ファーストバイト 15
「……ふふ。そうですね」
ほ、微笑んでいやがる……あの店員A氏が。
良いキャラしてたんだけどな……ちょっとさみしいじゃないか。
「最初に違和感を覚えた店長のサダノーミ以下、私たち店員の総意として『とろふわ親子丼』は『親子丼』ではなかったと結論付けられました。これまでにお客様からのクレームは一件も入っていませんが、シキトーさんのお陰で店の名前に傷が付く前に『親子丼』の提供を取り止めることができました。ありがとうございました」
……クレームが入ってなければ良しとするのか? 詐欺のヤリ逃げじゃねえのか。
「過去に食べられていたお客様は騙していたことになる、今からでも全てを公表して謝罪した方がいいとの声も当然、上がりましたが」
そりゃそうだろう……が、俺の知ったこっちゃない話だとも言える。
「このグルメファンタジア・オンラインでは『食材』の正解――何を再現したデータなのかを公表はしていないのです。なので、プレイヤーたちも美味しいものや正確な再現を手探りで求めながらプレイしていますから、うちの店――ボーダー・リバーに限らず、飲食店で口にする料理が『それっぽいもの』というのは暗黙の了解となっているんです」
所詮はゲーム……か? 誰もそこまでは期待していないのか。先日、俺が「これって鶏肉じゃないですよね?」と言ったときの店員A氏――アサミヤの剣幕を思えば、彼女が本気で「本物」を作ろうとしているのだということはうかがえるだけに、今の状況は痛し痒しといったところなんだろう。
「逆に言えば、ここでうちが『あの親子丼の肉はワニ肉だった』と言ったところで、それが本当なのかを証明することもできない」
俺が「ワニ肉だ」と言ったから、なんてのは証言にもならんよな。
俺の言葉を頭から信じるような物好きは山崎先輩――サダノーミくらいなもんだ。
「私は――いえ。我々、ボーダー・リバーの関係者一同は今回の件を重く受け止めてこれからもよりいっそうの精進を重ねて参りますことをここに宣言致したく――」
「かたい、かたい、かたい。急にどうした」と思わず笑ってしまった。アサミヤ氏は根が真面目なんだろうな。
「謝罪もお礼も受け取った。あとはアサミヤさんの思うように頑張ってください」
俺は、にへらと微笑んであげた。もうちょい肩の力を抜いてくだされ。
「アサミヤ。もういいだろ」
俺の「にへら」にアサミヤ氏が何か反応を示すよりも先にサダノーミが音を上げた――もとい、声を上げた。山崎先輩にしては随分とおとなしく待ってるなとは思っていたがとうとう痺れを切らしたか。
「行くぞ。シキトー」




