ファーストバイト 08
「親子丼の感想を言え」
「あはははは。すみません」
んー……「親子丼」の感想か。
「旨かったですよ。卵の半熟加減とか出汁の味の濃さとか『親子丼』って感じで」
「あァ!? こら。シキトー。奥歯にものが挟まったみてえな言い方しやがって」
「あー……準最新の味覚ガジェットでも食べたものが歯の間に挟まったりはさすがにしないんですねえ。これは良いコトなのか、再現不足なのか……ぁ痛ッ」
また叩かれた。……ゲームの中だから「痛み」は感じないんだけどさ、叩かれると条件反射で口から漏れるね。「痛い」って。
「はっきり言えって言ってんだよ。『旨かった……けど』だろ? その先を言え」
って言われてもなあ。味覚ガジェットを体験するのは今回が初めてだからな。もしかしたら機器の不具合かもしれない。俺の装着の仕方が間違ってるのかもしれない。
「いや。だから。別に不味かったわけじゃないですよ。確かに旨い……けど」
この先を本当に言ってしまって良いものか……俺の目の前に立っているサダノーミこと山崎先輩のアバターは真っ白いコックコートにコック帽まで身に付けていた。
この「親子丼」……作ったのは山崎先輩ってことだよな。
リアルの山崎先輩が料理上手だなんて話は聞いたことがなかったし、当然、先輩の手料理を食べたこともない。でも先輩は決して味オンチではないし、ここはゲームの中だ。味の知識とゲームのテクニックでこの旨い「親子丼」は作られたのだろう。
先輩が自信満々に出してきた「料理」に文句を付けるってのもなあ……。
「シキトー」
「顔がデカい――じゃない、近いですよ。サダノーミ」
……おや? 殴られなかったぞ? うーむむむ……茶化すのに失敗してしまった。
「聞け、シキトー。旨いものは旨い、不味いものは不味い。評判だの値段だのに左右されねえで自分の舌で感じた好みを語り合う。それが俺たちだろうが」
いやはや……先輩に「俺たち」とか言われると照れてしまいそうになる。
「ただお前の主観を言えば良いだけだ」
「……そこまで言われるなら」
正直に言うしかないか。言って、殴られるくらいなら別に構わないけど……先輩が気落ちする姿は見たくなかったな。さて。どうなることやら……。
「この『料理』……『親子丼』って言ってましたけど」
「おう」
「これって鶏肉じゃないですよね? 似てますけど」
「えッ!?」と大きな声を上げて驚いたのは俺の目の前に居たサダノーミではなく、この店の中に居た他の店員たちだった。




