74:サメ、ウマイ
いやっほォーッ! 最高だぜぇ!
ジナちゃんの"スコア"に巨大水棲怪獣メガロドンが追加されちまったなぁ! オイ! しかも魔物? 化け物? 怪獣だから背中の骸に加算される気配もない! まぁそもそもアレは人間だけが積み上がっていくみたいなんだけどねぇ! あは―! 害獣処理できた上にデメリットもないし、討伐報酬としてこんな大量なサメ肉とフカヒレが食べられるなんて天国かァ!
(……っと、テンション上がり過ぎだな。自制ッ!)
ミスティック・シールドによって死亡したメガロドンを引きずりながらアルたちの待つ浜へ向かって歩き出す。アルもマリーナも信じられない物を見るような目でお口ぽかんのまま静止してしまっているが、サメ映画なんてこんなもんよ。特に低予算な奴はね? ストーリーとかがクソでも、まだ魔法っていうアメコミ映画のCGより魅力的なものを使ってるわけだし、拍手喝采してあげるべき。そうすべき。
「ではちょっと失礼して……、うん。死んでるね、さっさと処理しちゃいましょ。」
メガロドンに触って確認してみるが、全く反応がない。鼓動も感じられないし確実に死んでいると言えるだろう。まぁ別に死んでいようが、ただの気絶だろうがこれから私のすることは変わらない。せっかく目の前に未知の異世界食材があるのだ、よく食に拘り過ぎて魂を売ったと言われている元日本人として吟味せねばならないだろう。
にしてもさっき撃ったミスティック・シールドってどんな仕組みなんかね……? 自分で発動しておいてなんだけど、アレの原理が全く解らん。愛のルーンと力のルーンで魔法の根幹と方向性を指定、その後富のルーンでその威力の向上を図ったのは理解できるんだけど明らかにそれ以外の要素があった。攻撃にしか使っていないけど、多分アレ防御。"シールド"としての能力もあっただろうし。
(しかも八つ裂き光輪みたいに回転する"線"での攻撃じゃなくて、シールドの"面"でぶつかって行ったしなぁ。)
まぁそりゃそれなりの魔力込めてるし、生成した魔法の質っていうんかな? それも決して悪い物ではなかった。かといって巨大怪獣を一撃で仕留めてしまう某光の巨人の光線技みたいな威力が込められてたかというと……、かなり疑問が残る。
そんな威力でメガロドンが死ぬあたり、サメに対しての特攻とかが入ってそうだ。もう少し検証すれば詳細が分かってくるんだろうけど、もう一回使える気もしないし……、アレか? よくある番外編にだけ登場する素敵必殺技とかと同じノリか? サメ映画を元ネタにしてるから特攻付けちゃった的なノリ。あ~、考えてたらそんな気がしてきた。というわけでみんなもサメ映画を見よう!
「……あはッ、誰に言ってんだろうね~。」
そんなことを考えながら、腰に下げていた剣を抜く。
魚の基本的な捌き方、三枚おろしとかそういうのはまだわかるんだけど怪獣サイズを捌けって言われてもどうしたらいいのか解らない。頭から尻尾の先まで50mくらいあるからなぁ。今は砂浜に何とか上げてはいるんだけど、サイズ的に半分以上海に浸かってるし。とりあえず内臓全部抜いて海水にでも晒しておこうか。あんまり放置しても腐るだろうし。
「かなり苦労しそうだけど早速やっていこうか。……あ、ガールズ~! ちょっと時間かかると思うから先にご飯食べといていいからねー!」
あんまり凝っていないものだがいくつか料理を持ってきている、さっきまで昼食の準備をしていたわけだから説明しなくても見ればわかるだろう。BBQの方の食材はまだ火を通していないけど、炭は入れてるから後は火をつけるだけ。アルが魔法でつければ一瞬だし、放っておいてもお腹ペコちゃんになることはないだろう。あ、でも食べ過ぎるのはナシね? メガロドンのお味見タイムが残ってるし。
<加速>十倍速
速度を上げ、同時に地面を蹴る。腹を割くにはまず高さが必要だ。全長50mというだけあって、砂浜に寝かせた後も軽く家レベルの高さがある、地面に足を着けたまま捌くのはちょっと難しい。そのため空中での作業が出来るようにルーンで足場を生成しながらミスリルの剣をメガロドンに突き刺し、作業を進めていく。サイズ比のせいでマグロをおままごと用の包丁で切っているかのような感覚だが、できないことはない。
「御開帳~。……うん、もうこれは洞窟だな。」
首元から肛門のあたりまで無理やり切り裂いて中を覗いてみるが、まるで洞窟をのぞき込んでいるような気分。昔児童向けの学習漫画で人間の体の中にミクロ化して入ってみる、みたいな内容があったけどそんな感じだ。あと異臭というか、魚臭さがヤバい。鼻呼吸はしたくなくなるレベルだね。うん。鼻栓欲しい。
そのまま内部へと侵入し、普通の魚との差異を探していく。とりあえず変なものはなさそうだったが、一つ一つの臓器のサイズも大きく、おそらく心臓に当たるだろう部位は私と同じくらい、いやそれよりも大きなものに成っている。ちょっとまだ心配していたのだが、少し触ってみてもこの心臓が動き出すような様子は見えない。これでようやく確実に死んでいるという確証を手に入れられたわけだ。
「とりあえず他もまぁ問題なし、変な病気とかを持っているって感じでもなさそうでよかった。……これを除いてだけど。」
そしてそんな臓器たちの中で一際異彩を放っている、いや異臭も放っている存在と言えばメガロドンの胃だ。怪獣レベルの体を維持するためか中身もパンパンに詰まっている。あとあんまり考えたくないのだが、胃の出っ張り具合から人の全身の輪郭というか、見たくないものが見えてしまっている。これ中割いたら出てきちゃう奴だ。
「……さすがに死んでる、よな? 正直何出てくるか解らんから触りたくないんだけど……。」
そんなことを言いながら内臓の除去を始める。やらなきゃ食べられないからね? やるしかないのだ。
今回内臓の方はぜんぶ焼却処分の予定だ。さっき殺したばっかりなので鮮度は十分なんだけど、食べる気に成れないってのが理由だね。普通の魚でもそうなんだけど、寄生虫とか毒とかの問題がある。どっかの内臓開いて異世界アニサキス(クソデカ)とか出てきたら一生もんのトラウマになりそうだしさ、こういうのは焼却処分するのに限るって感じ。
剣と魔法で無理やり内臓を剥がしたり分割したりしながら腹の中の洗浄を進めていく、サイズがサイズだし作業的に返り血を気にしているといつまでたっても終わりそうにない。そのためメガロドンの返り血で全身ドロドロになりながら作業中だ。外に出した部品はメガロドンから離れた場所に魔法で穴をあけているので、その中に放り込んでいく形。
作業自体は難しくないし、単純作業なので何の苦もないのだが、あまりにも返り血を気にせず作業しまくっているので傍から見たら私が死にかけてるように見えるほど血まみれになってしまった。だってこいつの心臓割いて持って行かないと運びにくいんだもの……。
「ヘンリ様とかに視られたらどんな反応するんだろ、っと。……覚悟して胃を開けるか。」
全ての内臓を外へ運びきった後、無傷のまま外へと持ち出した胃袋に相対する。ちょっとグロテスク、溶けた人間とか入ってる気がするのでアルとマリーナからコレが見えない場所での作業だね。ぶよぶよした白い膜に真っ赤になってしまった剣を開き、割いてみる。瞬間出てくるのはひどい異臭、仕方ないとはいえかなりヤバいなコレ。
「うわ、上半身しかない。あ~、これ触りたくないな。生存者ちゃん~、いる~?」
中から出てくるのは程よく嚙み砕かれた船の残骸らしき木片や、すでに息絶えた人の死体。あとは見たことの無い深海系の魚に、サメの頭部っぽいものが見える。それ以外にもちょっと融けた人間サイズの魚だったり、私たちがよく食べる小魚が大量にあったりという感じ。どれも消化途中だったようでいい感じ? に溶けだしている。一応一通り中を見たが生存者はいないようだ。
まぁ生きていたとしてもここに回復魔法の使い手はいないし、胃の中にいる時間が長ければ長いほどドロドロに溶けていく環境のようだ。正直助かる可能性は少ないだろう、といっても確認せずに火を付けたら中から『まだ生きてたのに―!』とか聞こえてきたらトラウマものだからね。確認するのはしゃーない。
「とりあえず人の原型残ってる奴は隔離しておくか。流石に一緒に燃やすのは忍びない。」
というわけでなんか指が溶けちゃってる腕とか、頭部骨だけになってる上半身とか、そこら辺のグロテスクなものを取り分けていく。私はまぁ慣れてるけどコレはさすがに未成年に見せられないわ。溶けてるし、なんかねちょねちょしている上に若干霊体系のアンデットになりかけてる奴もいる。はいはい、後でちゃんと弔って上げますからね。ビーチの端っこらへんに山にしておいとくけど後で聖職者呼んでくるからね、待ってな。
にしても結構な人数いるなぁ、もう全部溶けちゃった人もいるだろうけど船の残骸とかを見る感じどっかに航海中だった船団が襲われた感じかな? 船の竜骨の残骸らしきものが複数見えるし。もしかしたら胃の中探したらお宝とか出て来たリするのかね? ……ま、いいや。とりあえず人っぽいの全部隔離できたし。燃やしちゃお~。
火のルーンを宙に刻み、サメの内臓たちに着火する。とりあえず爆発とかしないように全部に穴開けてガス抜きとかしておいたから後は放置しておいても大丈夫だろう。端っこに置いておいた死体たちは砂掛けてアルたちには見えないようにしてるし……、火の番でもしてもらおっかな? 延焼してサメちゃんが先に焼けちゃうと困るし。
「アルにマリーナ、今大丈夫……」
そんなことを考え彼女たちの前に移動し、声を掛けようとしたのだが……。
「(ぽけ~)。」
「(ぽか~)。」
ありゃりゃ、未だ二人とも宇宙ネコの様な顔をしたまま静止中だ。さっきと同じ場所で突っ立っているようだし、目の前で手を軽く振っても何も反応がない。目の前で起きたことに対して脳の処理が追い付いていない感じなのだろうか?
まぁ巨大怪獣メガロドンが出て来てそれを私が一瞬で倒しちゃったわけだから、気持ちは解らないでもない。私も前世だったらそうなってそうな気がするし。けどな~、私の弟子なんだしこれぐらい『あ~、よくある~!』とか、『次私がやっていいですか?』みたいな感じで対応してくれて欲しかったんだけどなぁ? 高望みしすぎ? だったらごめんね♡
「あ、そうだ。いいこと思いついちゃった!」
思いついたら即行動、ってことですぐにメガロドンの元まで移動。もう一度切り開いたサメの体内に入ってみる。サイズがサイズだから結構見るのが難しいんだけど……、あったあった。ここならすぐに食べられそう。腹の骨に当たる部分を素手で折り、刃が通るスペースを確保する。その後は剣で対象部分を切り抜いてブロックサメ肉の完成って感じかな?
「サイズはちょうど両手で抱えられるぐらい。5㌔ぐらいなんだけど……、これでも全体のほんの一部なんだよなぁ。」
これ全部食べきるにはどれぐらい人数がいるんですかね? 数百トンあってもおかしくないだろうし……。もうこのまま帝都に持って帰って炊き出しとかした方がいいかもしれん。持って帰る方法がないし、帝都まで鮮度が持つか解らないけど。っと、それを決める前にまず味の確認しとかなきゃね~。
空に水のルーンをさっと書き、二つの水球を生成する。大きい方が私の体を清める分で、もう一つの小さい方が切り身を洗う分だ。料理の前は手を洗わなくちゃね~? パッと切り身を投げ込み、私は私で血を落とす。確かクーラーボックスの中に小さめの包丁とまな板を持ってきていたはずだ、とりあえずまだ殺したてほやほやなわけだし毒見も兼ねて生でいっちゃおうか。
「というわけでお料理しちゃいましょー。」
サメ肉を水にくぐらせている間に私も体に付着していた血を洗いきった、アルたちを復活させるためにパパっとやっちゃいましょう。この後"焼"の行程もするだろうということでBBQコンロに火を入れながらブロック肉をちょうどいい感じの切り身にしてみる。そこから更に一口サイズの刺身に切り分けていって……、っと。こんなもんか。
魚の身自体の色は白で、ちょっと赤い線が入っている感じ。まぁ色合いだけで言ったら鯛とかが近いかな? 質感は結構肉厚で、変なぬめりとかも特にない。生で食べるには結構顎の力が要りそうだけどマズくはなさそうだね。あ、あと一番危惧してたアンモニア臭も特にない感じ。新鮮なおかげかな?
「では、頂きまーす!」
何もつけずに口の中で転がしてみる。
あ~、うん。はいはい、そんな感じね……。うん、美味しんじゃない?
「白身っぽい味なんだけど、かなり濃厚でコクがある感じ。あと脂も結構あるから……、そのままは苦手な人がいるかも。多分焼いたりフライにするのが一番おいしい気がするな。」
普通に美味しいというか、滅多に食べない久しぶりの刺身ってことで結構バクバク食べちゃうけどそのままじゃ素材の味を完全に引き出せない感じだね。……あ、そうだ。しゃぶしゃぶとかいいんじゃない? 焼きは時間かかるし、フライをしようにも脂がない。けどしゃぶしゃぶは魔法だけで何とかなっちゃうもんにー。
さっと宙に火と水のルーンを描き、空に浮かぶ熱湯の水球を生成する。その中にさっき切ったサメ刺身の残りをちょっと入れまして……、パクリ。
「あ~! これだ! うんうん、いいね! うまい!」
さっぱりしてかなり味がよくなった。おいちい。あ~! こうなってくると出汁とか取りたくなって来るなぁ! 昆布ない? 昆布! お出汁でしゃぶしゃぶとかさ、後は醤油とかでさっぱり頂きた~い! あ、あと大根おろしとかも欲しい! 大葉と、おろしを合わせて、そこにお醤油! ここにさめしゃぶを乗せたら……、くぅう! 熱燗が欲しくなりますな!
あ~ッ! 日本に帰りたい! なんでこの世界お醤油ないの!? 味噌もなんでないの!? 豆あるし自分で作れって? んなもんできれば苦労しないわボケぇ!
「っとと、また思考が変な方に。……うん、塩でも十二分にうまいね。」
お肉用に持ってきたお塩だけど、これでもかなりうまい。さてさて、食べた感じ毒がありそうにも思えなかったし、美味しい調理法も大体見えてきた。さっさとアルとマリーナの口にコレ放り込んで覚醒させますか!
案の定というか、やはり彼女たちにとってメガロドンの肉は舌に合うものだったらしく、口に放り込んだ瞬間数秒フリーズした瞬間に、『うんまぁッい!』とか言いながらようやく復帰してくれた。アルもマリーナも若いということがあるのか、私がちょっと脂っぽいと思った刺身もかなりバクバクと食べてくれている。
(料理人冥利に尽きるよねぇ。)
メガロドンの塩焼きも出したのだが、そっちもかなり好評だった。いい感じに脂が焼けて非常にいい香り、白身魚って焼き過ぎると結構ぱさぱさしちゃうんだけどそういうのも一切なし、前世じゃ『サメはマグロよりもうまい』みたいな話聞いたことあったけど、あながち間違いじゃないかもしれない。しかも普通の部位でこれだ、普段はお行儀とかを気にしてるマリーナが齧り付いてぐらい美味い。これがカマとかの旨味が溜まってそうな部分になると……。
「楽しみだね~。そうと決まれば解体作業進めていこうか!」
「ふあいふぁってふぁふぁさい!」
「ふぁふぁいたちふぁんふぁってへふぁいます!」
「食べきってから話しな~。」
いっつもいいもの食べさしてるとは思うんだけどねぇ? あんなにがっついてるの見るとちょっとなんかやきもきしちゃうかも、なんて。まぁ私は私で前世の記憶を保有している、つまり1000年以上後の食にまみれた世界で飲み食いしてたわけだ。前々から食べるのは好きだったし、結構金も掛けていたから旨いものを食べていた自覚はある。このメガロドンも……。
"本職"が調理すればもっと旨い調理法があるのだろう、けれど私にはそれがない。ポテンシャルは高いが、磨く術がないってわけだ。多分元の世界の食材よりもうまいんだろうけど……、上限じゃない。それを彼女たちに食べさせてあげられないのはちょっと嫌かも。だから多分純粋に楽しめてないんだろうなー、って感じ。
「だけど。」
たぶん、今から取り掛かる部位によってそれは変わる。というか変えて欲しいと願っている。あまりの美味さにもう全部どうにかなるレベル、ポテンシャルだけで踏みつぶしていく素材の味。マグロの大トロよりもカマの方が上手いという話がある様に、このメガロドンにもそんな部位があるはずだ。徹底的に解体して……、最高の部位を見つけてやる!
思考を加速させながらサメを解体していく。量もサイズも巨大だが、物言わぬ骸はただ料理されるだけ。ルーン魔法によって生み出された水球や氷の板に次々の乗せられていくメガロドンのお肉たち。作業が進むごとに返り血を浴び続けるジナ。切り取り、取り出し、小分けして、味見、その繰り返し。
そして、彼女の全身が真っ赤に染まった時。
「んぐ。……これだッ! これ! これ! やっぱここだァ!」
ハイになりながら、お目当ての部位を見つけ雄たけびをあげる彼女。
そして、運の悪いことに。
ちょうど彼女が肉塊片手にサメの体外に出た時。
ヘンリエッタ様率いる救援部隊が到着していて。
先頭を走っていた帝国のNo.2は、
全身サメの血で真っ赤になっている彼女の姿を見ることになる。
「…………あ。」
ビクトリア様大好きクラブ会長の彼女が、泡吹いてぶっ倒れたのは語らずとも理解していただけるだろう。
感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします。




