可愛がっていた娘を「あなたの子ではない」と妻に言われて・・・
目の前に三枚の用紙が置かれる。
一枚は理解できたが後の二枚は理解できなかった。
婚約してたった一ヶ月で籍を入れる事を父に命じられた。
かばってくれるはずの母の意思は含まれなかった。
夫婦喧嘩をしたのか、母は領地に帰ってしまって父を諌めることが出来なかった。
結婚式もなくただ署名して終わりだと婚約者のゲルインと父親のアインシュ伯爵に言われた。
低位貴族でも結婚式は出来なくてもお披露目会くらいは行うのに、私は侯爵令嬢だというのにそのお披露目会すら行わないと言われた。
それを父が許したというのも理解できない。
「まず、この二枚の離婚届にサインしてくれ」
「婚姻もしていないのに離婚届にサインをするのですか?」
「婚姻の理由が河川工事のためだからな。河川工事が終わったら離婚したいと思っている。それ以外にも互いにどうしても我慢できなかった時やその他の時に離婚しやすくするために必要だ。一枚は私が、もう一枚は貴方が持っていればいい」
「離婚届を先に用意するほど嫌ならば河川工事を契約事業にすればいいのではないですか?」
「貴方の父が無理矢理に『婚姻しないのならば河川工事の資金など出さぬ』というから婚姻するのだ。婚姻が嫌なら貴方の父に言うべきだ」
「それは・・・知りませんでした。一度家へ帰らせてもらってもよろしいですか?」
「是非とも話し合って結婚せずとも資金の用立てをしてくれるように頼んでくれ」
「それはわたくしにはなんとも言えませんが・・・」
自宅に帰り着くと「なにしに帰ってきた」と父に冷たく言い放たられる。
「お父様・・・最近おかしいですよ?いったいどうされたのですか?」
「どうされた?どうされたか!はっはははっ!!笑うしかないな!!」
「お父様・・・」
「お前に父と呼ばれたくないっ!!」
「えっ?」
「リューシュが言ったのだ!マーベラスは私の子ではないと!!」
「えっ?」
「お前の顔など二度と見たくないっ!!結婚相手は見つけてやった!この家には帰ってくるな!!」
横にいるこの家の執事のセリノを見ると目を伏せてこちらを見ない。
「本当のことなのですか・・・?」
「そうだ!一ヶ月半前にリューシュが私に言ってこの屋敷から出ていったんだ!!」
「うそ・・・」
わたくしは立っていられなくてその場に腰を落とした。
理解できない。違う理解したくない。
「血の繋がらない子をここまで愛情を持って育ててやったんだ!!感謝しろ!!」
父の憎しみがこもった顔と怒声に震え上がる。
今まで一度として怒鳴られたことなどなかった。
宝物のように大切に大切にしてもらっていた。
「でも、わたくしの目も髪もお父様と同じ色で・・・」
「浮気相手も同じ色をしていたんだろうよ!」
「そんな・・・」
「セリノ!!さっさと不貞の子を私の目の前から消せっ!!」
「はっ!・・・お嬢様、失礼致します」
セリノは床にへたり込んでいるわたくしを抱き上げてわたくしの部屋だった場所へと連れて行った。
そこには何もない、空っぽの部屋だった。
子供っぽいからと残していったものもたくさんあったのに、それらは何もなかった。
「何もない・・・」
「お嬢様、今はまだ旦那様は興奮されています。落ち着かれるまで間を空けたほうがよろしいかと思われます。お嬢様も受け止めきれないかと存じますが、アインシュ家へ嫁がれた身です。アインシュ家へ向かわれるのがよろしいかと・・・。旦那様にはいま少し、時間が必要なのです」
「わたくしの父親が誰かは解っているのですか?」
「いえ、調査中でございます・・・」
「そう、セリノ・・・セリノはお父様の味方ですものね・・・わたくしを追い出すことが一番楽でいいのでしょうね」
セリノはまた目を伏せて黙った。
「アインシュ家へ向かいます」
「かしこまりました」
馬車に揺られながらお父様に言われた言葉が頭の中で繰り返される。
アインシュ家へ行ってどうなるのか?
お父様には顔を二度と見たくないと言われ、婚約者には離婚届に先にサインしろと言われている。
自分の未来が闇に閉ざされたような気がした。
帰ってきた私をアインシュ家の執事は「お帰りなさいませ」と言って迎え入れてくれた。
婚約者・・・夫となるゲルインが「帰ってきたのか」と嫌な顔をして迎える。
「父親との話はどうなったのだ?」
「どうにもなりませんでした」
「・・・そうか。ならば離婚届にサインしてくれ」
政略結婚だとしても、普通なら思いやりくらいは持つのではないの?
「わかりました」
二枚の離婚届に私がサインすると、ゲルインも二枚の離婚届にサインして、一枚をわたくしに差し出した。
離婚届を受け取りそれから婚姻届にサインする。
「閨はどうしたい?」
思ってもいないことを聞かれて答えに詰まる。
「共にしないと言っても宜しいのですか?」
「子供が出来る可能性を考えても閨は共にしないほうがいいと私も思っている」
「離婚が絶対的な前提なのですね?・・・では、そのようにお願いします」
「わかった」
「お願いがあるのですが・・・」
「なんだ?」
「わたくしが持ってきた物を全て現金に換えていただきたいのです」
「なぜ?」
「離婚した時に現金が必要になるからです」
「・・・そうか。買い取りをしてくれる商人を呼ぶ」
「ありがとうございます」
「婚姻届は明日提出してくる」
「解りました」
「さがれ」
「はい」
使用人に案内され屋敷の一番端の一室にわたくしの荷物は入れられていた。
ドアを閉めるとその場に座り込んだ。
付いてきてくれる侍女を用意してもらえなかった私は、この屋敷でもどうやって暮らしたらいいのだろうか?
貴族の子女としてしか生き方を知らない私はどうすれば生きていけるの?
もしこの部屋に誰も食事を運んでくれなかったら?
着替えも入浴もどうすればいいのかも解らない。
お父様の子供ではなかったなんて・・・。
血が繋がっていなかったら、子どもとして育てられてきた十六年はなかったことになるの?
「あっははははっ・・・ふっふふふふっ・・・」
ありがたいことに食事の時間になると部屋へと食事が運び込まれた。
入浴の準備もしてくれた。朝の時間になると着替えを手伝ってもらえて、朝食も運び込まれた。
最低限のことはしてくれるんだ・・・。
でも、このままでは一年後かそれよりも早くに離婚されて追い出されてしまう。
どうすれば、どうすればいいの?
三日ほど経った日に頼んでいた買い取りの商人がやってきた。
商人は売る理由や私の状況を知りたがった。
わたくしは誰かに聞いてほしかった。
普段なら絶対自分の状況など話したりしないけれど、目の前にいる商人にぽろぽろと泣き言を漏らしてしまった。
商人はこの屋敷にいられる間に、昼間働いてみてはどうかと言い出した。
それはとてもいい話のように思った。
わたくしの状況は理解できるので、出来ることから初めて少しずつ出来ることを増やしましょうと提案してくれた。
「まずは下位貴族の家庭教師などどうですか?それなら出来るのではないでしょうか?」
「ですがわたくし、学園を卒業できておりません・・・」
「小さなお子様への教育ならば出来るでしょう」
「それならば出来るかと思います」
週明けからホロウェイ男爵家の五歳の女の子の家庭教師になることが決まった。
持ち込んだ物は数枚の衣装を残して売り払った。
手にした金額はそれなりの金額になり、これだけでもしばらくはなんとかなると思った。
週が開けてホロウェイ男爵家へ行くためには馬車が必要で、アインシュ家の執事が馬車は出してくれると言ったので甘えることにした。
ホロウェイ家の小さな子は両親の愛を一心に集めている少し我儘な子供だった。
ご両親は甘やかしてしまうので厳しく躾けてほしいと頼まれた。
けれどそれほど厳しくしなくても教えることはどんどん吸収していく子だった。
ホロウェイ家での評判が良かったため他からも声がかかり、三軒の家庭教師を受け持つことになった。
これなら生活していけるかもしれないと思い始めた頃「侯爵家のお嬢様に教えていただけるとは本当にありがたいです」と言われた。
「わたくしが侯爵家の娘でなくなれば家庭教師としての価値もないと言うことですか?」
「あっ、いや、・・・まぁ、そうですな」
侯爵家の元娘では家庭教師の仕事は続かないことに気がついてしまった。
わたくしは市井で家を借りて暮らしていくことを目指さなければならないのだと。
私は買い取りをしてくれた商会へと向かい、庶民が暮らす場所で家を借り、生きていかなければならないことを相談した。
するとこの国で生きていくのは難しいのではないかと言われた。
何時どこで友人だった人達に会うか解らないここでの生活は苦しいものになるだろうと言われ、わたくしも納得した。
商会の本店がある一つ国をまたいだアンガル国へ行ってみるのはどうかと言われ、家庭教師の仕事がなくなるか、離婚された時にはお願いしますと言ってその日は帰ることになった。
アインシュ家でのわたくしの扱いは変わらない。
本当に最低限使用人がやってきて世話をしてくれる。
馬鹿にされるわけでも軽んじられるわけでもなかったけれど、誰も口を利いてくれなくて居心地の悪いものだった。
夫となったゲルインとは離婚届と婚姻届にサインした日から一度も会っていない。
一日でも長くこの状況で我慢して準備したほうがいいのか、今この待遇に我慢できず出ていくほうがいいのか判断がつかなかった。
私はどこに居ても迷惑にしかならない・・・。
商会を頼ってアンガル国へ行ったとしても迷惑以外の何物でもないんだわ。きっと。
半年が経った頃、ゲルインに初めて呼び出された。
「河川工事の資金全て侯爵に借りることができた。返済の契約書も交わすことができた。なので離婚をしたい」
「えっ?!」
「すまないが、私は結婚したい相手がいるんだ。資金援助のため、仕方なく貴方と籍は入れたが元々の婚約者と結婚することに決まった。この後すぐに離婚届を出してくる。だから今週中にこの屋敷から出ていってくれ」
「・・・解りました」
わたくしが頼るべきは買い取りをしてくれた商人しかいなくて、急いで商会へと足を運んだ。
状況をすぐに理解してくれて、商会の馬車がアンガル国へと向かうのは一ヶ月後になるので、それまで家庭教師の仕事をしながら商会の仕事も手伝うことで商会の使用人部屋を一部屋貸してくれることになった。
わたくしの荷物はバッグ一つに収まってしまうだけしかなくバッグ一つを持って執事に「お世話になりました」と挨拶して商会が用意してくれた馬車に乗り込んだ。
そのまま家庭教師の仕事をして、商会へ戻りその日は簡単な計算仕事をして、簡素な食事を頂いて眠りについた。
家庭教師をしながら商会の仕事を少し手伝っていると一ヶ月はすぐに経って、アンガル国へと旅立つ日が来た。
商会の人達はなんとなくわたくしの事情を察していてくれて何も聞かず、優しく接してくれた。
馬車がゆっくり動き出した時「そうそう!自分のことは『私』と呼んだほうがいいですよ!!」と笑顔で忠告してくれた。
今の私は貴族だった頃の衣装は全て手放し平民と同じ服を来て、同じように薄汚れていた。
「そうね。忠告をありがとう!!」
馬車は順調に国の国境を超え隣国をアンガル国へとひた走っていた。
同じ馬車に乗っている本店の三人と仕事の話や他愛もない話をしていると車外で馬の嘶きが聞こえ、人の叫び声が続いて聞こえた。
車内の誰かが「盗賊!?」と言い揺れる馬車の中でしゃがみこんだ。
わたくしにもしゃがむよう頭を押さえられ馬車の中で小さく丸まる。
剣戟の音と人のうめき声が聞こえ暫く経つと静かになり、馬車のドアが乱暴に開かれた。
「女が二人いますよ頭〜!!降りろ!!」
剣を突きつけられ扉に一番近かったもう一人の女性アンリが降り、男性のバルモが降り、続いてわたくしが降りた。
バルモが私達をかばうように前に出てくれたが、私達の目の前であっさりと切り捨てられた。
「バルモ!!」
バルモに取り縋ろうとして剣先が自分の首元に当てられて動きを止めるしかなかった。
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「あなた、マーベラスはどこにいるの?」
「なぜ私が自分の子でもない子供の面倒を見なければならないんだ?!放りだしたに決まっているだろう!!お前の顔もまだ見たくない!!」
「何を言っているの?どこからどう見てもマーベラスはあなたの子じゃない。喧嘩での売り言葉に買い言葉じゃないの。馬鹿なの?あなた」
「なっ?!マーベラスは私の子なのか?」
「当然でしょう?わたくし浮気なんかしたことありませんわよ。そろそろあなたの失言も許して差し上げようと思ってもどってきたのよ。それより早くマーベラスに会いたいわ。まだ学園かしら?!」
「た、大変だっ!!」
「大変って何?マーベラスはどうしたの?」
「・・・家から放り出すためにアインシュ家に嫁に出した・・・」
「はぁ?何を馬鹿なことを!アインシュ家の嫡男はとても仲睦まじい婚約者がいるじゃないの。マーベラスと結婚するはずがないでしょう!馬鹿なことを言わないで!!」
「いや、本当なんだ・・・私の子じゃないと言うから顔も見たくなくて河川工事に資金を出す代わりにマーベラスとの婚姻を条件にしたんだ」
「冗談でしょう?」
妻がセリノの顔を見るので私もつられてセリノへと視線を向けた。
「お嬢様は河川工事の資金の契約が完了した後すぐに離婚されてその後、商会で家庭教師と商会の仕事をして暮らしてらっしゃいましたが、半月ほど前にこの国を出ていかれました。その後の消息は不明です」
「えっ?冗談じゃないの?」
「だってお前が私の子じゃないと言うから・・・セリノ、今すぐマーベラスを探し出せっ!!」
妻はマーベラスの状況を知って泣いて話にならない。
「お前がつまらない嘘をつくから・・・」
「マーベラスを見て誰があなたの子じゃないなんて信じるのですか?あなたにそっくりじゃありませんかっ!!マーベラスはまだ十六歳なのに離婚歴が付くなんて!!ましてや学園も卒業していないのにこれからあの子はどうなるのですか!?」
「すまない・・・」
妻に謝りながらマーベラスの行方はすぐに解るだろうと思っていた。
「しかし離婚されていたとは知らなかった・・・アインシュ家へちょっと行ってくる」
アインシュ家付くと笑顔で迎え入れられたので「マーベラスに会いに来た」と伝えるととたんにオロオロとし始めた。
「もう離婚しましたが・・・」
「なぜ?娘を幸せにする義務があるだろう?!」
「河川工事の資金が必要だから婚姻はするとは言いましたが、幸せにするなどと約束した覚えはありません。私は来週元の婚約者との結婚式が控えているです。難癖を付けるのはやめていただきたい」
「ならば娘が住む場所を与えたのか?その後暮らすための金は?!」
「なぜ私共がそのようなことを気にかければならないのですか?河川工事のためだけの結婚なのに。そちらも不要なものをこちらに押し付けたのでしょう?!」
「マーベラスが不要なものというのか?!」
「だってそうなのでしょう?マーベラス自身帰る場所として実家を頼らなかったくらいですし、婚姻届を書く時に離婚後のための資金が必要だからと持ち込んだものは全て現金に換えていましたよ」
「この家で大切に扱われたのではないのか?」
「大切に扱われると思うほうがどうかしているのではないですか?最低限のことはいたしました」
「最低限・・・」
マーベラスの行方は一週間経っても一ヶ月経っても解らなかった。
必死になって探した。けれど・・・。
一年が経ち、三年が経っても隣国で盗賊に襲われて連れて行かれたこと以上の情報は手に入らなかった。
妻は涙も枯れたのかぼんやりしているばかりで、私自身も政務に力が入らず、家督は嫡男へと譲り渡した。
その途端マーベラスを探すための資金が作り出すことができなくなり、マーベラスの捜索も打ち切ることになってしまった。
「マーベラス・・・本当にすまない」
マーベラスが行方不明になって生きているのか死んでいるのかも解らないまま七年が経ち、死亡認定が降りて空の棺で葬儀が執り行われた。
棺にせめてマーベラスの持ち物を入れてやりたかったが、マーベラスの部屋のものは家具一つ残らず処分していてマーベラスの物は糸くず一本たりとてなかった。
妻はその事で悲嘆に暮れ、枯れていた涙をまた流した。
私もただ涙を流した。
貴族の娘の葬儀としてはありえないほど寂しい葬儀だった。
毎年秋が来るとマーベラスがいなくなって一年二年と数え始めてとうとう十五年が経った。
孫がいても私達夫婦の心はその一瞬しか癒せない。
そう遠くない日にマーベラスの元へと逝くのが何となく分かる。
今日もまた一日マーベラスのことを思って一日が過ぎた。
妻をベッドに横に寝かせて私もその横に入る。
浅い眠りと夢現を行ったり来たりする。
なにか物音がしたような気がしたが、気の所為と思ったのか、夢だと思ったのか気にならなかった。
意識が再び浮上した時にはベッドの上にまだ子供にしか見えない子が立っていた。
「リューシュ?」
「侯爵、育てただけの娘の顔は解りませんか?」
声がした方を向くとマーベラスに良く似たみすぼらしい格好の三十歳そこそこの女がベッド脇に立っていた。
「お久しぶりでございます。ベッドの上に立っているのは私が産んだ子供ですよ。父親は私の母親と同様に誰だか解りません。何十人もの男達に犯されましたから。どうぞ私の恨みを受け取ってください」
「マーベラスなのか?!」
起き上がろうとしてベッドの上に立つ子供に短剣を突きつけられる。
「ええ、マーベラスでございます。その子はカリウスと申します。カリウス、やって」
「了解」
「さよなら。母さんを捨てた、育てのお祖父様」
ベッドに乗り上がっているカリウスという男の子が私の腹に短剣を突き刺した。
「ぐっ・あっ!!」
「ゆっくり苦しんで死んでくださいね」
マーベラスの言葉にどれほど恨まれているのか解る。
当然のことだ・・・。
「お母様は私が殺してあげるね。黙っていてくれれば私は侯爵家の娘としてちゃんとしたところへ嫁げたのに。あなたの要らぬ言葉で私の人生はめちゃくちゃになってしまいました。この十五年間あなた達二人を恨まなかった日はありませんよ」
マーベラスは何の気負いもなく妻にも短剣を振り下ろした。
二度、三度、・・・。
何度も何度も。
それでも死なないように気をつけているのか妻も意識を保ったまま目を見開いて唇の動きでマーベラスと何度も呼んでいた。
マーベラスに私の子だったのだと伝えたいのに声が出ない。
伝えたとしてもマーベラスが報われることはないだろう。
まさか孫に殺される運命だとは思わなかった。
何人もの人の気配がして金目の物を物色しているのだろうか?
隠し金庫もたやすく開かれてすべて奪われていく。
私の持ち物はマーベラスが受け取るべきものだからかまわない。
マーベラスが持っていってくれるのなら嬉しいくらいだ。
「ああ、お伝え忘れていました。先に領地の屋敷を襲わせていただきました。半分だけは血の繋がりのある甥や姪も殺させていただきました。勿論、半分だけ血が繋がったお兄様もその奥方も。使用人一人たりとて逃しませんでした。こちらの屋敷でも同様です。セリノも長く、長く、ふふっ・・・苦しむようにしてまいりました。どうぞ自分の行いを悔いながら死んでいってくださいませ」
「マー・・・ベ、ラ・ス・・・」
「ふふっ。あはははははっ!!」
妻の手を握り、マーベラスが部屋から出ていくまで見続けて、暫くして私の意識は途絶える寸前に「次はアインシュ家へ行くわよ」と聞こえた気がした。
もしかすると似た話を書いたことがあるかもしれません・・・。
それとも読んだのか?
妄想していただけだったのか・・・?
覚えていなくて・・・。