ファーストバイト 26
「でもとれたてですよ。ちょっとは熟成させてからのが旨いんじゃねえっすか。てか、とれたての豚肉の味なんて知らねえっすから、俺。その肉を食っても豚肉かどうか、分からねえかもしんねえっす」
「グルメファンタジアには熟成の概念もねえ。諦めろ」
「……マジですかい」
「グルメファンタジアではアイテム化した瞬間に鮮度が固定される。そこから腐敗はしねえし、腐ってたりして食えないもんはアイテム化されねえ。……ちょっと待て。『調理』の過程で食材をタレに漬け込むだのってのができんだから、熟成肉の作成を『調理』と捉えられれば、とってきた肉を熟成させることもできるか……?」
あー……俺、また何か余計なことを言ってしまった気がする。ヤブヘビりまくり。
「……ふっ。やっぱ、シキトーだな」
どういう意味ですか。
「まあいい。熟成肉はまた今度だ。楽しみにしてろ」
今夜で終わらずに「また今度」があるんですね。
「今はツノウサギの肉だ。喜べ。俺が焼いてやる」
「わーい」……サダノーミこと山崎先輩とは本当によく一緒にメシを食いに行ってはいたが、先輩の手料理を食べたことは一度もなかったな。
最初に食わされるモノが得体の知れないツノウサギ肉か……て、ゲーム内のこれを「最初」にカウントしてしまってもよいものかどうか。……ああ、「親子丼」があったか。でもアレもなあ……。
「『俺が焼いてやる』ってのはファイアーの魔法で直焼きとかしてくれるんですか。それとも指パッチンで焚き木に火を付けるとか」
「いや。これで焼く」と言って、サダノーミが自身のアイテム袋から取りいだしたるものは――、
「……カセットコンロっすか」
ファンタジー感のかけらも無い代物であった。グルメファンタジアの名が泣くぞ。
「カセットコンロじゃねえ。魔石コンロだ」
「……カケラ程度のファンタジー感が逆にツラいです」
「うるせえな。グルメファンタジアのメインは食いもんなんだよ。調理器具に関しゃ世界観だのリアリティーだのよりも利便性が優先されんだよ」
サダノーミのアイテム袋からはフライパンに包丁とまな板までが飛び出してきた。
風魔法やカマイタチの術ではなくて、普通に包丁とまな板が使われて「豚バラ肉のブロック」がスライスされる。
「塩も軽めでいいだろ。肉の味見だからな」
「へえ。シェフにお任せいたしやす」
「ちなみに、この『塩』もモンスターのドロップ品だ」
「うへ。調味料もですか」
「塩にコショウ、醤油なんかのスタンダードなもんは大体、モンスターからとれる」
「……塩はまだしも。醤油もですか。定義的に醤油とソースとスープの違いは何なんですかね。俺的には醤油も突き詰めればスープの一種な気もしますが」




