開くしか道はない。


二人はためらうことなく電流を放った。 金色の雷龍が暴れ狂い、互いに激しくぶつかり合う。 空には金、黄、青の光が入り混じり、灰色の空を焦がした。


この壮絶な光景は悪魔だけでなく、人間たちまでも引き寄せた。 人々はスマホを手に撮影し、この奇跡のような光景をSNSに投稿した。 「これをシェアすれば一年間幸運が続くらしい」と噂になり、瞬く間に広がった。


男は悟っていた。この戦いが街全体を騒がせてしまったことを。


光の乱舞の中、二人の戦いは激化した。 月光が剣を振るえば、男は軽々とそれをかわしながら、指で「7」の字を描いた。 月光はそれを気にせず反撃したが、次の瞬間、体が制御できず、大きなビルに叩きつけられた。


彼の体が建物に大きな穴を空けた。 痛みに耐え、必死に声を抑えたが、すぐにまた無理やり引きずられる。 翼を広げても、この引力から逃れることはできなかった。


男はまるで風船を軽く飛ばすかのように月光を操り、周囲のビルに次々と叩きつけた。 月光の体は限界に近づいていた。


男の両手から放たれる電流は、まるで彼に忠実な犬のように唸りを上げていた。そして、男は更に強烈な電流を放った。 月光は体を引きずられるスピードが増し、もはや光速に迫る勢いだった。 加速するごとに、衝突の衝撃も増し、痛みは想像を絶するものだった。


それでも、月光は剣を掲げ、黄色い雷龍を放った。 雷龍は天空を駆け上がり、誇らしげに男へと突き進んだ。


だが、男はそれすらも平然と受け止めた。 彼は雷龍の先頭を素手で掴み、他の雷龍たちは恐怖に震えた。 それでも彼らはすでに逃れられない。


男は手に大きな力を込めた。 雷龍は苦しげに悲鳴を上げ、尾から徐々に色を変え始めた。

月光は目を疑った。 雷龍の誇り高き黄色が、男の象徴である金色へと染められていった。


雷龍の目に宿る敵意は、かつての主である月光へと向けられた。


男は金色に染まった雷龍を粉々に砕き、その破片は星屑となり、彼の体内へと吸い込まれていった。


男は狡猾な冷笑を浮かべ、再び「7」の字を描いた。 今度は、月光には抵抗する力すら残されていなかった。 彼は無理やりビルの壁に叩きつけられ、完全に動きを封じられた。


月光はとうとう悲鳴を堪えきれなかった。 男は、彼をこの暴力的な強さに屈服させようとしていた。


男は月光を引き寄せ、まるで子猫を摘み上げるかのように彼を持ち上げ、蔑むように見下ろした。 当然、月光は激しく憤慨した。彼は他人に侮蔑されることを何よりも嫌っていた。 彼は獣のように顔を歪め、必死に威嚇を試みたが、力はほとんど残っていなかった。


男は仕方なさそうにため息をつき、惜しみなく賞賛を口にした。「お前、なかなか強いな。」


月光は驚いて目を見開いたが、その直後、男に無造作に放り投げられた。 しかし、今度彼を受け止めたのはビルではなかった。 いつの間にか現れた無数の磁石だった。 それらは四方八方から飛来し、月光の身体の各部位に引き寄せられた。 まるで車裂きにしようとするかのように。


月光は必死の力で身体を保ち、一瞬で引き裂かれないように耐えた。 彼の顔はますます歪み、もはや先ほどまでの優雅な美貌は跡形もなかった。


男は右手を突き出し、磁石に向かってさらに力を加えた。 激しい痛みが月光の顔を紫色に染め、目には血の滲むような充血が浮かんだ。 意識が朦朧とし始めたその瞬間、男の声が彼を無理やり現実に引き戻した。


「お前は知恵と力を巧みに使い、何度も危機を切り抜け、自分のフィールドに持ち込んできた。」 男は少し残念そうに続けた。


「まるで、伝説のあのお方のように……。 でも、そこは問題じゃない。 たとえどれだけ知恵と力があろうと、常にお前のホームグラウンドとは限らない。 女神は、いつまでもお前に微笑んでくれるわけじゃない。 お前にも、きっと抗えない敵が現れる。」


男は一方的に語りながら、月光の激しい眼差しを受け止めた。「それだけじゃない。お前はまだ若すぎる。 傲慢だ。何が起きようと、常に自分が有利だと信じている。 だが、誰にも止められなければ、間違いを何度でも繰り返す。」


男は月光の過ちを淡々と指摘した。「目標を達成したいのなら、もっと強くなれ。

だが同時に、自分の身体を大切にしろ。 每回、無理をして突破できるとは限らない。」


月光は、なんとか声を絞り出した。「あなた……なんでそんなことを……知っます……?」


男は微笑み、淡々と答えた。「ずっと見ていたからだ。」


「俺は各地に監視の目を張り巡らせている。 ……とはいえ、役に立たない奴も多い。 中にはサボってる奴もいるからな。今度、給料を減らしてやるつもりだ。」


男は軽く笑いながらも、真剣な声色で続けた。「申し訳ないとは思ってる。だが、それでも達成しなきゃならない目的がある。 立夏月光――お前には興味がある。だから重点的に育てたい。」男は率直に尋ねた。


「正直に聞く。お前、一体どこから来た?」


月光は力なく答えた。「そんなの……わたしだって知りませ……。 目覚めたら、もう何も覚えてなかったんだ……。」


「お前は本当に奇妙だ。」 男は言った。 「我々はお前の死亡記録も、出生記録も一切見つけ出すことができなかった。まるである日突然、警告もなくこの世に現れたかのようだ。 しかも――お前は、あの“御方”に酷似している。 様々な証拠からしても、お前は極めて怪しい存在だ。 よって、我々はお前を連れて帰り、徹底的に調査する必要がある。」


「だったら、最初から正面から来ればよかったでしょう……なんでこんな回りくどいことを……」 月光は不満げにぼやいた。


「お前の行動を先に観察しておきたかったんだ。」 男はもっともらしく答えた。 そして、ついに自ら名乗った。


「私の名は黒羽雨水くろば うすい傲慢プライド首席No.1、すべての悪魔の管理者。

さらに、ルシファー様直属の“代理・大罪”だ。彼は高らかに宣言した。


立夏月光りっか げっこう、わたしの犬になれよ。」


「……は?」 月光は愕然とした。


この男、本気で言っているのか……?


「正直に言ってやる。」 雨水は続けた。


「お前の答えは『はい』しかない。 私はお前をルシファー会に迎え、才能を開花させ、圧倒的な力へと育て上げるつもりだ。」雨水は容赦なく脅した。 月光に逃げ道は与えられていなかった。


「私の答えが『はい』しかないっですか……だったら、答える前に一言だけ言わましょう!」 月光は叫んだ。


「寝言は寝て言えなさい!」


その瞬間、月光の身体は四方八方に引き裂かれた。 腸と血が煙花のように飛び散った。


雨水は、冷静に磁石で月光の亡骸を一つ残らず吸い寄せた。 雨水は冷酷に言い放った。「死んでも、答えは『はい』だ。」


そのとき―― 赤い稲妻が雨水の頬をかすめた。


雨水が反応する間もなく、天空で待ち構えていた残りの雷龍たちが、最後の力を振り絞って彼に襲いかかった。 だが、長時間待機していたために力を失い、容易く雨水の糧と化した。


雨水は手に残る雷を握りしめ、満足そうに笑った。


「やはり才能があるな……。 だが私はサタン様の代理人。 サタン様は雷を操る能力に長けておられる。

その恩恵を受けた俺が、雷に詳しくないわけがない。 つまり、お前の運が悪かっただけだ。 だが、心配するな。 私が、必ずお前を――誰にも敵わない怪物に育て上げてやる。」そう言い残すと、雨水は風に乗り、姿を消した。



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