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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
日常編

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64:わたしとワタシ





「やぁ、"私"。」



幼少期の私を演じる彼女の肩に手を乗せ、人差し指を突き出した状態でそう問いかける。



「え、ぷぉ!」



や、引っかかった。


いや~、古典的なネタだけどこっちじゃまだ流行してないのかな? それともこの子が知らなかっただけか。驚くぐらい綺麗に決まっちゃった。爪とかちゃんと切ってるし痛くはなかったと思うけど大丈夫かい? かなり勢い良かったからさ。……、うんうん、赤くなってないね。大丈夫そう。にしても確かあなたエンリットちゃんがやったオーディションの時金髪だったんでしょう? わざわざ私の髪色に染めちゃってまぁ。



「え、ちょ! なんで!」


「あれ? "私"なのに私の代名詞知らない? ……ふふ、ごめんね。」



ちょっとだけ彼女を責めるような言い方をして、からかう。ま、五倍速でも目で追える人は一握りだし、役者として生きてきたこの子が把握できるわけないもんね。アルだってたまに見失う~、って言ってたんだから。まぁそれはアルがすごいだけなのかもしれんけど。


いや~、ごめんね? 君みたいなちっちゃい子見るとついからかっちゃう病気なのよ、私。反応が愛らしいのよねぇ。いい反応視るだけで生きてることを実感できる。……まぁそれは言い過ぎだけどさ。こういった反応が大好きなのは事実で、ちょっとだけイタズラしちゃうのはもう癖というか。あ、でも誤解しないでね? アルが一番だし、一番被害受けてるのもアルだから。彼女が一番なのは変わりないけども。ほらよそのお家のワンちゃんもかわいがるけど、一番はうちの子みたいな。


え? 犬扱いは失礼? 確かに、後で謝っとく。



「熱心に見てたから、ついね? 私はビクトリア。キミは?」


「み、み、ミリアムと申します! ふ、不快に感じられていたのなら……。」


「あぁいや、気にしないで。ただ気になっただけ。」



名前を言われて漸く彼女のことについて思い出した。役職と名前が繋がる感じ。


エンリットちゃんが開いたオーディションに参加した子役のなかで一番実力がある子がこの子だったらしい。なんでも幼いながらにして役への理解の深さや演技への情熱がすごいんだって。私はエンリットちゃんが付けた講評でしか彼女のことを知らないけれど、もらった紙の端にオレンジ色のシミ。彼女の体液というか体の一部が付着していたことから、"尊み"を感じるくらいすごかったことが理解できた。


ほら箱の中からとんでもない爆発音が聞こえてくるでしょう? 多分こっちのこと捕捉して吹き飛んでる。



「あ、あの。実在の方を演技させて貰うのは初めてで……、とっても、不安で。間違っちゃだめってママや所長さんにも言われて、それで……。」


「おっと、変なプレッシャーをかけてしまったかな?」


「い、いえ! 全然! 大丈夫です! ……で、でも。お聞きした時のイメージとか、台本だけじゃなんかビクトリアさんとちょっと違う気がして、これでいいのかなってずっと……。」



あら~、ミリアムちゃんも大変なのね。マネージャーさんとお芝居の先生みたいなことしてもらってるママにお言葉を貰って、そんで役者を斡旋する事務所の所長さんからもプレッシャーを受けちゃってるのか―。あ~、まぁ主催ヘンリ様だし仕方ないけどアルよりもちっちゃい子にそんな重荷担わせるのはダメでしょうに。


……というか、この子。人から聞いたイメージがズレていることはままあることだから理解できる。けど台本を見た後に、私を見て、『ちょっと違う』? あらあら、目ざとい人にはバレると思っていたけどこんな小さな子に疑問を持たれちゃうとか。私も焼きが回っちゃいましたかね? それかこの子が単純に観察眼に優れているだけか。



「別に怒っていないし、貴方に不満があるわけでもない。むしろキミみたいにかわいい子が私のことを演じてくれることがすごくうれしい。こんなかわいい子じゃなかったしね、私は。けどちょっと聞かせて欲しいんだけど……、『ちょっと違う』というのはどんなところ?」


「あ、あの。えっと、もらった台本のビクトリア様は、ずっと芯があって曲がってないというか、ずっと前を向いてる様な人でした。それですごく真面目で、なんかすごく堅そうなイメージがあったんです。で、でも。今日初めてお会いしたんですけど、もうちょっとこう、柔らかいというか。堅いように見せてるけど実は柔らかいというか、楽しいことだいすきというか、そんな感じがして……。」



緊張のせいか、手をわちゃわちゃさせながら頑張って自分の思いを言語化しようとするミリアム。


今日の私は完全に"ビクトリア"として来ていたし、さっきの他役者さんたちにもまれている時も脳内はアレだったが外面はずっとそのままだった。彼女の言う様にお堅いビクトリア様、って感じ。私の"ビクトリア"のキャラ設定としてはそんなお堅い彼女だけど、実はノリが良かったりみたいなギャップで落とすっていうものにしている。つまり定期的に被ってる仮面を少しずらす、って形だ。



(いや~、すごく見てるねぇ。最近の子ってみんなこんな感じなの?)



ずらす、と言ってもほんの少しだけ。『あ、それが素なのね。』というよりも『そんな一面もあるんだぁ。』と思わせる程度の出し方に努めてたんだけど……、まさかバレちゃうとは。この場にいる人たちは色々守秘義務とかの契約を結んでいるらしいから別にバレても良かったんだけど……、う~ん。私も私でちゃんと演技の練習した方がいいかも。



「よく、見ているね。」



彼女の目線に合わせるようにしゃがみ、軽く微笑みながら頭を撫でてやる。後援者がこの国で上から数えた方が早い超級の権力者で、そのもとで総支配人を務める彼女も色々アレだが能力は確か。私を扱う故にその注目度とか期待度とかは結構高くて、私が年齢的に演じることのできない子供時代の配役ってのはすごく難しくて、厄介だと聞いた。


そんなポジションに収まった子だ、単なるコネとかの世界ではないと思ってたけど、……すごいね。


彼女の腰に手を回し、負担にならないように持ち上げてやる。同じ髪色のせいか傍から見れば親子のようにみられてしまうかもしれないが、ちょっとだけ秘密で話したいことがあってね。耳元で彼女に話しかける。なんか変な振動を始めたエンリット箱をこの子の視界から隠すように。



「キミの考えの通り、私は仮面を被っている。ずっと演技してるってこと。でも被り続けるのは難しいし、私も素で接したいときもある。キミが感じた違和感はそれだろう。……子供のころの私を演じるならば、キミの感じた通りにやればいい。」



作ってもらった脚本、アレはアレで完成しているが、それは読み物としての場合。実際に演じる場合はそこに役者の解釈や、役者自体の能力も加味される。脚本に引きずられて十分な演技ができないのならば、自分なりの解釈で新しくした方がいいだろう。それにそっちの方が面白そうだし、この子も楽しめそうだ。


それに、この子が私の"素"を意識した演技をするってことは、剣闘士になる過程で私が"ビクトリア"みたいな性格になった変移ってのも見せることが出来る。ちょ~っと、私側の演技に負担が増えそうだけどそっちの方が物語として面白そうだ。こういうのって『面白いこと』が正義だからね、その大前提を崩さずに邁進していきましょうな!




「わ、わかりました! がんばり、ます。」


「あぁ、楽しんでいこう。」


「……その、嫌じゃなかったらなんですけど。」



少し不安そうな顔をしながら、彼女は私の方を向く。



「さっきみたいに、ビクトリアさんのこと見ていてもいいですか? 絶対、頑張ってうまくやって見せるので!」


「もちろん。好きなだけご覧。」








 ◇◆◇◆◇








「あ、ビクトリアさん。演奏家の方々が……。」


「うん? あぁ、ありがとう。すぐに移動するよ。」



他の役者さんたちとの台本読みを終えた後、スタッフの方が声を掛けてくださったのでそちらに移動する。もちろん背後からはとっとことミリアムちゃんが付いてきている。さっきみたいに抱き上げて上げようと思ったが、自分で歩けるからいいとのこと。


にしてもまぁさっきまで台本読みしてたんだけど、すごかったねぇ~。さっすが本職って感じだった。


私も私で負けてないというか、ずっと"ビクトリア"演じてたからある程度は食らいつけるだろうと思ってたけどいやま、全然。声の出し方や、抑揚をつけての感情の表現の仕方。ぜ~んぶ違った。私も自分のセリフはちゃんと合わせてたんだけど、全員の迫力がすごくて消えちゃいそうなぐらいだったんだもの。


まぁそれも納得な話で、そもこの国の主な劇場は屋外での公演がメインで、しかも拡声器みたいなものは一切ない。しかも客席から結構離れているものだから演技を通じて観客にキャラクターを見せるのはマジで至難の業だ。声もハリが有ってよく通るモノじゃないといけないし、動きもできるだけ大きくして、誰にでも見えるようにしないといけない。



(私がこれまでしていた演技ってのは『屋内』で『マイクあり』の世界を参考にしていた。そもそもの前提が違うけど……、マジで参考になる。)



この世界の前提に則って演じないといけない訳だけど、それで私の強み、これまでの積み重ねを壊すのは避けたい。いや~、こりゃ思ってたよりもやりがいがありそうだねぇ。読み合わせしながらちょっと本職の方々にアドバイス頂いたし、次回までには直しておかなくちゃ。


ん? ミリアムちゃんの方? いやすごかったよ。とりあえず現時点での"私"への解釈を形にしてくれてたんだけど、もうお化けみたいなものだった。"ビクトリア"よりは少し明るいというか、はっちゃけてるんだけど芯はブレてない。子供というものの強みを十全に活かしていて、私と地続きでもおかしくないな、と思わされた。普段のちょっとおどおどしている彼女とはマジで別人だったよ。事実エンリット箱から聞こえる爆発音が彼女のパートで一番多かったしね……。



「あ、あの。ビクトリアさん……?」


「何だい。」


「あ、あの。総支配人さんっていつもあんな感じなんですか……?」



うん、多分。というかミリアムちゃんは初めて……、あぁなるほど。現場で会うのは今日が初めてだったのね。オーディションの時に無茶苦茶爆発してたから覚悟して今日来たけど、想像以上に爆発四散してたし、箱詰めされていた。挙句の果てに私が立ち、立って共演者の人と合わせながら実際に演技している最中に、箱を貫いて内部のオレンジスライムが部屋中に飛び散るなんてハプニングもあったからねぇ。



「私も長くはないけれど、『彼女』は『彼女』として納得して、理解は諦めた方がいいと思うよ?」


「……もしかして貴族さまってみなさんそんな感じなんですか?」


「…………………みんなではないね。うん。」



ただ色々と濃い人がいるのは確か。最近はおとなしいけど妖怪『私のモノにならないか?』とか、私と一緒にお父様からガチ説教喰らった妖怪『叩いてくださいまし!』とか、途中から髪の毛とか爪とかが入ってたせいで怖くなりオーナーにお願いして事務所からNG出してもらってる妖怪『クソ重ラブレター』とか、事務所の小さい倉庫埋めるくらいに私の石造彫って送ってくる妖怪『だからもう送って来ないで! 重さも想いも重いって!』とか。あ~、そう言えば封筒に剃刀仕込んでる古典的なのもあったなぁ。ほら開けたら飛び出てくる奴。



「ひぃっ!」


「ミリアムも売れたら同じことが起きるかもしれない、覚悟はしておいた方がいいかもしれないね」



ま、私は殺しもやってたから、というのもあるだろうけど。人目を集めるお仕事はね、いつの時代もそういうところありますから。そんなちょっと業界の闇というか、綺麗なことだけじゃない内容についてお話していると、教えてもらった部屋が見えてきた。ちょうど中に大荷物を抱えながら入っていく知人の後ろ姿も見えたし、ここだろう。



「っと、ここだね。失礼します。」


「し、しつれいしまーす。」



30人くらいの人たちと、明らかに睡眠不足で機嫌悪いです、って感じのドロ。そして彼女が運ぶたくさんの黒い箱があった。この部屋も入った瞬間に音が聞こえ始めたから防音付きなのだろう。というかオーナーよくこんなに集めたな~、いや確かにエサとなるようなことはいくつか伝えたけど、これほどとは。この前会った時あんなにワーキャー言ってたのに! 今度お礼にパイでも作って投げつけに行ってあげようかな?



「やぁ、ドロ。元気……。」


「なわけないだろうがクライアント様よォ! あ~、こちとら8時間睡眠必須なのに期限ギリギリの仕事押し付けやがって……。しかもプラスで残業だァ?」



あ、これガチでキレてる奴だ。普段の関西弁のお姉ちゃんキャラが吹き飛んで、極道さんとかヤクザさんみたいな性格になっちゃってる……。目の隈的に多分徹夜させちゃったんだよね……。あ~、顔が怖い。うん。後日菓子折りもって土下座しに行こ……。



「そ、それで注文の品は?」


「はァ? 全部完璧に仕上げて来てるに決まってんだろうが! 姉ちゃんこそちゃんと耳揃えて払ってくれるんだろうなァ?」


「うんうん、払う。払うからね? とりあえずお疲れみたいだしほらそこ座って、お目目かくして。飴ちゃんでもなめて……。」



もうどこの借金取りだよぉ……、『あ、ウチな? 寝不足だったり、徹夜明けになると滅茶苦茶性格悪くなるねん。ストレスで色々おかしくなる―って奴。あの状態になったら家族も近寄らんから色々注意してな。多分コレの納品ときそうなりそうやから』って言ってたけどレベルが! レベルがおかしいよ! ほら周り見て! 演奏家の人たち『あ、そっちの人だ……。』って顔してるし、ミリアムちゃん涙目だからね!!!


と、とりあえずこの終わった空気をなんとかしないと……。



「スゥ~。はい、今回はお集まりいただきありがとうございます。皆さん把握していらっしゃるとは思いますが、本日はこの場で"新作"の方を見て頂いて、その後仕事の方を受けていただけるかの判断をするとのことで大丈夫ですか? 大丈夫そうですね。ではちょっと製作者の方の機嫌が悪いみたいですので……、さっそくやっていきましょうか。」






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