52:ツンデレ・デレデレ
「ということでウチに来るとかやっぱ姉ちゃん頭おかしいやろ。」
「そう? 私が知る限り最高の鍛冶師だけど。やっぱ一番イイものを見るってのが観光の醍醐味じゃない?」
「ッ~~~! 嬉しいこと言ってくれるやんか! ええよ、好きなだけ見ていきィ!」
ヘンリエッタ様のお屋敷から飛び出して来て(言葉通り)最初に向かったのは鍛冶師たちが集まる区画、そこに店を構えるドロちゃんのところだ。帝都観光と言えばここ! ってなわけじゃないんだけど、元々今日彼女のところに顔を出す予定だったし、ちょうどいいかなって。実際武具って自分の身を預ける大事な存在なわけだし、小さい時からいいものを見て目を鍛えるってのは良い経験になるはずだ。
「マリーナは初めてだったよね? この人は私の鎧とか剣とかを作ってくれてる鍛冶師のドロ。ヘンリエッタ様のお抱えってわけじゃないんだけど、何かとお世話になってる人。」
「よ、よろしくお願いいたします。」
「おう、よろしくなマリーナちゃん! 鍛冶やってるドロって言うもんや! 鍛冶以外にも細工系とか魔道具系、錬金も一応できるけど本業は鍛冶。剣や鎧の仕事やったらいつでも持ってきぃ! ……あ、お代はしっかり頂くで?」
そう、ない胸を叩きながら自己紹介する彼女。マリーナからすれば会ったことのないタイプの人間だろうし、若干気圧されている。この辺じゃ滅多にみない黒髪ってのもあるだろうしねぇ。ま、そんなわけでドロちゃん。アルとマリーナに色々見せてあげたいんだけど良いかな?
「ええで~、好きに見ぃ。あ、でも指紋付けたりすんのは堪忍な。手袋貸したるから触るときはそれ使い。」
そう言いながらどこからか二人の手のサイズに合う手袋を取り出し、カウンター越しに投げ渡してくれる。さ、二人とも許可も出たことだしちょっとだけ時間潰しててくれる? 例えば……、あの剣とか並べてるコーナー。二人とも剣使うんだし、見て損はないと思うよ。
「了解です、ほら行こ。マリーナ。」
「あ、はい!」
うむうむ、仲良きことは美しき哉。
「にしても姉ちゃん弟子増やしたんやな~。やっぱ、出来る剣士さんは引く手あまたなんちゃうの?」
「あ~、まぁね。」
実際私に弟子入りしたいっていう子は結構いる。剣闘士のころも、今も変わらずね。性別年齢種族問わず、いろんな人が私に剣を教えて欲しいって言いに来るんだけど、みんなお断りだ。正直アルの指導で色々悩みながら試行錯誤してたんだ、これ以上誰かの面倒を見切れる自信がなかったところにマリーナが追加された。そんな私にこれ以上誰かの面倒を見ろと?
「なるほどねぇ。ま、あの新入りのお嬢ちゃん貴族なんやろ? これ以上厄介事抱え込みたくないって気持ちもあるわけか。」
「厄介っていうわけじゃないんだけどね、一応大事ではあるかな。……あれ? 彼女のこと貴族って言ったっけ?」
自分の発言を思い返しながらそう問いかけるが、やはり貴族として紹介していない。もしかしてヘンリエッタ様から聞いたの?
「ちゃうちゃう、勘とこのお目目や! 纏う雰囲気に姿勢の良さ、足運びとかもアレ貴族特有の奴やで? よう知らんけど歩き方とか立ち方とかそういうの叩き込まれるんやろ。詳しくは知らんけど平民であんな綺麗な歩き方する奴そうそうおらへんで?」
「あ~、言われてみれば確かに。」
「気づく奴は気づくと思うし、隠すんやったらいい感じに教えてやんなさいな。」
だねー。ヘンリ様のお屋敷にいる時とか、私の家にいる時は自然体で過ごしてもらうのが一番なんだけど、お忍びで町に繰り出す際身分が割れてちゃお忍びにはならない。"平民の恰好をしている貴族"として扱われたいのなら話は別だけど、"平民"として街に出た際に、貴族ってことがバレちゃえばお忍びの意味がない。時間を見つけて歩き方とか教えてあげた方がいいね。
「ドロさーん。」
「ん? なんやおチビ。」
そんな感じで彼女と雑談していると、アルがこちらの方を見ながらドロのことを呼ぶ。マリーナと一緒に商品を見ていたようだが、何か気になることがあったみたいだ。え~っと? 剣はある程度見終わったから次に装飾品のコーナーを眺めてたのか。
カウンターから出てアルの方に向かうドロの後ろを歩きながら、私も装飾品を眺めてみる。初めて来たときは開店したばっかりということもあり何もなかった店内だが、色々と繁盛しているせいか置いてある品々もバリュエーションが増えてきている。ほらここの宝石があしらわれたブレスレット、冷気への耐性が手に入る効果が付与されてる。身を飾る装飾品じゃなくて、身を守る装飾品だね。
「この腕輪、なんの腕輪ですか?」
「かなり高度な魔法が込められているのは理解できるのですが、何の効果なのか……。」
そう言いながら二人が指さすのは、一つのブレスレット。金属製で青と緑の宝石らしきものが交互に連なっているタイプのものだ。これだけで十分オシャレに使えそうな一品なのだが、それにしては装飾品自体が持つ魔力量が多すぎる様な気がする。
「あ、それね! いい奴やで~! でもちょっと説明がむずいし……、姉ちゃんちょっと使ってみ? 魔力込めたら使えるはずや。」
断わる理由もないので言われた通りにブレスレットを右手首に着け、魔力を……ッ! 何!? 滅茶苦茶持ってかれるんですけど! は? ちょ、おま! こういうのは先に言えっての!
大体体感で八割、この前のアルとマリーナの魔法戦の時に使った魔力と同じくらいの力が吸い込まれた後。私の右手に嵌められていた腕輪が発光を始める。あまりの眩しさに目を閉じてしまう私たちだったが……。
「ッ! お、おっも! てかこれ!」
「そ! この前返却された騎乗槍や。そのブレスレットは『呼出』と『送還』の魔法が起動するようになっててな? いつでもどこでも登録しておいた武器を取り出せるって寸法や。まぁその対価として滅茶苦茶魔力持ってかれるんやけど……。」
急に手の中に出現する騎乗槍、円錐の突起に滑り止めが施された柄。金属で作られた質量武器だ。急に出てきたせいでびっくりしちゃったよ。すごいもん作ってるねぇ、ドロ。そう思い彼女に賞賛の言葉を送ろうとしたが、非常に遠い目をしている彼女。
説明を聞けば確かに、と理解できてしまう。店先に置いてはいるが、彼女も欠陥品ということは理解しているらしく、『よっぽどな物好きにしか売れへんよなぁ』と言いながら私から受け取ったランスを元の場所に戻しに行った。確かにこんなに魔力使って武器呼び出すくらいならそのまま魔法で殴った方が早いもんね。
「ま、ネタで作った奴やから別にええんやけどな? というか姉ちゃん。さっきの槍はどうや? 騎乗戦闘にもってこいの良い槍やで~、叩いてヨシ貫いてヨシ。実物にやったことはないけど速度しっかり乗せれば龍のうろこ貫いて心臓まで貫ける良品やでぇ? 今なら割引しちゃる、どうや!」
「前にも言ったけど私、槍使わないんだって。」
「そう? 映えると思うんやけどなぁ……。ま、いいや。んじゃ本題に入りますかね。」
そう言いながらカウンターの下から前々からお願いしていた品を出してくれる彼女。
「コレ、前言ってた装飾華美のロングソードな。実際に打ち合う可能性もあるってことやったから材質にミスリル使ったんやけど……。正直言ってクソ面倒やった。量産はできんで、コレ。」
彼女が用意してくれた剣は、私が普段使いしているロングソードから実用性を排除し、見た目だけに特化した剣。柄の部分だけでなく刀身の部分まできめ細かな彫刻が為されており、一本一本の線が髪の毛よりも細く感じられる。空白など一つも許さぬというレベルで装飾がされている。この一本で一つの世界が完成されていると言えよう。
彼女は装飾華美と言ったが、きめ細やかに埋め尽くされたソレは見る者すべてを魅了するような仕上がりとなっている。彫られた内容の詳細は理解できないが、羽の生えた様な人間らしきものが複数見えるし、この世界独自の神話が元ネタなのだろうか。
舞台の小道具として依頼したのだけど……、正直予想以上のものを出されて困惑している。正直この剣は使わずに博物館とかに飾っておいた方が後世のためになると思うんだけど。普通に大英博物館とかに展示されててもおかしくないや。
「帝国の方の彫刻で一般的な神話の一幕をウチなりに落とし込んだ、って感じやな。地元じゃ竜とか花とかそういうのが主流でな? 色々初めてやったから面白かったわ。」
「……うん、すごくいい。ありがとう、ドロ。」
「どういたしましてや。けどな? わるいんやけど二本目はちょっと遠慮させてくれへん? ミスリルの硬さにこのレベルのもの彫るのは……、正直割に合わんわ。これ一本仕上げるのに三桁近く廃棄しとるからな……、楽しかったのは認めるがもう一度やれって言われたら流石に断るで。だから大事に扱ってな。」
深く頷きながら、剣を彼女に返す。鉄よりも大分硬いミスリルにこのレベルの彫り込み、しかも一つでもミスれば最初からやり直しだ。溶かして打ち直すことは出来るだろうが、彼女のことだしどの作業も全く手を抜いていないのだろう。傷一つ付けないように扱わないとね。……正直劇なんかに使わずに一生飾っておきたいけど、それじゃあ剣が可哀そうだ。細心の注意を払って使わせてもらおう。
「鍛冶師としては、彫刻する前提で打ってさらにこのレベルの彫刻して耐久度下げた儀礼剣が、実戦にもある程度耐えられるように仕上げられてるっていうヤバさを見てもらいたいんやけど……。ま、褒められて悪い気はせんな。んじゃ、大事に箱にしまっとくわ。『保存』の魔化して置いとくからまた取りに来てな? 今日はおチビどもの引率もあるやろうし。」
「うん、ありがとうドロ。」
「かまへんかまへん、んじゃま次いこか。」
サイズの問題で彫刻のスペースの足りない剣でこれだ。彼女には劇に使用する鎧もお願いしていたんだけど……、どれだけのモノが出来上がっているのか楽しみを超えて逆に恐怖を感じてきた。だって剣よりも倍以上に工夫できるスペースのある鎧だよ? 正直見るのが怖い。
「ということで次は鎧や、まだ完成はしとらんけどかなりの大作やで。お~い、おチビども! お前さんらも奥にお入り! ドロちゃんの本気、お披露目と行きますか!」
◇◆◇◆◇
「いや~、すごかったですね!」
「素晴らしい体験をさせていただきました。公演は是非に!」
いいものが見れたと喜びながら近くの露店で買った果物を口に運ぶ二人。それだけ喜んでもらえたのならドロも喜ぶだろう。実際に感想言った時結構にやけてたし、嬉しかったんだろうね。
本来は未完成品は見せないってポリシーらしいんだけど、懇意にしている依頼主ってことで、特別に見せてもらった舞台用の鎧は色々とすごいものだった。未だ完成していない装飾の部分もあったが、私が着ること、魅せることを十分に理解しどのようにすればより引き込まれる存在になれるのかが追及されていた。
ちょっと自身の語彙が足りないせいでうまく説明はできないんだけど、とにかくすごかった、ってことで。うん、アレを見たおかげでかなりモチベーションが上がってきた。ちょっと追加の注文もしちゃったし、ドロに負けないように私も頑張らないと。
「しかし、やはり帝都は食材が豊富ですね。ララクラでは生のオレンジなど滅多に市場に出回らぬ貴重品でしたのに、ここでは市民でも十分に手に入る値段で売られている。」
「確か船での大量輸送、でしたっけ師匠?」
「そうだろうね~。」
ご存じの通り、帝都はガチガチの港町だ。そもそも帝都の範囲が広すぎるせいで私たちが海を見るには住んでいる地区から馬で移動しなければならないのだが、一時間弱飛ばせば巨大な港に到着する。毎日色んな物資を帝都に補給してくれる船の積み荷の中にオレンジも含まれているのだろう。人がいるからこそ需要が生まれ、それを解消するために金が動き供給が為されていく。大都市だからこそ大量輸送の必要が生まれ、果物一個に掛かる値段も下がっていく。
「ま、そんなところ。ちなみにウチのオーナー、いや"元"オーナー? 彼も海運やってるしなんか欲しいものあったら安めに取り寄せてくれると思うよ?」
「……ありがたいのですがララクラ領は完全な内陸。今欲しいものとしても領地の皆への物資ですので。」
「そっか。」
ここではっきりと自分の欲しいものを言ってくれれば楽なんだけど……、アルもマリーナもそこら辺気にしちゃうタイプだしなぁ。ま、よさそうなのが見つかればこっちでプレゼントしてあげる方がいっか。
そんなことを考えながらみんなで通りを歩く。今日も今日とて平和な帝都、大都市の露店が集まる通りということもあり多くの人が歩いているが、多すぎてはぐれそうなほどではない。ちょうどいい活気、しんどすぎない人混み、と言ったところだろうか。大きな商店が並ぶ通りではなく、個人の商人が露店を開く。
そのためか露店に並ぶ品々はどれも統一性がない。売りたいものを売り、買いたいものを買う。掘り出し物を見つけるのには最適な場所だ。特筆して良い物を見つけたことはないけど、こういうところにこそお宝が眠ってそうなものじゃん? たま~に様子を見に来るのがちょうどいいのよね。アルもマリーナも色んなものが見れて楽しそうだし、来て正解だった。
(……と、素直に言い切れればよかったんだけど。コレつけられてるな。)
おそらくだが、ドロの鍛冶場を出てからだろう。背後に感じるのは明らかにこちらを見続けている視線、この露店街の中で不自然のないように何度か後ろを確認したが、同じ奴が必ず視界に入る。追跡者だ。
なんでつけられているか、剣闘士時代に人を殺しまくった私からすれば思い当たる節しかない。だがソレが誰なのかは数が多すぎて決め切ることが出来ない。……私にバレてる時点で多分素人だとは思うんだけど、そいつを囮にした玄人の集団って可能性もあるから決め切れない。
一人なら裏道にそれて誘い出し、そこから問い詰めて内容によってはサヨナラ現世をしてもらうってことも出来るんだけど……。
「あ、なんか面白そうなの売ってますよ。」
「……なんでしょう、古本ですかね? そう言えばこういった露店には食い詰めた魔法使いが魔導書を売りに来ることもあるとか。ジナ様?」
「ん~、いいよ。ちょっと見せてもらおっか。」
今日は二人がいるし、できそうにない。流石にこの前のおつかい、アルのおつかいの時に遭遇した異形レベルの奴が尾行してきているとは考えにくいけど、万が一がある。
かといってこっちから仕掛けるのもねぇ?
露店街ではあるが、通行量も多いため衛兵の警邏の回数もまぁ少なくない。こっちから仕掛けた場合、周りに勘違いされて私が無関係な人を襲った、って吹聴される可能性もある。衛兵も衛兵で当たり外れが大きいし、日本の警察みたいに優秀でもない。
(となると受け身が最適なんだけど、それで二人に危害が出ちゃうのはなぁ。)
「へぇ、これ火の魔法についての本なんですね。」
「見た感じ内容もしっかりしてますし、偽物でもなさそうです。詠唱の基礎から抑えていますし、貴方にはちょうどいいのでは?」
「お~、師匠!」
「はいよ、これでいいかい?」
懐から財布を取り出し、露店の主へと代金を払う。『欲しいものあったらすぐに言ってね? 言ってくれないと店ごと買うから。』って冗談で言っておいてよかった。マリーナはまだ遠慮してるみたいだけど、アルはちゃんと自分の希望を伝えてくれる。
「マリーナは?」
「風についての物がありましたが、実家にあるものと同じだったので。」
「へ~、でもマリーナ。私に言ってよかったの? さらに私強くなっちゃうけど。」
露店を離れながらそんな会話をする、私は背後や彼女たちの周りを警戒しながらだけど、二人は追跡者がいることにまだ気が付いていないようだ。すこし挑戦的な笑みを浮かべながらマリーナへと問いかけるアルの顔を眺めながら、どうすれば追っ手を撒けるのかについて思考を割いていく。
「ふ、ふん! 魔法の道はそんなに早く極められるものではありません! 私は! 詠唱魔法よりも欠点の多いルーン魔術を扱う貴方に負けたことが気に食わないのです! さっさと習熟して私に負かされてくださいまし!」
「お~、すごい。なんでしたっけ師匠、こういうの?」
「ツンデレかな、すごく典型的だね。」
「……言葉の意味は解りませぬがバカにされていることは解ります。」
……っと。そろそろ露店街を抜けるせいか、あっちも距離詰めてきたな。
(さぁ~って、どうしようかな。)
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