表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
日常編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/86

70:カーテンコール













(ぬぅわぁん! もん戦闘シーン長すぎィ! この尺決めたの誰! 私だよッ!!!)



脳内で叫びながら異形の振り落としを剣の腹で受け、地面へと受け流す。舞台に剣を突き刺すわけにはいかないので、その角度にも気を付けないといけない。あまりにも急、それこそ普段私がやるような相手の力をそのまま地面へと叩きつけるように方向転換させる技術は使えない。そんなのしたら明日から公演できなくなっちゃうからね……。


いや、あのさ。言い訳させて貰いたいんだけどね? まず私って今加速してるわけよ、三倍速。つまり人よりも三倍長い時間を体感しているわけよ、目の前に異形がいてある程度制限しているとはいえ確実に私を殺しに来てる異形が。三倍長く私の前にいるのよ。それだけで滅茶苦茶ストレスなのに、観客から見えなくなるっていう懸念のせいでこれ以上倍率を上げることが出来ない。



(そりゃ私だって『加速』しかない訳じゃないけどさ……。)



最近は10倍速、ちょっと無理して12倍速でやり合ってる相手だよコイツ。無理がありますって……。


バク転しながら蹴り技入れてみたり、あえて得物から手を放して殴ってみたり。手を変え品を変え色々やってますけどどうあがいても攻撃力が足りないのよ……。そりゃ最終目標がこの子を殺すとか倒すじゃなくて、『いい感じに劇の演目として倒す』だから攻撃力いらないけどさぁ。あからさまに急に弱って意味不明な倒れ方とかしちゃ興ざめじゃん? あと単純に、演技の中でも技術の差で負けるのがちょっと嫌。



(まぁこいつも同じようなこと考えてそうだけど。)



あの日、剣神祭の日からかなりの回数剣を合わせているせいか、ある程度コイツの手癖や思考パターンってのは理解している。相手も同じようにこっちのこと把握してるだろうけどね? 舞台に立ってやっている手前ここで流血沙汰を起こすのは絶対に避けないといけない、故に彼の最大の強みである『再生』を前提とした戦い方は不可。


私が剣舞に取り込んでる蹴りなどはそのまま受けても勝手に『再生』してくれるから放置でよいが、斬撃は必ず剣で防がないといけない。刃が付いていない剣とはいえ私の膂力と三倍速が乗れば肉に深めの傷をつけることは可能。故に確実にそれは防御せねばならない。そしてそれを遠ざけるためには積極的に攻撃して相手の手数を減らす……。



(ん? これって?)



ほぼ、同時に手を止める。いやもちろん鍔迫り合いしながらなので全然違和感はないはずだ。


うん、これさ……。お互いが色々やり過ぎちゃってる感じ? あ、だよね。目線で解るわ。あっちもちょうど今冷静になって気が付いたのか、『ごめんちゃい』って視線が送られてくるし、多分私もそんな目してる。流石に表情は変えてないけどお互いの纏う雰囲気が殺気から一段階下がった。そして大匙1の謝意が追加された感じ。う~ん、気合入れ過ぎたね。


私は『ビクトリアとして勝ちまで進めないといけないし、苦戦しても負けるなんて絶対許されない。』あと単純に制限下の勝負に負けたくないから本気でやっていた。そして異形もおそらく『仕事として舞台に立っている以上オーダーは完遂してそれ以上をするべき、いつもの『再生』は絶対使えない。そして手を抜くのは観客にもビクトリアにも失礼。負けるにしてもいい負け方を。』と思った結果本気でやっていた。


……うん! 二人ともやり過ぎ!


しかも異形ちゃんは私と違い人前にでた経験とかほとんどない、あったとしても数十人。しかも関係性もお客じゃなくて同僚とか仕事仲間とかそういうのばっかりだろう。こいつ剣神祭までの剣闘士時代思考とか結構制限されてたし……。そりゃ初めてがこんなクソデカい舞台でクライマックスのシーン任されるとか緊張するよね。緊張のあまり最初からフルスロットルしちゃうのも解るよ。



(ねぇ異形っち、うんうん。ごめんね? 二人ともやり過ぎちったね、うん。んでそろそろ時間的にいい感じだから、〆の準備はいるから。合わせられる? あ、いけそう。よかった~!)



両者鍔迫り合いの状態から思いっきり弾いて、剣舞を再開する。技の構成は体を大きく使う大技多めで、さらに演奏チームへと指示出しをすることでクライマックスへの準備に移行させる。音楽が変わることで私からは指示を出せない演出たちにも意図が伝わり、ライトや魔法で場が整えられていく。


よしよし、じゃあ場も整ったことですし。後は演者がバシッと決めちゃいましょう!



両者ある程度離れた位置から剣舞は再開される。先ほど二人とも後方へと距離をとったが、彼の方が飛距離が短い。出来るだけ舞台の中央で見せられるように私が距離を詰める。直線移動だけに加速を使用し、一気に異形の前へ。それを迎撃しようと彼の攻撃が飛んでくるが、それはこちらも把握している。


体を大きく見せながら、観客が全身を見ることが出来るように大きな動きでそれを回避しながら、合間合間にこちらからも攻撃を入れていく。しかし体に当てることはしない、寸止めか腹を当てる程度。そして徐々に戦況がこちらに向いているように動きを変化させていく。



(BGMも終わりまで残り10秒!)



目線で彼に詫びを入れ、少しだけ強く打ち込むことで体勢を崩してもらう。普段ならこの程度で崩れるほど軟な鍛え方はしていない男だが、彼にも終了までの時間は伝えている、音楽もなんどか聞いてもらって覚えているはずだし、私が決めに行くことを理解してくれたのだろう。


異形ちゃんがよろけた隙に、後ろに下がり強く踏み込みながらもう一度彼に向かって走り出す。


剣を回転させながら空へと放り投げ、その間に異形へと突貫する。姿勢を崩していた彼はすでに体勢を直しかけていたが私の飛び蹴りを確実に受け止められるほど戻せてはいない。剣の腹で蹴りを受け、私はそれを踏み台へと変える。目指すは放り投げた剣へ。


空中で回転するソレを掴み、同時にルーンを宙に刻む。空中で私を支える足場と、剣への発光の魔法。透明な足場に足裏を合わせ、地面へと向かうために蹴りつける。手には強く光り輝く剣を持ち、それを異形の横。ちょうど観客から剣が見えるように、叩き落とす。


ま、これでおしまいってわけだ。



















「ふぃ~、なんとかなったぁ……。いやマジでゴメンねいーちゃん。」


「いや、こちらも申し訳ない。緊張しすぎて色々加減を間違ってしまった。」


「お互いにね~。」



何とか最後まで演じ切り、舞台裏で軽く言葉を交わす。お互い慣れない環境・状態でやり合ったからもうヘトヘトだ。肉体的にはまだ余裕があるけど、精神的にかなり削られている感じ。いや最後の締め、演目としての締めをミリアムちゃんも出来るように練習してもらっててよかったよ……。ちょっと呼吸整えられるくらいの時間貰わないときついっス。



『こうして、私は剣神祭を勝利した。ま、色々と語れなかった部分はあるけれど……、私の半生を伝えることはできたんじゃないかな?』



呼吸を整えながら舞台の中央で"ビクトリア"として言葉を紡ぐ彼女を見る。当初の予定では私が最初の語り、そして最後の語りをしながら〆てそこでカーテンコールだったんだけどそうなると私の負担が結構大きくなるってことで複数の代案が用意されていた。総支配人のエンリットと色々話した結果、私が大丈夫なときはそのまま。無理そうな時は逆に過去の私が"私"として締めをするっていう代案が用意されることに。


最後まで私が演じ切るルート、ミリアムちゃんが大人の"ビクトリア"として最後を締めるルート、そして今日使われる大人の"私"と、子供の"私"の両方で締めるルート。その時の状況に応じて選択していく、って感じだね。っと、そろそろ私も行かないと。あ、異形ちゃんもカーテンコール出てもらうからね?


お客さんの反応視る限り十分成功してるだろうし、エンリットちゃんが箱から出て何とかこれ以上爆発しないようにしてるから絶対やるはず。大丈夫大丈夫、バレないって。というかバレてもヘンリ様の保護下にいる貴方だったら大丈夫でしょうに。あ、スタッフさんそろそろ? だよね? じゃ、いってきまーす!



『それからのことは……、っと。"私"の方がよく知ってるって。』


『だね。』



子供の時の"ビクトリア"ではなく、今の"ビクトリア"をトレースしているミリアムちゃんの声に合わせるように私も舞台に上がる。さっと距離を詰めて、彼女を抱きかかえ観客席へと顔を向ける。う~ん、改めてみるとすごい人だ。とりあえずハプニングらしい事件は起きず、全力で演じることはできたけど……。楽しんでもらえたかな? ま、ここからよく見えるヘンリ様の席を見る限り出資者様的には大満足だったようだけど。



『それからのことは、まぁ簡単だ。剣神祭を勝利した功績によって私は市民になった、その後は今みたいに何かを演じてるってわけだ。』


『あんまり喋り過ぎるとね、今の雇い主に怒られちゃうからさ。ごめんね?』



私のセリフに、アドリブでミリアムちゃんが"ビクトリア"の言いそうなことを付け足す。というかソレ私が言おうとしたセリフなんだけど。……もう君が明日から全部する? 戦闘描写は難しそうだけどそれ以外ならもう出来るんじゃない? え、さすがに無理? そっか、残念。


抱き上げていた彼女を下に降ろし、二人で姿勢を正す。



『では、今日はこれでおしまい。』


『またどこかで会えた時は……、よろしくね?』













 ◇◆◇◆◇










「…………やばかった。」


「なにアレ……、いやほんとに何? すごぉ……。」




観客席の一角、一般席で先ほどまでの劇を見ていた冒険者の二人は半ば放心しながら周りに合わせるように手を叩いていた。正直開いた口が塞がらず、色々と他人にお見せできないようなお顔になっているが……。まぁ周りも大体そんな感じなのでそこまで気にしなくても大丈夫だろう。それに彼女たちは自分の顔の状態をどうにかするよりも、この胸の中で暴れまわる感情を何とか形にしようと藻掻くことに注力していた。



「まずさ。」


「うん。」


「音ヤバくない? アレが"音楽"ってやつなんだろうね。」



今回劇で使用された楽器や音源、そもそも中世に入ろうかというところの時代であるこの世界において複雑な金管楽器などの楽器類は存在どころかその原型になったものさえ存在が怪しいところ。そんなところにいきなり"彼女"が千年単位でのブレイクスルーを果たしてしまったため、聞いている側からすればたまったもんではない。


一瞬にしてその音の圧力に押しつぶされ、脳が新たな世界に対応するため活性化し、ようやく音を拾うことが出来る。それまで祭りや吟遊詩人、教会などの人の声や簡単な楽器などでしか知らなかった音が一気に押し寄せてくる。正直音楽だけでも金を払っても良かったのではないかと思ってしまうレベル。



「あと演出、って言うのかな。ライトとかさ、魔法とかさ。……どれだけの魔法使いが裏にいるんだろ。」


「すっごい目を奪われた。でも冷静に思い出してみると色々やばい。」



劇の最中、ライトや煙幕などの小道具。そして魔法による光源の追加や効果音の追加が多々行われていた。これまで劇中における魔法の描写は小道具や大道具による誤魔化しが一般的であったのだが、そんなもの知るかというレベルで魔法使いが動員され何かのCG映画でも見ているのかと思えるほどに使用されている。


魔法使いは基本貴族か、その血を引くものであり、その有用性から貴族家や軍に囲いこまれているのが常である。そのため劇なんかの娯楽に使用するなど不可能なのだが……、今回は違う。後援者が彼女である以上その心配は一切なく、さらに主演もルーンという詠唱いらずの魔法使い。彼女たちがこれまで脳内で想像していた物語や戯劇、それを軽々と超えるものが眼前に広がっていたのだ。



「ほかにも色々、演技とかさ。ストーリーとかさ。私たちの推しの人生とかさ、言うべきことはあるんだろうけど……。やっぱり最後。最後ヤバかった。……マジでナニアレ。」


「わからん。ただヤバいことだけ解る。」



剣神祭の時、席をとることが出来なかったため立ち見ではあったが彼女たちもあの試合を見ていた。あの死闘とも呼べる戦い、アレと同じことが目の前で繰り広げられていた。それに、二人とも冒険者として戦いに身を置いている身だ。あの壇上で戦っていた二人がどれだけ規格外なのか、そしてアレがまだ全力ではないこと、観客に魅せるために成立させた剣舞だということを理解していた。


だが、単なる剣舞なはずなのにあの圧力。二人がお互いに相手を倒すためだけに発した圧力はここまで届き、ただその光景を目に焼き付ける以外の行動をとれなくさせた。強さへの抗いきれない憧れか、それとも生命の危機を感じたが故の動物的な本能か。それを理解することはできなかったが、とにかくあの二人がヤベェことだけは理解できた。


戦いにおいて何も知らぬ幼子などであればただ目の前に広がる神話の様な戦いに目を奪われるだけでよかったのだろう、だが"見える様に調整されている"ことを理解してしまった今。自分たちの推しのすごさを再確認してしまう。



「というかさ、最後の戦闘の時の魔法の演出さ。できるもんなの、アレ。」


「いや無理でしょ。支援魔法って対象を見定めて、その上色々リンクさせなきゃできないのに……。」


「となると……、アレ全部ビクトリア様が自分でやってる?」


「だと思う。」



こそこそと二人で顔を合わせながら会話を続ける二人、すでに舞台ではカーテンコールが始まり劇の総支配人で演出もしていたらしいエンリットという女の人が何かを話している。何故かここから見ても小刻みに震えている様な気がするが、緊張でもしているのだろうか。



「そういえばだけど、ちょうど今ビクトリア様に抱きかかえて貰ってるあの子役の子。あの子も演技すごかったよね。」


「確かに。ビクトリア様はホントに"ビクトリア様"って感じだったけど、最後のあの子もほんとに推しがそのまま小さくなったみたいな……。」



作中の彼女が、過去から引っ張ってきた当時のビクトリア様だと言われても信じてしまうような演技。確かに顔の造形でそれはないと言い切れるが、その身に纏う雰囲気が完全に自分たちの推しだった。すこしパンフレットを覗いてみれば今回の公演以外にもいくつか出演の経験があるみたいだし、多分イケイケの子役なのだろうと納得する二人。


でも最後の締め、あそこの"ビクトリア"二人が対面するシーン。身長の差はあるけれど確実に彼女が二人いた。正直アレを見ただけでもう満足というか、一瞬見れただけでお腹いっぱいになるようなシーンがあり過ぎてもう溺れているというか。ほんとすごかった。


そんな話をしているうちに、カーテンコールも終わり一斉に拍手が始まる。二人も顔を合わせて会話していたがちゃんと内容は聞いていた、一旦感想会を中断し自分たちもそれに加わる。



「いや~、マジでもっかい見たい。」


「わかる。……でもお金がねぇ。この後のグッズ販売とかを考えると絶対ムリ。」


「だね。色々落ち着いたらどっかのダンジョンでも潜って金稼がないと。」



そう言いながら帰宅の準備を進める二人、三時間近く座り続けたせいか体がしびれている。何とかそれを動かしながら立ち上がろうとしたとき、ちょうど視界の端で出口に向かって疾走していく集団が見えた。



「ん? なんだろアレ。グッズの取り合いとか?」


「グッズ? でもアレなんか山のように搬入してなかった? 来るときちょっと見たじゃん。ほら転売と爆買い対策で売れ残り覚悟の大量仕入れ! って書いてたし。」



そう言われ思い出すのが劇場の外に作られた会場、ここに来るまで屋台とか色々出ていたがそれ以上に目を引いたのが港の集積場かと勘違いしそうなほどに積み上げられたビクトリア様関連グッズの山。これまで販売されていたもののみならず、今回の劇に合わせて作られた新規の品が所狭しと並べられた特大スペース。


お貴族様たちが文字通りの箱買い、複数の商品が梱包されている箱ごと買っていくことが何度かあったためそれ対策にこれでもかと並べてあったあそこのことを考えるに品切れはありそうにない。



「あの~。」


「「え?」」



ゆっくりと歩く人の波に乗り、会場の出口に向かって歩きながら話していると後ろから男性の声。結構若めの青髪の男が話しかけてくる。荒っぽい冒険者を仕事としている手前そういうナンパとかの対処は慣れたものであるが、声の覇気のなさからそういうのではないと判断できる。振り返ってよくよく見てみれば服装からおそらく貴族かそれに準じる様な人間のようだ。



「舞台終わった後に主演の方が見送りをしに来るらしいですよ、それじゃないですかね。」


「「え、マジ?」」



彼女たちがそういった瞬間、その話を聞いていたのか周囲の数名が全速力で出入り口に向かって走り始める。その勢いというか、覇気というか、必死さのレベルに若干引いてしまう三人。おそらくその数名がなければここにいる彼女たち二人も全速力で走るに違いなかっただろうが、その光景を見て冷静になってしまった。



「あ~、それでかぁ。」


「ミスったね。」


「お二人はよろしいので?」



そう彼に聞かれ、顔を見合わせる二人。先にかなりの集団が突入していってしまったし、おそらく今頃人が集まり過ぎて団子状態になっているだろう。ビクトリア様のスタンス的に時間ギリギリまでより多くの人と交流しようとしてくださる方だから……。かなりの待ち時間になりそうだが、今から走って人に塗れ最悪溺れるぐらいなら待った方が良さそうだ。



「うん、時間なら有り余ってるし。」


「グッズの販売店とか巡って時間潰しながら隙を見る感じにするよ。……あ! 教えてくれてありがとね!」


「いえいえ。」



そう言いながらゆっくりと歩き始める三人。会場に収まっていた人数のせいか列の進みはかなり遅い、まぁ彼女たちのようにようやく"イベント"に気が付き全力で走っている人間も後ろからだとよく見えるし、それも理由なのだろう。



「そういえばお兄さん、気合入ってるよねその髪。わざわざ染めたの?」


「(え、ちょ! この人多分貴族様だよ! あんまり気安く喋んなって!)」


「あぁ、いえ。お気になさらず。貴族家に生まれた身ではありますが、継承権はありませんので。どうぞ気にせず。あぁ後、コレは地毛でして。」


「へぇー、でもいいなぁ! 私も染めてみようかと思ったけどアレ庶民にはちょっと高いんだよねぇ。」


「そうそう、それに一時期青髪ばっかになってヤバかったもんね。」



そう言いながら過去を思い出す二人、一斉に髪染めの魔道具が売れたと思えばその数週間後に色落としの魔道具が売れたあの時期。運良く? 運悪く品薄で買えなかった二人ではあるが、青色が大量発生したことで一斉にブームが鎮火。色を落とすための魔道具が飛ぶように売れ、時期を逃して髪染め仕入れ過ぎた魔道具店の親父がガチ泣きしていたことを思い出した。



「それでさ、お兄さんはどうだった? せっかくだしちょっと感想聞きたいのよ。」


「教養持ってるお貴族様に話聞けることなんてめったにないしさ!」


「あ~、そうですね。すごくよかったと思いますよ。ちょっと昔を思い出してしまいましたし……」











 ◇◆◇◆◇










「ビクトリア様ァ!」


「こっちむいてぇ! 握手してくださいましぃ!」



はいはい、ビクトリア様ですよ。いや~、お礼と言いますか普段こういうので顔出すのに『疲れてるから~』とかの理由で顔出さないのはダメだからね。劇の終わりに玄関口まで出て帰る皆さんにご挨拶ですよ。最初はサプライズ、って予定だったのだけどどっかから漏れたみたいでお貴族様のお嬢様方が大量にやって来ちゃった。ヘンリ様あたりが零しちゃったかね? それが一気に広まってこうなったとか。



「見に来てくれてありがとう、楽しんでくれた?」


「もちろんですぅ!」


「それは良かった。今後とも、よろしく。」



人の量が量が、お貴族様たちが猛ダッシュしたのにつられたのか、それとも独自の情報網があったのか、市民階級の人も我先にとすっごい勢いで飛んでくる。なんだろ、オイルショックの時のトイレットペーパーの気分。ほらほら、私は一人しかいないから取り合わないの。一般人が三桁程度体重掛けて来てもブレないぐらいの体幹は鍛えてるけど限度があるよー! そんなんじゃサイン書いてあげないぞ♡


……自分で言っててアレだけどやばいな。なんかもう人間やめてる。今更かもしれないけどさ?



「はい、サインかけたよ。大事にしてね?」




さて、まだ今日が初日だけどこの反響を見るに劇は大成功と言ってもいいだろう。自分でも上手くできた感触があるし、エンリットちゃんがカーテンコールでのあいさつが終わった後舞台裏で大爆発したことからそっちでも保証されてる。


ここから一月近く公演し続けないといけない訳だけど……、まずは目先の成功をお祝いしようか!










これにて新章こと、『日常編』は終了となります。長期間お付き合いいただきありがとうございました。


次回からは前章通り、何話か幕間を挟んだ後。迷宮に向かう準備を進めていきます。



感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ