51:娯楽は大事
間違えて二話分予約投稿しちゃいました、こちらは二つ目になります。
家全焼一歩手前イベントから数週間、定期的にウチにやって来てくれるマリーナちゃんを『いいこいいこ』と"かわいが"って上げて、疲労困憊になりながらも歪な笑みを浮かべて帰っていく彼女の将来に若干の不安を覚えるパーフェクト美少女、ジナちゃんでぇ~す! ……まぁ美少女って年齢じゃないんだけどね。やっぱこういうのキツイと思う? アル?
「あの気色悪い『キャピキャピモード』? でしたっけ? あれならまぁ見れるものだと思いますけど、普段の師匠を知ってる私からすれば……、正直……。」
「いや冗談で言ったつもりだったんだけど、そうマジで返されると困る。」
まぁそんな感じで毎日頑張っております。一応まだ『お姉さん』の年齢だと思うんだけど、人によっては『おばさん』カウントされてもおかしくない年だし……。体は十二分に若いんだけど、精神の方がね。前世含めるともう初老の域だから……。まぁ前世の年齢カウントしても仕方ないことは理解してるんだけどさ。
「とにかくソレ、私はともかくマリーナの前でしないでくださいね?」
「解ってるって。」
というかアルちゃん的にマリーナちゃんはどんな感じなの? なんやかんやで一緒に頑張ってるわけだけど仲良くやれてる? 私もずっと見てるわけではないし、自主練してる時とかどんなこと話してるの?
「まぁ色々と……。最初はララクラ家の人間として謝罪されましたけど、別に犯行に関わったわけでもないので、謝罪を受け取って終わりました。まぁ思うところがあるのは事実ですが、彼女じゃなくて実際統治してた父親が問題だったわけですし。特に何かあったわけではないです。それ以外は……、まぁ普通に?」
日課の素振りをしながらそう返してくれる彼女。その年齢であれば自分の父を失う切っ掛けとなった統治者、その大本であるララクラ子爵に恨みを抱き、その娘であるマリーナに対して突っ掛かってしまうなんてありそうなものだが……、彼女はそうではないみたい。
二人を教える師としては安心できるんだけど、親代わりとしてはちょっと心配になっちゃう。この子は誰かに迷惑をかける、特に私に厄介事を持ち込んでしまうことを強く嫌がっている。私としてはなんでもウェルカムで、アルもアルで自分ではどうにかならないことはちゃんと言ってくれるんだけどね~。結構自分一人で何とかなる、って判断したものは抱え込んじゃうから……。
(塵が積もって耐えられなくなるとか最悪だし、機会見つけて吐き出させないとね……。)
「あ、そう言えば師匠のことで話弾みました。」
「え、そうなの。どんな話?」
「師匠がやらかした話です。ほら宿舎にいたころの話で、食堂壊しちゃったやつ。」
あ~、あれね? 何かのお祝い事で私ら剣闘士にも酒が出た日の奴。宗教系のイベントだったということもあってあんまり興味なかったから詳細は覚えてないんだけど、あの日だけは試合もなくてみんなで好き勝手騒いでも許される日だった。酒だけじゃ味気ないと思って食堂の厨房借りて、ツマミとか料理とか作って提供したのは覚えている。
素材はお貴族様から贈られたのとか、祝いの日ということで食糧庫から放出されたのとか使ったからいい料理が出来たんだけど、肝心のお酒が安酒だったんだよねぇ。まぁ普段飲めない剣闘士たちにとっちゃ質よりも量だったし、問題はなかったんだけど滅茶苦茶酔いが回るのが早かった。
私もかなりセーブしてたつもりだったんだけど、周りに乗せられて色々飲み干したら完全に出来上がっちゃって……。当時の記憶飛んじゃったからはっきりとは覚えてないんだけど、離れて様子を窺っていたアルを含めた未成年たちの証言によると、全員がベロンベロンになるまで酔った後何故か殴り合いが始まり、最終的に私が全員吹き飛ばして勝利したらしい。
椅子や机といった食堂の備品を全て木っ端微塵にした真っ新な食堂で、倒れ伏す同僚たちに足を掛けて『やっふぅ~~ッ!!!』と叫んでいた私が非常に印象的だったらしい。
「あ~、思い出したら顔熱くなってきた。はずかしぃ。」
「一応恥ずかしいって思える心はあったんですね……。あれから一度も失敗してないので別にいいですが、当時の私からすればすごい衝撃だったんですよアレ。」
彼女の言う通り、アレの後からアルとの距離がかなり近くなったのは事実だ。それまでは完璧超人みたいに思われてたみたいなんだけど、『この人でもみっともないレベルで失敗するんだ……。』って理解してからは同じ人間として見られるようになったらしい。いやソレでようやく人間として見られるってどういうこと? どこからどう見ても人間でしょうが!
「私の知る人間は胃の内容物を圧縮したり、意味不明な速度で動いたり、鉄の剣が溶ける火球に飛び込んでほぼ無傷だったりとかしないと思うのですが。」
「それはそう。」
実際自分でも『アレ? 人間やめてる?』って思うところもあるのでアルの感覚は間違っていない。でもまぁ"異形"こといーちゃんみたいな存在もいるわけだし、ギリギリ人間って枠組みでカウントしていただけるとありがたいです。はい。
ま、今のアルの表情。『マリーナにこんなこと話したんですよ~。』って顔を見る限り仲良くやれているのだろう、マリーナからのヒアリングがまだのため決め切ることはできないが、とにかくアルは彼女のことを悪くは思っていないようだ。最初の模擬戦である程度お互いの実力が理解できて、切磋琢磨し合う友人として受け入れることが出来た、ってことだろうか。
「っと、そろそろ時間だね。アル? 切り上げて支度してきな。」
「あ、は~い!」
アルに切り上げるように言いながら、自身も片づけを始める。この前言っていた劇の話だが、ようやく話が動き始めた。転生したせいで空白となっている私の半生をでっちあげた後、今は本職の脚本家に添削を頼んでいる感じ。ようやく手が空いたわけなんだけど、現在は脚本に合わせた演出を考えているところだ。ストーリーは出来たから肉付けをしている感じだね?
ということでアルの自主練を見ながら演出の本や実際の演劇の記録などを読んで勉強してたってワケ。こっちも本職に丸投げしてもいいんだけど、折角だから色々試したいことがあってね?
「そう言えば師匠、今日は師匠も来るんですか?」
「うん、初回だけだけどね? あっちの先生へのご挨拶と、大まかな方針についてのすり合わせしに行く感じ。」
剣を直し、家の中に着替えに戻っていったアルから庭先で本を片付けていた私に声を掛けられる。
彼女の言う通り、今日はヘンリエッタ様のお屋敷に伺う日、アルとマリーナがちゃんとした指導者の元で魔法を学び始める日だ。アルもマリーナもほぼ独学。アルは私、マリーナは家の者っていう師がいたみたいだけど両者とも魔法に対して造詣が深いわけではない。理論立ててしっかりと一から学ぶのであれば専門家の手を借りた方がいい。
「にしても学園都市の先生ねぇ。」
この世界。いや正確には帝国であるが、よくある異世界モノに恥じず『学園都市』というものが存在しているらしい。帝国や教会、他には商会などがお金を出し合って設立された学園で、様々な学校が集まって一つの都市を確立させている一風変わった街。今日アルたちが教えを乞う先生は、そんな学園都市の中で一番力を持つ学校である『帝国魔法学園』で教師をされていた方だそうだ。
「帝国がお金を出してて、多くの貴族の子供たちがそこへ学びを深めに行く。貴族以外でも魔法の適性がある者であれば平民でも入学可能、学費免除の制度もアリ、ね?」
ま、簡単に言えば"人質"兼"刷り込み"の学園なのだろう。表向きは魔法詠唱者を鍛えることで国力の底上げを図る、でも本当は貴族たちの反乱を防ぐための人質だったり、子供に帝国への忠誠を刷り込ませる場所だったり、優秀な平民をどこかに取られる前に国で青田買いしておく場所ってところか。
「ヘンリ様がわざわざ呼んだってことは『誰かに教える能力』ってのは確かなんだろう。そこは別にいいんだけど……。」
ヘンリエッタ様、彼女のことだからわざと私に聞こえるように零したんだろうけど。あの人はアルもマリーナもそこに入学した方がいいんじゃないか、といったニュアンスのことを言っていた。まぁ早い話、私の囲い込みとかそういうのだろう。純粋に私のことや、アルたち若人の成長を気にしているが、同時に政治的目標も合わせて達成する。面白いことに、この話に乗っても乗らなくても私に不利益はないし、乗った方が利益になる。
「まさにWIN‐WINってか? あ~怖い怖い。」
悪い人ではないんだけど、根本的なスペックと言いますか、政治家としての能力が高すぎて色々とヤバいんだよねぇ。
「でもヘンリエッタ様が何か変なことしても、師匠が耳元で愛とか囁いたらあの人一瞬で堕ちると思いますよ。もしくは融ける?」
…………そっちはそっちでありえそうで怖いよ、うん。
◇◆◇◆◇
「"堕ちる"わね、確実に。むしろその声を聴くために全てを投げ打つ自信があるわ。私。ビクトリア様に『帝国、ちょうだい♡』とか耳元で言われちゃったら、あの子(皇帝)叩き落してでも持ってくるわよ?」
「え!? え、え!?」
ほぉ~らやっぱりマリーナちゃん壊れちゃった。ダメでしょアル、聞きたかったのは解るけどそんなこと聞いちゃったら。ヘンリエッタ様は悪乗りするし、マリーナちゃんは状況を理解できずに壊れちゃったじゃない。
ウチのお馬さんに乗ってヘンリエッタ様のお家にやって来た私たちは、いつもの応接室に通された。講師の方がもう来ているのかなぁ、と思っていたのだが待っていたのはヘンリエッタ様とマリーナだけ。いきなり本題ってのもアレなのでちょっとばかし雑談を楽しんでいたらアルが爆弾を投下しちゃったわけだ。
「どうする? 一番手っ取り早いのは革命だけど、やろうと思えば今の陛下に嫁いで毒殺かなんかで一時的に帝位を奪う皇后ルートもいけそうよね? あ、あと一番周りの反対が少ない方法としては、教会を巻き込んで真の皇帝はこっちですよ~! ってのもあるわね!」
あ~、確かこの帝国って王権神授説的なノリの国家だっけ。神からこの地の統治者として認められたが故に皇帝である、っていう。確かにその大本がひっくり返れば全部潰れるわけか。
「ん~、結構面白そうね。それに確かビクトリア様って今代の聖女様と繋がりがあるでしょう?」
「…………なんで知ってるのさ。」
「あら? これでも耳はいいのよ? まぁ普段なら察知できないのだけど、あの時は大分焦ってたみたいね? 貴方のお家に行く際の転移、魔力の残滓が隠されてなかったもの。」
あ~、あれね。わかりやすく言っちゃうと幕間の後始末の奴。普段なら聖女パワーで帝都に来たことを隠せたんだろうけど、あの時はことがことだったから非常に焦っていた。そこに莫大な魔力を使用して行う長距離転移の残滓が残っていれば気づく者は気づく、と。
「ちょっと他にも漏れちゃったからこっちの方で『聖女様も私たちと同じファン~』みたいな噂流して打ち消しておいたけど……。そうではないんでしょう? 神は気まぐれでいらっしゃるからどうなるか解らないけど……、もし『こちら側に帝権はあり!』とでも宣言したら、楽しいことになりそうね?」
妖艶に微笑む彼女。付き合いの長い私だからこそ、その口元の笑みの種類が"おふざけ"のものであるため冗談であると理解できるが、あいにく付き合いの短いマリーナちゃんは完全に勘違いしているようだ。まぁこの人ふざけてぽんぽん皇帝の批判してるもんなぁ。まぁ今の皇帝の幼少期から面倒を見ていたからこそできるお遊びなんだろうけど、全く知らない人が聞けば前々から現体制に不満があると考えてしまってもおかしくない。
なんとか自身の動揺を表に出さないようにしているマリーナちゃんだが、微塵も隠せていない。
たぶんだが今の彼女の頭の中は大変なことになってるのだろう、今の彼女じゃヘンリが冗談を言っているとは考えられない。つまり今雑談のノリで話されているのはガチの反乱のお話。少し考えれば嘘だと思い至りそうなものだが、今の彼女は冷静じゃない。今すぐこの場を離れて帝国の臣としての役目を全うするか、それとも大恩あるヘンリエッタ様に付くか。
どっちみちこの場にマリーナがいる時点でララクラ家の立ち位置は最悪である。今の帝国側に付けば家は残るかもしれないが、元居た派閥を裏切ったものとしての悪名が高まり、その上先日の事件が公になり貴族ではなくなってしまうかもしれない。対してヘンリエッタ様に付けば反乱に失敗した場合はすべてを失ってしまうが、成功すれば確実にララクラは残り続ける。その上今の地位よりも上を目指せるかもしれない。
どちらを選んでも、最悪家が消える。どちらも同じ大きさのリスクを孕むのであれば、選ぶのはより、リターンの大きい道。
「わ! 私も! 非才な身ではありますが!」
「まぁ冗談なんだけど。」
「…………ふぇ?」
おそらくだが、そんなことを考えていたのだろう。覚悟の決まった顔でこちら側に付くことを宣言しようとした彼女だったが、途中でヘンリエッタ様に話を遮られる。さっきまでの妖艶なお顔はどこへ行ったのか、いつもの彼女の顔に戻っている。しかも『この子何言ってるのかしら?』という不思議そうな眼を向けながら。
……楽しいのは解るけどちょっとやり過ぎじゃないの? 私が言えた義理じゃないかもしれないけどさ。
「ヘンリ……。急に梯子外したら可哀そうでしょう?」
「…………梯子?」
「今の冗談よ、冗談。ウソ、わかる、マリーナ?」
「う、そ? ……嘘ォ!?」
わ、大きなお声。
「ごめんなさいねマリーナ、ちょっと反応が面白かったのでふざけ過ぎちゃった。てへぺろ♡」
「……ヘンリ、だから年考えよ?」
「あら? 恋する乙女はいつでもピチピチよ? それに私この手のジョーク大好きだから早いとこ慣れちゃってね? 坊や……、今の陛下の目の前でもするし。」
「それはそれで面の皮厚すぎない?」
よく皇帝陛下はそれ許してくれるよね……。え? あの子幼少期に色々オイタしてそれ全部私が何とかしてあげたから頭上がらない? ……いっつも思うけどなんで私が貴方に気に入られたのかずっと疑問だわ。うん。
「あら! 恋に理由はいらないのよ!」
「はいはい……、んで? 今日は学園から先生来てるんでしょ? 色々指導方針とかのすり合わせしておきたいから二人の指導前に話しておきたいんだけど。」
「あ、それなのだけど……。」
彼女の話によると、どうやら昨日到着するはずだった講師の人が遅れているそうだ。先に連絡だけ届いているため、安否の確認は出来ているのだが、なんでも帝都と学園都市を繋ぐ道の近くに魔物の群れが現れたみたい。その群れが討伐されるまで出発は延期のため、数日遅れるとのこと。
「結構高齢のお爺ちゃんだからね、強行軍で無理やり進むのはキツいんですって。というわけでお休みなのだけど……。」
そう言いながら私を自身の方へ呼び寄せ、耳元で話しかけてくるヘンリ。
「ビクトリア様には悪いのだけど、ちょっとマリーナを連れ出して遊ばせてやってくれないかしら?」
私にそう願う彼女の視線は、先ほど余計なダメージを受けたことをアルに慰められているマリーナへと向けられる。必要あることとはいえ、彼女が今学んでいる内容は同世代が学ぶ内容よりも格段にレベルが高い。今は何とか喰らいついているが、どこかで潰れてしまってもおかしくない状態である。それを見かねて休ませようとしたこともあるのだが、自分の置かれている状況を考えすぎてしまい、休みの日も勉学に費やしてしまうらしい。
「さっきの冗談、冗談を冗談として受け取れなかったのもそうなのだけど。家の存続を第一に考えている彼女が賭けに出てしまったことは、"正常ではない"。ここに来た頃の彼女であれば私に恩が有ろうとも、帝国に恩が有ろうとも家の存続のために自身の立場を明確にすることはしなかったはず。」
所謂、風見鶏。より有利な方に付くという選択が今回の正解。つまりこの場では立場を明確にせず、企みに参加するような雰囲気を出しながら明言はしないというのが正解だった。ここに来た頃の彼女であれば選べていたであろう選択を出来ていない。ヘンリエッタへの恩がそれだけ強くなった、という理由もあるのかもしれないが……。
「そういうわけで今日一日連れ出して休ませてあげてくれない? ろくに帝都の観光も出来ていないみたいだし。任されてくれるかしら?」
「なるほど、ね。任された。」
ジナちゃんそういうお願い大好き。
「よぉーし! そうと決まれば早速出発だ! 行くよ二人とも!」
「あはは!」
「おわッ!」
二人の首根っこを掴み、そのまま窓から外へ飛び出す。アルはさすがに私の奇行に慣れたみたいですぐに受け入れ笑い出したが、マリーナはまだそうでもないみたい。多分これから定期的に連れ出すことになりそうだし、早めに慣れてね♡
「よぉーし! じゃあ帝都ツアー行っちゃうよ~!」
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間違えて二話分予約投稿しちゃいましたので明日はお休みにします。ごめんちゃ!




