66:お真面目に
「へぇ~、この子がですか。」
「は、始めまして! み、ミリアムといいます。」
移動中の馬車の中、初めて私の弟子と、私を演じる彼女が顔を合わせる。ミリアムちゃんは緊張してるっぽいけど、アルは興味津々って感じ。まぁ確かに自分の師匠の子供時代を演じる人、ってなると気になるよねぇ。それにアルよりもいくつか下の子だし。
今日はエンリットちゃん、あの爆発する演出家さんね? あの子の商会で色々情報共有をしに行くのよ。役者さんたちの顔合わせから数週間たって、そこからほぼ毎日練習してるから、その共有ね? エンリットちゃんも演出として役者だけじゃなく小道具だったり劇場の方を回って色々確認しないといけない、だからずっと私たちに掛かりっきりってわけにはいかないのよ。そのため定期的に会って共有しとかないと~、ってわけね?
それに私も役者以外にも音楽の方もやってるわけだからさ。そっちの方も色々話合わせておかないと、って感じ。
(そんな感じで彼女に会いに行くわけだけど……、ちょうどアルの方もお休みだったからね。)
私のプライベートの時間じゃなくて、彼女のスケジュールが空いているとき以外は基本ミリアムちゃんは私の後ろについてくるようになった。彼女も彼女でプライベートがあるし、練習する時間もあるみたいなんだけど、基本私が役者として動いてる時はずっと付いてきてくれてるんだよね、この子。ほんとはただ見てるだけでもいいはずなんだけど、本人の性格のせいかなにかと手伝ってくれてるし……。
(だから結構ご飯とか一緒に行くんだよね、私のおごりでお礼。って形で。)
アルはアルで私並みに強くなる目標の元、ウィウィ先生のところで頑張っているみたい。毎晩今日は何したのかとか教えてくれるし、ウィウィ先生が彼女に持たせてくれた講評から彼女の訓練の様子がちょっとずつ見えてくる。マリーナちゃんの講評も貰ってはいるんだけど、彼女も彼女でヘンリ様に領主の勉強を叩き込まれてるらしくて忙しそうだったからねぇ。今日はアルだけ、ってことで。
「にしてもわざわざ髪染めるってすごいですよね。確かに魔道具で簡単に出来るとはいえ……。」
「あ、あの。遠いところからお話を見る人もいるので……。それで顔とかが見えなくて誰が喋ってるのか解らないこととか結構あるみたいなんです。それでわかりやすいように皆さん染めてます……。わ、私の場合はちょっと、役作りのために……。」
「へ~、そんな感じなんですねぇ。」
そんな感じに感心するアル。ちなみにそれ、師匠も知りませんでした。二人の会話を微笑ましく見ている裏でひそかに私も感心。いや勉強になりました。台本のキャラ設定見た時に結構髪色とか服装とか派手なの多いなぁと思ってたけどそう言う理由だったのね。確かに遠くから見てると何やってるか解らんとか結構ありそう。たぶん現代でもそういうの色々気にしてたんだろうなぁ。観客として見てた時は全然気が付かなかったや。
「じゃ、師匠と同じですね。」
「だね~。ま、私は大分戻してないからこの色が地毛みたいな感覚になってるんだけど。」
「え……? び、ビクトリアさんも染めてるんですか?」
うんうん、そうだよ。裏の闘技場にいたころは薄汚い金髪だったんだけど、表に出るようになってからは今の濃い青にしたのよね。あんま自分の髪色好きじゃなかったし、ボロボロだったからねぇ。目立った方が人気出るかなぁ、と思って目に付いたこの色にしたのよ。……っと、この子相手にあんまりそういう話しちゃダメか。色々ぼかして染めたことだけ教えとこう。知らなくていい世界に首を突っ込む必要はないからねぇ。
「そういえば言ってなかったっけ? 私も実は染めてるのよ。だからミリアムちゃんと同じってワケ。一回戻そうかなぁ、って思ったこともあったんだけどこの色がもう自分の色になっちゃってね。多分ずっとこのままじゃないかな?」
「へー。」
実際こっちの染色って魔物素材のせいかマジで色落ちないんだよね。感覚で言うとゲームのキャラクリみたいな感じで、一回髪色変えれば落とさない限りはずっと同じ色。色々染めまくっても髪とか頭皮へのダメージが少ないみたいだし、結構お着替え感覚で染められるからそういうの好きな人からすれば天国なんじゃないかな? ま、地毛で結構派手な人もたくさんいるんだけど。
「そういやアルも昔染めるか染めないかうんうん唸ってたよね。」
「あ~、ありましたねぇ。師匠と同じ色がいいのか、それとも他の色がいいのか。結局必要が無くなったのでなぁなぁになりましたけど……、ちょっと違う自分とかも興味ありますし、やってみようかな?」
「いいんじゃない? マリーナも誘って色々。案外お気に入りの色が見つかるかもだし。」
あ、マジでやるんだったら呼んでね? 仕事休むから(迫真) 休むなって? いやそんなイベント見逃せるわけないでしょうが。こっちカメラないから、そういうの全然保存できないんだよ! 全部手書きの絵しかないんだよ! だったらもうこの目に焼き付けるしかないじゃないか! ……え、だったらやらない? そんにゃぁ。
「(ミリアムちゃん、ウチの師匠迷惑かけてない? あの人懐に入れた人に無茶苦茶甘くなるけど、たまにその人に対してかまってちゃんになることがあるから……。変なことに巻き込まれてない?)」
「(え、そうなんですか? 特にそういうのはなかったですが……。でも確かに最初あったころに比べると雰囲気が柔らかくなった気はしてました。あとすみません。その”かまってちゃん”なところ教えていただけますでしょうか?)」
「ん? どしたの二人とも。」
「「な、なんでもないでーす!」」
? ならいいんだけど。
◇◆◇◆◇
「ぬ、ぬゅわぁぁぁあああああ!!!!!!」
「……なんかあの箱から絶叫と爆発音が聞こえてくるんですけど大丈夫なんですか? というかナニアレ。」
「演出家の人。」
「あぁ、この前言っていた……。」
馬車の中での何でもない時間の後、エンリットちゃんがやってる商会に到着した私たちは応接室のようなところに通された。うちのオーナーが持ってる奴と同じくらいの規模感で、調度品も似たような感じ。違うところと言えば用途不明の頑丈な鉄の箱が設置されているぐらい。というかこれただの鉄じゃないな。魔化されてるし、通常の奴よりも硬い奴。
私とミリアムちゃんは薄々というか、あぁ、あれね? という感じだったがアルは彼女に会ったことはない。そもそも今日だってアルがお休みだったから気分転換にでもこっちについてくる? って感じだったし。接点ないのよね~。『これなんですか?』って聞かれたけど多分見ないと理解というか納得できないだろうし、ちょっと待ってもらった結果がこれだ。
部屋に彼女がやって来たかと思うと、すぐにエンリットちゃんの体が発光と共に膨らみ始めるが、後ろについてきていた使用人さん。この前私の案内してくれた人ね? その人が素早く箱の中にボッシュート。内部で盛大な爆散が行われているってわけだ。素早く箱の扉を開け、エンリットちゃんのお腰を片手で抱えながら、踏み込み、その勢いでのシュート。そしてエンリットの背が箱の壁にぶち当たる前に扉を叩き閉める。
扉が閉まったことで鉄同士がぶつかる鈍い音と、エンリットちゃんの人体が内側から破裂する音がほぼ同時。いや~、中では何が起きてるんでしょうねぇ? 多分自分の家でもある商会に私とミリアムちゃんがいることに耐えられなかった、という理由は解るけど中で何が起きてるかはさっぱりだ(すっとぼけ)。……そういえばアルも彼女の"尊み"に分類されるんかな?
時間にして十数秒、初めて会った時に比べると大分再生時間が早くなった彼女が箱の中から申し訳なさそうな顔と共に出てくる。
「お、お待たせいたしました。」
「大丈夫だよ、エンリット。理解してるとも。」
「ひニュッ! ッ! ッ! ……た、多分今後もまた箱に入ることとかあると思いますんで、ご容赦のほどを。」
おっと、それもダメか。軽く微笑みながら頷きを返す。いや~、でも耐えれるようになってきたね。ちょっとは慣れた? 最初のころの打ち合わせとか箱の中からずっと出られなかったし。それに比べるとちゃんと対面でお話できるようになってきている。成長してるねぇ。
「あ、ありがたき幸せぇぇぇ! ……でも役者の皆様の前じゃやっぱり体を維持するのが難しくて、いっつもご迷惑かけてます。ほんと申し訳ないぃ……。」
「そうかい? 結構好評だよ。ねぇミリアム?」
「あ、はい。解りやすくて、とてもいいです!」
あ、また爆発しそうになって使用人ちゃんに叩き込まれた。ナイス、使用人ちゃん。というか君結構速いね? もしかして『加速』持ち? 等速でギリギリ目で追えるぐらいの早業で自分の主人叩き込んでたけど……。あ、スキルも魔法も無理なの。いや逆にすごいな。
エンリットちゃんの弱点というか、習性として自分が"尊い"と思うものを摂取しすぎると爆散するというものがある。彼女の守備範囲はかなり広く、今回出演する役者さんすべてが"そう"らしい。性別も年齢層も結構離れてるのにすごいねぇ。オタクの鑑かも。まぁそのため彼女が演出家として役者たちの練習を見に来たとしてもその時間内に彼女からの言葉を貰うのはほぼ不可能なわけだ。毎秒はじけ飛んでるからね。
でも、すっごくわかりやすい指標になるんだよね~。
邪魔にならないように今日みたいに鉄の箱、ロッカーみたいなとこに入ってずっとこっちのことを見てくれてるんだけど、良い演技になるほど爆発音が大きく、悪いほど無音になる。ちょっとうるさいのを無視すればリアルタイムで感想を届けてくれるわけだから色々やりやすいのだ。
他の役者さんにも聞いたけど、『前の現場みたいにちゃんと言語化せずに雰囲気で伝えてくる演出よりもずっと解り易くていい』とか、『無言で何も言わずずっと変な顔してる支配人さんよりはやりやすくていいっす』みたいな声を頂いている。だからみんな誰が一番うるさい音を練習場に響き渡らせることが出来るかずっと競争してる感じなんだよね~。
「それに、例のバイオリンの時。あの時もわざわざ講評を届けに来てくれたから、あぁなってしまったんでしょう? アレもアレで解り易いし、改善点が見えてくるからやりがいにもなる。そこに不安はないよ。」
「あ、あ、あ、ありがたき幸せ!」
エンリットちゃん自体筆が早いところがあって、練習終わりには必ず彼女からの講評を書面で頂ける。人によっては結構な厚みの物を。私も初回は分厚いの頂いたんだけど、内容がしっかりしてるし納得できるものばかり。それに改善案もいくつか出してくれてるから色々繋げやすいんだよねぇ。
「確かに君の声を練習中に聞けないのは残念だけど、みんなすごく助かっている。改めて、ありがとうエンリット。」
「ひょッ!」
はい、また箱の中で爆発音。あ~、アル。解ってるから言わなくていいよ、そんな目を向けるのもやめて、うん。ちょっと彼女の反応が面白くて遊んじゃってるのは認めるから、うん。ごめんって! だから机の下で足踏むのはやめい!
「と、とぉ。ちょっと反応が面白くてからかい過ぎてしまったね、ごめん。じゃあ復帰次第お仕事の話と行こうか。……あぁ、アルもミリアムちゃんも暇だろうから自由にしてていいよ。ほら私のお茶菓子も食べていいから。」
そう二人に言った後、エンリットちゃんとお仕事の話を詰めていく。流石にこういったお話になると爆発する回数はぐっと減る。まぁたまに私の顔を直視しすぎて使用人さんに箱へと超エキサイティング☆ されることもあるが、まぁたまにだ。進行に影響はない。むしろ結構喋りっぱなしだからいい休憩の時間になる。
……ねぇ使用人さんや、エンリットちゃん爆裂しまくってるけど彼女休憩とかいらんの? え、"尊み"で無限に動き続ける化け物だから心配はいらない? むしろ永遠に尊みを形にしようと動き続けるから無理やり休ませようとする使用人たちと毎晩戦争になってる? あぁ、うん。大変だね。なんか手伝えることあったら言ってよね。絵本もって寝る前の読み聞かせしに行くとかぐらいならやるから。お、出てきた。
「し、失礼いたしました。……では劇場のセットの方はこのように進めさせていただきます。ちょっと予算超えそうですけど、ヘンリエッタ様がお出ししてくださるとのことなので、最高を目指すように指示しておきますね。それで、最後に音楽の方ですが……、進捗はどうでしょう?」
「想定以上に順調、だけどスケジュール的に厳しいのは変わりない、ってところかな。」
なんかね? 『見ず知らずの楽器と言えど、本職じゃない奴が自分より上手いのは気に入らない』とかで私が煽りに煽ったこともあり爆速で演奏方法やらなんやらを覚えちゃった人がいまして。その人に周りも触発されて想定以上に全員の習熟度は上がってるんだけど……、まだお金取れるレベルじゃないのよね。
これまでは個人や、同じ楽器を扱う人たちの間で切磋琢磨しながら習熟してたんだけど、みんなのレベルが上がったことでようやく全体での合わせが出来るようになった。この世界には無かった、私の持ち込んだ現代の楽譜の読み方とかも皆覚えてくれたし、あとは課題曲に合わせて練習~、って感じなんだけど……。肝心の曲がね?
(転生してからかなり時間経っているこの身でバイオリン弾けた、ってだけで奇跡に近いのに、曲なんか詳細に覚えてるわけないじゃん。)
前にも言ったが、私が持ち込んだ劇中で使う曲はかなり歯抜けの状態だ。前世で音楽を本業でしていたわけでもないため、覚えているのはほんの一部分だけのものばかり、なのでその穴をみんなで埋めながら新しいのを作曲する必要があるんだけど……、楽器自体が生まれたてホヤホヤなこともあり、演奏家の人たちの知識もまだ途上。かなり難航しているのよね。
「本職なだけあってセンスのある人ばかり、新しく曲を作って持ってきてくれる人もいるし、私の頼りない記憶から作品としての形を取り戻してくれた人もいる。……でもまだ研磨する必要のあるものばかりだし、そもそも曲が公演時間の三時間に足りるかどうか、そしてそれまでに習熟できるかどうか、ってところが未知数だね。」
「なるほど……。では初期の想定通り"ナシ"の可能性も考えて準備を詰めていきます。」
「お願い。」
間に合わせるつもりではあるけど、無理な場合も考えておかないといけない。作り手としては最上を求めたいけど、全体を取り仕切る支配人としてはそういうのも考えないといけないのは大変そうだよね。でも、そこら辺の兼ね合いが出来るからヘンリ様が彼女を押したんだろうし。……ま、私はやることを全力でやるだけだね。
「了解しました……、はい。とりあえず今のところ共有すべき点はこれで全部ですね。来週には衣装合わせもしていきますし……、全体を見れば想像以上に順調です。完成が見えてきましたし、このまま頑張っていきましょう!」
「だね。」
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