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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
日常編

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63/86

63:みんな最初は引っかかるよね



ほい! みんな大好きビクトリアちゃんですよ~! 今日は普段通りのお洋服。鎧じゃない普段着なんですが、なんとお仕事の日。私主演の劇をやるってお話してたでしょう? その役者さんたちや、演出とか小道具とか衣装さんとかの各種スタッフの皆さんとの顔合わせが今日なのよ。内容自体はそんなに面倒なことじゃないんだけど、ちょっと違和感があるのよね。


(鎧の有り無しでスイッチ切り替えてたとこもあるしなぁ。)


そのため髪も全部降ろしてビクトリアの物にしている。普段は暑かったり面倒だったりするから後ろで縛ってるんだけどね。普段着でビクトリアってすごく新鮮だよ。今後他の役者さんや、スタッフの人たちに"素"を見せることはあるだろうけど、"ビクトリア"と"ジナ"は違う存在だ。ギャップと言ってもやり過ぎれば終わるからね、色々気を付けていこう。


ほら舞台裏のネズミーマウスさんと一緒。着ぐるみ着たらもうそのキャラとしてなり切る感じよ。



(というわけで頑張っていきましょうか、アルもマリーナも今頃頑張ってるだろうしね。)



私が面倒を見れないときは、魔法指導役のウィウィ先生かヘンリ様のお屋敷にいる護衛兵の人たちにお願いすることになっている。アタマ、お仕事の始まりの時間がちょっと遅かったからアルをついでに送って行ったんだけど、迎えてくれた護衛兵長さんのお顔が『ビシバシやりますぞ! やる気十分!』って感じだった。私のブートキャンプよりはマシだろうけど大変そうだよね。



「と、ここか。コピア?」


『はいはい、了解ですー。』



ここまで乗せて来てくれたコピアの背から降り、屋敷の厩舎まで移動するように頼む。自分で思考し会話できる彼女だからこそ任せても大丈夫ってのは非常にありがたい。楽だしね。


さて、到着したのはヘンリ様の持つお屋敷の一つ。正確にはヘンリ様の派閥が所有している貸会場、って物件だが実質ヘンリ様のものなので間違いではない。会議したり、演劇の練習をしたり、防音の魔法とかもかかってるみたいだから音楽の練習もできるそうだ。今回の劇の実質的な総支配人にあたるエンリット嬢がヘンリ様にお願いして借りたそうだ。


ちょっと中に入ってみれば綺麗な装飾が為された部屋が迎えてくれる、それに一般のご家庭には存在しない魔力を動力とした照明なども所狭しと並べられており、入口だけでもかなり明るいことが解る。ウチも照明の魔道具とか設置してるんだけど、コレ結構高いのよね。やっぱヘンリ様金持ってるなぁ……。



「あ、ビクトリアさんでしょうか!」


「うん? ……あぁ、そうだけれど。キミは?」



入り口付近で雇い主の資金力に思いを馳せていると、少し奥の方にいた女性が私に声を掛けながら近寄って来る。服装からして従者やそれに類するもの、誰かの使用人だろうか? 私に対して様付けしてくれているけど、その振る舞いが貴族へのモノではなく同じ平民へのものだから私の素性もある程度解っているのだろう。となると……



「エンリット様に仕えております、サイクロメ商会の者です。ま、お嬢様がご実家にいたころからの人間なんですけど。皆さんもうお集まりですよ! ご案内しますね!」


「ありがとう。……もしかして遅れてしまったかな?」



涼しい顔で彼女にそう問いかけるが、内心冷や汗である。え、時間通りじゃない? なのにもうみんな来てるの!? え、もしかして業界じゃ何分前に到着しとかなきゃ、ってルールとかあったりするタイプ? や、やらかしですか?



「いえいえ、大丈夫ですよー! ただこういった時主役の方が最後に来るっていう文化があるみたいで、それでビクトリアさんだけ少し遅い時間にご到着していただけるようにお伝えしたんだと思います。」


「そうなんだね。」


「変な文化ですよねー! お嬢様にはずっとお仕えしてまぁそれなりに劇とかの活動にも参加しましたけど未だにサッパリです。」



そんな話を聞きながら、彼女の後ろを付いて行く。なんでも昔主役を務める役者となれば結構ベテランの方が多かったみたいで、そういった方に配慮するように後に来てもらったり、若手が変に遠慮しないようにそういう来る順番とかが出来るようになったんだって。……そんなこと言い出したら私役者経験0よ? いや"偶像"と書いて"アイドル"と読むようなことはしてたけど舞台素人よ?



(まぁ私が一番最初に来てたらそれはそれで気を遣われちゃうだろうから理解は出来るんだけど……。)



平民な私だけど、結構立場ややこしいからね……。元剣闘士な奴隷だけど、後ろにヤバいのいるし。


ま、とりあえずそんな時間に呼んでくれたエンリットちゃんへの感謝と、経験0の新人として少しでも良い作品にできるように努力すること、役者として生計を立てている先人たちへの敬意を忘れずに"ビクトリア"として頑張りましょうか。



「と、ここかい?」


「はい。ちょっと待ってくださいね~。」



少し歩くと、見たことの無い特徴的な扉の部屋を見つける。置いてある札的に今日の会場はここのようだ。ちょっと魔力感じるし……、このドアが例の『防音』関係の魔道具なんだろうか。そんなことを考えながら扉を少し開けて顔を突っ込んだ使用人の彼女を待つ。



「失礼しまーす。あ、はい。そうです。ご到着されました。もう入ってもらっても? あ、了解ですー。……さ、ビクトリアさん。どうぞ。」



そう言われて開かれた扉の中へと入っていく、まぁここで断る意味もないしね。すると、部屋の中に入った瞬間に内部の音が聞こえ始める。何故か拍手だが。なるほど、部屋の中を『防音』の魔道具で囲ってたわけか。ドアを開けても音は漏れ出ないことから結界の様なモノなのだろう。防音対策しっかりしてるなぁ。……というかなんで拍手されてんの? そういう文化? というかどこまで歩けば……、あぁこの他スタッフや役者さん全員に視られる位置ね? 了解。



「今回の主演を務められます、ビクトリアさんですー。ビクトリアさん、ご挨拶お願いします。」


「今? ……あぁ失礼。ご紹介に預かりましたビクトリアという者です。"役者"の経験は初めてで皆さんにご迷惑をおかけすると思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。あ、それと……。仲良くしてね。」









 ◇◆◇◆◇








これでいいのか? 感が半端ない挨拶を終えた後。私を案内してくれた使用人の人を司会に、順に挨拶が始まっていく。いや皆さん拍手してくださったけどアレでよかったの? こっちの常識なんも解らん! マジで畑が違う! え、何!? 剣闘士みたいに自己紹介したら『ヒャッハー! 新鮮な女ァ!』って襲い掛かってくるようなノリはない感じ? 『剣を合わせば人が解る、いざ!』って切り掛かってくる人もいない感じ? わぁ、なんて平和な世界!


とと、ふざけている場合じゃなかった。名前と顔と役職叩き込まんと。




「服飾を担当します。~~です……。」


「小道具などの制作を~~。」



わ~! 多い! そしてペースが速い! 覚えられないよ!


そもそも私、人の名前覚えるの苦手だし、覚えても死ぬから覚えないようにしたし、そのせいでマジで身近な人しか覚えられないようになっちゃった人間だよ! こんな一斉に来られると無理だって! 名札! 名札付けようよ! 名前間違えて変な雰囲気になったり、名前忘れたままお互い役職だけ覚えてるからなんとかなるけど打ち上げの時になんて呼べばいいか解らなくなる奴になっちゃうよ~! せめて名簿と顔写真ついたしりょうちょうだい~!


そんな私の心の叫びは聞き入れられず、どんどんと自己紹介は進んでいく。まずいぞ、誰一人入ってこない! 役職すらわかんないぞ! こっちに来てもう結構時間たってるけどこんなにカタカナいっぱいだと困る~、まだ森田とか森木とか田森とかの方がいいって! ……いやソレはそれで絶対ごっちゃになるな。



(後でエンリットちゃんに『お金出すから名前と役職名書いた名札をみんなに着けるように言って~』ってお願いしようかな……。)



「はい、一応これでスタッフの方は全員ですね。あ、あとそこに置いてある定期的に奇声を上げる箱ですが、"総支配人"兼"演出"のエンリットさんが入ってます。爆発して飛び散ると色々面倒なので入ってもらってます。」


『よ、よろしくお願いいたします~。』



たぶん魔物素材なんだろうな~という材質の箱からエンリットちゃんのお声が聞こえてくる。あ、やっぱその箱エンリットちゃんが入ってたのね。この世界独特の奇妙なインテリアじゃなくてよかったよ。



「あ、御存じない方もいらっしゃいましたよね。ウチの主人ですが、感極まったりすると体が耐え切れなくなって爆発するスライム人間なのでこのような形で失礼しています。大体オレンジ色のゲルは主人ですので、討伐したりしないようにお願いします。あ、あと地面に落ちてたら拾って届けてくださるとありがたいです。」



さっき私のことを連れて来てくれた使用人の人がそう補足する。どうやらスタッフの皆さんにはすでに通知されていたようで『いつもの~』って感じだけど、役者の一部の方には『何言ってんだコイツ』という顔をしている奴もいる。まぁマジでそうなんだけどね。


使用人の人が疑問を解消するように箱の扉を開けると、案の定オレンジ色の粘体が箱の中で破裂した情景が飛び出てくる。内側にべっちょり付着してて、下にどんどん垂れて来てる。多分私の子供時代やそのあたりを担当してくれる子役の子たちが悲鳴を上げてるし、私も顔をしかめたくなるような光景だ。



「あ、キモイですよね。すみません。あ、でも内側から外見れるようになってますし、音も聞こえるのであんまり言わないであげてください。……さらに爆発するので。ということでウチの主人の紹介は以上です。次は役者さんたちの自己紹介の方お願いいたしまーす。」



キモイって言われてさらに爆発する? エンリットちゃん、キミもそっち側だったか……。っと、さすがに共演者の人の名前は覚えないとまずい。


右から左に流れているような気もするが、せめて顔と役ぐらいは一致させようと叩き込んでいく。私の架空の幼少期を描く第一章に出てくれる私の両親役の人に、子供時代の私役の子、あと領主の役の人とか他エキストラの方々。次に第二章で私が剣闘士になった経緯を書くところで、私の同僚だったり、私に殺される役だったり、あとは先代のクソオーナーの役をやる人だったり。まぁそんな感じ?


第三章は剣神祭を扱うんだけど、そっちの方は役者として食べてる人じゃなくて現役剣闘士から何人か来ている。オーナーとタクパルを通じてこっちに来てくれた人だね。昔少しだけ相手をしてあげた子一人と、全く知らない子二人が来ている。後ろの方は新人さんかな?



(というか首元の奴隷紋がみんな無いな、隠してるのか解放済みなのか。……前者かな、私が気にしすぎないようにオーナーが何かしてるんだろう。そも"アレ"なかったら逃げ出してもおかしくない……、わけではないか。あそこ剣闘士にしては環境良すぎるし。)



っと、そんなことを考えていたらいつの間にか自己紹介の時間が終わってしまった。……まずいな、顔と役職は何とか把握できたけど名前が無理だぞ? 困る。



「っと、皆さん自己紹介おわりましたね。じゃあちょっと休憩挟んだ後に役者の皆様は台本読み、スタッフは別会場用意してますのでそっちに移動して準備していきますー!」



わーい、台本読みだー! ってまだこっち名前覚えきれてないんだけど! なのになんか役者の方々こっち来たんだけど! え、何! 何て対応したらいいの! う~ん、もうなる様になれ!




え、何? 闘技場時代試合見てくれたの? それでファンになってオーディション受けてくれた? わ~、それはありがとう。一緒に頑張ろうね~、うんうん。あ、そこのキミは……、え!? 裏の時から見てたの? ちょ、ちょいちょい。それは黒歴史というかあんま口に出しちゃダメな世界だからね? というか明らかに真っ当そうな君がなんでみてるのさ! え、親の仕事の関係? あ、うん……。


あ、私の親友役の。第二章で死ぬ女の子の役のね。はいはい、あ~、うん。実話だよ、それ。仲良かったんだけどね~、うん。あ、いいよそんなに気にしなくて、自分が思う彼女の形を形成してくれればいいから。多分それで喜んでくれると思うよ。……で、そっちの彼と、貴方が私の両親役やってくれるの!? わー! 私の両親よりも優しそうでいいなー! って感じ。うんうん、よろしくお願いいたしますねー。


ふんふん、あ、へー! そうなんだ、いやまぁそうだよね対象が生きてる間にその人の人生劇にするの珍しいよね。しかも主演が本人っていう。いや、さ。オフレコなんだけどね? ほらヘンリエッタ様いるでしょ? うん。あのお方が色々後援してくださったから……。あ、やっぱ役者さんの業界でも噂になってたんだね。そうそう、マジなんですよ。いやー、お互い大変ですよねー。




とまぁこんな風に一斉に集まって挨拶してくださった役者さんたちを捌いていく、誰一人名前を覚えられなかったので配役の方で呼ばせてもらったが……、今後のビクトリア先生の頑張りに期待してください。な、なんとかして覚えるから……。というか色々濃い人ばっかだな。



(とりあえず大体の人と挨拶できたと思うんだけど……、まだ見てるな。)



人の波を何とか捌きながらも、ずっと視線を感じていた。まぁずっと戦いの場に身を置いてた人間だからね、実戦から離れても視線ぐらいすぐ察知できるよ。……特にあっちから話しかける気はないみたいだし、放っておいても良かったんだけど、彼女の"役"的にね? 声ぐらいは掛けておこう。よっと。



<加速>五倍速



脳の中のスイッチを切り替え、私だけの世界に入門する。もしかしたら、と思っていたけれどこの感じだと誰も付いて来れていないようだ。まぁ戦いに身を置いていなければそんなもんか。誰にもぶつからないように細心の注意を払いながら"彼女"の背後へ。『加速』を切り、私が消えたことに驚いている彼女の肩を軽く叩いてやる。



「やぁ、"私"。」



幼少期の私を演じる彼女の肩に手を乗せ、人差し指を突き出した状態でそう問いかける。



「え、ぷぉ!」



や、引っかかった。








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