冬森立秋の過去
則保は気楽に髪をかき上げ、得意げに競技場を後にした。観客はまだ興奮冷めやらぬ様子で、さらに激しく刺激的な戦いを期待していた。麻酔を打たれた月光はすでにぐっすりと眠っており、目を覚ますにはまだ時間がかかる。大暑は病室のテレビで競技場の様子を注意深く見守り、一瞬たりとも見逃さないようにしていた。水晶の棺に閉じ込められた海棠は、すでに立ち疲れ、座って成り行きを見守っていた。
冬森立秋もまた、どこかの場所でじっとスロットマシンを見つめていた。しかし、スロットマシンがいくら回転しても、彼には当たらない。彼はスロットマシンに忘れられたのではないかとさえ疑っていた。彼は何人かが自分のことをひそひそと話しているのを感じたが、それがどうだというのだろう?哀れで嫉妬深い小物たちに過ぎない。冬森立秋は中学時代から、他人の目を気にせずに生きることを決めていた。
彼はこれまで出会った敵のことを思い出した。効率を追求するため、彼は弱い者ばかりを選んで戦った。たとえ他人が不満を抱いても、悪魔の弱肉強食の社会法則に背くことはなかった。
「お、お前……なぜ生きているんだ……?!」取締役会の品格の低い悪党取締役の一人が、生きて帰ってきた彼を見て、高級な椅子から転げ落ちた。悪魔と化した立秋は、回転式拳銃を手に、凶悪な顔つきで言った。「黙れ、お前もその椅子もぶち壊してやる。」そう言うと、彼は躊躇なく発砲し、また一人、邪魔者が消えた。煙が椅子に落ち、高級で華麗だった椅子に焦げ臭さが染み付いた。しかし、悪党にも家族がおり、中には罪のない者もいる。どうすればいいのだろうか?
「彼らの記憶を消せばいい。彼らの記憶からこの人物を消し去るんだ。私はそういうのが得意な色欲の悪魔をたくさん知っている。」他人を誘惑して地獄に堕とす悪魔はそう言った。立秋はそれが間違っていることをもちろん知っていた。
しかし、彼はもう後戻りできなかった。
しかし、立夏月光という男が、まるで彼が子供の頃に大切にしていたコインのコレクションケースを床に叩きつけたかのように、彼の世界を打ち砕いた。冬森立秋の世界は変化した。
彼は初めて、これほどまでに戦いを渇望した。勝ちたいと思った。しかし、本当に負けても構わない。またやり直せばいい。ただ、立夏月光と汗まみれの戦いをしたいだけなのだ。
だから、彼は今、高塔へと歩みを進める。もはや下を見下ろして餌を探す鶏の群れではなく、より高い山頂へと飛び立つ。卑俗で不潔なカラスから、ひたすら高みを目指し、太陽の光と化すことさえ厭わない雄鷹へと変わるのだ。
ついに、スロットマシンの順番が彼に回ってきた。しかし、対戦相手は立夏月光ではなかった。立秋はがっかりとため息をついた。もっとも、それも当然だろう。彼は立夏月光の前にたどり着くまで、次々と敵を打ち破っていく。彼の敵もまた、競技場に現れた。それは、目の下に隈が広がり、大きな鉄槌を手に、明らかに軽蔑した態度を見せる男だった。彼の体格は立秋よりもはるかに高く、非常に巨大なハンマーを持っていた。しかし、それがどうだというのだろう?冬森立秋は常にそうだった。悪魔は長身であることが多く、遺伝と成長期に悪魔となったことが、立秋の体格を小さくした。しかし、身長で立秋を侮った者は、一人残らず立秋に狩られてきた。真の狩猟者となるためには、狩猟者となることをただ願うのではなく、常に臨戦態勢を整え、ある瞬間に牙を剥く必要がある。
「東方より、地獄から蘇りし復讐鬼、そして手段を選ばぬ銃のカラス、冬森立秋!」立秋が登場すると、多くの観客からブーイングが浴びせられた。立秋は中指を立ててやりたいと思ったが、そんな行為は利益にならないと考え直し、無意味だと判断した。「西方より、呪詛師の美名を持つ稲山伽詛!嫉妬の罪に属するといえど、その傲慢さは侮れない!」観客席からは、今度は非常に大きな歓声が上がった。彼らは皆、冬森立秋が失脚するのを期待していた。
月光がついに目を覚ました。大暑は急いで言った。「起きたのか、ちょうど冬森立秋の戦いが始まったところだ。」
月光はそっけない口調で言った。「ですけど、彼のこと、も完全に忘れちゃったですがら。」
稲山は首を傾げ、まるで寝違えたチンピラのように、常に軽蔑した表情を浮かべていた。彼は自分より頭二つ分も低い冬森立秋を見下ろし、他の者たちと同じように言った。「本当に小さいな。」立秋はすぐに彼の顎に向かって銃を放ち、観客席から大きな驚きの声が上がった。煙が晴れると、男の巨大なハンマーが顔の前に立ちはだかり、彼は少し怒った様子で顎を触り、「熱いな。」と言った。そう言うと、彼は巨大なハンマーを地面に叩きつけ、体格が小さく軽い立秋を吹き飛ばした。立秋は大きな翼を広げ、上空から稲山を掃射した。稲山もまた、臆することなくそれを防いだ。
彼は巨大なハンマーが生み出す作用力を利用して高空に飛び上がり、力強く振り下ろして立秋を危うく傷つけるところだった。彼は高空から落下し、彼のハンマーは巨大化した。ハンマーの上に落下した彼は、地面をさらに粉砕した。轟音の後、彼は再び素早く飛び上がった。今度はさらに高く飛び上がり、ついに立秋を打ち落とした。目が回る立秋はすぐに高空から落下し始めた。彼の銃は高空では狙いが定まらず、何度も射撃を外した。稲山は何度もハンマーを振り回し、立秋は避けることができず、ついに地面に叩きつけられた。まるで撃ち落とされた野鴨のように。稲山は勢いに乗じて追い打ちをかけ、何度も立秋に攻撃を加えた。
月光と大暑はテレビ画面を凝視し、目を離すことさえしなかった。月光は容赦なく言った。「あいつ、本当に弱いですね。」
「そういうことを言えるのは、やはりあいぼだけだな。」
「私の知る限り、強欲の悪魔はあまり戦闘が得意ではないです。戦闘よりも、勧誘、説得、変化、誘惑が彼らの専門ですがら。」月光は言った。「だから、冬森立秋のような悪魔に出会ったときは、かなり驚いですた。彼は戦える方。体が小さいのに、あれほど正確な攻撃ができるなんて、あいつの実力は侮れないですなぁ。」月光の口調は非常にぞんざいだったが、冬森立秋に対する評価は高かった。
「確かに……冬森立秋はどうしてこんなに強いのだろう?」大暑もまた非常に興味津々だった。
「彼がこの数日間でどれほど成長したのか、私たちは全く知らないです。」
稲山が連打した場所からは煙が立ち上り、観客は冷たい目でそれを見ていた。稲山は耳をほじくり、まるで周りのことを気にしないに言った。「地獄から来た復讐者だとか言っていたが、結局は一撃で倒れるようなものか。」彼は何かを思い出したようで、顎を触りながら言った。「そういえば……私も復讐者だったな?」
彼は冬森立秋の頭を踏みつけ、冬森立秋にしか聞こえない音量で話した。「私の父親は、どうやらお前たちの会社の元幹部だったらしい。」
「お前のような実力のない小鬼は、人に操られて当然だろう?ビジネス界では、たとえ法律に触れても、金さえあれば解決できる。金こそがビジネス界の正義だ。吐き気がするが、それが現実だ。」彼は頭を下げ、その目は人を食い殺さんばかりだった。「しかし、お前というやつは、金のためではないことで多くの線を越えた。どう考えても異常だろう?」
彼は恨みを込めて続けた。「うちの親父は、お前の個人的な恨みで殺されたんだ。それなのに、私たちは何も知らずに騙されていた。おかしいと思わないか?」彼は立秋の頭を踏みつける足をさらに強くした。「もし私が偶然悪魔になっていなかったら、きっと私は永遠に馬鹿しかいない美しい庭園で生きていたと思うよ——。」彼はライターを取り出し、タバコに火をつけた。再び鉄槌を振り上げ、「じゃあ、さようなら……?!」と言った。彼は踏み外したことに気づき、足が穴に直接はまった。足を抜き出すと、足元には小さな黒い羽根があった。
「羽根……」月光と稲山は同時にそう呟いた。しかし、分析する余裕があったのは月光だけだった。「なるほど、変化の能力か。」一方、稲山は焦って周囲を見回し、立秋の姿を探した。すると、いつの間にか立秋が稲山の背後に現れ、背中に銃弾を撃ち込んだ。稲山は慌てて傷口を覆い、止血しようとした。立秋は優雅に空中から降り立ち、黒い大きな翼を堂々と畳み、まるで本当に雄鷹になったかのようだった。
「さっきから、お前と一本の羽根の貧乏くじ引き合いを横で見ていたんだ。その時間で商談をした方がよっぽど現実的だ。」立秋は再び相手を撃った。今度は足が撃ち抜かれ、稲山はすぐにバランスを崩して倒れた。「そういえば、お前は誰の息子だったっけ?」立秋はさりげなく尋ねた。この言葉に稲山の怒りはさらに増した。彼の鉄槌はさらに大きくなり、より大きな殺傷力をもたらした。立秋は回避しながら、黒い秋のように羽根を撒き散らした。
「力が上がったな……そうか、完全に怒ったか。」立秋は静かに笑い、その微笑みは傲慢そのものだった。稲山の闘気は、まるで落日の太陽のように、体の周りに見える赤橙色の闘気を纏うまで上昇した。「呪詛鉄槌——!!!」稲山は叫んだ。瞬間、天地が揺れ動き、自分と相手は大きな衝撃を受けた。立秋は大量の血を吐き、血で窒息したり鼻に入ったりしないようにしながら、体中に釘が刺さり、釘が刺さった場所が血まみれになっていることに気づいた。「いつからこんなものが……?」話している間にも、さらに多くの血を吐き、話すことでさらに血を吐いてしまう。「私も強欲の悪魔だ……他人の攻撃を、他人を貫く釘に変えることができる。痛みのことは置いておいて、その釘はお前を呪い、徐々に戦闘力を削っていく。ついでに言うと、この釘に刺された者は、思い出の悪夢から抜け出せなくなるらしいぞ……」彼は陰険な笑みを浮かべた。立秋は反論しようとしたが、また大量の血を吐き、もはや話すことも、倒れるのを防ぐことも、目を開けていることもできなかった。それでも、立秋は必ず勝つという笑みを浮かべ、稲山は依然として立っている立秋を見て不思議に思い、「少しおかしい……普通なら、この技を受けたらすぐに倒れるはずなのに……なぜ倒れない?」と尋ねた。別の場所にいる月光と大暑も驚いて目を大きく見開き、顔をさらに近づけた。
「お前は相手の会社を攻撃するだろうが、私も『融資』をするんだ。」この言葉を聞いた全員が不思議そうな声を上げた。立秋がそう言うと、稲山は自分の巨大なハンマーが布切れのように非常に軽いことに気づいた。稲山は驚いて尋ねた。「こ、これは!」 「さっきお前の体に二発撃ち込んだんだ。私たち強欲の悪魔は、自分の魔力を資金と呼び、資金を保存する方法は様々だが、最も一般的なのは体内に保存することだ。」
「問題は、同じ手法を使っているんじゃないのか……?」月光は先ほどの稲山の能力を思い出し、違いがないように感じた。立秋は言った。「さっきも言っただろう、これは『融資』だ。」立秋の曖昧に聞こえる言葉が終わると、稲山はすぐに同じ痛みを感じ、彼もまた倒れそうになった。「これで、損失は一緒に負担したことになる。だがな……」立秋の笑みはますます傲慢で得意げになった。「『資金』を投入したんだから、商売をするのは当然だろう!今、お前の資金(魔力)の半分は私のものだ!」そう言い終わると、周囲に飛び散っていた羽根は、まるで立秋のコピーのような人形に変わり、すべて銃を構え、稲山に向かって発射した。稲山が倒れる寸前、彼は尋ねた。「ま……まさか……!強欲の悪魔の取引行為は、言葉を伴わなければならない……あれはもう言葉なのか……?!」
「もっと勉強し直せ、傲慢な小僧。結局はお前が弱すぎたんだ。」稲山はそのようにして肉塊となり、血肉が空中に飛び散った。立秋は急がず、彼が復活するのを静かに待った。彼が復活し、何も話さないうちに、立秋は大きなファイルの束を地面に置いた。立秋は彼の耳元で囁いた。「お前の父親は、事が露見した後、お前にすべての法的責任を負わせるつもりだったらしいな。」彼は稲山のタバコを取り上げ、別の場所に投げ捨てた。「たとえ事が露見しなくても、あの莫大な遺産はお前のものにはならない。あいつには別の家庭があり、すべての遺産を愛人と息子に残すつもりらしい。」彼はハンカチを取り出し、自分の体の血を拭き取り、彼に背を向けた。「もう一度聞くが、これらのことを誰から聞いたんだ?」稲山はただ呆然と跪き、どう答えていいのかわからなかった。立秋はその名前を思い出し、舌打ちして軽蔑した。「やはりあいつはそんなに良い奴ではなかったか……」
「もしお前が自分の理念が正しいと思うなら、私の話を聞いてみるといい。」そう言い終わると、彼は堂々と歩き去った。今の彼の姿は、まるで全ての仇を討った時のように傲慢だった。
とはいえ、彼は自分が立夏月光には遠く及ばないと感じていた。そう思うと、彼は少し腹立たしかったが、とりあえず少し昼寝をすることにした。夜も更け、彼は本来なら休むべき時間だった。
そのような立秋を見て、月光もまた少し興奮して背筋を伸ばし、「興奮してきたな。」と言った。大暑も同意して頷いた。
「雨水様、二人の検査報告が出ました。」メッセージを返信していた雨水は顔を上げ、二人の報告書を受け取った。「両者の類似度が40%しかないことが確認されました。」




