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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
日常編

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56:フードファイトは辛いよ




【魔法屋さん】


〇アルの場合

おう、いらっしゃい。何をご注文で? おうおう、ファイアボールな。そこに細かい注文を書くシートがあるから"詠唱"をかき込んで……、っておたく"ルーン"使いか! 最近見ねぇから注文用紙下げちまったよ。あ~、どこにおいたっけな、っと! お、それそれ。見つけた。まずこの上の欄に使うルーンを書いてもらって、下の自由スペースに求めてるファイアボールの絵を描いてくれ。こっちでそれを実際に魔法作ってる職人に渡して、実際に作って、お前さんに届ける形になる。あ、突拍子もないこととか、意味不明な絵は描かないでくれよ? 注文書はしっかり正確簡潔に、って奴だ。


んで支払いは……、お。嬢ちゃんの"魔力"硬貨はこんな形か。これだったら火魔法と水魔法の職人が好きな形だな。割引してくれると思うぜ? 代わりに風魔法の職人はその形嫌いだから割増しになると思うわ。そこんとこよろしくな? あ、あと注文形式で値段は変わらねぇから安心して良いぜ。



〇マリーナの場合

お~、風の嬢ちゃんじゃねぇか。今日も風魔法かい? おうおう了解。んじゃいつものようにそこの注文シートに"詠唱"をかき込んでくれ。一応もっかい説明しておくが、例えば「ウィンドボールの形状」の欄に「球状」と「楕円状」と「ランダム」とか色々書いてあるだろ? 欲しいとこに〇付けて出来たらこっちに渡してくれ。まぁマークシートみたいなもんだな。細かい注文があるんだったら呼んでくれ、マークシートじゃなくてコード表用意するからな。


んで支払いだが……、やっぱ嬢ちゃんの"魔力"硬貨は風にぴったりだな。一族代々似たような形だし、普通よりもちょっとだけ割引しとくぜ? やっぱお得意様にはサービスしねぇとな!



〇ジナ(ビクトリア)の場合

いらっしゃい、お前さん魔法屋は初めてか? そうそう、ここで魔法を魔力で買って現実世界で使うんだよ。んじゃままずは"魔力"硬貨みせてくんねぇか? それの形でどの魔法の割引が効くとか見るからよ……って、何だこの形! こんなクソな硬貨見たことねぇぞ!


なんか形が歪だし、若干欠けてるし、罅入っているのもあるし……。悪いがこれじゃどこも取り扱ってくれねぇと思うぜ? お前さん体はしっかりしてんだから魔法はやめてそっちで……、ってちょいまち。お前さん財布の中に入ってるソレ。そう金色の紙。悪いがちょっと見せてくれ……、ってこれは! 『全品定額クーポン』!? しかも繰り返し使用できるうえに無期限の最強クーポンじゃねぇか!


おうおう! もってけもってけ! さすがにお代はもらうがどれでも好きなの持って行けってんだ!











《hr》













「はぁ、はぁ、はぁ……。あ、ありがとうござい、ました……。」


「はーい、お疲れさまーでーす!」



息を何とか整えながら、せめてもの抵抗として礼の言葉を口にする。皆様ご機嫌よう、最近自身がぼろ雑巾のようになりながら地面を転がるのに何の抵抗も感じなくなってきたマリーナです。


ジナ様のご自宅で基礎トレーニングを行ったり、ヘンリ様のお屋敷や外でウィウィ先生から魔法の授業を受けたり、受けた指導を自分なりに昇華させるためアルと模擬戦を行ったり、ジナ様に遊んでもらったりと自身の力が少しずつ伸びていくことが実感できる日々を過ごしています。その合間に領主としての勉学も叩き込まれているため決して楽なものではございませんが、充実した毎日ではあります。


ララクラを継ぐ者として必須なのは力、他者を寄せ付けぬ圧倒的な力であり、自領の者たちを守り抜く庇護の力。ジナ様はもう色々なにかおかしいというか、人間じゃない気がするというか、もうそういう"存在"として納得した方がいいと考えましたため、師を超えることは不可能そうですが着実に力は上がってきている。これならいずれ、確実に貴族として相応しい力を手に入れられると思っていたのですが……。


やはり、慢心していたのでしょう。



「いや~、頑張りましたね~。ほら息整えて、レモンぶち込んだだけの水ですけどうまいですよ~。」


「ど、どうも。」



回らない口を何とか動かしながらそれを受け取り、浴びるように飲む。全く息を乱していない護衛兵の彼女と、私。魔法無しの模擬戦とは言えここまで差があるとは思っていませんでした。


現在私たちは師であるビクトリア様ことジナ様の提案で、ヘンリエッタ様の護衛兵の方々と共に訓練を行っています。ヘンリ様のお屋敷の中にある大きな広場の中で日々鍛錬し続けた武を確かめ合うこの機会、常々『経験不足だから色々経験させてあげたいんだけど……』とこぼされる師にとってはとても良い機会だったのでしょう。


いやまぁ私も経験が自身の糧になることは重々理解しているのですが、先ほど声を掛けてくださった方を含め誰にも勝つどころか一太刀も入れられなかったとなると……、色々思うことがございます。



「気にしちゃダメですよマリーナ様~、私らコレで食ってるんですし。むしろ子供に負けたら腹切って詫びないといけないくらいですから。」


「そうそう、さすがに腹は切りませんけどもし負けたら普通に職を辞さないといけないレベルですからね。ご安心を、年齢を考えればかなりの上澄みですぜ? 俺がお嬢ぐらいの年とか剣の握り方すら知らなかったんですから。まだまだ伸びますって。」


「……だといいのですが。」



一部の方にそう言われるが、あまり慰めにはならない。確かに自身の一番得意な攻撃手段である魔法を封じた近接武器のみの手合わせであったが、それでも歯が立たなかったのは事実。ジナ様の元で訓練に励むことによって自身が伸びた感覚はあった。だがこんなのじゃまだ足りない。貴族の象徴である魔法は時に意味をなさなくなる、近づかれ過ぎた場合や、相手が魔法への耐性を持っていた場合。


どのような状態でも勝利を収め、力を象徴し続けるのが貴族。ララクラの人間としての務め。もっと前に進み続けなければ。


そう決意を新たにしながら眺めるのは、自身の姉弟子である彼女の試合。最初は単に話すときもそう呼んでいたのだが、いつしか名前呼びに。そして関係性も姉と妹ではなく、追う者と追われる者、ライバルという関係に落ち着いた。



「アルちゃんそこー! モノブなんかやっつけちゃえ~!」


「……あの年で打ち合えてる時点でヤバいよなぁ。確実に視えてるし。」


「……。」



魔法単体であればまだ勝利を拾えるが、剣のみ、もしくは総合的な勝負となった場合勝つことはかなり難しい。師の言葉によると『このまま死に物狂いでスタミナを鍛えて、アルの流しを崩せるぐらい苛烈に攻め立てる攻撃が出来るように成ればようやく五分五分くらい? あ、剣の話ね。』と言われている。基礎トレーニングのランニングでアルに付いて行けず、地面に倒れ伏しながら戻してしまった私がいつ追いつけるのやら……。



(焦るべきではないことは理解している、初めての時のように戻してしまう回数は減り、走れる距離も伸びてきた。だけど……。)



悩みを抱えながら、自身の脳はずっと彼女の動きを追い続ける。自身の目標は貴族として恥じない強さを手に入れることに他ならないが、どうせやるのなら身近な競争相手、姉弟子でもある彼女を超えたいと思っている。むしろ直近の目標はソレがメインだ。そのため、彼女が戦う姿を一瞬でも見逃せるわけがない。



(受ける面、角度、反撃に移るタイミング。どれ一つとっても気が抜けない。)



私のように体格が優れているわけでもなく、我らの師のように驚異的な速度と膂力があるわけでもない。だが彼女は確実に攻撃を防ぎながら、その首を刎ね飛ばす機会をうかがっている。何度も対峙して、自分たちの才について話し合ってようやく確信にいたったこと。それは彼女の驚異的な眼の良さ。我らの師の速度を誰よりも長く肌で感じていたからこその力。


彼女の目の前に立つモノブという男性の剣速は決して遅くない。むしろ早い。今のように離れていれば十分に知覚できるが、眼前に立たれた場合今の自身が反応しきれず勘で動くしかない相手である。むしろヘンリエッタ様が抱えている護衛兵の力がその程度で収まるはずがない。皇室を最前線で守り続ける親衛隊や、国軍の頂点にいる将軍たちに並ぶ力を持つ者ばかり。


だが、"彼女"と比べると、どうしようもないほどに遅い。



(まぁあの人の速度に勝てる存在は確実に人間ではないのでいいんですけど……、それを途中までとはいえ視認出来ている貴方も十分おかしいんですよね。)



確実に何かのスキルなのだろうが、アレは神からの祝福であり呪いでもある。私のように何も持たぬ者は思考から外して、ただ超える手段を探すのみ。


護衛兵が繰り出した横薙ぎを、まるで最初から来るのが解っていたように薙いで行く彼女。たとえ見えていても彼女は速くは成れない。しっかりと受け止められているところに彼女の努力が感じられる。



「よぉーし、時間だ。一旦中止して昼休憩~!」



確実に受け流しながらカウンターを叩き込むが、そもそもの膂力が足りず確実な一撃となっていない彼女の戦いを観察していると、護衛兵たちの長が声を上げる。空を見上げればもう日がかなり高く上がっている、昼食の時間なのだろう。……あんまり嬉しくない時間だ。



「あ、お疲れ。そっちはどうだった?」


「全然ですわ。」


「私も~、はぁ。もうちょっとなんかこう、攻撃力が上がる技とか欲しいなぁ。」



そう言いながら私の隣に座る彼女、飲みかけではあるが先ほど護衛兵の一人から渡されたレモン水を投げ渡してやるとおいしそうにそれを飲み干す。おそらく午後の訓練には参加できないほどスタミナを消費してしまった私と、まだはっきりとした会話が出来るほどに体力の残っている彼女。こんな所でも、差が見えてしまう。



「たしか、筋肉の付け過ぎは成長を阻害する、でしたか?」


「師匠の謎知識だよね~。まぁ大体合ってるからそうなんだろうけど、今日みたいに鎧の腹で受けられて『今攻撃しました?』ってされるのは正直かなりへこむ。」


「あ~。」



単純な攻撃力に繋がる筋力増加の訓練はさせて貰えない代わりに、私たちが課せられているのは継続戦闘能力の向上。早い話がスタミナの向上だ。文字通り吐くまで走らされて、吐いた分以上のものを詰め込まれる。実際それで伸びているので文句は言えないのだが、めちゃくちゃしんどい。



「は~い、談笑中悪いけどメシの時間だよお二人さん。」


「「げ。」」



考えていたら来てしまった。急に首根っこを掴まれ宙に浮く私とアル。その腕の持ち主は勿論私たちの師匠であるジナ様だ。普段では高まる感情が脳を全て支配していくのだが、ちょっと今は疲労感とこの後待ち構えているものへの恐怖が大きい。


"ビクトリア"としての正装、真っ白な鎧を身に纏った彼女によって連れていかれた先は、先ほどまで訓練を行っていた広場の端っこ。この時間のためにいくつもの机が広げられた場所だ。その一つに座らされた私たちにもう逃げ場はない。隣にいる彼女の顔を見ればもう完全に諦めている。



「ほいほい、水球出しとくからそれで手洗って。」



師が宙にルーンを描くと、私たちの目の前に小さな水球が現れる。言われた通りにそこで手を洗えば、今度は風のルーンで付着していた水分が吹き飛ばされた。詠唱魔法では再現することが難しい細やかな魔法、ルーンの強みを前面に出した使い方。魔力の無駄使いともいう。



「じゃ、並べていくから全部食べてね~。あ、メニュー違うから違うの食べないように。おかわりもあるからね♡」


「「……。」」



目の前に並べられたのは文字通り山のように重なる料理たち。一品一品が明らかに自分の頭よりも大きいという理不尽。四人掛けのテーブルが全部埋まるほど並べられてなお、まだ続きがあるという。とんでもない大食漢か、もしくは自身の胃袋の容量を理解できない愚か者か。これを見て喜べるのはそれぐらいだろう。ははは、冗談きついっすよジナ様。



「「い、頂きます。」」


「は~い、全部手作りだから美味しく食べてね♡」



あぁ、過去の私よ。手作りだと聞き飛び上がって喜べた私よ、当時の喜びを少しでもいいから分けてくれ。この人マジで全部突っ込んでくるから! 本気で全部消化させようとしてくるから! たしゅけて! にげさせて! でもにげれるわけないじゃんか! 物理的にも心情的にも不可能! 経験上全部胃の中に収められるのは理解してるけどあの自分が人間なのか、それとも食事を無理やり詰め込んだただの袋なのかわからなくなる感覚! 何度も味わいたいとは思わない! でも普通に美味しいからなんか腹立つ!



(め、目の前に私たちの三倍以上食べている成功例がいる以上間違いではない。食べたら食べた分だけ強くなってるのも理解できる。でも! でも! なんでフードファイトさせられてるんですか私は!?)







 ◇◆◇◆◇





いや~、食べた食べた。


ヘンリ様のお屋敷の厨房借りたけどまぁ色々すごいね。抱えてるハラペコさんが多いせいか設備は広いし人は多いし食材は豊富だし、マジでなんでもあった。せっかくだからってことで護衛兵たちの飯も作ったせいか思ったより疲れたけどおいしそうに食べてもらえると助かるよね。



「二人はある程度消化できるまでゆっくりしときなさいな~。」


「「ふぁ、ふぁい……。」」



食卓にぶっ倒れている彼女たちをよそに、軽く伸びをしてみる。うんうん、いいお天気ですなぁ。


体づくりの方向性や、不足している栄養素は二人とも同じではない。だからちょっと手間だったけど二人の食事はそれぞれ食べたものが違う。ま、二人分のメニューをそのまま大量に作って余りは護衛兵たちに上げてるわけだからそんなに面倒ではなかったんだけどね。師匠としてはおかわりはしなかったけどちゃんと食べきってくれて何より。


この世界の人間は確実に私の知るホモサピエンスとは違う種族。そのため食べれば食べた分だけ鍛えたら鍛えた分だけ強くなるようなあの野菜人みたいな特性も持っている。若干無理矢理食べさせているおかげか胃の容量も増えてきたみたいだし、動ける時間も増えてきた、順調だね。師匠うれちい!


あ、ちなみに今日はヘンリエッタ様はご不在。元老院関係で城の方に顔出さないといけないらしくて今日朝お邪魔した時、血涙を流しながら出発していった。なんでも以前私が厨房を借りていたことを耳にしていたらしく、今日この場にいれば私の手料理にありつけると考えていたのだろう。そんなに食べたかったのなら今度何か作ってあげた方がいいんですかね?



「さて、腹ごなしにちょっと走るのもいいんだけど……。お! いたいた。」



近くを歩いていた異形のいーちゃんに声を掛ける。手加減が出来ないという彼の不器用さのせいか、それとも「再生」なしで私を優に超える膂力を持っているせいか、今日の護衛兵たちの訓練に彼は参加していなかった。だが同僚たちが頑張っているのに自分だけ顔を出さないのはダメとか考え、この時間に様子を見に来たのだろう。片手に何かしらの箱を持っているあたり差し入れを持ってきたのだろうか?



「よういーちゃん、それなに? 差し入れ?」


「あ、ビクトリア殿。そうです、食後に何か甘い物と思いまして、先ほど買って参りました。」


「マ? 一個貰っても?」



黒い兜を被ったままの彼と話しながら、差し入れとしてもらった菓子を口の中に頬張る。お~、クリーム系の焼き菓子だね。甘くてしっとりしててうまい。いやほんと私が甘党でよかったよね~。この世界あの神サマのおかげで意味不明なほどにそこら辺発展してるし。高いのは高いけど十分市民のお財布で普通にうまい菓子が食えるってのはほんともう、ありがたい。これで甘いの苦手だったら地獄だもの。



「あ、そうそういーちゃん? この後暇?」


「この後ですか? 特に仕事はありませんが……。」


「メシは?」


「頂きました。」


「じゃあさ……。ちょっと腹ごなしに、ちょっと殺し合いしない?」









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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い魔法の解釈の仕方ですね。興味深かったです
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