75:どんな味?
「加減してよバカァァァあああああ!!!!!」
「ご、ごめんて。」
「……あら、これ美味しいわね。……わァァァあああああ!!!!!」
あぁもう急に落ち着いてまた急に錯乱し始めないでよ……。はいはいおかわりね? 追加で焼き始めるから許してつかぁさいな。
私がちょうどいい具合の素材を発見したころ、何故か完全武装で200人くらい連れてやってきたヘンリエッタ様が現着しておられた。全員がガチガチの装備で、後ろに続く大型の武装を見るに海中用の装備や魔化で海上を走れる様な装備だったのだろう。
これは後で聞いた話なのだが、なんでもヘンリ様が皇帝陛下とお茶会してる時に私がバカンスに出発した話が出たみたいで、ちょうどその海域にメガロドン出現。付近を航海中だった船団が食い荒らされた、という情報を教えてもらったそうだ。話を聞いたヘンリ様は非常に強い不安を覚え、すぐさま私の元に向かうことを決定。すぐに動かせる精鋭200名(異形ちゃん含む)とたまたま"皇帝陛下が買い占めていた"対メガロドン用の装備を貸してもらってこの場に来てくださったらしい。
まぁそしたら浜辺に打ち上げられた巨大なサメに、その腹の中から出てきた血まみれの私。……泡吹いて倒れちゃうのもまぁ解らないでもない。
「心配だったのよ私! ここに来るまで、ほんと、ほんとにどうしようかと!」
「あ~、うん。最悪なお迎えしちゃってごめんね?」
「ほんとよッ!」
そしてようやく復活したヘンリ様に全身をくまなく確認された後、無事な私を見た後感情が爆発して号泣。サメの切り身をやけ食いしながら泣くというかなり器用なことをなさっているというわけだ。あとヘンリ様? それ私が食べようとしてた奴なんですけど取らないでくださる? ビクトリア様のものは私のモノ? あ、うん。そう……。
「ほんとに、ほんとにもうあんな心配させるようなことはやめて! 剣神祭の時だって……!」
「……ごめんね。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった。」
あの時のことを出されると痛い、実際一度死んでしまったワケだし、神が私のことを"まだ遊べるオモチャ"として認識していなければ多分ここにはいなかっただろう。一応あっちの不手際ってことで色々特典付きで帰してもらったわけではあるけどパワーバランスを考えればあっちの方が格段に上、もみ消すことだってできたわけだ。
先ほどまで私のことで泣き喚いてくださっていた彼女にそう言われてしまうと、こっちとしてはもう何も言い返せない。おとなしく謝って、今後気を付ける事しかできない。でもそれだけじゃ口頭の守るかどうかも判らない約束になっちゃうし……、今できるのはご機嫌取りのためにさっき回収してきた一番いいサメ肉を焼いて献上するくらいだね。
「あやまる、謝るけどさ……。」
「スゥッ~~~(ビクトリア様のお腹に顔突っ込んで思いっきり吸い込んでる人)」
「もう大分落ち着いてるでしょ。」
「あら、バレちゃった?」
そう言いながら私のお腹から顔を上げ、いつもの顔を見せてくれる彼女。少しは持ち直してくれたみたいだけど、ちょっとまだ目の周りが赤い。さっきまで泣いていたわけだから仕方ないけど……、この人その要素も使って私に絡んでくるからな。いつもだったら拒否してることとかもそんな顔されたら断るに断れんし。
渋々いろんなところをぺたぺた触り始めたり、水着のデザインを確かめ始めたヘンリ様を少し放置しながら周囲に視線を向ける。……え? あぁこの水着? ドロに作ってもらった奴。かなり頑丈だしちょっと魔化も施してくれてるからかなりいい品だよ、さっきまで血まみれだったのに全くしみてないしね。
ヘンリ様に連れられてここにやってきた兵士の皆さんは200名弱、この全員がヘンリ様の子飼いの兵たちらしい。中にはお屋敷で見たことある人間も何人かいるし、全員が手練れなのだろう。ま、そんな彼らも私が一人で倒しちゃったせいで無駄足だ。一応私を助けに来てくれたわけだし、メガロドンの肉を自由に食べて貰っている。
量が量だから好きなだけ食べて、お持ち帰りも自由な砂浜パーティって感じ? 結構な人数の魔法詠唱者がいるおかげでこっちが水とか火の用意をしなくてもいい上に、アルやマリーナの知り合いもいるからそっちに面倒を見てもらうこともできる。私は私でこのお方のご機嫌取りに全力を注げるわけだからありがたい話よ。
「ところでヘンリ。そろそろ触るのやめてくれる? もう満足したでしょ。」
「あら、まだ物足りないのだけど……。ちなみにビクトリア様? 水着の中に手を突っ込むのは……」
「さすがにキレるぞ♡」
「あら、ごめんあそばせ♡」
まったくこのお婆様は……。鼻血垂らしながら言っても迫力ないよ? ほらこれで拭きな。
「ごめんなさいね、あまりにも魅力的というか扇情的というかエッチというか……。多分さっきの衝撃がなかったら襲ってたわ。」
「……へ、ヘンリさん?」
「おほほ、冗談よ。……それでビクトリア様? せっかくだから聞きたいのだけれど……、あのメガロドン。どうやって倒したのかしら? 外傷が全くないし、見える傷は腹の一本。後学までに教えてくれないかしら。」
「あ~、うん。なんて言うんだろ、魔法?」
「魔法……、それは儀式的な? アルちゃんマリーナちゃんも一緒にやるタイプの。」
「いや、私オンリー。」
お目目を大きく開けながら驚きを表す彼女、まぁ私と付き合いの長い彼女だ。私が嘘をついていない時の雰囲気は理解しているだろう。故に私の言葉が本当で、あの巨大怪獣を仕留められるような魔法を持っているということになる。しかも外傷がほとんど残っていないことからほんの数回。最悪魔法一発で仕留めたことになってしまう。
いや間違ってない、間違ってないんだけど説明が難しい……! サメ映画をどうやって異世界人に説明すればいいんだッ! 謎アイテム! 予算の都合! 尺の関係! 謎ストーリー! クソッ! 言語化できねぇ!
「あ~、え~。……本当? いや本当なのよね。うん……。」
「いや、なんかごめんね?」
「い、いえ。別にいいのよ、うん。大丈夫なんだけど……。」
この時、ヘンリエッタの脳は高速で回転していた。メガロドン、それすなわち海の王者であり通常どれだけの"化け物"を用意したとしても討伐が難しい存在である。それこそ魔法史に残るような存在であれば話は別だが、魔法を扱わない近接攻撃主体の人間からすれば悪魔に他ならない。海中での勝負などもってのほかだ。
討伐したとしても、浜辺や海岸沿いなどの人類にとって有利なフィールドでのみ勝利することが出来る。そんな存在を魔法一発で殺す? ヘンリエッタ自身も卓越した魔法詠唱者ではあるが、それが可能かと言われれば『十全な準備を踏めば可能ではあるが、装備が整っている状態のことであり、水着というか下着一枚で勝負とか無理。死ぬ。』である。
それを、目の前の彼女が行ってしまった。普段のヘンリエッタであれば『ビクトリア様すごい! 国あげるわ! 抱いて!』で終わるのだがつい先ほどまで皇帝と談笑し、彼がビクトリアに対して興味を持っていることを確信したばかり。一度諦めたと言っても、そこに新たな要素。帝国有数の魔法詠唱者というものが付け足された場合、あの人は確実に彼女を手に入れようとするだろう。それは彼女自身にとっても、ビクトリアにとっても良い結果に繋がりそうにない。
「あ、あの。ビクトリア様?」
「うん、どしたのそんな顔して。」
「あのメガロドンの討伐。私たちとの合同討伐って形で処理していいかしら……、その。ここにいるのは全員私の配下だから、隠せると思うし……。」
「あ~、うん。何となく解った、いいよ。任せちゃう、それに多分もっかいやれって言われても無理だろうしね~。」
おそらく政治がらみだろうなぁ、と思いながら彼女はそう答える。ヘンリエッタの性格から考えて、誰かの手柄を奪うような行為は避けるべきこと。けどそれをしないと私に何か不利益が出るのだろう。もしくは彼女が考えている計画にズレが生じるか。普段であればいつもの雑談のように話を振れたのかもしれないが、ここまで必死に向かい、そして彼女の姿を見た際のショックや何もなかったことへの安堵。その蓄積のせいで少し疲労がたまっていたのだろう、その姿は普段の堂々とした彼女よりも、少し弱々しかった。
ゆえに。
「ほいっと。」
「んぐっ!」
焼き上がったばっかりのサメの切り身を、口に突っ込まれる。
「これじゃ足りないだろうけど、お礼ね? そ~んなふにゃっとした顔してないでさ、楽しもうよ。」
そう言いながら彼女が指さす方を見ると、いつの間にか自分の配下の子たちが色々と騒ぎ始めている。討伐する存在がすでに討たれていて、残っていたのは大量のおいしそうなサメの切り身。持ち主が好きにしていいと解放したことにより急遽始まったお祭りの様なもの。皆、楽しそうな顔をしている。
「いつも頑張ってくれてるし、今日ぐらいは羽目を外していいんじゃない? さ。」
そう言って、手を差し伸べる彼女。
私は自然と、その手を握っていた。
◇◆◇◆◇
「……と、言う訳でそんな形ね。"例の件"の処理はちゃんとできたし、メガロドンの方も無事解決したわ。思ったより時間が掛かっちゃって申し訳ないわ。」
「いいよ、それぐらい。わざわざありがとうね、ヘンリ。」
あれから一月近く後、無事劇の公演も終わりそのお祝いとしてヘンリ様のお屋敷に招かれた私とアル。ヘンリ様だけでなくマリーナもこの場にいる。ま、お祝いって名目で呼ばれたけど実際はあの時のサメ関連のお話だったんだけどね? あとちょっとしたパーティ。
私が討伐したメガロドンはあの場での決定通り私とヘンリエッタ様が率いた私兵たちで処理されたことになった。サイズがサイズだったし、国や他貴族の船も結構やられていたらしくちょっとした報奨金が出て私の方は終わり。後はヘンリ様に色々任せることになった。なんでもメガロドンの骨や皮は結構いい素材らしくそれを王家に献上という形で売り飛ばしたり色々していたらしい。
ただちょっと皇帝と揉めたというか、『そもそも、なんでもっと早く教えなかったのこのバカ生徒!』とか言いながら殴り合いのケンカをしたらしく、それが原因で全部丸く収まるまで時間が掛かってしまったようだ。……いや何してんのアンタ!
「それと頭部の剥製も完成したのよ、ちょっと大きすぎてお屋敷に飾れないから……、新しく土地を買って記念館を作ることにしたわ。」
「スケール……。」
というわけであのサメの頭は記念館行き。メガロドン以外にも帝国近辺の海洋生物の剥製とかも色々飾って博物館みたいにする予定だそうだ。そもそもメガロドン自体海の魔物でかなり強力、倒そうにも場所が悪すぎて討伐隊をいくつも壊滅させられるのを考えたら放置しておく方がまだ得、という生物らしく討伐数もかなり少ないらしい。
「優秀な魔法使いをそろえてもこちらが発見する前に船ごと食べられる、というのはよくある話なのよ。数をそろえて雷系の魔法を当て続けることさえできれば倒せない敵ではないんだけどね? その前提を整えるのが海上では不可能に近いのよ。」
ま、とにかくそんなわけで討伐数も少なく、その肉体を回収するのも海だから難しい。回収できたとしても魔法で焼かれてボロボロだから私のように綺麗に倒したのは珍しいことみたいだ。なのでせっかくだから剥製にしちゃいましょ! ってノリみたいね。そう言う本人は私の手柄にできなかったことがかなり不満みたいだけど……、まぁそれは我慢してもらうしかない。
「さ、つまらない話はこのぐらいにしておいて……。用意できたそうよ?」
「お! 待ってました~!」
ヘンリ様がそう口にすると、お屋敷の使用人さんたちが料理を運んできてくれる。そ、アレだよアレ。
「実はフカヒレ初めてだったんだよね~。」
そう、フカヒレである。メガロドンから取れた食材は肉だけじゃない。というかサメと言えばコレというべき食材だろう。あの時は加工の手間から後回しにしちゃったけど……、いや~! 楽しみ! フカヒレの姿煮と、そのスープ。わざわざ製法とかレシピとかお屋敷の料理長に横流ししたかいがあったよ! それに量だけは有り余ってたから失敗してもやり直せたし、乾燥は魔法で短縮可能!
私も製法とかを全部知っているわけではないので、断片的なものをお屋敷の料理長にプレゼントし、後はプロにお任せ。ようやく彼を筆頭にした料理チームから完成した報告を受けたのでみんなで一緒に試食会ってワケだ。というか今日の会はそれがメインなんだけどね? サメの後始末の話とか全部おまけ。
「私たちはあまりというか、食べずに捨てる部位だと思っていたのだけれど……。ビクトリア様のところでは食べていたのよね?」
「そうそう、と言ってもかなりの高級食品だったけどね~。だから私も初めてなの。ま、料理長と試作してる時に味見は少ししたけどね? 味を楽しむよりも、食感を楽しむ料理。このあたりにはない珍しい感触だから面白いよ~。そして、なにより……」
「なにより……?」
「お肌にいい。」
その瞬間、ヘンリ様の目が変わる。
そ、フカヒレにはコラーゲンとか色々入ってて美肌効果がすごいのは有名な話。それに滋養強壮や骨の強化、あと腰痛やリウマチの緩和などにも効果があるって言われてるそうだ。ヘンリ様はお肌ピチピチの若作りお婆ちゃんではあるが、それはかなりの積み重ねと努力によって成り立っているもの。美味しい上に美容にもつながるってなれば……、好きでしょ?
「……サメ狩りつくそうかしら?」
「やめてね? さ、アルもマリーナも一緒に食べよ~。」
その後、みんなで一緒にフカヒレを食べました! おしまい!
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