59:尊み爆発警報
「というわけで脚本担当のホカーラくんと、演出担当のエンリットちゃんで~す! ぱちぱち~!」
「わ~、ぱちぱち……。でいいの?」
ヘンリ様に連れられて建設中の劇場の中を少し移動、私の目の前には一組の男女が立っていた。
男性の方は初老に差し掛かろうという感じの男性、身なりはまぁキレイな方だけど体格が明らかに細い。貴族isパワーなこの世界では大体肩幅とか恰幅がいいのが貴族なので多分平民なのだろう、もしくはそういう体質の貴族。纏う雰囲気と若干面倒そうな表情を見るに無理やり呼び出されたのだろう。
んでもう片方の女性の方は男性に比べれば若め、大体20代前半ぐらい? 短めにまとめたオレンジの髪が特徴的な方だ。ヘンリの年齢詐欺のことも考えると合っているかどうかは解らないがまぁとにかく見た目は若め。脚本の方は面倒そうな雰囲気を出していたが、こちらの彼女は顔に笑顔を張り付けたままなんか小刻みに振動している。なんだろ、バイブレーション機能でも付属してるタイプの人間?
まぁこの世界の人間、人間じゃないから(異形を思い出しながら)……。
「どうも、何度か文で話はしましたが対面では初めて、でしたか? ホカーラです。こういった脚本の仕事ではどう改変してもらっても構わないというスタンスだったのですので来るつもりはなかったんですがね……。そこの貴婦人に無理やり呼び出されまして。ま、よろしくお願いします、と。」
「あぁ、なるほど……。こちらこそよろしく。」
先に声を上げてくれた彼の方へと向き、軽く挨拶を交わす。まぁ確かに家の中から出たくないタイプの人間が急に呼び出されるのは嫌だよね……、しかもヘンリって完全に逆らったら終わるタイプの人だし。本人は別に『あらそう? なら次の機会ね~!』で笑って済ませそうだが彼女の立場がそれを許さない、って奴だ。……もしかしてお前苦労人か?
んで、お次は女性の方なんだけど……、なんかさっきよりも震えてない? 体の輪郭がブレてるんだけど? 色々大丈夫? 中身バターにならない?
「あ、あの……、だいじょ」
「ほなゃ! お、おおおお推し様が目の前に! しかも私めに話しかけてくださってる!? おぁぁあもう無理! 爆破ちゅすっ!」
ぱちゅん。
その瞬間、彼女だったモノがはじけ飛ぶ。
すわ新手の暗殺者かと思い反射的に『加速』を使用し彼女から距離を取るが、攻撃らしいものは飛んでこない。代わりに私があった場所にあるのは粘性の高いゲル状の存在。目を疑うというか、脳が理解を拒否し始めるが何とか思考を正常に保ちながら状況を把握しようとする。
目線は自然と彼女の方へ。先ほどまでエンリットと紹介された彼女ががいたはずの場所には何も残っておらず、代わりにその地点から円を描くようにオレンジ色にスライムの様なものが大量に宙を舞っている。どこからどう見てもこのオレンジ色のゲルが彼女なのだろう。いやもう彼女だったもの、と言った方が正しいのかもしれないが。
十分な距離を取り、自分に危害が及ばないことを理解した私はゆっくりと『加速』解除。その瞬間世界は正常な速度を取り戻し、空中を舞っていたオレンジスライムたちはぺちょぺちょと気味の悪い音を発しながら地面へと落ちていく。
……………いや、は? なに? 新種の魔物?
「あちゃ~、やっぱり耐えられなかったわね。」
「……あ、あの? ヘンリ?」
「あ! ごめんなさいビクトリア様、言ってなかったわね。この子、スキル持ちよ。」
……内側から爆発四散するのが?
「じゃなくてこのスライムみたいなのが、ほら5.6年前に当主が破産しかけたっていう……、ってビクトリア様知らないわよね。ついついいつものノリで……。悪いけどちょっとこの子の破片集めながらでいいから聞いてくれるかしら? ほらホカーラも。」
そう言いながらどこからか箒と塵取りらしきものを取り出して、エンリットの髪色と同じオレンジ色のスライムを集め始める彼女。『だから来たくなかったんだ』みたいなことを言いながら手伝う彼。……え? 何? これ私がおかしいの? びっくり人間ドッキリ計画とか裏でやってる? 隠れてたアルとかマリーナが『ドッキリ大成功』とかの看板もって出てくる? なら早く出て来て!? お師匠様ジェネレーションギャップならぬワールドギャップで色々もうダメそう!
「このこの家ね、結構有名なところなのよ。スキルって子に受け継がれることはあるんだけどそこまで確率は高くないの、でもこの子の家は何故かみんな同じスキル持ちでね~。ほらこんな風にドロドロになる。」
「ミャー」
「喋るし、この状態のときは記憶飛んでるみたいだし面白いわよね~。ビクトリア様もする?」
「ア、イエ。ケッコウデス。」
集めるってことは元に戻るというかコレ人判定でいいのよね!? 人でいいのよね! なんか人体では絶対に表現できない粘性と感触と若干の発光してるけどこれ人間でいいのよね!? なんかよくわからん声出してるけど!? というかなんでヘンリ様は人の体の切れはしをスーパーボールみたいにして遊んでるのさ!? え、この前腕引きちぎって『遊んでもいいですわよ』って言ってくれた?
なんかもう色々おかしくないソレ! ボールは友達っていうけど友達の腕をボールって言うのは色々ダメでしょ! むしろボールよりもヘンリの方が怖いよ!
「………やっぱそうよね。なんかちょっと疲れてるのかも。ほらハーバル(異形)ちゃんとかほぼ毎日血まみれになってるし……、やっぱり体を変化させるタイプの子は色々おかしくなっちゃうのかしら……。」
「……ダイジョブ?」
「大丈夫だといいけれど。この子もこの子で『一定量さえ残れば大丈夫~』ってマインドだから、ね?」
あぁ、どうせ治るから別にどれだけケガしても大丈夫だ。みたいなマインド持ちね……。おーけー把握した。というか"推し"って言ってたけど……、彼女もそうなの? 家って言ってたから貴族関係の方なんだとは思うんだけど。
「あ、そうそう。あなたのファンってことで知り合った子。実家は伯爵家なんだけど下の子で家が結構な財政難なせいで商家の方に嫁いだ子なのよ。まぁ運が良いのか悪いのかすぐに旦那さん死んじゃって商会を掌握して国に寄金して男爵位貰って今は悠々趣味の活動をしてる、って感じね。この前貴方の話をしたら『もう無理ィ、尊みッ!』って言いながら爆散してたから覚悟をしてたのだけれど……、やっぱり無理だったわね。」
あ。そういう……。
そんな会話をしながらオレンジ色のソレを一か所に集める。すると少しだけその発光が強くなり、徐々に人の体を形成していく。私も大概だけどさ、異形もこの子もこんなことできるのにカテゴリーが"人間"って色々おかしくないですか創造神さんよ。……いやあの神サマだったら普通に笑いながらやりそうだな。
「そうそう、ビクトリア様? 貴方が破片を集めるのを手伝ったことを知ったら今度はもっと広範囲に爆発しちゃうだろうから教えないであげてね? あと過度なファンサも室内以外では禁止。広く飛び散るとかなり面倒だから。」
「あ、はい。」
◇◆◇◆◇
「な、なんかジャリジャリします……。」
体が元の形に戻るのに5秒とかからなかった彼女と視線を合わせぬように観察する。どうやらゲル状にした体内に色んなものを収納できるらしく、爆発と共に消し飛んだ服は体内の中に入れてあった予備のモノへとかわっている。まぁその代わりに地面に散らばっていた砂が体の中に入り込んでしまったようだが……。
「エンリット? 友人のよしみでお願いした訳だけど……、公私は分けましょうね? ベテランの方にお願いするという手もあったのですから。」
「ひゃ、ひゃい! 肝に銘じます!」
少しだけ語尾を強めながらヘンリ様がそう伝える。まぁ確かに毎秒爆裂されたら仕事が進まないし、まぁそうなるのは仕方がない。ただヘンリがわざわざこの場に呼んだってことは"友人のよしみ"だけが選出理由なのではないのだろう。この人は能力もしっかり見ている。軽く釘をさしておく、ってだけだろう。
「さて、じゃあもう一度紹介しておきましょうか。今回あなたの劇の演出を任せることになったエンリットよ。」
「ご紹介に預かりました、エンリットと申します。陛下からは男爵の位を頂いておりますが……、ぜひ気にせず名前でお呼びください。最高のビクトリア様へのお手伝いを全力でやらせていただきます。」
「うん、よろしく。エンリット。」
普段は握手、気分が乗ったり相手が純粋なファンであればハグぐらいまではするのだがアレを見た以上できそうにない。さっきのは運よく誰にもゲルが掛かるということはなかったが、多分ハグでもしてしまえばみんな彼女まみれになってしまう。うん、それはちょっと嫌だからね。
「ひゃま! おおお推し様が私の名前を「エンリット?」あ、はい。ごめんなさい。」
……うん、これ多分何してもこの子爆発する奴だな。とりあえず素は絶対に見せないようにして、普段のビクトリアより若干そっけなく……。あ~、嫌どうだろ。それでも『だめ、しゅき! 爆発する!』になりそう。なに? 私一人だけなんか違うゲームやらされてる? あぁもうなんか面倒になった。ヘンリ様にブレーキ役頼んでもうお仕事の話しましょ。脚本のホカーラさんもさっさと終わらせたいだろうし。
「では早速始めて行こうか、立ち話もなんだし……。そこの職人の方。あそこの観客席の方使わせてもらっても? 大丈夫? あぁ、ありがとう。」
近場を通った職人さんに声を掛け、観客席の最前列を使わせてもらう。ちょうど舞台が見えるし全体を眺めながらお話が出来そうだ。
「あ、私のスタンスだけどお金だけ出す無口な出資者だから気にしないでね?」
「ありがとう、ヘンリ。ではまず感覚の共有から始めようか。」
っと、その前にホカーラおじさんいい脚本書いてくれてありがとね? 私の適当な奴からいい台本というかもう小説レベルなの書き上げてくれてほんと助かるよ。これを元に組み立てていく感じでいいねエンリット……、爆発しない? しない。ならよし。じゃあそういう感じで。
あぁそうだ、先に聞いておきたかったんだけどホカーラおじさん的に『このシーンはこうしてほしい』とかそういうのあるの? あったらそれに合わせる感じがいいかなって考えてたんだけど。いやほらね? 一応私の話だけど、漫画とかで言ったらさ、私原作でホカーラがコミカライズ、そして私が主演でコミカライズ化された作品を演劇にする、って感じだからね今。漫画原作的にはどうかなって。
「特には。一人の作家として執筆中に思い入れのあるキャラなどは出来たし、それぞれの活躍を望んでいるが演出の邪魔になることは望んでいないので。それにそこの彼女は色々おかしいが腕だけは確かなのでな。以前同じように組んだことがあるのだが、確かに傑作に仕上がっていた。」
「ほ、ホカーラ殿……!」
「ただキャラの兼ね合いなどで勝手に感極まって爆発する悪癖がある。先日脚本として見学に行った際目の前で爆発され残骸を浴びてね……。」
あ~うん。箒と塵取り常備しとくよ。とりあえずそのあたりは了解、演者さんとの兼ね合いで脚本の修正とか起きそうだったらまた相談させて貰うよ。とりあえず現状はおじさんの書いてくれたので進めるようにしようか。んじゃエンリットちゃんや。いまからあなたに話しかけるわけだけどちゃんと爆発せずにお話聞けるかな?
「あ、あ、あ、推し様が! こんなにちか「エンリット?」あぅ、すすすすみましぇん。……よし、よし。エンリット私は出来る子。爆発しない、爆発しない。尊みを受けるのではなく受け流す……。」
「大丈夫かい?」
「ははははい! がんばりましゅビクトリアしゃま!」
「OK、じゃあ詰めていこうか。」
適宜ヘンリエッタ様からのフォロー、後半から若干面倒臭さと怒気が含まれたそれを受けながら彼女との話し合いが続く。
まずは私の立ち位置として、基本演出家の意見に口答えするつもりはなく、一役者として扱ってほしいこと。ただ自分の中でどうしてもここだけは譲れない、ってのがいくつかあるからそこは色々お願いしたい。全体の構成を見て不可能な場合とかは適宜話し合う場を設けて欲しいって感じね。
あ、ホカーラおじさんには途中で帰ってもらったよ? 彼あんま関係なかったし、今日の目的ほぼ顔合わせみたいなもんだったから……。それに彼本業は小説家みたいで、今締め切りに追われてるんだって。大変そ。
「な、なるほど。階段による高低差の演出と、後ろの城壁からで縦の演出。あとは音楽をうまく使いたいのでそこの兼ね合いを……、ですね。了解しました。先ほど出して頂いた案を参考にいくつか考えてきます。」
演出の話が進んでくるとようやく真剣な顔になり、色々と思案をしてくれる彼女。前世の記憶から宝塚とかネズミさんランドとかの演出を実演した時はガチで暴発しそうになっていたが、彼女にとって良い刺激になれば幸いだ。それでどう? なんとか纏まりそうな感じ?
「そうですね……。高低差の演出は演者さんの登場時とかで遠くからやって来ている要素を出したり、空中に浮かんでる様な描写をロープなしで出来るように成ったりとか……、あともう少しお時間いただければ形にはなると思います。それと城壁の方も頂いた脚本に町が襲われるシーンもありましたのでうまく使えそうです。あ、それと闘技場の壁、としてもいけそうですよね。」
お~、確かに。やっぱ本職だからかぽんぽん出ますね。じゃあ私もなんか思いついたり思い出したりしたら手紙で送るね、さすがに何回も対面であうのはシンドいだろうし、役者さん集まって実際に練習始めるまではそんな感じで。というわけで住所……、あぁうん。爆発しないでね、ほんと。ほらヘンリ様ちょっともう『魔法で首から下氷漬けにした方がいいかしら?』みたいな顔してるから。うん。
「りょ、了解です。……あ、そうだ。肝心の演者さんのことなのですが……。」
そう言いながら言葉を紡ぐ彼女。私の演劇、まぁ私が主役として自分の役をそのままやらせてもらうことは決まっているのだが、それ以外が全く決まっていない。彼女が言うには私に何かこだわりやこの役はこの人にやってもらいたいなどの要望がなければ人選を引き受けてくれるそうなのだが……。
「ビクトリア様としては戦闘シーンを本当の試合と同じようなスケールで、闘技場より近くでお客さんたちに見せたいんですよね。」
「あぁ、そうだね。」
「うわ良い声。……でしたらちょっとビクトリア様に付いて行けるような役者さんはいないと思います。動ける方はいらっしゃるにはいらっしゃるんですけど……。」
劇として魅せる、所謂アクロバットな動きや剣舞をすることが出来る役者さんは多くいるし、ソレで食べてる人もいる。けれどもいざ彼らが戦いの本職、剣闘士(元だけど)の私と対峙した場合。絶対に格下、それも全く歯が立たず雑兵のように掃き捨てられるレベルの差が出来てしまう。私に合わせたら本来死闘となったシーンが無双で終わっちゃうし、役者さんに合わせたらチャンバラで終わってしまう。
私のファンたちが私を知った経緯のその多くが剣闘士としての興行を見たことから始まっている。そのため劇も私が主演として出るのならば結構過激な戦闘シーンを望んでいる奴が多いだろう。そもこの世界の人間そういうの大好きだし。
「あ、それと音楽の方ですがちょっと私の方の伝手で出来そうな方がいらっしゃらなくて……。お力に成れなさそうです。」
「了解、戦闘の方も音楽の方も合わせて古巣にでも相談してみるよ。」
「解りました。じゃあ他の役者さん、戦闘などに関わらないキャラたちの方はこちらの方で選ばせていただきます。候補が複数の場合はオーディションとかをすることもあると思うので、その時はヘンリエッタ様を通じてお呼びいたしますね。」
「あぁ、ありがとう。」
「ひゃう! おおおお推し様に感謝!? ……もももももう無理! エンリットちゃん頑張った! 頑張ったけどもう限界! これ以上の受け流しなんて無理! 尊い! 尊すぎ! もう無理、ほんと無理! 耐えられな「『氷』」」
彼女が眩い発光と共に爆発しようとしたその瞬間、ヘンリエッタ様の口がたった一つの単語を紡ぐ。私の耳に届くのは、その単語が持つ意味よりもはるかに冷たい言葉。その瞬間今にも爆発しオレンジ色のゲルをあたりにまき散らそうとした彼女が長方形の氷の中へと押し込まれる。水色の淡い氷は一瞬にして内部をオレンジへと染め上げ、氷の内部で彼女が破裂したことを教えてくれる。
「だめよぉ、エンリット? ビクトリア様も、注意してくださいな。」
「あ、はい。キヲツケマス」
さ、さて! 一応話し合い終わりましたし、お天道様を見ればちょうどいいお時間。ウィウィ先生の魔法授業も終わっただろうしお迎えに行かなくちゃ! うん! そうだね! アルちゃんを待たせたらだめだもんね! お迎えが来なかったら心配しちゃうもんね! そうと決まれば今すぐ……。
「あら、ちょうどいいわねビクトリア様? 私さっきからずっと彼女の御守で疲れちゃったの。覚悟はしてたけど10秒に1回を超えられると流石にもう色々面倒になってしまったわ。この氷3分程度で融けるし、貴方の足で私も送って行ってくださらない?」
「よ、ヨロコンデー!」
感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします。
また、こちらで投稿していた分が先行投稿していたハーメルンの物に追いつきましたため、連続投稿が遅れます。以前のように長期間開けての投稿は控えるようにいたしますが、次話の投稿まで少々お時間いただくことをご了承くださいませ。




