【第5話】公爵様とのキノコ狩り
…公爵様との雑談の日々も数週間が経った。
シャルルとの練習の日々も終わり、今では特に緊張する事もなく、フツーに会話ができてる…気がする…。
そんなある日…
「あっ公爵様。こんにちは。」
「やあクレア。ごきげんよう。」
…公爵様は手に何かを持っていた。
「…公爵様?…それって…。」
「ああ、さっき見つけたんだ。野生のキノコ。こんなキノコ見た事無かったから、城に持ち帰って誰かに調べさせようと思ってな。」
「公爵様、それ、『アニアニのキノコ』ですよ。」
私は一目見てすぐに分かった。
「…アニアニのキノコ?初めて聞いたな…。」
「確かに、このあたりでも珍しいんです。味はあまりしないのですが、食べると魔力回復の効果があるんですよ。」
「ほう…。やはり魔法が生きている国だけあって、キノコもそれに合わせたモノができるんだな。」
公爵様は驚いていた。
「それにクレア、君はキノコに詳しいんだね。」
公爵様が微笑みかけてくれた!
「えっ?ええ…。私、キノコを使った料理や薬を作る事も多いので、この地域のキノコの事はだいたい分かるんですよ。」
…私の得意分野が思わぬ所で炸裂した…!
「ほう、それはすごい。一度、クレアとともにキノコ狩りに行きたいものだな。」
………!思ってもみないお言葉っ………!!
「はっ、はい!私は いつでも構いません!」
「それならクレアの仕事が休みの日にしよう。その方がクレアにとってもいいだろう。」
(や、やさしーーー!)
「ほお!キノコ狩りとですな!それは面白そうですな!私もお供しますぞ!」
(うわっ!お付きの人がなんか言い出した!空気読めよ!ジジイ!……)
「ははっ!ジイヤ。私が行こうとしている場所はかなり丘の上だぞ?ジイヤの足腰では行きはよくても帰りが不安だ。私だけでよい。」
(こ、公爵様、ナイス!)
「…ではクレア、次の休みの日に。」
「は、はい!喜んで…!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ま、まさか公爵様とお出かけができるなんて……!」
私は帰宅後、そわそわしながら当日着ていく服を選んでいた。
すると…。
「よう クレア、久しぶり!」
シャルルが現れた。
「あ、シャルル!最近会ってなかったね!元気してた?」
「ん?あぁ…。……てか、何してんの?」
シャルルは私が引っ張り出してきた服の山を見ながら聞いてきた。
「ああこれ?実はね…。プククク……!なんと!公爵様とキノコ狩りに行く事になったの!…しかも二人で…!」
私はニヤけながら答えた。
「え?マジ?………すごいじゃん。」
シャルルは驚いた様子だった。
「スゴイでしょ!シャルルの言う通り、あれから毎日、公爵様に話しかけたのよ!」
「え?毎日?すごいな。………」
「これもシャルルとの練習のおかげよ!本当にありがと!」
私は満面の笑顔でシャルルにお礼を言った。
「……いや、俺は別になんにもしてねーよ。純粋にクレアの努力の結果だよ。………ホント、頑張り屋さんなんだな…。」
ん?なんか今日のシャルル、おとなしいな…。
「え、えっと!この服の中なら、シャルルはどれがいいと思う!?」
私は当日着ていく服装の意見を求めた。
「ん?…うーん、そうだな……。…とりあえず、このドレス系はいらないんじゃね?キノコ狩りに山へ行くんでしょ?」
確かに…。危うくドレスを着てキノコ狩りに行くところだった。
「じゃあ、これはどうかしら!?」
私は薄いベージュの上下の服をシャルルに見せた。
「うーん、俺はコッチの、濃い紫の上下の方がいいと思うなー。コッチの方がクレアに似合いそう。」
「そう?じゃあ、そうする!」
私は濃い紫の上下の服を手に取った。
「あ、あくまで俺がいいと思っただけだぞ!レオンの奴がどう思うかは知らねーぞ!」
…なんかシャルルがあせってる。
「シャルルは王子だから公爵様の気持ちが分かるんじゃなかったの?よく言ってたじゃない。私、当日は紫にする!」
私は紫の服を高くかかげた。
「ま、まあそうだけどよ…。俺が勝手にクレアに似合うかなって思っただけだからさ…。」
…なんか、いつもの威勢が無いな…。
「シャルルが似合うって言ってくれたからそれで充分よ!ありがとう…!」
私は当日用として、丁寧に服をハンガーにかけた。
「お、おう。……じゃあまたな…。」
シャルルは玄関から出ていこうとした。
「あっ!ちょっと待って!」
「ん?」
「シャルル、もうご飯食べた?今からガーリックのパスタ作るけど、いる?」
「え?ガーリック?ムリムリ。俺、ドラキュラなんだぜ?ニンニクなんて食えないに決まってんだろ?」
「……ドラキュラがニンニク苦手って…。なんでそこは古典的なのよ…。」
「でもトマトソースは好きだぜ!ほら、色が血の色してるだろ?」
「…色だけでしょ…。なんかよく分かんないところでドラキュラらしさを はさんでくるなあ…。」
「いいから いいから!トマトソースないの!?」
「ああもう、厚かましいなあ!分かったわよ!」
「やったあ!ケラケラケラ…!」
……なんだ。いつものシャルルか…。
『…………なんだぜ!』
『キャハハハ!………』
『そうそう!そういえば………』
『ケラケラケラ!………』
『バカじゃないの!………』
『それ笑える!………』
…結局、その日は遅くまで、シャルルと『雑談』していた…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〜 キノコ狩り当日 〜
「あっ公爵様!おはようございます!」
「やあクレア、おはよう。今日はよろしく頼むよ。」
「はいっキノコの事は任せてください!」
私は紫の上下の服を身にまとい、キノコ狩りのため、山の上を目指した。
キノコスポットまでは結構距離がある。
(はあっ…はあっ…結構大変…。ド、ドレスじゃなくてよかった…!)
公爵様は息切れもせず、スイスイと歩いて行く。
(はあっ…はあっ…公爵様、ペース早いなあ…。はあっ…はあっ…)
私はついて行くのが精一杯だった。
ふと、街を見下ろすと、結構な高さまで来ていた。
(うわ〜!こんなところまで来たんだ!)
すると、
「大丈夫かい?クレア。」
……公爵様が気遣ってくれた。
「は、はい!大丈夫です!」
…私はさらに歩みを進めた…。
…山道の曲がり角、ちょうど私が働いてるお店が見えるところに来た。
「今日はニイナは出勤日だったはず…。ここから見えるかしら…?」
私はお店の方向を見下ろした。
「…あ!居た!ニイナが見えた!」
だいぶ小さく見えるが、ニイナが店先に出てきているのが分かった。
「あれ?誰かと話してる…。お客さんかな…?」
「……え!?………シャルル!?」
ニイナが店先で話している相手はシャルルだった。
(え!?なんでシャルルがお店でニイナと話してるの……!?………それに、二人ともすごい笑ってる……。)
…遠くても、二人が笑いながら話してるのは分かった。
「……何よ…シャルルのヤツ…。結構楽しそうじゃん………。」
「……………。」
「……ん?クレア、どうした?」
公爵様が振り返って尋ねてきた。
「い、いえ!なんでもないです…!」
……私は歩みを進めた。
………。
◇◇◇
〜 10分前 〜
『こんにちはー!あれっ?こんにちはー!』
『はいっ、いらっしゃいませ……あ!王子さま…!』
『王子さま?俺の事?…キミは…。』
『あっ!ニイナです!…あなたはシャルルさんですよね!?クレアの『いとこみたいなもの』の……!』
『『いとこみたいなもの』?なんだそれ?…てか、今日はクレアは居ないのかな?』
『あっ!クレアは今日休みなんです。公爵様とキノコ狩りに出かけてるはずですよ!』
『…そうか……今日だったんだ…。』
『明日はクレア、出勤日ですよ!』
『……いや、いいよ…。ありがとう。…てか、全然話変わるけど、いい?』
『は、はいっ!なんでしょう…?』
『屋根の上にあるお店の看板、なんか古くなってて危なくね? なんか今にも落ちてきそうなんだけど…。』
『あぁ、そうなんです!なんか留め具が古くなってて…。クレアが少しずつ直してくれてるんですが、結構大変みたいで…。』
『え!?あれをクレアが直そうとしてるの?無茶でしょ!?』
『そうなんですけどね〜。クレアが『自分で直す』って。』
『はははっ!クレアらしいな!』
『ふふふっ!ほんと!』
………山の高い所を誰かが登っているのが見える………
『じゃあさ、俺が直してやるよ!』
『え!?大丈夫ですか!?』
『大丈夫!大丈夫!』
………。
(ヨイショ!ん?この留め具、結構固いな…。それに看板も重い…。これ、クレアがひとりでしてたのか…)
『大丈夫ですかー?』
『ああ、少し時間はかかりそうだけどな!』
………。
◇◇◇
「クレア、このキノコは?」
「公爵様!それはさわったらダメです!やけどを誘うキノコです…!」
「おっと…!そんなキノコがあるのか……。本当に不思議な地域だな…。」
……私はやっとキノコスポットにたどり着いた。
「クレア、キミは本当にくわしいな。」
「え、えぇ…ありがとうございます…。」
…………なんだろう、この、何となくココロが晴れない感じ…。
「あっちにもあるぞ!」
…でも、公爵様は楽しそう。よかった…。
『ゴロゴロゴロゴロ……』
「ん?雨雲が来てる。ひと雨降りそうだ。クレア、山を降りよう!」
「は、はい!」
…黒い雲はみるみるうちに空を覆っていき、ポツポツと雨が降り出した…!
そして……!
「うわっ!すごい雨だな…!」
まもなく小雨は大粒の雨に変わった。
「急ごう……!」
私と公爵様は急いで街まで戻った。
……そして、街に戻った頃には二人ともずぶ濡れになっていた。
「まいったね…。でも雨もすぐに上がったようだ。」
黒い雲はすぐにどこかへ行き、今度は晴れ間が空に広がっていった。
「そうですね…。でも、キノコはたくさん取れて良かったです。」
…雨はキノコ狩りの終盤ごろに降り出したので、キノコは充分に収穫できていた。
「ああ、そうだな。…でも本当に不思議なキノコだ…。果たしてウチの者に分かるかどうか…。」
「今日、公爵様が取られたキノコ、結構 食用のやつも多いんですよ?よければ私が調理しましょうか?」
「おお!それはいい!実は明日、我が城に隣国から知り合いの公爵達が来るんだ。みんなきっと、こんなキノコは見た事がないから、そこで晩餐として振る舞いたい。」
私はパッと笑顔を作り、
「それはいいですね!では、腕を振るってお作りします!」
と答えた。
「では明日の夕方、城に来てもらえるかな?クレア。」
「は、はい!明日の夕方ですね!」
私は初めてお城に招かれた。
「ではまた明日。クレアとは方向が違うから、ここで失礼するよ。」
公爵様とは道の途中でわかれた。
…道の途中では お付きの人が公爵様を迎えに来ていて、濡れた公爵様の体をふいていた。
…私は ずぶ濡れの中、家路を急いだ。
「……早くお風呂に入んなきゃ…!」
………。
◇◇◇
『シャルルさーん!大丈夫ですかー!?』
『…ああ!大丈夫だ!……でも、思ったより時間かかるぞ…これ…。』
『ゴロゴロゴロゴロ……』
『シャルルさーん!雨が降ってきましたよー!下に降りませんかー!?』
『チッ!結構降ってきやがった…!でももうやり切る…!』
『シャルルさん……。』
………。
『…ほらっ出来たぜ。』
『すごいっ……!ありがとうございます!…でもすごい濡れちゃってますね…。着替えていきますか?』
『あー?別にいいよ!このままで!』
『…風邪ひいちゃいますよ?…あっ!そうそう、シャルルさん、この後クレアに会いますか?もし会うなら、これを渡してもらっていいですか?』
『…これは?』
『クレアの忘れ物なんです。『魔法のリング』。それがないと、魔力をうまく操れないんです。』
『ふーん、そんな大事なもの忘れて帰ったのか…。分かったよ!俺が届けとく!』
『ありがとうございます!』
『別にいいよ。じゃあな!……ハ、ハックショイッ!』
………。
◇◇◇
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