【第4話】雑談の練習
「ようっクレア。どうだった?レオン、喜んでたろ?」
例のごとく、シャルルがひょっこり現れた。
「う、うん…。多分喜んでくれてたと思う…。」
「はぁー?なんだよ、その煮え切らない言い方!美味いって言ってただろ?」
「う、うん。……お付きの人がね…。」
「お付きの人?なんでジジイが食ってんだよ!?…てか、ジジイはどうでもいいんだよ!レオンはなんて言ってたんだ?」
私は今日の事を思いだしながら、
「えっと…『では遠慮なくいただいていくぞ、クレア。ありがとう。』って言ってくれた。」
私は思いだしながら少しニヤけていた。
「その前だよ!レオンの奴、美味いって喜んでなかったか?どの味がどうとか言ってなかったか?」
「え?……えっと、私の前では食べてなかったよ。」
すると、シャルルは眉間にシワを寄せながら、
「…うそだろ?フツー、食べ物のプレゼントとかもらったら、その場で食べて感想言うだろ?」
私は少し考えたが、
「うーん…。人によるんじゃない…?」
と答えた。
「……俺だったら絶対目の前で食べて、精一杯喜んだ姿見せるけどな…。」
……シャルルは なんか不満そうだった。
「…よく分かんないけど……まあいいじゃないっ。『プレゼント大作戦』は成功したんだしさっ!」
私は公爵様にプレゼントを受け取ってもらえただけで充分満足だった。
「…それはそうと、次は私は何をすればいいの?」
私はシャルルの指南を待った。
「うーん………。………。」
「……今は思いつかないな。とりあえず、毎日少しずつでもレオンと雑談したら?俺じゃなくても出来る指南だけどさ。」
「ふーん。分かったわ。とりあえず そうする!ありがとう!」
「お、おう…。てか、クレアって普段なにしてんの?」
「私?私は白魔法のお店で、来たお客さんの簡単な病気や怪我を治す仕事してるの。知らなかったの?」
「知らねーよ!聞いてないもん。じゃあ例えばさ、俺いま口内炎できてるんだけどさ、これも治せるの?」
「……ドラキュラに口内炎できるの…?」
「ああ。ほら、キバがあるだろ?これでよく口の中を噛んじゃうんだ。」
シャルルはニョキっとキバを出してきた。…確かにキバの反対側に口内炎出来てる…。
「…なによその不便な歯…。血も吸わないんでしょ?もう抜いたら?」
私が言うと、
「これがドラキュラ家の象徴なんだよ!抜いたらドラキュラって分かんないじゃん!」
と、シャルルはケラケラと笑った。
「別にドラキュラって分かんなくてもいいでしょ…。じゃあシャルル、こっちに座って。」
シャルルは言われた通り、私の前にちょこんと座った。
私はシャルルの口元に手をかざし、祈った…。
『祝福を…』
するとシャルルの口元がポワンと白く光った。
……が、口内炎が治らない…!
「あれ?ちょっと待って!もう一度……!」
私はさらに集中した。
『祝福を…』
『……………』
やっぱり治らない!
「あれー!?なんで治んないの!?」
私は混乱した。
……が、シャルルは、
「あー、俺がドラキュラだからかな?」
「ドラキュラだから?なにそれ?」
「ドラキュラ家って昔は『黒魔法』を使ってたらしいんだ。だからきっと、ドラキュラに『白魔法』は効かないんだよ!」
「へー…。そうなんだ……。」
確かに、なんかそんな系の話は聞いたことあったな…。
「やっぱドラキュラは偉大だって事だな!」
「な、なんでそうなるのよ!」
「まーまー、自信無くすなよ!」
シャルルはいつものごとく、ケラケラと笑った。
「じゃあ話はそれたけど、レオンとの雑談、頑張れよ!」
そう言い残すと、シャルルはさっそうと玄関から出て行こうとした。
「ちょっと待って!!」
私はシャルルを呼び止めた。
「ん?どした?」
「じゃあさ、私と雑談の練習につきあってよ!シャルルが公爵様の役になってさ!」
「ハァ!?なんで俺がレオンの役をやらなきゃいけないんだよ!?」
「…だって、私がいきなり公爵様と雑談が出来ると思う?1週間は練習につきあってもらうわよ。」
「なんでだよ!テキトーに話すればいいだけだろ!?」
「だから!それが出来れば苦労しないわよ!それに、私の恋愛が成就しないと、アナタも帰れないんでしょ!?」
「………。」
「ん?」
「…………わかったよ。レオンの役、やってやるよ。」
「そ、そう…。ありがと!」
◇◇◇
それから毎日、私とシャルルは雑談の練習をした…。
『レオン様!ごきげんうるわしゅう!……』
『…なんだ?『うるわしゅう』って。……』
『『うるわしゅう』とか、そんな言葉なかったっけ?……』
『フツーでいいんだよ!フツーで!……』
『レオン様!今日はいい天気ですね!……』
『どしゃ降りですよーだ!ケラケラケラ!……』
『もう!ちゃんとやってよ!……』
◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…それから。
私は毎日少しずつ、実際に公爵様と雑談をしていった。
最初はぎこちなかったけど、2日…3日…1週間と、ちょっとずつ公爵様との雑談にも慣れていった。
「…これもシャルルとの練習の成果ね…。」
「ねえクレア、最近よく公爵様と話してるじゃない?アナタのコミュニケーション能力の高さにはホント驚かされるわ。」
同僚のニイナが褒めてくれた。
「そう?毎日話しかけてたら、ちょっとずつ慣れてきたよ!」
「……公爵様、アナタに気があるかもよ…!」
ニイナは少しニヤけながらボソっと言った。
「えっ!?どのあたりが!?ねえニイナ!詳しく教えて!?具体的にどのへん!?ちゃんと言って!!」
「ご、ごめんクレア……そんなにグイグイ反応が返って来ると思わなかったから……」
ニイナはビクッとなって真顔に戻っていた。
「はあ〜、私にも白馬の王子さま来ないかしら〜〜。」
ニイナは逃げるように、お店の玄関へ出て行った。
すると……。
ニイナは『ダダダっ』と走って戻ってきた!
「ど、どうしたの?」
「……来た!白馬の王子さまが…!すごいカッコいい王子様が…!!」
ニイナは目を見開いて私に顔を近づけてきた…!
「…な、なんなのよ。お客さんでしょ?はいはい、仕事仕事。」
私がお店の玄関に出て行くと…
「よう!クレア!」
「……!シャルル!?」
…そのお客さんはシャルルの事だった…!
「えっ!?なに?クレアの知り合い?もー、なんでみんなクレアなのよ!!」
…奥でニイナが叫んでいた。
「な、何しに来たのよ!?」
私がシャルルに言うと、
「クレアの仕事っぷりを見ておこうと思って!クレアの保護者としてな!」
シャルルはそういうと、いつものようにケラケラと笑った。
「いつから保護者になったのよ!てか、ここじゃアナタの事は治せないわよ!」
…ここは白魔法のお店なのだ。ドラキュラは対象外なのだ…。
「別にどこかを治しにもらいに来た訳じゃねーよ。仕事中のクレアの顔を見とこうと思ってな!」
「な、なんなのよ!私はこんな顔よ!わかった!?」
私はシャルルの顔の前に自分の顔をグイッと近づけた。
「ケラケラケラ!いつもと同じ顔だな!また気が向いたら来るぞ!」
そう言い残して、シャルルは去って行った。
「もう、なんなのよ急に来て…………。…はっ!!」
……奥でニイナがすごい顔でにらんできてる…。
「………今の人、めちゃくちゃカッコいいじゃん…。……もしかしてクレアの彼氏…?」
「ち、ちがうわよ!うーん……あ、『いとこみたいなもの』よ!そう、いとこみたいなもの、なのよ!」
「『いとこみたいなもの』ってどんなものよ…。はあ〜、でもカッコよかったわ〜…。私は公爵様よりも、さっきの王子様派かも〜…。」
ニイナがポワンとしている。…確かにシャルルは『王子様』だけど……ドラキュラの……。
「でも、今の彼とクレアって、すごく仲いいんだね。」
「え?どこが?」
私とシャルルの仲がいい…?………どういう事?
「…だって、どう考えても仲いいでしょ。あんなに気を遣わずに話してるクレア、初めてみたもん。」
「アイツに気なんか遣う訳ないでしょ!?」
「アラっ…『アイツ』だって……。キャッ!』
…ニイナのペースにハマってる気がする…。
「クレアの彼氏じゃないのなら、私がアプローチしちゃおっかな〜!」
「えっ?」
「『えっ』ってなに?(ニヤニヤ)」
………ますますニイナのペースにハマってる気が…。
「さっ!仕事仕事!」
…ニイナが私の背中をパンパンと押してきた。
「もう……なんなのよ……。」




