65:その後教会に緊急搬送されました
「え~、じゃあ一つずつ説明していきます。数はありますし、後で触って頂く時間も取りますのでお静かに。」
ちょっとビクトリアのキャラから外れるけど、ドロちゃんがあんな感じなので……、真面目さんで行きますね?
ドロが持ってきてくれた大量の黒い箱の中から、『バイオリン』と書かれたものを手に取り、軽く触ってみる。……うん、量産するから質が落ちるって言ってたけど、むしろ試作品の時よりもよくできてるかもしれない。木材を加工して作られている、っていう点は前世と同じだけど、そもそも私職人じゃないからどんな木がいいとか、どうやって加工するとかは全く知らなかった。いや種類とか木材の乾燥が必要ってのは知ってるけどね? どの期間やるのとかその判別方法とか全然わかんないのよねぇ。
でもま、この世界は前世には無かった技術や素材が存在している。魔化や魔物素材だね。それで無理やり形と音を整えたソレは、ちょっと昔嗜んだ程度の私じゃ違和感のないレベルにまで仕上がっている。
左手で軽く持ちながら、顎と肩で固定する。そう言えばこの顎当ても開発が19世紀ぐらいだっけ? 多分1000年以上ブレイクスルーしちゃったかも、と思ったがそもそも存在してない楽器だった。歴史の果てに到達した完成品を持ち込んだ形、これこそ転生者、って感じだよねぇ。
そんなことを考えながら。コレに興味津々な演奏家の方々の視線を受け、軽く弾いてみる。
(あ~、やば。10年近く弾いてなかったせいか運指が……。)
経験者、もしくは前世教わっていた先生に聞かれれば『もしかして体調悪い? 帰るか?』と言われそうな出来だったが、とりあえず記憶のままに弾いてみる。ま、まぁ? この世界じゃまだ存在しない曲ですし? 私が間違えてもそれを指摘できる人は誰もいませんから? だ、大丈夫デース! 多分! いやまぁ生み出した前世の先人の皆様には申し訳が立たんのですが。
1分もない程度だが、軽く弾き終わった後に、礼をする。この世界、特にこの国じゃ聞いたことの無いタイプの音だし、結構インパクトあったんじゃない? みんなの顔見てるとわかるよ。
「「「…………ぉお。」」」
「っと、はい。お耳汚し失礼しました。こんな風にこちらの方では目新しいものを色々持ち込んでいまして、今から一つずつ目の前で演奏させて頂こうかと。それで気になった物を皆さんにも触って頂いて、という形になります。ま、まぁ実はバイオリン。コレ以外はマジで触ったことが有る程度なのでよりひどくなるのですが……。」
実際、そうなのだ。昔取った杵柄というか、バイオリンとピアノ程度ならまだ何とかなるんだけどそれ以外の木管とか金管系はマジでなぁ……。音出すぐらいならまだ出来るとは思うんだけどねぇ。ドロと試作品作ってる時に記憶を頼りに色々やってみたんだけど、あんま形にはならんかったし……。あ、でも打楽器は出来るよ。叩くだけだし! まぁこんなこと言ったら絶対本職から怒られるけどな!
っと、そろそろ色々説明した方がいいよね。この楽器たちのこと。
私の目標、今回の劇を完璧に成功させるための一要素として、音楽があった。演者たちの動きや感情を音で補助し、世界に声以外の新しい色を加える。劇伴っていうのかな? それをしっかりやりたかったのよ。この世界じゃ劇と言ったら野外ステージ、みたいな感覚だったみたいで音が広がるせいかそういうのあんまりなかったみたいなのよねぇ。どっちかというと役者の声量で押し切ったり、魔法でちょっとした爆発音とか出したり、そんな感じ。
それで、やるならばやっぱ思いつく限りのことをやってやろうという考えから、音楽も頑張ってみよう! という話になったのだ。
けど、やろうとする前に躓いてしまう。そもそも楽器がなかったんですよね。ま、一応簡単な奴はあるんですよ。打楽器系とか、簡単なラッパみたいなの。後はパイプオルガンの初期型みたいな奴? 水圧式だっけ? まぁクソデカいし教会ぐらいしか持ってないような奴しかなかったのよ。これで私が求めてるBGMとか、SEみたいなのを作れるかというと……。まぁできなくはないけど音が単調になってしまう。
だったらもう1から作ればいいじゃない!
ということでドロと一緒に色々してたんだよねぇ。金積んで、覚えてる限りの情報紙に書いて、土下座して。まぁ~大変だった。依頼自体は『別に金払ってくれるんやったら受けるけど……、ウチ鍛冶師やで?』と言われたが受けてくれた。が、問題は制作だった。いくら過去に触った経験があるとは言え、それを詳細に覚えているわけではない。流石にメインでやっていたバイオリンぐらいなら構造とかも覚えていたので比較的早くできたのだが、管楽器が地獄だった。
空気の振動と、管体の穴をふさぐことで音を変えるという簡単な構造は解る。だがソレを実際に形にしてみろと言われてもまぁ無理だ。リコーダーレベルならまだ何とか、いや比較的簡単に辿り着けたかもしれないがトランペットとかホルンとか不可能だろ。というかクラリネットとかのあの配管何?
仕事がない日はほぼドロのところに通いつめ、会うたびに顔色が悪くなっていく彼女。私が『なんか、なんかちゃうんすよ……。音がちゃうんす。』とか言い過ぎた結果ブチギレたドロが若干発狂しながら剣とか槍振り回して暴れまわっちゃったり、比較的早く完成したティンパニに頭から突っ込んでぶち壊しちゃったり、なんか魔物素材と魔化が上手く嵌ったのか管楽器の中で一番早くできたホルンに私が悪戦苦闘したりと色々ございました。
『…………どう? いけてる?』
『……うん、昔聞いた音と同じ。音階もちゃんと分かれてる、おかしくなってないと思う。』
『じゃ、じゃあ! おしまい? おしまいか!?』
『うん、お疲れさまでした。』
かなりの長期間、具体的には劇を始めると決まった時から今日からほんの数週間前まで。ずっと同じことをし続けた私たちの間には謎の絆が出来上がっていて、若干涙ぐみながらお互いに抱きあって完成を祝ったものだ。だけど……。
『あ、ちなみに数週間後に顔合わせがあるみたいだからその日まで量産お願いね?』
『……ハ?』
いや~、あの時のガチで『何言ってるんだコイツ』という顔は忘れられませんねぇ。……、いやほんとにごめんなさい。
『ウチもな、職人やねん。期日内に自分が出来る最高の作品を届けるのがプライドやんよ。だけどなぁ? 明らかにコレおかしいよなぁ! オーケストラ言うんか!? その全員分の楽器を一月もせずに作れやと!? ふざけてんのかこの【自主規制】!!!』
『え、できないの? ドロが?』
『…………やってやるわこんちくしょうッ! ウチにできないことなんかねぇわ!』
とまぁ最初は断られそうになったのだが、『え、無理なん? ドロが? あのドロが?』みたいな目で訴えたら受け入れてくださって……。最終的に色々無理とか徹夜とかさせてしまったらしく、今のようにこちらを殺してきそうなヤバい目で見つめられている現状に至る。あ、あの。絶対埋め合わせはするんで……。ほ、ほら! ドロが好きなブドウの氷菓子たくさん用意するから! ファンの人の領地で採れたいいブドウがね、あるのよ。それで魔力の続く限りアイス作るからさ……。
(とまぁそんなわけで、ドロに強行軍してもらって数をそろえたわけだけど……。やっぱ職人気質なのかどれも試作品の時と比べると質が向上してる。ヤバいなぁ。)
とまぁそんなことを考えているうちに、全ての楽器の演奏会が終わる。まぁあんまり前世でも触ってない様な楽器は簡単にしか紹介していないけど、演奏家の人たちの興味は十二分に引けたようだ。
「では、興味を持っていただけたようですので、少し契約の話を。」
オーナーからお手紙で経緯の方は聞いているのだが、ここにいる演奏家の方々は劇の練習期間&公開期間含めて比較的スケジュールが空いている人で、オーナーの伝手やヘンリエッタ様のお声で何とかそのスケジュールを真っ白に出来るであろう人たち。まぁ彼らのクライアント様に何らかの伝手がある人たちを呼んだわけだね。
んで、契約としては『ほら、新しい楽器あるやろ? これプレゼントして練習期間もあげるから一端の演奏家になって劇の音楽担当してくれへん? あぁ、もちろん心配しなくてええで。なんせ見たこともない楽器やからな、弾けなくて当然やから。無理そうなら無理っていってな~。』と少し彼ら彼女らのプライドを刺激するように。
勿論お金は出すよ? 途中で抜ける場合はさすがに楽器の方は返してもらうけど従事してくれた日数分のお給金はちゃんと出す。それに最後までやり抜いてくれれば楽器の方はあげちゃうし、報酬も最後までやってくれたお礼としてサービスもしちゃう。彼らのプライドを刺激する以外はちゃんとした契約だ。
「…………とりあえずは皆さん、お受けするという形でよさそうですね。では早速、練習会と参りましょうか。」
◇◆◇◆◇
「ふぅ、とりあえず上手く行ってよかったよ。」
「次ぃ。」
「お納めしますだ……。ミリアムちゃん悪いね、色々付き合わせちゃって。あ、そこのブドウ取ってくれる。」
「はい。……あ、あの? お二人はどういうご関係で? 」
「クライアントと「次ぃ。」あ、はい今すぐー!」
はい、とりあえず簡単な説明と各楽器の簡単な演奏方法ガイドの配布とか演奏とかを終わらせて解散した後。ドロちゃん、いやドロ様に現在ご奉仕中でございます。うん、マジで機嫌最悪だったのでこうするしかねぇのです。今後も色々無茶なことお願いするだろうし……、お手製ブドウアイスでご機嫌直してくれるのなら全力でやりますぜ。ぐへへ。
あ、一応関係性は私がクライアントで、ドロが受注側だけどこの現状見たら確かに傅く側と傅かれる側だよね。もちろんドロの方が上。だって今片手でドロのために団扇で風起こしながら、もう片方の手でルーン刻んで疑似ブドウアイスとかシャーベット量産してるんだもの。それでドロ様が『次ぃ。』って言った瞬間に『加速』で器に新しいものを追加してる。
「いや、色々無理してもらってるからさ。これぐらいしないと申し訳ないから。」
「ほんまやで。おチビは大きくなったらこんな大人にならんようにな。」
「あ、元戻った。」
というかミリアムちゃんこんなことに付き合わせてごめんね? ビクトリアのキャラ崩れてるし、あんまり参考にならなかったでしょう? ま、演奏してる"ビクトリア"は本邦初公開だから見てて物珍しさはあったかもしれんけど。
役作りにはあんまり繋がらなさそうだし、今もぶどう運びみたいな雑用やらせちゃってるし。私に出来る事とかあったら何でも言ってね? 国家転覆以外なら……、と言いそうになったけどヘンリ様が暴走する可能性もあるから言わないでおこう。あの人ならマジでやりかねない。
「あ、いえ。大丈夫です。ママのお迎えまで時間ありますし、何もしてないと色々悪いので……。」
「はぁ~、ええ子やなぁおチビ。横の大人に爪の垢を煎じて飲ませたいわ。」
「いや私も色々手伝ったでしょうに。魔物素材とか取ってきたの誰よ? 丸一日走りまくって取りに行ったんだけど?」
「じゃあこっちの気が狂いそうになるまでリテイク出したのは誰ヤァ?」
ぐぬ。それを言われると困る。というかドロもドロで『中途半端なもんは絶対作らんからな!』って言うし、私が妥協しようとしたらキレて『こんなものゴミやァ!』とか言いながらクソデカハンマーでぶん殴って破壊してたじゃんか。多分どっちも悪いよ、コレは。いや確かに鍛冶師に楽器作ってもらうことの異常さは理解してますけどね? 分野外のことやってもらったわけですし。
「まぁえぇ。長期のお休み頂かんといけんぐらいには体、酷使してもうたけどな? あの人らの顔。未知の世界に飛び出そうとしてる演奏家さんたちの顔見てたらやり切った甲斐あったと思うわ。……でもなビクトリア、アレ形になるんか?」
「……どうだろうねぇ?」
そこのところは、やってみないと解らないのだ。一応楽譜とか、その読み方とか現代のモノにはなってしまうんだけど、今日来てくれた人たちには配布している。今回の劇で扱う曲の楽譜とかもね? でも私は作曲家ではないし、音楽に触れていたのも学生時代の話だ。そうそう完璧なものが出来るわけではない。なのである程度の形を作って、その後の応用は彼らプロに任せる。という方式を取らざるを得ない。
つまり公開まで音楽が完成するか未知数であり、最悪ナシの方がいい、ということになる可能性も存在している。一応役者としての練習の時間以外はこっちの方に出来るだけ時間を割くつもりではあるが……、かなり不安。初めての楽器を練習しながら作曲、まぁ曲の肉付け作業みたいなことをやっていく必要があるわけだ。かなり厳しいスケジュールになるだろう。
「やるだけやってみて、無理そうならその時考えるよ。」
「そーかい。ま、ウチは誰かさんのおかげで当分フリーやからな、話位なら聞いてやるで。」
「ありがとう。」
ま、無理は無理でもいいのだ。別に私の劇の公開に間に合わなくてもいい。現在ヘンリ様がお金を出して建設中の劇場だが、アレ結構魔法的な機構が組み込まれてまして。演奏家の方々が詰める演奏席の音楽が会場のどこからでも聞こえるように、客席の一部がスピーカーみたいになってるのだ。なんか軍事用魔道具をいい感じに転用した結果マイクとスピーカーみたいなことがこの世界でも出来るみたい。
なので私の劇に間に合わなくても、今後あの劇場に演奏家の人たちが必要になるのは確定している。"次"に繋げられる、ってことだ。
ちなみにマイクとスピーカーだけど、大きさ的に両方とも設置型じゃないとダメみたいなので現代の首元にマイク付けて~、とかはできないみたいだ。残念。
「ふぃ、これ以上食べたら夕飯入らんやろうし。こちそうさん。手間かけたな。」
「先に迷惑かけたのはこっちだからね。帳消しにしてくれればそれで。」
「なら、それで。……あぁ、それとさっきからずっと気になってたんやけど、あのドアの奥。廊下で蠢いてるオレンジ色のなんや? 魔物か?」
そう言われてミリアムちゃんと一緒に部屋の外を見ると、明らかにオレンジ色のスライム。ゲル状のものが爆裂したような跡が残っている。まだ屋内であるためマシだが、ここから見える範囲すべての壁にオレンジ色のシミが出来上がっている。
「……え、いつから?」
「お前さんがばいおりん? やっけ? それを演奏し始めた時にガラッと開いて、そしたら急になんかあぁなっとった。ここ外の音聞こえんかったし、ウチもイライラしとったから無視したけど……、もしかしてヤバい奴か? 他の演奏家の奴らも視界に入れた後存在しないものとして扱っとったし。」
「それ多分理解できなくて把握するのをあきらめた奴じゃない? ……って!」
それ爆裂から結構時間たってる奴じゃないですかヤダ―! え、それからずっとそのまま!? え、ずっとあの状態であぁなってたの! というか驚いてる場合じゃねぇ! 塵取りと箒! ミリアムちゃんすぐさま回収して元に戻すよ!
「はい!」
二人で目を見交わし、すぐに行動開始。10m近く飛び散っていたし、なんか乾燥してたから集めた物体にルーンで生成した水をぶっかけながらの再生作業。イマイチ要領を得ないドロにも手伝ってもらって何とか破片を全て回収する。その瞬間あの時と同じように光を発しながら人の形を取り戻していき、ゆっくりとその場に横たわったエンリットちゃんが作られていく。
「…………あ、れ。」
「大丈夫かい? エンリット。」
「大丈夫ですか総支配人さま?」
先ほどまで気絶し破片状態だった彼女。その彼女が目覚めた瞬間、眼に入ってくるのは自分の最推しと、その子役として徐々に"ビクトリア"に近づいている子。つまり大きいビクトリアと小さいビクトリアが視界いっぱいに広がっている状態。
「ご、ご、ご、ごごごごごご。」
「「ご?」」
「ご褒美でしゅっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
まぁ爆散するよね、うん。
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