83:おふね
とまぁそんな感じで荷物を整えた翌日。
今日からお世話になる船が待つ港に来たわけなんだけど……。
「お、思ったより大きいですね。もっとこう、小さ目な感じかと。」
「だねぇ。……それにしてもやっぱこの世界色々おかしいな、うん。」
私達の目の前にあるのは、全長100m以上ある巨大な船。
見上げないと上まで見えない程に大きな帆が特徴的な、確か前世ではカラック船とか呼ばれてたタイプの奴だ。たぶん大航海時代が始まらないと登場しない船だったと思うし、サイズもそれより大きいと思うんだけど……。なんでローマ風の世界にこんなのがあるんですかねぇ? オーバーテクノロジーじゃない?
まぁあの神が色々介入しまくった結果、色々変なことになってるんだろうけども。
今回私が予約したのは、『マリアンヌ号』と呼ばれる旅客船。たぶんこの船の元ネタは外洋探検の為に作られた船だったと思うんだけど、それを内海移動向けに改装したタイプだ。……いやあの神がどういう風に伝えたか解んないから、この世界じゃ元々内海移動向けの船なのかもだけど。
とにかく人と物を大量に運べる船を、旅客船に改装したものだね。
「そういえば師匠! 案内書とかもらってますか!? 見たいです!」
「パンフ? あるよ。」
船の大きさのせいか、それとも普段よりも強く感じる潮の匂いのせいかは解らないが、普段よりもテンション高めでそう言うアル。たぶん欲しがるだろうなぁと思って用意しておいたものを渡すと、楽しそうに覗き始めている。かなり大きめな船だから、設備もしっかりしてるよねぇ。
「一等、二等、三等。いろんな大きさな客室があるんですねぇ。私達どこに泊まるんですか?」
「一等の一番大きいとこ。」
「……横に書いてある値段凄いんですけど。」
そう? 4人でいくわけだし、女の子ばっかりで危ないからそこでいいかなぁって。ほら防犯とか大事でしょう? 確かに剣闘士時代の月収と同じくらいで高いとは思うけど、数週間ずっと船に乗り続けるわけだし設備とかを考えると妥当、いやお得な方だと思うよ。
あと一等にした理由がもう一つあって、他のお客さんもたくさん乗ってるみたいなんだよね。ありがたいことに私も有名になったから、顔を知っている人どころかファンの人がいても可笑しくない。そんなときかの『ビクトリア様』が三等客室から出てきたら……、色々冷めちゃうでしょう? あ、ビクトリア様もお金ないんだ。ってなったら、ねぇ? ブランドイメージってやつです。
目的地のあっちは結構な遠方だから私のことを知る人も減るはず。だから着いた後はあんまり気にせずとも済むだろうけど、帝都発のこの船に乗ってる間は、ちょっとだけ気を付けておいてね?
「了解です、人の目のあるところではいつも通り『従者』として振舞わさせて頂きますね!」
「悪いね。ありがとうアル。」
あ、それと付け加えるなら……。実は一等客室でも色々足りなかったりするんだよね、うん。
今回は私達2人の気まま旅じゃなくて、マリーナもテクラちゃんも一緒に来るでしょう? 前者は現役子爵令嬢で未来の伯爵様。もう片方は聖女見習いにして次代の聖女様。明らかに貴種に分類される人たちなのよ。通常なら結構な量の護衛が必要になるタイプ。勿論乗る船も貴族向けのものじゃないといけなくなるから……、そう考えると一等客室どころか、この船自体が合ってないんだよね。これ高いけど市民向けだし。
軽く調べたんだけど、貴族向けの船になると一番下のランクでも十倍以上のお金が必要になっちゃう。勿論頑張れば出せない額でもないし、ヘンリエッタ様の伝手を使えば簡単に乗れたであろうことは解ってるんだけど……、同乗者の方々がね? そっちに乗るとなるとほんとに貴族様しか乗ってないから、私達としては居心地が悪いというか、最悪船旅の間ずっと『ビクトリア』として営業に行かないといけなくなるからさ。
「マリーナもマリーナで貴族の付き合いがあるだろうし、修行どころか旅行にもならないと思うんだよね。船に乗ってる間ずっとお仕事とか、アルも嫌でしょう? だからこの船にした感じ。」
「なるほどぉ。」
色々と想像しているのだろう。ちょっと眉を顰めながらも抜けた声を出すアル。そんな彼女に微笑みを返しながら、軽く周囲を見渡してみる。
聖都から帰った後。出発日まではそれぞれ実家に帰って準備して、当日は港集合と伝えてある。テクラちゃんは帝都の教会にお世話になるって聞いてたけど、マリーナは実家に帰っていたはずだ。昨日使いの人から問題なく到着できるって連絡が来てたから、そろそろ来てもおかしくないんだけど……。
「ジナ様ー! アル―!」
「あ、マリーナ!」
声のする方に視線を送ってみれば、背中から少しはみ出るほどの鞄を背負ったマリーナが手を振りながら駆けてくるのが見える。そしてその後ろに見えるのが、おそらく彼女の執事のお爺ちゃんと、使用人さんたち。ここまで送ってきてくれたのであろう彼らが頭を下げているのを視界に入れ答礼を返しながら、マリーナを迎える。
うんうん、私達はいつも通りの格好だけど。マリーナ気合入ってるね! こっちじゃ珍しめなフリフリなワンピース着て来たの? 似合ってるよ!
「そ、そうですか? そう言って頂けて嬉しいです! ……んん! お二人とも、お待たせし申し訳ありませんわ! ちょっと父が出発前にウダウダ言ってたのを収めるのに手間取りまして!」
「あぁ。まぁ年頃の娘さんが旅行となれば不安にもなるよね……。子爵様に用意したあの修行の案内、渡しておいてくれた?」
「……ぁ。」
「…………マリーナ?」
私とマリーナの関係は、彼女の父親である子爵様からヘンリ様へと娘を預け、ヘンリ様から私に預けるって形をとっている。けど流石に長期間親元から離して遠方へと修行しに行くわけだから、学校の先生みたいに『お知らせ』のプリント作って渡しておいたんだけど……。マリーナさぁ。
急いで自分の鞄の中を覗き込み、別れる前に渡したであろうプリントを見つけ出す彼女。私達と出会うまで友達らしい友達がいなかったって聞くし、色々と舞い上がっちゃってたんだろうけど、そりゃお父さん心配するよ? ほら送り迎えの執事さんまだいるみたいだし、渡しに行っておいで。
「は、はぃ。」
彼女が顔を真っ赤にしながら使用人を手で呼ぶと、すぐにこちらに走り寄って来る彼ら。何枚かの紙を手渡しながらマリーナが耳元で何かを話すと、力強く頷いている。若干口元が緩み、瞳が可愛らしいものを見る目になっているが、指摘しない方がいいだろう。
……走り書きになっちゃうけど、私からも一応謝罪の手紙とか書いて渡しておいた方がいいかな。
「んふー! マリーナ、忘れちゃってたんですかぁ?」
「ぐッ! そ、そういうアルはどうなんです!?」
「私? そりゃもう許可もらってますとも! 何せ師匠と一緒に住んでますからね! すぐ教えてもらって! すぐ手紙送って許可もらいましたとも!」
「にぎぎぎぎ!!!」
ある程度付き合いも増え、アルもマリーナも色々遠慮しないようになって来たけど……。なんかいつの間にか両手を握り合いながらバチバチと視線を送り合っている。元気なのはいいけど、初めから怪我しないでよ? あとアルはあんまり煽らないように。
二人とも元気で可愛らしい返事を返しながらも、口喧嘩を継続する様子を眺めながら懐に入れてあったメモ帳に軽く親御さんへのメッセージを書き、マリーナの使用人さんたちにお願いしておく。これで多分大丈夫だとは思うんだけど……、お父さん大丈夫かな? 心配でしわしわになってるかも。修行だから多少のけがはするだろうけど、五体満足な上に出発前と比べて何回りも大きくなってお返ししますから安心してくださいね。
「というかマリーナ。なんですかその荷物、多くないです?」
「貴族は荷物も多くなるのです! それに、もし何かあった時爵位相当の服装が出来なければ家の名が泣きますわ! 決して玩具とか入れて多くなってるわけじゃないですよ!」
「……。」
「……正直かなり悩んで断念しました。」
「正直に言えて偉い。」
アルに褒められあまり釈然としない表情を浮かべるマリーナ。
……やっぱこの世界の人って娯楽持ち込まないタイプなの? 暇じゃない? いやそれだけ旅が危険だってことなんだろうけどさ。二人とも子供だし、もっと遊ばないと。
「みなさぁーん!」
そんなことを話していると、後ろから声。まだ来ていないテクラちゃんのものだ。年齢聞いたら多分私と同年代というか、もしかしたら肉体年齢は年上な感じの子だったんだけど、初対面のリバースが脳裏から離れず何故かちゃん付けになってしまってる彼女。
かなり上機嫌そうな声だから多分どこかでもう飲んできたのだろうと思いながら皆で振り返ってみると……。
「「「……わぁ。」」」
「どーしたんですかぁ? んっんっんっ!」
彼女の何倍も大きな荷物、というか山を抱え引きずりながらこちらに歩いてくる彼女。しかも聖職者の服装をしながら酒瓶片手に歩いて来てるし、荷物から瓶の先端が何本も伸び出ている。
あ、あの。周囲の人たちがすんごい目で見てますけどいいんですか? というかその荷物何!?
「お酒と煙草でーす! いやぁ、帝都ってすごいんですねぇ! なんでも、なんでもありましたぁ! ちょっと貴族様とお話したら凄い寄進貰っちゃってぇ、市場覗いてみたらしゅごいのぉ。聖都じゃ手に入らないものばーっかり! ぜーんぶかっちゃいました!」
「えぇ……。」
明らかに酒焼けした声で話しながら、今度はシーシャを吸い始める彼女。よくよくその懐を見てみれば、新しく買い込んだのであろう紙煙草や葉巻、シーシャの替えなどが大量に入っていることが見て取れる。
いや、あの。マジでどこから突っ込めばいいんだ?
「えっと……、まず今回船旅ってことは理解してる?」
「はいー! だから一杯買っちゃいましたぁ。これでお船乗ってる間、お酒も煙草もきれませーん! なくならない! すごい!」
「いや絶対断られるよソレ。手荷物の範疇超えてるって。」
「えぇ~~!!!」
すっごい不満たらたらな声をあげるテクラちゃん。いや酒瓶って結構な重さでしょう? それを何十……、いや数百? レベル持ち込むのは常識を疑われるよほんと。ルールで禁止されてなくても限度があるよ? ほら出発まで時間あるから人足でも頼んで教会に送ってもらおう、ね? ほら聖職者どころか人として色々見た目が終わってるからね? ここ往来の場所だから控えよう、ね?
「やっ!」
「いや、やじゃないが? お世話になる船の船員さん手でおっきな×作ってるよ? ほら諦めよ、ね?」
「やっー!」
だから見た目が終わるって言ってるでしょうが! 酒瓶抱きかかえて泣きわめくんじゃありませんっ! あぁもうッ! 船員さんにお願いして出来る限りもっていってあげるから! こんな場所で寝転がって喚かないでっ! 羞恥ッ! 羞恥が凄いからッ!
「……私、大人になってもお酒飲むの止めようかな。」
「多分賢い選択ですね、アル。」
〇ジナ(ビクトリア)
旅行とかにになるとテンションがかなり上がる方で結構馬鹿してしまうのだが、今回は保護者枠なのでかなりセーブしている。アルに娯楽用品を持たせたのも、自分がそれで遊びたかったからと言うのは否定できない。荷物の詰込みは上手いが結構必要なさそうなものも詰め込んでしまうタイプ。
〇アル
テンションは上がるが、行動にそこまで影響が表れないタイプ。この世界における『旅=メチャ危険』なことを強く理解しているので必要最低限のものしか持って行かないし、緊急時は即座に荷物を捨てて逃げれる。ただ『ずっと修行です!』というお堅い委員長タイプではなく、遊びに誘ったらノリに乗ってくれるいい感じ。
〇マリーナ
修行名目ではあるがジナが遊んでもいいよと言っていたためテンションが上がりまくっている。そしてそんな時は注意力が低下するタイプ。正直滅茶苦茶アルやジナと遊びたかったし、テクラとの交友も深めたかったのでこの世界のテーブルゲームとかを持ち込もうとしたが、荷物が大きくなりすぎるために泣く泣く断念した。でもジナがアルに持たせてたのでニコニコになった。
〇テクラ
聖女からゴーサインが出たのでブレーキがお亡くなりになったタイプ。アクセルベタ踏みしかしない。先日は神の声を聞いたりとまだ驚きから復帰していなかったので普通……、普通だったが、帝都の豊かな酒&煙草市場を見て完全に壊れた。聖職者として巡礼の経験からか、本来の荷物はアルよりも少なかったのだが……。
6/5! どうかよろしくお願い致します!
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誤字報告いつも大変お世話になっております、励みになります。




