77:おやつとお洋服
「さて、準備進めませんとねぇ。」
高齢の女性がよっこらせ、と声を上げながら椅子から立ち上がる。
ここは聖都、アヴィオン。すべての聖職者が憧れる神の都。
帝国のみならず、この世界で一番神聖な場所だ。
「ま、そんないいところではないんですがねぇ。ほほほ。」
彼女のいう通り、周辺国のすべての民が憧れる町であり、一度は行ってみたいと思えるような外見はしている。そして総本山として恥じないだけの設備に人員、歴史。そしてこれを後世に継承する者たち。『例え帝都が崩壊しようともこの町だけは永遠に続くだろう』という謳い文句は決して間違いではない。
ただ、それゆえと言うべきか。
聖職者が暮らす街として不要なもの、不必要なものをどんどんと排除していった結果。何の面白みもない町になってしまっているのが特徴だ。確かに神聖な場所であり、整えられた場所故に初めて来た者は目を奪われるであろう。だが、それだけ。
神の我儘によって別世界にも出向させられた経験のある聖女からすれば、退屈な場所にしか思えなかった。
「そうなんですよ、娯楽らしい娯楽が一切ありませんし。でも息苦しいと言っても、聖女の権力ですべてを変えるわけにはいきませんしねぇ。」
この世界を管理する神はたった一人。故に善も悪も、聖も邪も。すべて神が管理している。途中で自分で管理するのが面倒になったため天使や悪魔などの下僕を生み出し委託してはいるが、依然頂点はたった一人である。そして同時にこの世界を生み出したのも、その神自身。管理が面倒になったのと同じように、この世界に興味を失えば全てなかったことになる薄氷の上にある存在。それがこの世界だ。
故に先人たちは神を楽しませるために世界を整え続けた。私たちの様な比較的神と近しい姿を持つ生物を"人類"と称し、善のグループに。
その人類たちが恐怖を覚えるような存在や世界に流れ続けている魔力によって猛威をふるう生物を"魔物"と称し、悪のグループに。
この両者を戦わせることで余興とした。
「そして、私たち教会の役目。それは"人類"を善として存続させること。」
神にも受け入れられたソレは、人よりも大きな力を持つ天使や悪魔のみで制御しきることはできなかった。そもそも世界の運営を任されている彼らである。無数にいる我らの手綱を持つのはひどく難しい。
故に教会が成立した。さながら羊たちの動きをコントロールする牧羊犬だろうか。民が羊で、牧羊犬である聖職者を管理する職員が天使たち。そして牧場自体のオーナーが神。そんな関係性と言えるだろう。
「故に我らは清廉潔白でなければならない。……ま、理解は出来るんですけどねぇ。ワンちゃんが遊ぶの忘れちゃダメでしょうに。」
羊の誘導をしない、仕事をしない犬は処分される。勝手に羊を逃がしたり、食べてしまう犬も同様だ。そこには聖女である彼女も不満はない。
だがこの仕組みが長年続いてしまったが故に犬たちが社会を構築してしまい、永遠に仕事をし続けるというルールを自分に課してしまった。別に禁止されていないのに精神を乱すからという理由で酒を禁止し、解決策があるというのに肺を痛めるという理由で煙草も禁止。そんな風にどんどん禁止してしまい、出来上がったのがガチガチに固められた聖職者たち。
聖職者に勧められる娯楽が讃美歌を謳うか聖書関連書物を読むかの二択になっているのを知れば、聖女が危惧することも理解してもらえるだろう。
「私からすればストレスで嫌になりそうなのに、みんなよくやりますよねぇ。アワテテ枢機卿とかほんとに堅物ですし。なんで聖書読み込むのが娯楽になるのか、解らないものです。」
流石に酒浸りで本来の業務に支障をきたしていれば神の怒りが飛んでくるが、日々のストレス改善やお遊び程度で怒られることはない。実際に神と出会い、話をし、面白い駒だと認識された結果振り回されている聖女は、身をもってそれを理解している。言ってしまえば、程よい“サボり方”もだ。
そもこの世界を治める神自体面倒ごとを避ける傾向があり、仕事よりも遊びに重きを置いている神である。そんな子供のような神と聖女就任以降80年以上付き合ってきた聖女からすれば、こんなつまんない教会など叩き壊しても良いのではないか、と思ってしまうのも仕方のない……。ことかもしれない。
「でもまぁ私もそろそろ三桁ですしねぇ。体は年齢の割にはかなり若めですが、上からのせっつきもあるでしょうしねぇ。やる気があっても寿命が足りませんよ。それに、積み上げてきた歴史を壊してしまうのもなんだか気が引けますしねぇ。」
ホントに壊してしまえば神からはひっくり返って笑いながらグッジョブ、と言って頂けるだろうが他の天使からは何されるかわかったものではない。部分的に変えようとしても彼女の寿命では時間が足りないだろう。
聖女として得られる神の加護や、魔力の特殊な循環による"状態の保持"によってその体の老化は格段に抑え込まれている。そろそろ三桁が見えるというのに体はまだ60に行かないレベルのもの。このままいけば普通に150とか行けるだろうし、過去の聖女の何人かがそれぐらいまで生きていた。
なのでほんとにやろうと思えばできるだろうが、そこまでして生にしがみ付きたいとは感じていない様子。
年老いてしまったからこそこれまで続いて来た物事の重みや、重要さを理解することもある。改革するのであれば老骨は後押しするだけで、先頭に立つのは若者の仕事だろうと考えている様だった。それに、聖女の上司である天使から『早くこっち来てあの暴走神の手綱握ってぇ!』と泣きつかれているようで、隙あらばいつでもお迎えが来てしまうという裏事情もあるようだった。
「ほんとは体のいい神の生贄が欲しいだけでしょうに。……あ、そうだ。死んで私も天使に成ったらローストチキンにしちゃいましょう。」
そんなことを彼女が口ずさんでいた時、友人から届く一通の手紙。
そう、彼女。ビクトリアという名前で活動している元剣闘士からの者だ。二人が出会ったのはビクトリアの二度目の死の時と、神がプリンと言う菓子でやらかされた時。たった二回ではあるが何かと話が合う気のいい友人であるようで、手紙の宛名を見ただけで聖女の口には笑みが零れている。
(聖職者でも私ぐらいしか知らない神の本性を理解している方ですものねぇ。役目関係なく愚痴を吐ける得難い友ですし。……さて、どんな内容かしら? 普段の文通だとは思うのだけど。)
慣れた手つきで封を開け、中身を確認していく彼女。
そんな手紙に目を落していた聖女であったが、何か気にあることがあったようで、その動きが一瞬だけ止まる。その視線が送られる場所に覗き込んでみれば、『弟子たちの育成のためダンジョン攻略に挑むのだが、ちょうどいい回復役を探している』というもの。最初は少し冗談として『お婆ちゃん一緒に行こうよ~』なんて書かれていたが、本題は良さそうな人材を紹介してほしいというものだった。
繰り返される文通の中で聖女も知ることだが、ビクトリアはアルとマリーナと言う才能ある子供の人生を任されている。
その指導の中で自分にばかりものを教わるのは思考が偏ってしまうのではないかということを危惧しており、交友のある公爵から学園の教師を派遣してもらったり、その公爵自身から教えを得られるようにしていることも。
「剣闘士の視点と、別世界の視点。貴族の視点と、教職の視点。そして次に教会の視点、というわけね。」
そう呟きながら、少し手紙から目を離し思考を回す聖女。
ビクトリアことジナが求めているのは弟子たちに良い影響を与えてくれる人材。弟子たちの選択肢をより増やすことが出来る人間だ。それだけなら優秀な聖職者を送りつけるだけで済むが、ビクトリアが神に目を付けられていることや転生者であること。またあまりお固い性格ではないことを考えると、より吟味して人を選ぶ必要がありそうだった。
「となると堅物は駄目ね。合わないし。……あら、どうしましょ。大半消えたわ。」
脳内にあるリストを開き、ダンジョン攻略に付いていける最低限の自衛ができる人材と教育者としての適性がある人材を並べる聖女。そこからまず第一前提として、彼女の性格と致命的に合わないお堅い人間を排除しようと思ったようだが……、リストのうち9割が弾け飛んだ。流石聖職者、堅物だらけである。
確かに"教会の総本山"としては良いのだろうが……。聖女が不安を覚え改革を考える理由も、理解できてしまうような現状だった。
少しだけため息を漏らし、『ない物ねだりは出来ないしねぇ』とつぶやく聖女。一応聖女本人が勝手に付いていくというとっても楽しい方法もあるのだが、聖女が急に消えることになるため確実に聖都は大混乱。やってみたくても流石に出来ないと諦めながら、残りのリストを思い浮かべていく。
「滅多に慌てないアワテテ枢機卿がブレイクダンス並みに狼狽してる姿とか、見てみたかったんだけどねぇ。……あぁそうだ、あの子がいいんじゃないかしら。」
自身の信頼する部下の一人ながらやはり硬さが目立つ枢機卿、日本語の知識も持つ聖女からすれば『慌てさせたい』彼の様子を思い浮かべていると、脳裏に浮かぶ一人の女性。
実力も実績もあり、次期聖女候補として聖都に呼び出されたのだが……。環境が合わず、様々なものに手を出してしまった子。聖女としては好ましい存在だったが、周囲からすれば教義を守らぬ異端。そのせいか聖女候補から外されそうになったのを、何とか聖女本人が介入することで止めた子だった。
「女の子だし、成人もしてる。相性も良さそうねぇ。」
頭の中でビクトリアを浮かべ、その横に彼女を置いてみる聖女。
すると面白いほどに、上手く当てはまる。実際にそうなるかはまさに神のみぞ知る事柄だが、少なくとも両者ともに悪くない結果になりそうだ。
「さ~って、そうと決まればお迎えの準備しなくちゃ。あの子には面白そうだから黙っておくとして、ビクトリアちゃんとそのお弟子ちゃんも来るのでしょう? 遊べるもの用意しとかなきゃ。」
明るい声でそう言った後。天界への転移のため脳に刻まれた呪文を紡ぎ始める聖女。その姿はまるで孫の為におもちゃを買いに出かけるお婆ちゃんのよう。
この聖都におもちゃ屋などないが、神の私室に行けば様々な娯楽品があることを彼女は理解している。この世界の存在が送った菓子類はもとより、他世界の神から送られたオモチャも。それを持ち出せば弟子のみならずビクトリアも大喜びで遊んでくれるだろうと考えている様だった。
「そう言えば花札屋さんがまた新しいハードを出すんですよね。神は抽選外れて発狂してましたけど、もう収まったのかしら? まぁ狂ってたら狂ってたで勝手に持ち出せばいい話ですし、関係ないですねぇ~。」
歴代聖女の中でもかなり神との相性が良かった彼女は、神本人から多くの許可を得ている。その結構適当な性格も理解している聖女からすれば、これくらい事後報告でも問題ないという考えの様だった。他の聖職者や天使が聞けば卒倒しそうな態度ではあったが、これも彼女なりの信仰の形な様子。
「な~にもらっていきましょうかねぇ? アルちゃんもマリーナちゃんもまだ子供みたいだし、ビクトリアちゃんは現代っ子。やはり最新のものがいいのかしら……。人数いるしそこら辺も考えないとねぇ。あ、おやつも用意しとかなきゃ。」
【よんだ?】
「よんでねぇーぞクソ神、というか"おやつ"で反応すんな。」
【違ったか、残念。……あ、そうだ。今日のおやつイチゴのミルフィーユにして?】
「今秋ですよこっち……。はぁ、今日の当番に伝えときますので早く念話切ってくださいな。時間外労働ですよ、こちとら。」
【はいはいー。あ、私の部屋にあるのなんでも持って行っていいからね?】
「あぁ、やっぱ見てたんですね。ありがとうございます、好きに使いますね~。」
【あとお前の抽選当たってた。……コロスッ!】
「お前が言うとシャレにならねーんだよ。貸してあげますからそれでご勘弁。」
【ほんと! わーい!】
◇◆◇◆◇
そうだ聖都、いこう。
とまぁ前世でよく見たキャッチフレーズを脳内で転がしながら馬車へと乗り込む。あの広告すごいよね、基本どこの地名入れても成立するし、ふと思い立ってきていただいても十二分に楽しめますよ? ってことがすごく伝わってくる。あとリズム感がいいので頭に残りやすい。まぁ私の主観だからどういう意図で作られたのかはわからないけどさ。……一回ぐらい京都行っとけばよかったかも。
そんなことを考えながら馬車の窓から外を眺めていると、自身に視線が集まっていることに気が付く。アルとマリーナだ。
「どうしたの、二人とも?」
アルは普段の余所行きの格好と言うか、私が貴族の家へ仕事に行く際ついてくる時に着る従者服を着ている。剣闘士のころと比べて布の質とか格段に上がってるんだけど、どこかに行くときは基本この格好を崩そうとしない。もうちょっとおしゃれしてもいいのにねぇ? わざわざソレを選んでくれてる理由は解るから何も言わないけどさ。
対してマリーナはかなりガチガチに固めてきている。所謂お貴族様の格好だ。子爵令嬢として相応な過度になり過ぎない装飾が施された絹の服装だね。私が文化浸食してるせいでたまに忘れるけど、この世界はまだ古代ローマの時代で、帝国は帝政ローマに非常に似通っている。女性用のチュニックとトガに身を包んだ彼女はさながら一枚の絵画ってところだね~。
「……ジナ様、その恰好で大丈夫なのですか? 聖女様ですよ?」
「え? どっかおかしい?」
そう私に問いかけてくるマリーナ。
服装や髪型は普段の彼女の倍以上に整っているのだが、顔にはちょっと疲労の色が見える。まぁ急に私が『教会勢力の最高権力者に会いに行くよー!』って言っちゃったもんだから仕方ないのかもだけど。結構馬車での移動に時間かかるし寝ときなさいね? メイクとか髪型とか崩れてもあっちで直す時間はあるだろうし。
「あ、はい。ありがとうございます。……じゃなくて! 全然正装じゃないけど大丈夫なんですかって話です!」
「……え、もしかしてスーツ駄目だった?」
さっきまで着ていたのは女教師用のスーツ、ブラウスの上に上着を羽織って下はスカート。けど流石にちょっとそれじゃ動きにくいかな、と思いまして私も着替えてきたんですよ。チャーンとベストも着てますよ? 黒のスーツに黒のタイ、中に仕立ててもらったばかりの真っ白なシャツと灰色のベスト。下はスーツと同じ色でパンツスタイル。ちゃんと靴も黒のパンプスだし……、決まってない?
髪もちゃんとセットして、ビクトリアスタイルでもなく、普段の適当に後ろで纏めた形でもない。前髪弄って後ろで髪縛るリボンもちゃんとした奴にしてるし、メイクもナチュラルだけどちゃんとしてる。市民身分だからそんなに過度なものではないけど、締めるところはちゃんと締める約1000年後のフォーマルスタイルだけど……。ダメだった?
「駄目……、いや駄目ですよ! 聖女様ですよ相手! 色々まずいですって! というかなんでアルは止めなかったんですか!」
「…………言って止まる人だと思います?」
「そうでしたね!!!」
あはは! 最先端過ぎたか! ま、そうぷんすかしないで、ね?
私の性質はどこまで行っても道化師、誰かの娯楽になるのが本質みたいなものだからさ。変にトガとチュニックみたいな正装とか当たり前の恰好してる方がよくないのよ。それに聖女様、あの人私が前世を過ごしてた世界に結構出張で行ってるって手紙に書いてあったから普通に受け止められる気がするけどなぁ?
……ん? あぁなんかあの神サマの我儘で色々お使い任されるんだって。私がいたあの世界でティンパニ大量に発注したり、柏餅に占領された世界から柏餅輸入したり、おとぎ話の様な世界からお菓子の家の制作者を誘致したり色々しているらしい。この前神サマの代理で出雲行かされた際は文字通り死ぬかと思った、って書いてあったし聖女って大変なんだねぇ。
(死んだとき断っといてほんとによかった……。)
あ、後。話を戻すけどスーツを着ている理由他にもちゃんとあるのよ。
いや、ね? この前と言うかちょっと前まで私主演の劇をやってたでしょう? それでスーツ着てご挨拶とかやってたもんだからさ……。色々流行っちゃいまして。オーナーがドロの監修の元、量産体制を整えちゃったんですよ。けどかなり未来を見据えた投資だったみたいで、このままだと赤字みたいなんですよね? 劇関連でも色々世話になりましたし、ブームの火付け役なわけですからちょっとぐらいお手伝いしませんと、ってわけです。
……あとぶっちゃけると前世思い出すし、普段のトガとかと比べるとめっちゃ動きやすくて楽。ドロがちょっとふざけて改造したおかげで私の倍速戦闘に耐えれるくらいの強度してるし。すっごくお勧めだよ?
「そう言えばアルとマリーナの分は作ってもらってないね。今度仕立ててもらう?」
「それは是非!」
「マリーナ……。」
はいはい、マリーナのは勿論アルちゃんのも作ろうね? うんうん、安心してよ。ちゃ~んとおそろいのデザインにしてもらうからさ。……あ、でもドロに頼んで大丈夫かな。この前『お前、あたしが鍛冶屋ってこと忘れてないか?』ってガチギレされながら言われたんだった。服飾関係のお仕事持ってったらボコボコにされちゃうかも。いやドロちゃんクソセンスいいからつい頼んじゃうのよ……。文字通りほぼなんでもできるし。
ほ、ほら! あれよアレ! ダンジョンアタックする前に装備整えるからさ! そん時にまた鍛冶仕事お願いするし! それに新メンバーを無事見つけることが出来たらさ! その人の装備とかもあるだろうからさ! 機嫌直してよ! うん!
「そう言えば師匠、聖都ってどんなところなんでしょうね?」
架空のドロに対して謎の慰撫を行っていると、アルが質問を投げてくれる。
マリーナの方を見ると『私とおそろい』という事実に気が付いたのか自身の世界にトリップし始めている。鼻に突っ込まれているチリ紙を見るに、アルが先んじて鼻血対策をしてくれたのだろう。大事なおべべ汚しちゃだめだからね、ナイスアル! っと、質問に返さないと。
「だねー。帝都よりは小さい町らしいけど、教会のためだけに作られた町らしいから色々すごいらしいよ?」
聖都、アヴィオンだっけ? 教会勢力の町と言うよりも、教会の人間しかいない町。前世の日本でいうお伊勢さんみたいな立ち位置みたいで、一生のうちに一度はお参りしておいた方がいい感じの町らしい。帝国を含めたこの周辺国すべての教会勢力の総本山、ってところなのかな?
「参拝? 礼拝? まぁそんな感じの人がたくさん来るんだって。建物とかも最初から全部計画した通りに作られたものばかりで、町の中をゆっくりと歩いても楽しいって聞いたよ。」
「へぇ~。」
帝都も帝都で整ってはいるが、一部がちょっとスラム化したり裏社会の人間で溢れたりとちょっとヤバい地区が存在している。中央に行くほど整っているが、外に行くほど荒れている感じ。人口増加と共に拡大している町、って感じかな? その分活気がすごいんだけどね~。
対して聖都ってのは住むことが出来るのが聖職者だけらしく、全ての建物が一つの計画の元で建てられた物らしい。そのため街並みがすごく綺麗で、さらに外壁や壁の意匠も指定されてて統一感がすごいんだと。教会独特の紋様に、白に統一された街並みはまるで別世界ってのが謳い文句なんだって。まぁどこ行っても真っ白な建物しかないから夏場は反射でクソしんどいらしいが……、もう秋ごろだし大丈夫だろう。
「逆に言うとそれぐらいしか娯楽がない。ってコトらしいけど。」
聖職者の町、ってことはその町の施設で働く人間も基本聖職者かその家族だ。帝都で一般的な娯楽関係は大体存在していないみたい。まぁこの世界の教会の戒律ヤバいらしいからね……。ただの信者はほとんど何も無い様なモノだけど、聖職者は導く立場ってことでもうギチギチ。色々抵触する可能性があるってことで自主的にやめて行ったら何も残らなかったらしい。
一応観光客向けに聖職者じゃない方が運営しているお店もあるにはあるらしいけど、それも小規模。あってもお食事処とか酒場とかぐらいで、賭博とか色事とかそれこそ私みたいな剣闘士系の奴は全部存在しないんだって。まぁアルはまだ子供だし、私も酒は嗜む程度。後半に挙げた存在しない施設は別にいらないからどうでもいいんだけどね? お堅い雰囲気であることは確かだ。
「……今回はスカウト、っていうことですけどあんまり住んでて楽しそうな町ではなさそうですね。ちょっと息が詰まりそう。」
「だね~。ま、こういうのは旅行とかでちょっと味見するのが一番いいのよ。」
さ、聖都までまだまだかかりそうですし。馬車に揺られながらゆっくりするとしますかね。




