竜の落日 03
「んん? いま、サダノーミって言ったか?」
「サダノーミ……錬金料理人か!? どんな名店の味も再現しちまうっていう」
「おいおいおい、勇者が狩って、解体屋がさばいて、錬金料理人が調理するのかよ」
「なんだよこれ、グルメファンタジア・オンラインの最終回か? ゲーム内有名人が続々登場じゃねえか」
イヤな盛り上がり方してるなあ……。
「……脂の溶け具合が早いな。これは火を入れすぎないほうが良さそうだ」
塩を振って焼くだけと言いながら錬金料理人はしっかりと見極めて調理していた。いつものキッチンではなく野外だからと手を抜いたりはしてくれないようだった。
「こんなもんだろ。――ほらよ。暗黒竜のステーキだ」
「ありがとう」と料理人から皿を受け取った勇者が野次馬たちの方を向く。
「お待たせしました。ようやく本日のメインイベントです」
大歓声に加えて拍手までもが巻き起こる。そんな中、
「シキトーさん。こちらに」
勇者の口から俺の名前が呼ばれてしまった。その目はまっすぐに俺の顔を見据えていた。
「え?」「お?」「ん?」と近くに居た連中が俺を見る。視線が痛い。
「ははは……」
他の連中とは目を合わせないように勇者のことだけをじっと見ながら、俺は群衆の前に出た。
「おい」
「あれって」
「まさか」
外野のガヤガヤには気が付いていたが何を言われているのかまでは聞こえない。
わー、わー、わー。聞こえない、聞こえない、聞こえない。
集中だ。集中……。
「暗黒竜のステーキです。お願いします」
勇者が差し出した皿を無言で受け取る。
「……いただきます」
自前のナイフとフォークで一口大に切った肉を口に運ぶ。もぐもぐもぐ……。
衆人環視とはこのことか。勇者パーティーの4人、解体屋の48人、料理人が1人、その他にも何十人から何百人もの見知らぬ人間たちに見られながらの食事だ。フツウだったら味なんて分からない。でも。俺は……――旨い。
「脂の甘み。口溶け。何よりも柔らかさ。そして肉の旨味」
……ふふ、と俺は思わず笑ってしまった。そして「答える」。
「――神戸牛だな」
勇者が暗黒竜の討伐完了を宣言した時と同様に一拍の間を置かれてから、
「うわぁぁぁぁぁあああッ!」
大歓声が上がった。
「神戸牛!? Kobe Beef!? あの量の!? ウシ何十頭分よ!?」
「食い放題じゃねえか! てか、食べたことねえええええ!」
「それな! ウソでも分からねえぞ、リアルで食ったことねえんだから」
無事に大役を務め終えたからか、さっきまで完全にシャットアウトしていた群衆の声が俺の耳にも聞こえ始めていた。
「いやでも、あの『舌王』が言ったんだぞ。暗黒竜は神戸牛だって」
……その称号、勘弁してもらえないかな。なんかちょっと卑猥な感じが……。