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乱入した星児


競技場は人々の声で沸き立ち、誰もがこれから繰り広げられる獣対獣の非人間的な戦いを期待していた。


月光、大暑、そして立秋はじっと上を見つめていた。そこには、一人の仮面をつけた男と、もう一人の茶髪の男が闘技場へと歩み出ていた。


「仮面をつけている……」


「正体を知られたくないんだろうな。」


星児(の心臓は蜂の羽ばたきのように速く打ち、まるで周囲に聞こえてしまいそうなほどだった。彼は胸を押さえ、その激しい鼓動を必死に隠そうとした。


目の前の敵も、決して侮れる相手ではなさそうだった。


彼は、六日が敗北し、地下牢に囚われたことを知っていた。そして、立夏月光が彼を救うために昇格を目指していることも。


しかし、自分はただそれを見守ることしかできない。


六月六日に対して、熱い想いを抱いていた。それでも、自分は永遠に彼女の支えでしかなく、決して彼女と並んで立つことは許されない。


不良として生きてきた彼は、これまで何度も強者たちを打ち倒し、やがて地域の総長になろうとしていた。自分はすでに強くなったはずだった。しかし──


あの男を見た瞬間、初めて自分の小ささを痛感した。


本当の強者とは、まだ遥か遠い存在なのだと。


こんなまま、弱者のままでいるのは嫌だ。


こんなまま、置いていかれるのは嫌だ。


「おまえ、不良か?」


突如として声をかけてきたのは、なぜかぬいぐるみを抱えた、一見ふざけていそうで、しかし妙に真剣な男だった。


彼は認めるのを少しためらった。なぜなら、認めてしまえば、周りの人々が勝手に彼を学業の落伍者と決めつけ、心ない批判や、余計なおせっかいの説教を浴びせてくるに違いなかったからだ。


しかし、相手はまったく気にする様子もなく、手に持った缶コーヒーを一口飲むと、こう言った。


「OK、不良の方が血の気が多くて、教えるのが早い。」


その言葉の意味が理解できずにいると、相手は淡々と続けた。


「よし、じゃあ訓練開始だ。」


そう言って、指を鳴らす。


瞬間、周囲の公園が真っ白な空間へと変わった。星児が状況を把握する前に、相手はあっさりと言い放つ。


「始めるぞ。この空間では時間が完全に停止している。だから、どれだけ長くいても問題ない。」


彼は巨大な磁石を取り出し、こう続けた。


「まずは、レベル1からレベル5へと進めよう。」


自分はすでにレベル5だったことを思い出し、星児はごくりと唾を飲み込む。


相手は、彼がこれから戦う敵がレベル50を超えるかもしれないと告げた。自分が立ち向かえば、間違いなく卵が岩にぶつかるようなものだ。


「だが、それでもいい。今のお前には経験が必要だ。そして、お前との戦いを通じて、何かしら有用なデータが取れるかもしれない。」


「少し、遠慮なしでいくけどいいか?」


桜園がそう尋ねた。


星児はその言葉の意図を探ろうとしたが、次の瞬間、相手の手には巨大なピアノが現れていた。


彼はピアノを弾き始める。


美しい旋律が、広大な闘技場に響き渡る。しかし、音の正体も目的も分からないまま、人々はその音に浸っていた。


そして、突如として、地の底から悲鳴が響き渡った。


何人かは思わず耳を塞ぎ、何人かは音の出どころを探そうとする。月光)と大暑もその一人だった。


すると、地面が突如として割れ、死灰色の泥塊が次々と地上に這い出てきた。


彼らは震えながら前進し、その歩みは迷子のように頼りなかった。


泥が剥がれ落ちると、その正体が明らかになり、人々は悲鳴を上げる。


月光と大暑も、それが何なのかを理解し、思わず息を呑んだ。


それは、冷たい青色の硬質な皮膚に覆われたゾンビだった。


彼らはふらふらと進み、やがて鼻をひくつかせると、驚愕の表情で立ち尽くしていた星児の方へと顔を向けた。


そして、まるで宝物を見つけたかのように、一斉に彼へ向かって走り出す。


海棠は思わず悲鳴を上げた。


星児は今まで普通の喧嘩しか経験がなく、こんな光景を目にするのは初めてだった。反射的に闘技場の端へと駆け出し、ゾンビの追撃から逃れようとする。


もはや、場内には音楽はなく、響いているのは人々の話し声、悲鳴、そしてゾンビたちの唸り声だけだった。


星児は必死に走った。しかし、逃げ場などそう多くはない。


彼は気づけば、擂台の端へと追い込まれていた。ここから落ちれば、試合は失格となり、安全を確保できる。しかし、それは彼の信念に反する行動だった。


ゾンビは飢えた犬のように加速し、彼へと迫る。


このままでは、勝ち目はない。


だが──


賭けるしかない。


彼は手を振ると、ゾンビたちが浮かび上がった。


無意識に、月光の方へと目をやると、彼は真剣にこちらを見つめていた。


しかし、星児は集中を乱さないよう、すぐに視線を戻した。


手を強く差し出し続けると、ゾンビたちはさらに高く舞い上がる。


星児は頭をフル回転させながら、あの時の戦いを思い出そうとした。しかし、黒羽雨水はその時、一瞬たりとも星児に考える隙を与えず、彼を追い詰めたのだった。


星児は深く息を吸い、指先に意識を集中させる。


ゾンビたちはまるでクレーンゲームの景品のように宙を滑り、もがきながら互いの体をぶつけ合い、崩れ始める。


彼はまだゾンビの扱い方を試行錯誤しているようだった。


「……まだ若いな。一つ一つの動作が、慎重すぎる。」 大暑がそう呟く。 月光は何も言わなかった。


星児の動きは次第に大胆になり、操作も滑らかになっていった。


ついに、彼は思い切って手を下ろした。


その瞬間、巨大な力がゾンビにかかり、もろくなった彼らの身体を一瞬で押し潰した。


「……念動力じゃないな。重力か。悪くない能力だ。」 大暑は感心したように言った。


しかし、月光はなぜか違和感を覚え、腕を抱きしめるようにして身を縮めた。


なぜか分からないが、この能力が彼にとって心地悪いものに思えたのだ。


桜園はその強大な重圧に耐えながら、なんとか膝をつくと、さらに多くのゾンビを召喚した。


星児は焦った。


彼はまだ、自分の力の調整を完璧にはできていない。


そして──


海棠はついに、唾を飲み込むことすらできなかった。


彼女の口から、冷たい液体がゆっくりと零れ落ちた。


不気味なピアノの音色はますます大きくなり、さらなるゾンビたちが地面から這い出してきた。


今度のゾンビは、先ほどのものよりも明らかに強靭で、力強い。


彼らは互いに融合し、一体の巨人へと姿を変えた。


巨人の足は泥の中に沈み込みながらも、最後にはその全ての重力に耐え、堂々と立ちはだかる。そして、轟くような雄叫びを上げた。


その拳が、疲労困憊の星児を打ち砕く。


誇らしげに咆哮し、勝利を誇示するように。


星児、昇格資格を失う。


大暑は惜しそうに呟く。 「……だから、まだ若すぎるんだよ。」


月光は何も言わなかった。 彼が気になっていたのは──


あの仮面の下の素顔。


だが、結局、それを見ることは叶わなかった。



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