68:収束する事実
何でもない、いつも通りの日々。
そんなときほど、全てが崩れ去ってしまう。
あの日は本当に何もない日だった。いつも通り朝起きて、昇り始めた太陽を背に浴びながらただ剣を振るう。型を体に合わせるように、父親が実戦の中で積み上げてきたものを型として昇華させたもの、私が受け取ったものをただ振るう。あまりにも私が一人で狩りに行ってしまうものだから少しでも力になる様にと教え始めてくれたコレはすでに私の血肉となっている。
(もっと勉強した方がよかったのかも、だけどね。)
ただ机に向かうよりは体を動かしている方が好きだった私は、本当に必要最低限しか教わらなかった。父はまだ若く現役で、母は私を産んだ後一向に子供を授かる様子はない。生まれ落ちたこの家に課せられた使命は領主を支え次の主に教えを説くこと。父が現役で、母がこれ以上子供を産むのは年齢的に今後より難しくなる。父が他の女性を愛さない以上、私がやるべきことは血を繋ぐこと。まぁ早い話が繋ぎだ。
そのせいか両親から家のことについて特に言われることも、教えを説く者としてより多くの教えを叩き込まれるようなこともなかった。両親二人とも優しい人間だったこともあり、私は自由にのびのびと過ごすことが出来た。自分の興味のあることだけ学び深め、おそらく両親か領主に決められた相手と子供を残すのを待つだけ。本当は父のようにより多くの知識を貯め込み、それを私が次代に繋げるべきだったのだろうが……。当時の私はそこまで頭が回らなかった。
何となく数年後には相手がいて、子供を産んでいるのだろうとか考えていた。その子の教育のために自身も学びを深めないといけないことは理解していたけど。自由に過ごさしてもらった弊害か、それが自分のことだとはあまり理解できていなかった。毎日同じように鍛錬し、家への負担を減らすために平原や森へ出て狩りをし、たまに本を読んだりバイオリンを弾いたりする。それがずっと続くと思ってた。
「ビクトリア。」
「お、父さん。どうしたの?」
「ママが朝ごはんだから呼んできなさい、と。……もうパパとは呼んでくれないのだな。」
あはー! 私も結構いい歳だよ? さすがに恥ずかしいって! と笑いながらそう答える。いつだったかはしっかりと覚えていないが、町の友人たちが両親の呼び方を変えるころ。私もそれに合わせて呼び方を変えていた。最初は何か違和感があったが、ある程度体が出来上がったこの年齢になるころにはすでに馴染んでしまっていた。母はすぐに受け入れてくれたのだが、父は今でもこのように残念そうな顔をする。もう慣れてよ~。
「あ、そうだ。ちょうど体も温まって来た頃だからさ? 一戦、お願いできる?」
「……もうだいぶ前に追い抜かれてるのに、まだするのか?」
「そりゃするでしょ。いつまでも高い壁でいてよ、"パパ"?」
そう言いながら父に向かって持ってきていた予備の木剣を投げる。ため息をつきながらそれを受け取った彼はゆっくりと息を吐きながら構えてくれる。確か10になる前くらい、スキルを使用した状態ではあるが父に完封した。そして12になるころにはスキルを使わずとも勝てるようになってしまった。魔物の影響を受けやすい辺境の都市ゆえにこの町にいる戦力は高く纏まっており、それを指揮する領主の教育役である父もその例外ではない。
流石に帝都にいる軍や親衛隊と比べると落ちるだろうが、その実力は確かだった。そんなこの町で、私が13になるころには誰も勝てないレベルまで伸し上がってしまった。そのせいで最近ずっと暇なんだよね。父さんやそのほかも頑張ってはいてくれるんだけど、私の成長する速度の方が格段に速かった。ずっと差は広がる一方。
今日も数合打ち合った後に、私が父の剣を吹き飛ばして試合終了。嬉しいけれど、それよりも悲しさの方が勝る。"繋ぎ"としての自分にはこんな力はいらない、いらないが手に入れてしまった。そしてそれを高めるのがひどく性に合っている。
「……私の勝ち、だね。」
「だな。さ、ママが待っている。朝食といこう。」
「そう、だね。」
私の剣を受けたせいで震える手を隠しながら、肩を陽気に叩いてくれる父と共に家の中へと入る。ずっと高い壁だと思っていた人を、私はすぐに追い抜いてしまった。それが少し、いやかなり悲しい。……もう気にしないと決めたんだっけ、うん忘れよ。
「今日は何が出るか聞いた?」
「いいや、だが美味いのは確かだ。いい匂いがするだろう?」
「確かに。」
ウチの人間は全員が健啖家だ、とくに私がひどいんだけどね? そのせいで朝からお祭りでもやるのかというぐらいに食事が並べられる。そんなことを考えながら親子二人で家の中に入っていく。
そういえば領主の息子さんに『お前ら三人ともそれだけ食ってんのになんでみんな細いの? 普通、もっとこう横幅とか大きくならない?』とか聞かれたっけ。家族口をそろえて『動いてるから?』って首傾げながら答えたら、理不尽だッ! とか叫びながら言われたっけ。あ、ちなみに母さんも結構戦えます。
「あら、パパ。その感じまた負けたのね? 娘に負けるなんてどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」
「ママ……、ビクトリアが真似するからそういうのやめようって言ったじゃないか。」
「もう手遅れだよ父さん。ざこ、ざぁこ♡」
思わず天を見上げる父さんを無視し、母の手伝いをする。食器を用意したり、料理をよそったりそういうのだ。全部終わった後は私が先に席について、母さんが父さんを若干引きずって椅子に座らせる。最後に母さんが席に着けば準備完了。
「では、食前の祈りを。」
ようやく復活した父にならい、神への祈りをささげる。今日を迎えられたことへの感謝と、食事をとれることへの感謝。それ以外にも色々お祈りをした後、全員で食事をとる。量が量だからみんな食べるのに集中してて口数は少ないけど、それでもこれが私にとっての食卓。なんだか、自然と笑みが浮かんできてしまう。
「あ、そうそう。今日はママもお屋敷の方に行くから、お留守番お願いね?」
「え、そうなの?」
「なんでもちょっと魔物の動きが活発化してるみたいでね? 私もパパと一緒にお呼ばれ。」
ほぼ毎日狩りに出て獣や魔物を倒していた当時の私は、このことを知らなかった。確かに少し獲物の量が多い気はしていたが本当にそれだけ。だから両親が呼び出されるのはすごく不思議だった。そして私が呼ばれないことも。
「私は?」
「あなたはまだ子供でしょう? いくら強くたって子供は子供。ややこしいことは大人に全部任せておきなさいな。それに、パパと約束してた勉強。あんまり進んでないんでしょう?」
「うぐっ。」
そう言われてしまえばもう何も言えない。娘に簡単に追い抜かされてしまった親の気持ちも何となく理解していたし、そんなこと関係なく両親が私のことを守ろうとしてくれていたのも理解できていた。ただちょっとだけ、もしこの時両親に無理やりついていけば何か変わったのだろうかと考えてしまう。今の私に比べれば格段に弱い、けれど。もしやり直せるなら。
(私は、二人についていく道を選んだだろう。)
その結果私があそこで死んだとしても、構わない。
気合を入れるためか、それとも何かが始まろうとしていたのか。当時の私には理解できなかったけど、かっちりと武装した二人を見送った後私は一人部屋で本を眺めていた。苦手だけどやると約束したのは自分、だから椅子に座って本を開くところまでできた。けれどそれより先がダメだった、かなり嫌々始めたせいかページをめくるスピードは亀より遅かったし、頭もずっと違うことを考えていた。
(ママの防具、久しぶりにしっかり見たなぁ。)
そんなことを考えながらページをめくる。母も結構戦えるとはいえ、本業は主婦。私が勝手に脱走してた昔は槍を片手に探しに来てくれていたけど、最近は全く見ていない。だけどちゃんと装備して、槍を握った姿はすごく様になっていた。多分私の知らないところで色々鍛錬とかしていたのだろう。
「あ~、集中できない。……一曲だけ弾こうかな。」
そう言いながら部屋の奥に立て掛けてあったバイオリンを手に取ろうとしたとき、鐘が複数回立て続けて鳴る。
「これは……、ッ!」
村の中央から響く鐘の音、何か起きた時にその内容を市民に伝えるためのモノ。……そしてこの回数は一番最悪な状況表していた。意味することは、『今すぐこの場から逃げろ』だ。
その音を聞いた瞬間、弾かれたように動き出す。自分の部屋から飛び出し、向かうのは共用の武器庫。身を守らないといけない、それ以上にみんなを助けないといけない。自分が生まれ育った小さな町、知り合いばっかりで誰も死んでほしくない。両親だって、傷一つ付いてほしくない。私が一番強いんだ、だから自分が守らないと。
母親のお下がりの皮鎧を身に着け、父から譲り受けた剣を腰に差す。そして自分以外の人も武器を必要としているかと思い、家に置いてあったすべてを背負い外に出る。
「ッ!」
目の前にあったのは、人の雪崩だった。
普通警鐘は段階的に鳴るものだ、敵が接近しているのなら注意や逃げる用意を促す鐘がなる。そもそもそんな危険事態に陥る前に領主から市民に向けての注意喚起が先にある。『最近魔物の動きがおかしいから注意して』とか『敵が攻めてくるから逃げる準備をして』とか。戦えないものに向けての説明があった。
けどあの日はそんなものなかった、気が付いたら敵が。魔物がすぐ近くまでやって来ていて、今すぐ逃げないと囲まれて逃げ場が無くなってしまうような状況だった。よく外に出る私が状況の変化に気が付かないうちから準備を初め、対策を立てようとしていた領主様たち。彼らが愚かだったわけでも、怠けていたわけでもない。ただ、敵が異常だった。
当時の私は何が起きているのかを理解できず、逃げ惑う人の中から友人の顔を見つけ、ついそいつの名を呼びながら手を引っ張ってしまった。
「何が起きてるッ!」
「城壁が! 城壁が破られて魔物たちが入って来てる! すぐににげなッぶ」
目の前で、その友人の顔が弾け飛ぶ。何故か無意識のうちに『加速』を使用してしまい、ゆっくりと壊れゆく彼の頭部を見てしまう。私だけの世界に入った時にはもう遅くて、上空から投げられた石がすでに頭の半分以上を貫いていた。もう、どうあがいても助からない。私が彼の手を引いたせいで、死んだ。
「ッ!」
体が、動く。
友を殺された怒りか、それとも自分が殺してしまったという贖罪か。上空から岩を投げつけた悪魔の様な魔物を視界に入れた瞬間。体が自然と動いていた。地面を蹴りつけ、そのまま家の壁に。壁を蹴り抜く勢いで踏みつけそのまま空へ。未だこちらのことを認識していない魔物のさらに上。そこから剣を叩きつける。
その肉体を崩壊させながら切り抜いた瞬間、世界が元の速度を取り戻していく。瞬間的に感情だけで当時の自分が出せる限界を超えてしまった。世界が戻る瞬間に体に叩きつけられるのは無視できないフィードバック、速度に体の強度が耐えられなかったのだ。
「ぐぅゥ! いか、なくちゃ!」
痛みに耐えながらも、人々の動きとは逆方向へと足を向かわせる。
進めば進むほどに魔物の数と、人だったモノが増えていく。明らかに手傷を負った敵もいるためこの先でまだ戦っている者はいる。けれど増える。普段草原や森にいるような奴よりももっと強い魔物たち、背負っていた武器を投げつけ敵を壁に叩きつけながらただがむしゃらに前に進む。私にが一番強いんだ、だからみんなを、守らないと。
(スタンピードか魔物の組織的な侵攻、後者ならまだ指揮官を潰せばなんとななるけど前者ならもっとヤバい、殺し切るまで止まらない戦いになってしまう。)
私にとって、狩りは身近にあるものだったけど、戦闘は。戦場は初めてだった。私が殺すことには変わりない、けれど少し遅れるだけで人が死ぬ。私のせいで友が、友人が、数えられないほど死んでしまう。目の前で死んだ、間に合わなくて死んだ。物言わぬ骸となった姿を見てしまった。すべてが、初めてだった。
限界を超えた加速による身体的なダメージも大きかったが、それよりも精神への負荷が大きかった。同時に不安もより大きくなっていく、両親は大丈夫なのか。私たちが守るべき領主様やその一族の方々は大丈夫なのか。死と、強い不安、その両方が私の心を蝕んでいく。
そして、不安は現実となる。
人だったモノに武装したものの割合が増え、無傷の魔物が増えてくる。そしてどこからか引火したのか視界の半分が火で埋まって来ていた。煙で視界がはっきりとしないが、音は聞こえる。風は感じられる、敵が来る方向もだんだんと研ぎ澄まされていく感覚で把握できた。
そして、誰かの声を耳が捉える。
女性の声、何かを指示する声だ。そして複数人が戦う音、ママだ。
重い足を無理やり動かし、前へと進む。両親の無事を知ることが出来れば、この胸に巣食う不安は払拭される。思うように動かない体も動くようになる。そして私が付けば、全部ひっくり返せる。煙の中を走り、その中に隠れていたすべてを消し飛ばしていく。母のよく通る声がより大きくなり、父の声も聞こえてくる。あぁ、二人とも生きてる。
漸く視界が晴れ、二人を視界に入れた時。
私は。
「ママ!」
叫んでしまった。
「ッ! ビクトリアッ! 来ちゃだ」
母の目の前には、領主さまが愛用していた大剣を振り回す牛鬼がいて。そいつの周りには、私たちが仕えていた領主様やその一族。そして彼らを守るはずの人間たち、私と遊んでくれた冒険者や、衛兵さんたち。昨日まで、生きていたはずの人が。転がっていた。
そして。私の声を聴いて、母はこっちを向いてしまった。
「危ない!」
牛鬼の両腕が母に向かって振るわれ、父はその凶刃から彼女を逃すために全力で横に飛ぶ。彼女の体を押し出し、振り落とされる大剣の真下へ。
赤が、飛び散る。
父だったものが、増えてしまった。
「ッ! お前ェェェえええええ!!!!! ビクトリアッ! 貴方は逃げなさい! 早くッ!」
母が、牛鬼と対峙しながら私にそう言う。だが、私は目の前で何が起きているのか、何をしでかしてしまったのか。それを理解するのに時間をとられていた。いや理解したくなかった、考えたくなかった。ただ、その場で膝を突いてしまうことしかできなかった。
私の様子を見た母は、一瞬だけ口を閉じた後。もう一度牛鬼に視線を合わせる。深く腰を下ろし、全身を赤黒く発光させながら魔力を高め、その手に握られた槍へと流し込んだ。全て終わってしまった私だからこそ理解できることだが、アレは自分の命すらも魔力へと変える外法。私を逃がす隙を作るためだけに、母はその命をささげた。
だが。
「…………ぅ、そ。」
口から漏れ出た様な声が誰の者だったのかはわからない、だが私の耳元で囁かれたように感じたことから発生源はこの身であろう。あの時の私でもあの槍がどれだけ恐ろしい物かは理解していた。だが、それよりも相手の方が強かった。母の命を懸けたその一突きは確かに牛鬼の胸に突き刺さった。だが、貫くことはできなかった。
肉に挟まれたのか、その心の臓まで貫くことのできなかった槍はそのまま胸に突き刺さり、全ての力を使い切ってしまった母はその場に倒れ伏してしまう。その無防備になってしまった母へ、牛鬼は足を振り上げ。落とした。
人だったモノが、弾ける。
「ぁ、ぁあ。」
死体が、また一つ増えた。
「ぁ、ああああ。」
私の、せいで。
「あぁあああああ!」
私の大事な人が、全部。
「あぁぁぁあああアアアアアアア!!!!!!!!」
死んだ。
それからのことはほとんど覚えていない。ただ気が付けば足元には牛鬼の首が転がっていて、私は馬車に乗せられていた。周りには暗い顔をしてより遠くへ逃げようとする住民たち。
全身傷だらけで、四肢の内左手しか動かない。どうやら勝つことはできたみたいだが、それ相応の代償を払わなければならなかったようだ。……けど、もうどうでもいい。私のせいで二人が、パパとママが死んだ。それにもっと多くの人が死んだ。私がもっと強ければあの人たちは死ななかった。後悔が生まれて、直ぐに消えていく。もう全て終わってしまったことだ、何も。何も残っていない。
最初は、死んでしまおうかと思った。けれど、そう思った瞬間にはすべてが霧散していた。死ぬ気力すらも、わいてこなかった。ただ何もせず、馬車に揺られる。運よく逃げ延びた交友のあったものに声を掛けられたが、聞こえていてもそれが脳に言葉として伝わることはなかった。次第に私に声を掛ける者は減り、いなくなる。
水も、食べ物を食べる気にならず。動く気にもならない。
そうして、時間が過ぎていくうちに。
私たち避難民の集団は、人狩りに襲われた。
力を持つ者は全てあの町で死に、唯一生き残った私はすべてを諦めていた。
まともな抵抗もできずに捕らえられた私たちは奴隷となり、新しい人生を歩むことになる。
これが、私が帝都に運ばれる一月前の話だ。
◇◆◇◆◇
(……しぃ! 第一章おわりぃ!)
それまでつけられていたライトや音楽が一斉に止まり、物語の中断を表すために舞台端から幕を持ったスタッフさんたちが一斉に走り出す。なんか滑車が外れたとかのアクシデントがあったみたいで、あの結構重い幕を複数人で引っ張っている。観客から見えないようにうまく隠れながらだから大変だよね。
その様子を無気力でもう何もやりたくないです、の顔を維持しながら見届け、観客の視線が全て遮られた瞬間にようやく全身の力を抜きその場に静かに寝転ぶ。あ~、思ったより疲れた。感情移入しすぎて、あのシーンガチ泣きしながら叫んじゃったし。コレをあと一月連続でやるの? うわ大変だ。一応休養日間に挟んでもらってるけど最後ぶっ倒れそう。
「皆さんお疲れ様です、10分後に第二章行きますので準備お願いします!」
「了解でーす。」
「あいよー!」
軽く手をあげることで了承の意を伝える、もうちょっとだけ寝かせくだち。え、だめ? そんにゃぁ。
たぶん総支配人のエンリットちゃんは爆発して使い物にならないということで、彼女の付き人である使用人ちゃんが指示だしをしてくれているのだろう。大道具さんとかが走り回ってるし、ここで私が寝転んでいるとガチで邪魔だ。なごり惜しいけどさっさと起きて衣装替えに行きますかね、衣装さんたちにも迷惑かけられんし。
パパ役さんや、ママ役さんに挨拶や私の演技に対する評価を軽くいただきながら小走りで衣装さんたちの方へと走る。そこで待っていたミリアムちゃんが差し出してくれた水で喉を湿らせながら着せ替え人形。ついでに台本のチェックも並行してやっていく。10分って思ったよりも短いからね、さっさと並列して進めていかないと間に合わなくなっちゃう。
「すごくよかったですよ、ビクトリアさん。」
「そう? ありがとミリアムちゃん。でもま、これから二時間分全力でやらなきゃだから気は抜けないけどね。」
そんなことを考えながら衣装さんに体を預ける。
にしてもまぁ……、なんかすごい感じに仕上がったよね。第一章。最初はもうちょっと控えめというか、もう少し優しい感じだったんだけど練習を進めていくうちにこれじゃ最初の山場少なくない? って話になって来て急遽ホカーラさん。脚本家さんね? 彼を招集して役者含めて会議開始。そしたらこんなお涙頂戴のお話が出来上がるんだもの。お前ら曇らせ厨か?
(まぁ私も加担してるから人のこと言えないんだけど。)
そして出来上がったのが無意識傲慢な私と、ありきたりな悲劇。よくある悲劇だからこそ状況の理解が観客に促しやすく、感情移入もしてもらいやすい。ま、いい感じに仕上がったんじゃない? こっから私がどうなって、今の私にどうつながるのか。結構気になる感じになっていると思う。でもまぁ、私がこの場に平民としていることが最終的にハッピーエンドへとつながることを示すっていう保険だとしても、徹底的に落とし過ぎじゃない? とは思うけど。
(あ、そういえばアルには『これ第一章は全部作り物だから心配しなくていいよ』って言ってるけどマリーナちゃんにはちゃんと言ったっけ……。あとでちょっとだけ面倒なことになりそう。フォローはちゃんとしないと。)
因みに役者やスタッフの皆さんにもコレが架空の話であることは伝えている、一部事実が含まれているけど、大体がお話だということをね? まるっきり同じなのは三章くらい。色々省いたりお話としての整合性を保つために色々したら二章も結構ごちゃごちゃになっちゃったんだよね。
その話をしたときは役者のみんなが明らかに安堵した顔をしてたんだけど、気が付いちゃった一人が『え、ということは残りは全部事実ってコト?』って零しちゃった瞬間にそれまでの空気が崩壊したのは覚えている。私が優しい笑みをずっと壊してなかったから余計怖かったでしょう。『ご想像にお任せするよ。ま、今じゃ全部笑って流せる話だから気にしなくていいよ』とは言ったけど、ねぇ? 私が逆の立場だったら何したらいいか解んないや。
ま、転生してます~。とか言えるわけないもんね。完全に架空なのは第一章の"一部"だけ、そしてそれ以降は多少の脚色は有れど事実で構成されている。笑って誤魔化すしかないんだよね~。自然と『あ、これあんま触れない方がいい奴だ。全部架空のお話として扱った方が良さそう……。』と周りが勘違いしてくれたし、それに便乗するしかなかったと言える。
……そういえばヘンリ様にも言ってなかったっけ? まぁあの人のことだし、色々現実と整合性とれないからお話として理解してくれるかな? ダメだったらどうしよ。……うん、未来の自分に丸投げだ。
(さて、本筋からずれちゃったし。次に向けて切り替えていきましょうか。)
第二章は私がどうやって立ち直ったのか、"ビクトリア"という剣闘士になるに至ったかが描かれる。最初はよわよわだった私を『両親を失ったショックとその時のケガで弱体化した』と解釈し、出来るだけ私が通った道をそのまま表している。あ、ちなみにアル関連の話は全部カットしてます。彼女がどんな道を選ぶかまだ分からんし、勝手に劇に出しちゃってその道を狭めてしまうのは絶対NO。それに尺の関係上アルとの交友を描いちゃうと剣神祭まで行けないというか……。
「にしても、懐かしいな。」
「? どうかしましたか、ビクトリアさん。」
「……いいや、なんでもない。それよりもミリアムちゃん、キミもファン役で二章出るんでしょ? それ"私"の服だけど大丈夫?」
「…………あ! き、着替えてきます!」
正直、そんなに思い出したい事ではない。
まだろくに『加速』も使えなかったし、剣の握り方すら知らなかった時期だ。そしてこっちの世界に来たばかりの私が、この世界について少しずつ理解を深めていった時期でもある。色々な間違いをしたし、勘違いもしていた。闇に葬っていいのなら、そうしたい日々。現代と同じように過ごせば簡単に裏切られ、信じられる人間だと思った人は最初から私を殺すつもりだった。
(アレが真意だったかどうかは解らないけど、『仲良くしといたほうが対峙した時、剣が鈍るから』だったけ。名前も声も忘れたけど。あの時の顔と"言葉"はずっと私の背に乗ったままだ。)
私に怒りを覚えさせることで後腐れなくさせようとしてくれたのか、そもそも最初から言葉通りで。言葉にすることで私の動揺を誘ったのか。未だにその真意は掴めていない。骸が私に語り掛けてくるのは、恨み言と生者への妬みのみ。未だにコレが私の幻覚なのか、それとも魔法的な何かなのかは理解が及んでいない。アンデッドとかいるから余計に解らんのよね。
この世界における初めての友人の顔を思い浮かべながら、劇の内容を辿っていく。私は最初裏の闘技場に放り込まれたが、この劇でそれを出すわけにはいかない。作中では表の闘技場に入れられることになっており、そのせいで裏では横行していた『同じオーナーを持つ奴隷同士の興行』というのも表現できなくなった。
表じゃ『八百長を誘発させてしまう』って理由で禁止されてるけど、裏じゃ『仲良くなっている奴隷同士を殺し合わせることで楽しむ』って感じで許可どころか推奨されていた。今はどうなのか解らないけど、クソッタレなのは確かだ。耳に入れたくないレベルなんだけど、聞いた話じゃまだまだ健在らしい。
(あんな世界、さっさと滅びればいいのに。)
そのため劇ではあの時の私たちみたいに殺し合うのではなく、ちゃんとした試合であの子は死に。私はその仇を討つ様な道筋になっている。この劇の通りならば殺されるべき仇は私なんだけど……、人生どうなるか、わからないよねぇ。
(人様にお出しできるようなものじゃないし。仕方ないね。)
ま、というわけで第二章の大まかな道筋としては
奴隷になって帝都に連れてこられてくる
最初の試合に放り込まれて死を望むが、死への恐怖と両親の言葉を思い出して無理やり生き残る
ちょっとずつ剣闘士に慣れて来て、友人が出来る
その友人から死んだ人の分まで生きるという考えを聞かされる
友人が試合ですぐ死ぬ
自分の生きる意味を考え始め、剣闘士から抜け出す方法を探し始める
真っ当に自分を買い戻すしかないと悟り、自身の人気が出てきたこともあり外への露出を増やす
最初は金目的だったけど、人との触れ合いに楽しさや生きがいを感じるようになる
ある程度資金が貯まり、剣神祭への出場を考え始める
って感じだ。
どう、面白そうでしょう?
あの子が死ぬのと、剣神祭に出る以外何もあってないけどお話としてはまぁ纏まっているはずだ。私はその筋書きに沿って演じるだけ。どこから漏れたのかあの子を殺したのが私だということがバレて、あの子の家族や妹に殺されかけたり、それを返り討ちにして自分が生きるためにとどめを刺したって話もみんな入ってない。とってもクリーンだ。
(……自分で言っててなんだけど気分悪くなってきたな。やめやめ、集中しよ。)
ま、そんなわけで第二章については軽く触れてスキップさせてもらうよ。内容が知りたかったら実際にココに見に来てもらうか、私の覚悟が終わるまで待ってもらうか。……とにかく、時間を貰うね。大丈夫、いつかちゃんと話すから、さ。
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