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【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。  作者: サイリウム
日常編

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54:移動しますよ




(なるほど、ねぇ。)



馬車に揺られながら手元の資料をめくる、そこには先日私たちを襲撃してきた奴らの情報が事細かに記されていた。


アルとマリーナの魔法の先生が到着したという連絡を受けた私たちは、ヘンリエッタ様のご厚意に甘えて彼女の馬車に乗せてもらっている。6人乗りの大きな馬車の中に私と弟子の二人、ヘンリエッタ様って感じだ。目的地は帝都の外にある草原で、そこで魔法の勉強をするらしい。どこかの誰かと違って、実際に魔法を使用する場合は開けた場所で練習するんだとさ。


因みにヘンリ様だけど、初回ということで昔馴染みの講師の方への挨拶を含めて授業を見学されるらしい。


そのせいでちょっと馬車の外を覗けば結構物々しい護衛さんたちが付いてきているのだが……、一旦それは置いておこう。問題は馬車の中でヘンリ様から渡されたこの資料。わざわざ彼女が手渡してくるあたり結構な厄介事かと覚悟していたが、実際その通りだった。


奴らの目的は私ではなく、マリーナ。ララクラ子爵の娘という立場だった。つまり襲撃者たちは私に親族や親しいものを殺された復讐者ではなく、ララクラ子爵の政敵が雇った暗殺者たちということらしい。まぁ暗殺者にしたらレベルの低い依頼料が安い奴らだったみたいだけど。



(道理で歯ごたえがなかったわけだ。)



彼らの主目的はマリーナの誘拐、サブとして私とアルの殺害もしくは無力化だったらしい。依頼者はどうやら先日のララクラ領で起きた騒動に関わっていた者らしく、現在は爵位を奪われ市民となっているものらしい。ララクラ領にちょっかいを掛けた子爵を支援していてその巻き添えを喰らった家ね? 依頼者はマリーナを捕まえることでヘンリ様たちが行った隠蔽工作を破壊し、もう一度例の事件を話題に上げることで勢力の巻き返しを狙っていたようだ。


マリーナちゃんに『あれ全部ウソです、ウチは盗賊に負けた貴族の出来損ないです、ぴえん』って言わせて、皇帝に『え、そうなん? じゃあララクラ家お取り潰しで。あともっかい事件の調査しよ?』って言わせて、依頼者の元貴族が『実はこんな感じだったんですよ~、爵位返して♡』ってことをしようとしてたみたいだね。



(まぁ最後の爵位を取り戻すってのは無理かもわからんけど、事実が明るみに出ればララクラがつぶれるのは確か。ついでにヘンリエッタ様が所属する保守派、皇帝派だっけ? そっちにもダメージが行く。策としては間違いではないね。)



ま、そんなわけで誘拐して口を割らせようとしたみたいだけど……。私の強さを計算していなかったようだ。もしくは過去の情報に踊らされたか。事実過去に油断してというか、なる様になったというべきか、幼女に刺されたことがあるのは確かだし、自分が子供に甘いのは理解している。それに以前五倍速、剣闘士のころの通常速度ではあの数に対応できたかちょっと微妙なところさんだったので、間違いではなかったのだろう。もし襲撃者が大半やられたとしても、アルかマリーナを人質に取れればそこで試合終了だったのは確かだしね。


私が未だ成長していることや、魔法を使えるようになったこと。一度も試合に出たことのないアルが結構戦えることや、マリーナもそれに食らいついている、って情報を入手できなかったあっちの負け、ってことだ。



「……ですのでやはり『風防壁(ウィンドカーテン)』の精度を上げるのが防御面における自身の課題かと考えています。」


「なるほどねぇ……。たしかにお肌が傷物になっちゃうのは見てて楽しいものではないし、精進あるのみね! ちなみにだけど、アルちゃんは防御の時ってどうしてるのかしら?」


「水のルーンを描いて大きな水球を作ったあと、それを壁にしたり中に飛び込んだりする感じです。身を守る手段としてはかなり使いやすくて優秀だって師匠に言ってもらえたんですけど、視界が変にブレたり、中にいる時の呼吸があんまり続かないことが問題でしょうか?」



二人の面倒を見てくれているヘンリ様を横目に思考を進めていく。


この資料にある通り、今回依頼者となった元貴族の確保には成功したらしいが、ララクラ領の一件で処罰された家はまだまだ存在している。しかも相手側の陣営である急進派の奴らが今回の襲撃と同じようにちょっかいを掛けて来てもおかしくはない。私個人が完全に敵対しているわけではないが、頼りにしているヘンリエッタ様の陣営が確実に敵対している上、マリーナはその身分と若さゆえ狙われる立場である。



(こりゃ貴族になってどうにかなる問題じゃないし、むしろ貴族になるってことは確実にヘンリ様の陣営に入るってことだから、むしろ悪化する可能性も考えられる。)



剣神祭以降私は試合に参加していないため、自身の力量を外部に発信する機会を失っている。つまり何も知らない外部の人間から見れば、私の情報は剣神祭のころで止まっているし、むしろ周囲からは弱体化しているのではと思われてるくらいだ。だって剣闘士からようやく市民になれて、その後ずっとアイドルみたいな活動してるんだよ? 現役時代の様な訓練なんかしないだろうし、強くなるとは思わないじゃん?


まぁ実際は強くなっちゃってるし、その噂を利用して『噂を肯定はしないけど否定もしない』スタンスでやっちゃってたから……。正直ヘンリ様ぐらいじゃない? 今の私の実力を完全に理解してるの。


あんまり自身の強さを前面に出した活動をしてしまうと、変なところ。それこそ軍とかから声が掛かって面倒なことになるかなと思っていたのだが、それが逆効果になってしまった感じだろう。かといってもう試合に出る気はないし……。ちょっとなんかいい感じのわかりやすい功績でも立てておいた方がいいんですかね?



(といっても剣神祭レベルの行事ってないぞ? そもアレに集まってる奴らのレベルが色々おかしかったし。外に出てからチラッと帝国軍の訓練眺めたことあったけど『え、よわ。』って感想しか出てこなかったんだけど……。)



「あら? どうしたのビクトリア様。浮かない顔して……、そんな顔してたら私の物にするわよ?」


「…………何その脅し。」



なんかよくわからんことを言うヘンリ様によって思考が現実に戻ってくる。


さっきまで見ていた資料の上に彼女の両手が置かれている、少し視線を横にずらしてみれば少し心配そうにこちらを見るマリーナに、『もうちょっと私たちに共有してくれてもいいんじゃないですか?』と目線で訴えるアル。……ありゃ、そこまで変な顔してた? ごめんって。


先ほどまで見ていた資料を直しながら、アルの鼻を人差し指でちょっとだけ押す。子供は子供らしくのびのびと前を向いて進めばいいの、汚いのとか暗い場所にある厄介事は大人で保護者の私が対処する。こっちの世界じゃどうかしらないけど、そういうのが大人のあるべき姿じゃないの? というわけで明日の私との打ち合いは普段の倍ね♡ 泣き叫んでもやめてあげない♡



「なんで!?」


「私と肩を並べたいのならせめて同じくらい速くなるか、それに対応できるようにならないと、ね♡」



軽い悲鳴を上げるアル。けどまだ余裕があるみたいで『人間が師匠みたいなおばけに成れるわけないんですぅ!』とか言ってる。うん、元気でいいね! そんなに元気なら三倍にしようか! あ、あとマリーナ自分は関係ないみたいな顔で笑ってるけど、キミも同じ量するんだよ? 今ならサービスで口からオーロラ吐くまで地獄のランニング大会もついて来るけど……、やるかい?



「け、結構ですっ!」


「ふへへ、そうはいかないよマリーナァ。どうせ私は強制で走らされるんだぁ、お前も道連れにしてヤル!」


「は、放しなさいこのアンポンタン! こちとらまだ体出来上がってねぇんですわ!? お前みたいに色々戻しながら走るほど女やめてねぇ……、ちょ、おま! どこさわってる!?」



そんなこんなで取っ組み合いが始まる。本気で道連れにしてやろうというよりも、一緒にからかい合って遊んでいるような感じ。うんうん、仲良きことは美しきかな。



「いいわねぇ……。あ、そう言えばビクトリア様? 例の女の子だけど、ほんとに無関係だったわよ。『お菓子くれた! あとビクトリア様見失った時、一緒に連れてってくれた!』だそうよ、完全な囮だったみたいね。」


「そっか。……一安心、かな?」


「……にしてもあの女の子、非常に見込みがあるわね。お家はどこだったかしら? 彼女と一緒に"推し事"してみたいのは確かだけど、いったいどんな英才教育を施しているのか親御さんにお話を聞いてみたいわ!」


「いや、やめてあげてね?」



あの後お家まで送り返した時、色々大変だったからね? 件の幼女ちゃんはずっと楽しそうにしてたんだけど、お母さんがもう可哀そうなレベルだった。気が付いたら幼い娘がいなくなっていたことの不安で1Hit、ちゃんと帰って来たと思えば私の肩に乗って数人の衛兵さんと一緒に帰ってきたものだから娘が無事であったことへの安堵と、いったい何があったの!? という気持ちで2Hit、私と衛兵から話を聞けば、勝手に鍛冶屋街から出ちゃった上に暗殺者たちに利用されて最悪死ぬところだったで3HitでK.O.だもの。


ころころ表情が変わるお母さんを見てなんかもう色々気の毒だった、二人の弟子を抱える手前気持ちはすごくわかるし……。ただでさえかなりのダメージ受けてるのに、ヘンリエッタ様っていう特大の右ストレートなんか持って行っちゃったらあのお母さん倒れちゃうよ? ご自身の身分しっかりと把握してもろて。まぁ、幼女ちゃんは『お婆ちゃんのお友達増えた!』って喜びそうだけれども。



「そうよねぇ……。やるとしたら完璧に身分を隠さなくっちゃ!」


「いやだからやめようね?」



その目の色から、何の含みもなく確実にふざけていることは理解できるが、多分このまま放っておくと急に予定を変更して彼女の家に行きかねない、今日の彼女なんか無駄にテンション高いし。何か話題を変えないとあの子のお母さんがぶっ倒れてしまう。そう考え新しい話題を探す。



「ヘンリ、話は変わるんだけど今日ってこんなに護衛必要だった? 最悪私と彼だけで十分だと思うんだけど。」



そう言いながら馬車の窓の外に指をさす。全員がガチガチの装備を身に纏い、兵種も騎兵に歩兵に魔法兵、斥候ときて決め手に異形ちゃんというより取り見取りの完璧小隊。たしかにヘンリエッタ様という大貴族の護衛にしちゃ少ない方だけど、30人くらいいるから結構な規模だ。全員の練度もかなり高いしね~。



「そも私やいーちゃんに勝てる奴なんかまずいないし、もし想定外が起きたとしてもいーちゃんが肉壁になって時間を稼いで、私が全員を安全地帯まで運ぶ。まぁ確かに護衛は必要だろうけど、思ってたよりも多かったし全員ガチガチだったからさ。気になっちゃって。」



実際、私と異形の力量は他の面々と比べると頭10個分くらい飛び出ている。私は言わずもがな高速戦闘に、最近覚えた魔法で遠距離攻撃も可能。遊撃としては最大の戦力と言える。対して異形の方だが、彼も彼で異様な進化を遂げてしまっているので滅茶苦茶強い。今本気で私たちがやり合ったら、6対4で私が負けて、勝てたとしても確実にその後まともな生活ができないレベルの後遺症を覚悟しなければならないくらいクソ強い。


なんか剣神祭のあとヘンリ様に保護されて食生活とか住居とかが改善したせいか、体が一回り大きくなってるし、『再生』の速度も意味わからんぐらい速くなっている。以前私が頭部を吹き飛ばした時は再生までかなりの時間を要していたんだけど、最近は30秒もかからずに再生する上に、頭部が破損状態になってもそれまでと同じような理性的な攻撃が出来るようになったらしい。



「腕とか食い千切られても数秒で元通りになるらしいし……、ねぇ?」


「師匠も師匠ですけど、あの人もあの人で人間なのか解らないですよね……。」



私やアルがそう言っても否定しないあたり、ヘンリ様も同じように思っているのだろう。私が『速度』に関する化け物とすれば、あいつは『死なない』ことに関する化け物だろう。ゲームとかだったら回数制限だったり、明確な弱点とかあるんだけどアイツそんなのないしな……。再生の仕組み的に最初は体内にあるエネルギーとか使うらしいけど、足りなくなったら周囲に浮かぶ魔力とか使って再生するらしいし。もう完全に勝利するにはとんでもない高火力の魔法とかで消し飛ばすしかない。



「まぁ実際そうなのだけど……、彼らには間引きと調査をしてもらおうと思っていてね? ついでに行き帰りの護衛もお願いしようかな、って。」



ララクラの一件で帝都の周辺に魔物が流れている、っていう話をしたのだが、未だその影響が残っている場所があるらしい。本来ならば国から冒険者などに依頼をすることで処理をするらしいが、ある程度情報がなければ正確な依頼を出すことはできない。私や異形並みの魔物がひょっこり現れて、冒険者っていう貴重な魔物退治の専門家たちが消えてしまうのは避けたいってことだ。


彼らの目的はある程度帝都の周りを調査して、可能ならば魔物を殺して間引きをする。大規模な掃討を冒険者組合に任せるための前準備ってことらしい。



「ほんとは国軍がやるはずだったんだけど、ちょっと手が離せないらしくてね? "貸し一つ"ってことで我が家がやることになったの。あの子がいればどうにでもなるでしょうしね~。」



なるほどねぇ。……ところでさ。ヘンリ様のいう"貸し一つ"ってなんか滅茶苦茶怖くない?








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