――後の勇者である。 08
「……は?」
何でこの青年は俺の本名を知ってるんだ? まさか先輩が? いや、それはない。サダノーミこと山崎先輩はネットとリアルを切り離して考えるタイプだ。ネット上の友人知人に俺の個人情報を漏らすとはゼッタイ的に思えない。では――。
「僕のロンウェンは『龍』『文』の中国語読みなんですよ。もしかしたら間違ってるかもしれないんですけど。アバターの名前って本名からもじりたくなりますよね」
「『龍』『文』……『龍文』? あ、タツフミ君? 先輩の弟の?」
「はい。山崎市子の弟の山崎龍文です。何度かですけど、お会いしたことありましたよね。姉と一緒のときに。覚えてますか? 僕のこと」
「覚えてる、覚えてる。そっかあ、龍文君だったか。いやぁ~、しばらく見ない間に随分とカッコよくなっちゃって。誰かと思っちゃったよ」
「えー、そうですか? テレますね~ってコレはアバターですから。あはは。実際の僕はあの頃と――わぁぁぁぁぁあああーッ!?」
「ちょ、龍文く――痛ぁぁぁぁぁあああーッ!?」
わずかな時間差をつけて、龍文君ことロンウェンと俺はゴロゴロゴロ――ッ! と地面に転がった。正確に言えば「転がされた」のだ。誰にって? そんなの――、
「お前ら……ベラベラと何をくっちゃべってやがるッ!」
――サダノーミに決まってるじゃないか。
「なにすんだよ、姉さ――って、またぁ~ッ!? わぁーッ!?」
「俺はサダノーミで! お前はロンウェンで! ここはグルメファンタジアだ!」
「先輩、ブチギレ過ぎです。落ち着い――痛ッたぃなぁ~ッ!?」
「シキトー! お前もつられてんじゃねえぞ! 誰が『先輩』だ? あァッ!?」
サダノーミ師匠、御乱心でござる。……まあ、周囲に他のプレイヤーも居ないとはいえ、ネットとリアルは完全別個主義の先輩が自身の本名やら家族構成やらを実弟にぶちまけられたらブチギレて当然なのかもしれないけど。
「もー……電話でグルファンに呼び出すとか、先に公私混同みたいなことをしたのは姉――じゃなくて、サダノーミの方なのに」
俺よりも1秒ほど先にぶっ飛ばされていたロンウェンくんが、その分だけ先に起き上がって不満げに呟いていた。……うん。正論だと思う。だけどサダノーミこと山崎先輩に正論が通じないことは実弟の龍文君ならば、よぉ~く御存知のことであろう。
「それで。何の用事? 僕とシキトーを引き合わせたかったわけじゃないんでしょ」
ロンウェンくん……何も知らされずに呼び出されたのか。
「おう。俺とシキトーを植物園まで連れて行け」




