76:おひさ!
遅くなり大変申し訳ございません。隔日にはなりますが再開していきます。
また最後に大事なお知らせがありますので、それまでお付き合いください。
やほー! みんな元気にしてた? ちょっとバタバタしててね、遅くなって申し訳ない。
現状報告の前に……、改めて自己紹介から行こうか。
私の名前はジナ。特に苗字は持たないただの一般市民だ。帝国の首都である帝都にて家を構え、弟子のアルと一緒に楽しい異世界生活を送っている。と言ってもこの名前は、単に戸籍に登録されているものでしかない。実はこれ私が適当に付けた名前でね。なんか頭に浮かんだ単語をそのまま名前にした感じの奴なのよ。この体の親に付けてもらった名前を憶えてたら良かったんだけどね?
これがなんでかって言うと~。実は元々は男で、現代の日本に住んでいたんだけど、気が付いたら今の女の体を手に入れ異世界にってわけなんですよ。
まぁそこだけならよくある『異世界転生』だったんだろうけど運の悪いことに奴隷スタートって奴だった。朝起きたらいいお天気だけど両手両足が鎖に繋がれてる奴隷、最高にロックでしょ? まさにクソ喰らえ、ってやつ。
「ほーんと困惑したよねぇ、あれは!」
んであれよあれよとドナドナされて連れてこられたのがこの帝都。
私を二束三文で買ったオーナーは運が悪いことに、か弱いレディが惨たらしく殺されるのを見て楽しむタイプ。さらにもっと運が悪いのは、それが一般的な趣味嗜好であるってこと。こっちからすればたまったもんじゃないでしょ? それで気が付けば裏のなんでもありな闘技場に放り込まれ、殺しを楽しむ狂人とご対面~!
剣どころかまともに戦った経験すらなかった私。このままでは『う~ん、クソ!』っていう辞世の句でも詠んで死ぬしかない、と思っていたけどそうにはならなかった。運よくこの体に宿っていたスキルを理解できた私は、何とか相手を切り殺し、文字通り『切り抜ける』ことに成功。無事生還したわけです。
ちなみにそのスキルってのが『加速』っていうもの。よくゲームとかで戦闘スピードn倍とかあるでしょう? あんな感じで自分の速度を取っても速くできるんだよね。
ま、その後はみんなも知ってる通り。
スキルによって生きながらえた私は剣闘士として生きるようになり、その後自身の付加価値を高めるために『ビクトリア』と名付けた仮面を被った私は、アイドルまがいのことを始めるようになる。流石に歌って踊るってのはしなかったけど、この世界はまだ現代みたいに発展しているわけじゃない。たまたまこれまで類を見ない娯楽として受け入れられた私は、一躍有名の剣闘士へと成り上がったわけです。
後はまぁ色々あって。弟子が出来たり、死にかけたり、奴隷身分から解放されたり、貴族の暗躍に巻き込まれたり、もう一人弟子が出来たり、自分の半生を生み出して劇にして演じたり……。まぁ色々あったんですよ。
ちょっと説明すると長くなるから、忘れちゃった人は遡ってみてくれると助かる助かる。
とりあえず纏めてみるとそんな感じ? 剣闘士時代に手に入れた力と技術を使って今も何とか生きている一般市民ってワケ。
「ほらアル、ピース! マリーナも!」
「ぴーすっ!」
「な、なんですかこれ!?」
こんな化け物みたいな一般市民なんかいるか! というツッコミには頷くしかないけどね? 色々と自分でもヤバいなって思うことやらかしまくってますから。それに自分を高める、って行為が剣闘士時代が長かったせいかルーティン化してますし、多分今後も増えていくと思う。ま、温かく見守ってくれればありがたいよね。
さて、今の目標なんだけどちょっとアルとマリーナの育成に力を入れようかな、って感じ。
この前までの目標だった自分をよりアイドルみたいな存在に、みんなの娯楽として確立した存在にしたいって目標は公演した劇のおかげである程度達成できたと思う。劇自体大盛況で終わったし、グッズとかの売り上げもオーナー兼プロデューサーの話を聞く限りウハウハらしい。
というわけで自分の目標がある程度達成できたわけだから、今度は弟子たちの手助けをしないと、ってワケ。アルが掲げる『私の隣に立てるぐらい強くなる』って目標と、マリーナの『伯爵に任じられるのにふさわしい実力を』という目標。師匠として二人のことを育成するのなら彼女たちの目標、叶えてあげなくちゃダメでしょう?
そんなわけで前々から計画していた『ドキドキ★ダンジョン攻略』作戦を実行に移しちゃおー!
ヘンリ様が手配してくれた魔法の先生の指導、そして私が教えられる剣の技術と実戦的な戦い方。まだまだ至らないところはあるけど、二人ともちゃんとついてきてくれている。でもこのまま同じ指導をしていても成長率は同じ、もしくは下がっちゃうかもしれない。ここでより大きくなるためにはより本格的な実戦を経験しよう! という感じだ。
でもまぁ無策でダンジョンアタックするほど私は無謀じゃないし、彼女たちにそれを勧めるほど放任主義でもない。まだまだやるべき準備が残ってるわけなので、それをパパっと解決したのちにダンジョンに向かうとしますかね?
と、いうことで。
今後とも、応援よろしくぅ!
◇◆◇◆◇
「と、いうわけで! 貴方たちには今から殺し合いを……。」
「ししょー、それ前にもやりましたー。」
「あ、そう? じゃあナシで。」
鍛冶師のドロに作ってもらった現代風スーツと伊達メガネを装着し、女教師ビクトリアちゃんに。教棒片手に黒板の前に立ってお決まりの言葉を言おうとしたが……、アルに遮られてしまう。まぁ確かに前もやったかもだけど、天丼って必要じゃない? 美味しいし。
まぁこの世界お米ないから作れないんだけどね。てんぷらは出来るんだけど。……え、それ違う天丼?
「テンドン、お話からして何かの料理の様ですが……。というかジナ様、その後ろにある緑色の板は? そもそもなんで私たち座らされてるんですの?」
「いや雰囲気大事かな~、って。これまで私の劇関連でちゃんと指導してあげられなかったでしょう? それを取り返すためにもまず形から入ろうと思いまして。」
そんな風に疑問を問いかける彼女たちが座るのは木製の学習机、そして私の後ろにあるのは皆さんおなじみの黒板だ。
ちゃーんと教壇とかも用意してるし気分は正に小学校の先生って感じ。アルやマリーナの年齢的に……、高学年担当かな? いいでしょこれ~、ドロに頼んだら一日で仕上げてくれたのよ。技術系で困ったことあれば彼女に投げとけば安心ですな。流石帝都のジョバンニ。一晩で仕上げてくれました。
まぁ私と違って完全な現地人であるアルとマリーナにこれから1000年以上後に興るかもしれない東の島国の初等教育の話をしても伝わるはずがない。私の奇行にも慣れてきたアルは『また師匠変なことやってるよ』、って顔してるしマリーナも最初よりは慣れてきたのか慌てはすれど隣のアルを見てすぐに姿勢を正している。……ちょっと反応が薄いのは寂しいね。
「じゃ、さっそくだけど本題に移って行こうか。前々から言っていたことだけど、二人にはダンジョン攻略に挑んでもらいます。」
黒板の下にあるチョークケースから白のチョークを取り出し、黒板の中央に『ダンジョン攻略』と書き込む。もう慣れ親しんだこの世界の文字だが、ちょっと汚い。まぁ立って壁に文字を書くなんて久しぶりだから許してよ、読めなくはないだろうし。もうちょっと練習すればまともになるだろうから。
「といっても無策で突っ込ませるほど鬼畜ではないよ? 今回の主目的は『二人に実戦経験を積んでもらう』という一点のみ。ちょっとサブで軽い社会勉強ってのもあるけどコレさえ達成してくれれば何も言うことはない感じだね。」
昔に比べると二人とも大分腕を上げてきているが、若干戦い方の幅が固まっている様な気がする。
実はさっき軽く私と打ち合いしてもらったんだけど、ちょーっと応用が利いていないというか。同じ相手と戦い続けている故に生まれる癖が見て取れた。二人ともヘンリ様の所に勤めてる兵士さんたちから色々教えてもらっているんだろうけど、あっち側にも時間の都合があるからどうしたって心ゆくまでの訓練は難しい。
となると自然と二人での模擬戦がメインになって来る。弟子同士の戦いなら時間の制限もないし、尚且つ実力が拮抗している。同門の仲っていうのも手伝って、そればっかり繰り返すことになっちゃう。
ま、早い話。アルは対マリーナ特化型、マリーナは対アル特化型になりつつあるって感じ。まぁそれでも実力は伸びはするんだろうけど……、ね? 染みついた動きが実戦の時に出ちゃって、相手がアルやマリーナじゃないのに、それに対応した動きをしちゃうってことになるかもしれない。
「アルがどんな道を進むのかはわからないけど、マリーナの場合伯爵さまへのルートが確定している。そうなると色んな相手との戦い、それこそ領地を襲う強めの魔物討伐とかやらないといけないんじゃない?」
「あ、はい。ジナ様の言う通り自身が先陣を切る必要があると思います。」
そうだよね。ま、この世界の貴族ってのはそれ相応の力を求められてるわけだし、そこは避けられない。
彼女の領土が今後どうなるかの詳細は知らないけど、既に実家であるララクラ子爵家は拡大と昇爵が決定している。でも実績がないと周りに嘗められちゃうから、誰から見てもその資格を表せる『パワー』ってのがとっても大事になって来るわけだ。あと普通に領地にとって害になる魔物討伐とかもしなきゃならないだろうし、そういう経験を上手く積むには、ダンジョンでの修業が最適だって考えたんですよ。
アルにとっちゃそう言った追加のメリットがあんまりないわけだけど……、大丈夫だよね?
「もちろんですよ! 置いていくとか言われたらキレますからね! ……それに、コイツに置いていかれるのはイヤですので!」
そう? なら良かった。んじゃ話を戻していこう。
「御両人の許可も取れたところで早速ダンジョンアタックの準備を進めていきたいわけですが……、ここで問題です。現在お二人にはダンジョンを攻略するにあたって決定的に足りないものが存在します。挙げようと思ったら色々あるんだけど、今回答えて欲しい回答は一つ! ヒントはこの場にいる全員にないもの! んじゃぁ……、アルちゃん!」
「え、足りないもの……。あ、迷宮の知識とかですか?」
ん~! それはそう! でもちょっと答えて欲しいのとは違う奴!
いや確かに知識ゼロよ私たち? 実はアルたちが迷宮攻略に挑む前に一人で突入して危険度の調査しようと思ってるんだけどさ、初見でまっさらなまま楽しみたいから敢えて情報を強いれてないのよ。そりゃ一般的なダンジョンアタックの際の注意点~とかは調べてるけど、今回挑む予定のダンジョンがどんな感じなのかは一切不明。……あ、二人には私が潜った後のフィードバック渡すから安心してね?
というわけで次! マリーナ行ってみよう!
「そちらではないとなると……、スカウト。斥候の方でしょうか? ダンジョンには様々なトラップがあると聞きます。それに宝箱も。そういった特別な技能も持つ方がいらっしゃらない。とかでしょうか?」
ん~! それもそう! でもアルと一緒! 正解だけど答えて欲しいのとは違う奴!
確かにみんな斥候とか罠の解除とか全く解らないのは確かなんだけど、一応解決策がないわけではないんだよね。私がスピードとパワーでゴリ押すって方法と、現地協力者を雇って攻略するっていう二つ。
あ~、これ私の設問が悪かった奴か。いや二人とも真剣に考えてくれたのにマジでゴメン。私が答えて欲しかったのは色々な事情でちょっと手が付けられなかったものなんだよね。
「ま、これ以上長引かせるのも悪いから言っちゃうけど……。正解は回復役、ヒーラーの不足だよ。」
「「あぁ。」」
うん、納得してもらったようで何より!
これまでケガとかした際はヘンリ様子飼いの術者の方や、教会から来てくれた人にお願いしてたわけだけど、今回目指すダンジョンがある場所は結構な遠方に当たる。船に乗って長距離移動しなきゃいけない場所。そんな所からヘンリ様の支援を受けようにも時間がかかり過ぎるだろうし、教会に頼もうにも現地教会への伝手が無いからねぇ。
「というわけでちょっとスカウトしに行こうかな~と。」
「スカウトですか? 短期間と言えどあまり聖職者の方を縛るのは……。」
「だよね、詳しくは知らないけどかなり難しかった気がする。」
二人の言う通り、聖職者。まぁ教会の人間を教会から離すってのは結構難しい。
あの人たちが教会内で力を高めたり階位を上げようとするにはその実力も大事だけど、教会でどれだけ奉仕活動に参加したかってのが重要になって来る。それにアルやマリーナみたいな一般信者に比べ聖職者の教義ってのはガチガチに固められている。人類を導く模範と成れるように、ってことだけど聞いてるこっちがちょっと引くぐらい厳しい。
まぁ抜け穴というか、緩和してもらう方法はあるみたいだけど……。
「そ。だから帝都の教会から『ちょっと悪いけどついてきてくれない~?』ってのは出来ないわけ。ヘンリ様の所からスカウトするのも、大事な回復役を拘束することになるから好ましくない。となると残された方法は……、ただ一つ!」
「「ひとつ?」」
「聖都にいって聖女様に直接お願いしてみよー!」
私が拍手をしながらそう言った瞬間、アルは過去の一件。あの神様絡みのことを思い出して顔を強張らせ、マリーナは『何言ってんだコイツ』という顔を向けて来てくれる。うんうん、その反応助かる助かる。後アルはさっさとそれを克服しちゃってくださいな、多分私目を付けられてるし、今後も何かと関わるかもしれんから慣れた方が楽だぞ。
「聖職者が外部に出るのが難しいというなら、許可されてる方法を狙えばヨシ! というわけで今から聖都に出発でーす!」
因みに許可されてる方法ってのは『聖職者の武者修行』って奴だ。
教会内である一定以上の功績を遺したあと、司教レベルの方に許可を出してもらえば外部に修行しに行くことが出来るらしい。まぁこの"功績"と"許可"の基準が結構曖昧みたいで、教区によっては『好きにしていいよ~! 世界見て大きくなって帰って来てね~!』と言うところや、『ダメ! 世俗に呑まれる! とってもエッチ! 死刑!』という地域もあるらしい。
「え、えっとジナ様? 何故聖都なのでしょうか……、何となくやろうとしていることは理解できるのですが、別に帝都でもよろしいのでは?」
うんうん、その通りだよマリーナちゃん。
帝都の教区はちょっと厳しめだけど別に許可してない訳じゃないからね。よさげな人見つけてスカウトして、そのまま大教会にいる大司教だっけ? レトゥス司教の伝手で会ったことあるけどあの堅物の塊みたいな人。あの人に文字通り殴り込みに行っても良かったんだけど……。ちょっとお誘いを受けましてね。
「実は聖女様、あのお婆ちゃんね? あの人に『回復役探してるんだけど良い人いない~?』って聞いたらさ、『活きの良いの揃ってるから一回おいで~』って返って来たのよ。二人とも聖都行ったことないでしょ? 観光にもなりそうだからいっかな、って。」
「え、ちょ! ちょっと待ってください!? 今、なんと!?」
「? 聖女?」
「そ、そうです! え、聖女様と交流があるのですか!?」
「そだよー、文通相手。」
そうそう。帝国というか、教会勢力全てにおける頂点とも呼べるお方。
面白くて人生経験の豊富さからか話してみるとめちゃ面白いお婆ちゃん、結構私と似て弾ける時は弾ける人だから話も合うのよね~。前々から『聖都おいで~』って言われてたからね。ちょうどいい機会だしお邪魔しようかな、って。
私がそう話していくうちに開いた口が塞がらないという感じのマリーナ、そんな彼女の肩に優しくアルの手が乗せられる。なんかもう色々達観した様な顔からは、『諦めて受け入れたら楽になるよ』という言葉が見て取れた。とても、優しい顔だ。
「ま、そう言うワケでいざ鎌倉。ならぬいざ聖都。腕のいいヒーラーを探しにしゅっぱーつッ!」
この度、『TS剣闘士は異世界で何を見るか。』がドラゴンノベルズ様から書籍化されることになりました。
6/5発売です。どうかよろしくお願い致します。
(https://www.kadokawa.co.jp/product/322501000520/)




