72:うらばなし
「それで? どうだった初めての海は。」
「よかったです!」
「砂の感覚がかなり面白かったですね。」
そっか、そっか! 二人が楽しそうな顔してくれてお母ちゃん嬉しいよ! まぁママじゃないんですけどね! ってことで設営終わったわけだけど……、何する? 一緒に海で遊んでもいいし、パラソルもビーチベッドもちゃんと人数分用意したからのんびりするのもヨシ。ちょっと早いけどもうご飯の用意始めちゃってもいい。ま、ご飯の場合は用意できるまで二人でちょっと遊んでてもらうことになるけどね?
ここにくる計画を練ってた時は『泳ぎの訓練~』とかちょっと考えたけど、今日はお休みデー。そういう面倒くさいの、ややこしいのは全部忘れて好き勝手に遊んでいい日。ちゃ~んと遊び道具も持ってきてるよぉ? 砂遊び用のバケツとかスコップでしょ? 大きめの軽いボールでしょ? 後浮き輪に、角を丸めた大きめの木の板。浮力すごい奴。
「色々ありますね~。……というか荷物の割には少なくないですか? あそこに滅茶苦茶デカい箱ありますけど。」
「あぁ、来た時にジナ様が運んでいらっしゃったアレですか。」
うん? あぁ、アレね。あの箱はクーラーボックスだよ。氷敷き詰めて魔物素材で冷気が外に出ないようにした箱。中には今日のお昼に食べる食材とかが入ってるの、こっちで調理するのも手間だし家で先に切ったり下処理した後は焼くだけのとか完成品とかを入れている。……あ、はちみつレモン水作って来たから飲む? というか飲んどけ、熱中症対策。
「あ、はい。いただきます……。」
「(アル、あれツッコミ待ちですか? 箱のサイズが棺桶より二回りぐらい大きいのは。)」
「(いや、多分師匠アレ普通に食べきる気だと思う……。)」
「(……今日昼だけですわよね? ここで食べるの。)」
ふんふ~ん♪ いや~、ちょっと持って来過ぎたかな? 奮発して肉だけじゃなくて海鮮系も買いこんじゃったし、生で食べたらおいしそうってことで夏野菜系も持ってきちゃった。BBQ用のものもあるし~、楽しみ。あ、あとガールズ小声で話してても聞こえてるからな? 箱のサイズが大きくなってるのは単純に冷やすための氷のせいだから。人を蟒蛇を見るような目で見ないの。
「「はーい! ごめんなさーい!」」
「許しまーす。っというわけでこれね? お腹冷やさないように気を付けて飲みな。」
そう言いながら中身の見える透明なガラス瓶を投げ渡す。それ魔物素材とかの混ぜ物してないタダのガラスの瓶だから割らないようにね? 破片危ないから。もし割っちゃったら触らずに放置して私呼んでね? まとめて持って帰るからさ。
渡したその瓶の中には、黄色い液体が収まっている。はちみつと水と氷が入った瓶にレモンのスライスを入れたお手軽瓶だ。スポドリとか用意したかったんだけどさすがにこの世界じゃ手に入らないからね、適当に良さそうなもの見繕って感覚で配分を決めた飲み物だ。ま、ただの水よりはいいでしょ。あ、マリーナ先にちょっと飲んでみてくれない? 苦手だったら普通の氷水用意するから。
「はい……。あ、おいしいですね。これ。」
「そう? よかった~。アルには家で味見してもらってたんだけどね。お貴族様の舌に合うのかはわからなかったからよかったよ。」
「お貴族様って……、田舎貴族ですよ私は。それに正直言いますけどジナ様、下手な貴族より大分いい食生活してますからね? 実家に居たころの私が『もしかして今日何かの記念日ですか?』って思うレベルのバンバン出してますからね?」
「あ、やっぱそうなんだ。」
そう言いながら『なんかたまに食事が豪勢すぎて今日死ぬんか? って思うときあるもん。あと量が量だし。』と続けるアル。んな死刑囚の最後の晩餐じゃないんだから。ちゃんと"食べられる分"しか作ってないよ私は~! え、量の方はもうおかしいの確定してる? 質の話?
確かに……、食事には結構お金使ってるからね。体を作るわけだから質にも気を遣っている。そういえば食材とか買うときに使ってる市場の人たちによくおまけしてもらってるけど、そういう面もあるのかな? 大量に買うからおまけしてもらってるのかと思ってたけど、大量に高い品ばっかり買っていくから上客として扱われてるとか?
「だと思いますよ、私が一人で行ってもかなりおまけしてもらえますし。」
そっか……。というかマリーナさ、話の流れで気になったんだけど、実際貴族の食事ってどんなのなの?
「そうですね。我が子爵家がそこまで裕福でなく、なおかつ尚武気質なため豪華なものや手の込んだものはあまり好みません。そのため一般的な貴族の料理とは違うと思うのですが……。肉系とパンをメインで多く食べたまに収穫された野菜という感じでしたね。」
「へぇ~。」
まぁ確かにララクラ付近そんなに発展した産業なさそうだったし、そういう感じになるんだねぇ。基本的にこの世界の人って大体パンとかの穀物を多めに食べて腹を満たす人が多い。でも地域によって違いはあって、帝都だったら港から魚を、ララクラさんちだったらその尚武の気質から狩りで肉をって感じでパンの量を減らしてそっちを食べることが多いみたい。
この前マリーナちゃんのパパであるララクラ子爵と話す機会があったんだけど、確かにあの人『兵と同じ釜の飯を食う』って感じの価値観を持っていたっぽいから普段の食生活もそんな感じだったんだろうねぇ。
「調理方法もそこまで凝ったものではなく単に火を通したものが多かったです。ですのでヘンリ様のお屋敷に厄介になり始めたころは料理の洗練具合に驚かされましたね。『毎日会食レベル、というか食べたことの無い物ばっかり……! テーブルマナーこれであってますか!?』という感じでしたし。」
「まぁヘンリ様のお屋敷の料理って多分最高ランクとかそういうのだろうしねぇ。それはしゃーない。」
「……ジナ様も人のこと言えませんからね? ご自宅で頂いた際にお屋敷と遜色ないレベルの料理が、頭おかしい量で出てきた時の気持ち考えてくださいよ。『なんでこの人市民やってるんだ?』って今でも思いますもの。」
「あ、あはは……。」
「量とか品目とかヤバいですもんねぇ。私が師匠の弟子になった時からそんな感じでしたし、もう慣れちゃいましたけどよくよく考えれば色々おかしいんですからね師匠。剣闘士やめてから更に磨きがかかってますし。」
え~、そぉ? まぁ料理とか半ば趣味になって来てるから作り過ぎたり品目多くし過ぎたかなぁ? って思うけどそこまでじゃないでしょ。流石に本職には負けるって。趣味的な面もあるから色々試したり、それこそヘンリ様のお屋敷で働いてる人に色々聞き込んで実践とかしてるけどまだまだですよ、私は。
あとたくさん同じものを食べ続けたら飽きるし、栄養が偏るでしょ。ヨソはヨソ、ウチはウチ。だからアルは『私なんて故郷にいた時おかゆ一杯とかザラでしたからねー!』って変な自慢しないの! 親御さんのところに家畜をつがいで送って豊かにしちゃうぞ!(帰った後、本当に送った。)
「っと、ご飯の話になっちゃったしもう食べよっか。ほーい、ガールズは遊んでこーい。」
「「はーい!」」
投げ渡した遊具を受け取った彼女たちの背中を眺めながら、食事の準備を始める。危ないことをしてないかあっちの様子を眺めながらだけど……、まテキパキ進めていこうか。
普段料理する際は時短というか、お腹空かせたアルを待たせるのが可哀そうなので適度に『加速』しながらやることが多いのだが、今日は二人の思い出作りのために来ているようなもの。あんまり早く用意しすぎて二人の邪魔をするのは避けたい。海で泳ごうとした瞬間に『ごはんよー!』で中断させちゃうのは忍びないからね。
(適度にゆっくり、進めていきますか。)
◇◆◇◆◇
ところ変わって、帝都。その中央部に位置する巨大な城に視点を移す。
「久しぶり、かな? よく来たね先生。」
「お招きありがとう、陛下。今日じゃなければこれほど嬉しいことはなかったと思うわ。」
陛下、と呼ぶ彼に対して自然体のまま返す彼女。城の中に作られた庭園に招かれたヘンリエッタは、この国の頂点にして自身が仕える主である皇帝の対面に座る。公爵家の人間であろうと帝と臣下という身分の差はひどく大きい、普通ならばその場で切り捨てられてもおかしくない所業である。しかしながら彼女はそれを許されている。
すでに天に召された先帝の元許嫁であり、その盟友。また彼女の目の前にいる皇帝の教育係を務め親代わりに近いことをしていた彼女。帝国の全てにおいて優先される皇帝の命に反することが出来る数少ない存在、それがヘンリエッタ・マニスカラ・クストス・アプーリア。ヘンリ様と"彼女"に慕われている人間だった。
「あぁ、彼女かい? すごい入れ込みようだね。ちょうど海にでも出かけているんだったか。」
「えぇ、そうよ。なんで貴方が把握しているのかは不思議だけど。」
「優秀な人材は早急に囲い込む、鉄則だろう? あなたが教えてくれたことだ。」
二人が話題に上げる彼女。"ビクトリア"という名で活動している女性。
元剣闘士で、奴隷。人狩りに遭いこの町へと連れてこられたせいか出身地は不明、人間の限界を軽く超えた速度で行動できる『スキル』を保有している可能性があり、剣神祭に出場し優勝するという実力も持っている。奴隷解放後もその力を高め続け確認が取れていない部分も多々存在するが確実に現役時よりもその力量は向上しており、解放後にルーン魔法を使い始めた。
商業・文化にも造詣が深く、自身をイメージ化し大々的に売り出すことで巨額の富と新たな経済効果を起こした。またこの国のものではない深い教養を持っていることも推察される。つい先月から自身の半生を物語とし、劇場で公開されているがおそらくその大半が"ブラフ"。剣闘士の生活期間や、自身の名を売り出した時期を考えると『他国の密偵』などの線は確実に消えるが、何か隠していることは確定している。
「……そうね、"人"の重要性。そして"駒"の扱い方、教えたのは私。けれど人のものを盗ってはいけない、とも教えたはずだけど。」
「確かにそうだ。しかし先生? 彼女はまだ"誰のものでもない"のでは?」
そして、彼女が持つ特異な関係性を挙げる時、教会勢力とのものが挙がる。
そも。帝国と教会の関係性は、過去の地球世界と同じようにかなり入り組んでいる。まず、帝国の建国。皇帝の立場を確実とするために"神の認可"が用いられている。皇帝は神に宣誓することによってこの地、帝国を治めることを認められ、その神への宣誓には教会勢力の助力は不可欠。そのため表向きには帝国と教会の関係性は非常に安定していると言えよう。
しかしながら、この教会勢力は帝国だけに収まらない。神が実在し、現世にかなりの頻度で手出しをしている関係上この世界における宗教は一つしかない。その善性を信仰する人類、その悪性を信仰する魔物などと違いはあるが神は一柱であり、宗教も一つである。故に国が違えど信じる神は同じであり、国境を越えて教会勢力は協力関係にある。
「この場合、問題となるのは……。」
「貴方のお父様と同じように、他国との戦争時に『教会からの援助を受け取れないこと』、でしょう?」
その国が民に悪政を敷いている、魔物などに乗っ取られているなどの例外を除き、教会勢力は戦争に関与することはない。彼らのスタンスは『神の教えを広め、人に安寧を齎し、その数を増やす』ことであり、人間同士の殺し合いなどには手を貸さない。それは多くのフリー治癒魔法詠者も同じであり、『聖職者であることを辞め国家に忠誠を誓った者』という例外以外戦場に詠唱者を連れていくことは難しい。
「ま、それがこの世界のルールだ。だが、ルールには抜け穴が存在している。全能である神も、そのお力を制限なさっている。例外ではない。」
「……。」
全ての施政者が考えること、『いかにして教会勢力をこちらだけに味方させるか』。これまでの皇帝たちが必ず一度思案し、放棄してきた考え。
その長年考えられていた机上の空論に、一石が投じられる。
"ビクトリア"の存在だ。
教会勢力、単なる司祭や司教だけではなく、そのトップである聖女と交友関係がある。それは複数回の文通を確認していること、転移で聖女殿が帝都に訪れた時に彼女の家に直行していることからも明らかだ。さらに先日起きた異常気象発生時、即座に教会から招集されたことを見るに確実に教会勢力と深い関係性が見られる。
そしてこれほどまでに教会と強い関係を持ちながらも、世にも珍しい"無宗教者"。
この世界に生まれ落ちた瞬間から切っても切り離せないはずの宗教に興味を持たず、神への信仰がほとんどないことがその言動から見受けられる。『皆が同じ宗教を信じている』という絶対的な前提があるため違和感を抱いても"勘違い"で済んでしまうソレ。非常に、面白い。
「教会勢力とは"友人"の関係しか持たない彼女。彼女を勧誘しても、信者ですらない者をこちらで抱え込んでも、何の問題もない。そして彼女がこちらにいるということは、あちらに対してより強力なカードと成り得る。」
そして、彼女が"切り札"ではなくただの"ババ"だったとしても問題はない。その身に宿る力量は帝国最優と名高い我が親衛隊の面々に匹敵、もしくは凌駕しているものであり、同時に4属性以上の適性を持つ魔法詠唱者だ。ルーンというマイナーな方法を使用しているが、その適性の多さはそれだけで評価に値する。
上から数えた方が格段に早い実力と、自身を売り出し富を得たという実績、そして帝国のものではないとはいえ確固とした教養。すぐにでも爵位を与えて抱え込んでしまいたい人材と言える。
「いい考えだと思わないかい、先生?」
「そうね、"皇帝"としては正しいのかもしれないわ。……ただ、"生徒"として、あの子に頼まれた"息子"としては0点ね。どこで教育を間違えたのかしら。彼女は、"私のモノよ"?」
二人の視線が、交差する。
「十二分に理解しているとは思うけど……、私は勝てる勝負しかしないわよ?」
この私にカードを引かせるつもり? と問いかける彼女。確かに目の前にいる"息子"は、自身が愛情をもって接してきた友の忘れ形見ではある。先帝の子で、先帝が選んだ人の子供、教師役を任された日から第二の母として振舞いながら接してきた。だが、自身がいるこの世界は必要があれば肉親すら踏み台にしてしまう世界。
私はその"必要"を無くして選択しなくてもいい場を作るタイプなんだけど……。その時になって、カードを切ることを躊躇うほど私は優しくない。
「神は『人を導き補佐する者』として聖職者たちには厳しく当たる、しかしながら今を生きる者たちに対しては基本何の強制もしない。故にもし貴方の企みが成功したとしても、神が動くことはまぁないでしょう。」
しかしながら、それは絶対ではない。
これは年寄りの感覚になってしまうのだけど……、おそらく確実に神は動く。
神が動けば即座に帝国そのものが潰されてしまう。神の意に反したことをしたという事実は、周辺諸国にこの国を潰しても良いという大義名分を与えることに他ならない。全方面で戦闘になってしまっても戦えるぐらいの体力は存在しているが、神に見放された皇帝に人が付いてくるわけがない。多くの兵や将が離れ、最終的に全て崩壊して終わるだろう。
故に、外から潰される前に内部で手を打ち、周りに動かれる前に全て終わらせる必要がある。勘違いならそれでいい、だが少しでもその可能性があるのならば用意するしかない。今はもう停戦済みだが、ビクトリア様が剣闘士だった頃に行われていたドワーフ国家との戦争を止められないと理解した時から、私はその準備をしていた。
「面倒だからもう面と向かって言ってしまうけれど……、いつでもひっくり返せるのよ?」
「……あぁ、理解している。最初は自分の目を疑ったけどね。」
「でしょうね。」
そう言いながら軽く空を見上げる彼、若いころの先帝を思い出させるような動き。
あえて"人の耳"がある場所でビクトリア様やマリーナに対して例の話題を振ったのだ。私の言葉は"彼の耳"を通して伝わり、直ぐに事実確認をしたであろう。あの時にはもう用意が整っていて、彼に警告の意味を含めてその多くを曝け出した。
(懐かしいわね。)
やろうと思えば、今この場で始めることが出来る。彼女には冗談として言ったけど……。すべてが終わる前に、最低限の犠牲で国を立て直す。けれどそれを選ぶということは目の前の彼を殺すまで止まれないということ。選ばなくていいのならそれに越したことはないけれど、それがこの国にとって、帝国にとって必要ならば。私はためらわず拳を振り下ろそう。
「……わかった、潔く手を引くよ先生。もう彼女には手を出さない、それに先生が考えていた作戦のことも"私は聞かなかった"ことにする。急進派の者たちを御しきれなかったのも私の責任だからね。自分から断頭台に上がるような趣味はないさ。」
「賢明、ね。」
えぇ、それでいいの。貴方が、先帝と同じように拡大をもって進もうとするならば全力で止めていた。私たちは恨みを買い過ぎている。上が貴方の父から、貴方に代わったことでなんとか相手側に怒りを収めて貰っている様な形だ。最初はあちらから攻めようとしているところに防衛戦争としてこちらが仕掛けた形だけど、やり過ぎてしまったのは事実。
今は国内に残る膿を吐き出す時間なのだから、目先の欲に負けて外征など選んではダメ。
「肝に銘じるよ。と言いたいところだけど彼らが私の言うことを聞いてくれるかは……、話が別だけどね。私自身まだ若いわけだし、実績も何もない。彼は彼らの意志で動くだろうし、その結果がこの前の侵略戦争だ。」
「まったく、子供もいるのですから自分の支持基盤ぐらいしっかり固めなさいな。こっちで処理するのも面倒なのですよ?」
「違いない。」
そう言って軽く微笑む彼。能力がないわけではないが、何かと人材に恵まれないわよねこの子。すぐに投了したくなるほど悪いカードではないんだけど、いいカードほど手から零れ落ちていく感じ。ま、一番いいのは私が持っているんですけどね!
「はぁ……、ハーバルだったか? 彼女と剣神祭で戦った相手。それも持って行かれる上に、ビクトリアも駄目か。まぁ彼女の気質的に先生の方が上手く扱えるとは思うが……。惜しいな。」
「あら! 私が使うんじゃなくて、彼女が私を"使う"のよ?」
そうそう、そこを間違っちゃダメよボク君。彼女は私のものだけど、私も彼女の物なの。純愛ってヤツね~! 正直ウチの旦那とかに対して愛はあったし、子供たちも等しく愛してた。孫なんか可愛くてどうにかなっちゃいそう。でもね? 恋ってしたことなかったのよ。初めてあの人を見た時……! あぁ、思い出すだけでどうにかなっちゃいそうだわ! エンリットちゃんのこと怒れなくなっちゃうわね!
「…………。」
「何、その『久しぶりに実家に帰ったら母親が自分よりも若い役者のガチ恋勢になっててちょっと引いた』時みたいな顔は。」
「え、あ~。うん、いいと思うよ、うん。」
まったくこの子は……。
「あ、そういえばなんだが彼女が行った海の話なんだが。なんでも巨大ザメを最近見かけるようになったらしい。たしか……、メガロドンだったか?」
「え?」
……え、ちょっと待って?
メガロドンってあれよね? 体長50m級の化け物ザメで見るもの全て噛み殺していく海の悪魔……。
高速で思考を巡らせる、最悪の状況と、彼女たちが持つスペック、そして状況を設定し重ねていく。海中での戦闘、まともな装備はおそらく持って行っていない。呼吸の限界に、水の抵抗。そして、"彼女"の性格的にあの二人に危機が迫った場合。間違いなく庇う。あり得る、ありえてしまう。
「だがまぁ討伐隊が出たそうだし、発見海域も先生のビーチから離れて……。」
「帰ります、ハーバルッ!」
"何かあったとき"のために連れて来ていた自身が持つ最高の盾の名を呼ぶ。
ビクトリア様がいて最悪の状況に陥るとは考えづらい、だが考えれば考えるほど不安に陥ってしまう。海は恵みを生み出す母でもあるが、全てを飲み込んでしまう魔物でもある。
「お呼びでしょうか。」
「すぐにビクトリア様と合流します、兵を招集し対サメ用の装備を集めなさい!」
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