48:決闘開始の宣言をしろ!
新章始まります、お待たせして申し訳ない。
一週間ほど連続投稿いたします。
さて、区切りもいいし改めて自己紹介からいこうか。
私の名前はジナ。特に苗字は持たないただの一般市民。帝国の首都である帝都にて家を構え、弟子のアルと一緒に楽しい異世界生活を送っている。
元々は男で現代の日本に住んでいたんだけど、気が付いたら今の女の体を手に入れ異世界に。まぁそこだけならよくある"異世界転生"で終わったんだけどね? 運の悪いことに奴隷スタートって奴だった。朝起きたらいいお天気だけど両手両足が鎖に繋がれてる奴隷、最高にロックでしょ? まさにクソ喰らえ。
んであれよあれよと新しいご主人様が決まったと思えば、なんとそいつは私の様なか弱いレディが惨たらしく殺されるのを見て楽しむタイプ。この世界の一般的な趣味嗜好ではあるが、こっちからすればたまったもんじゃない。こちとら殺し合いどころか喧嘩すらまともにしたことなかったんだぜ? それが剣一本握らされて明らかに狂った殺人者とご対面。私のご主人様は闘技場の観客席で高みの見物だ。
普通ならばそこで私の物語はオワオワリ。セーブシステムなんか搭載してないので、他のクソゲー宜しく即売り払われてワゴン行き、もとい死体の山のてっぺんに乗せられて腐肉と化すところだったんだけど……。まぁ運が良かった。
私の体に宿っていたのは、スキル『加速』。自身の速度を上げることで、人の何倍も速く動ける優れモノだ。こいつのおかげで死地を脱した私はその後も何とか生き残り続けて……、今に至る。
ビクトリアとして剣闘士の仮面を被り、前世見た宝塚の様な振る舞いをすることで自身をアイドルとして売り出す。次の私を作るためにオーナーの意向で弟子を取る、この国の権力者であり特権階級の貴族様たちと繋がりを得る。剣神祭に出場し奴隷身分から抜けだす。まぁいろんなことがあった。一回死んだけど……、今ではいい思い出、ではないな。もう二度としたくないや。
まぁそんな感じ? 剣闘士時代に手に入れた力と技術を使って今も何とか生きている一般市民ってワケ。
「ほらアル、ピース!」
「ぴ、ぴース?」
え? お前の様な一般市民がいるかって? 軽く300程度無傷で切り殺した奴が一般市民とかどんな修羅の国か? ……いやまぁごもっとも。上から数えた方が早いレベルで強い市民って言い直すよ。
今の目標は、自身をよりアイドル。民の娯楽としてもっと都合のいい偶像になる為の準備。今応援してくれてる人への感謝とか、後援者への恩返しとか色んな理由はあるけど、根本はやっぱりお金稼ぎ。おまえらまだ金持ってんだろ! ジャンプしろジャンプ!
因みに私主役で劇をするんだけど、その題材は私の存在しない半生を扱ったもの。まぁ皆さんご存じだろうけど、こちとら転生組、しかも赤ちゃんスタートじゃなくてある程度育った後の体にぶち込まれたわけだから、半生どころか剣闘士としての記憶。そして前世の男としての記憶しか持ってない。
こんなのお芝居にできないでしょ? だから今半生をでっちあげて台本を作ってるの。
というわけで今の目標はこの劇を完成させて、私のファンもとい金蔓からもっとお金を落としてもらうこと! 大前提として弟子のアルを立派に育てるとか色々あるけど、直近の目標はそんな感じだ。
「あ、そうそう。ちょうど今日からもう一つ追加される。」
実は私、もう一人弟子を取ることになりました! マリーナちゃんっていう子爵令嬢で、風魔法の使い手。
ヘンリエッタ様っていうこの国のお貴族様でかなり偉い人に私は、先日のやらかしというか不可抗力のせいで被った被害を全部引き受けてもらった。まぁそれまでにも色々恩はあったが、それにかなり大きいものが上乗せされたわけ。彼女のオーダー通りに、私はマリーナちゃんを強くしないといけない。
「ま、そんな感じかな。かなり端折っちゃったから、解らないところとかあったら読み返してくれると助かるよ。」
纏めるとすれば今の目標は、
①『自身の半生を扱う劇の公開に向けて準備』
②『アルとマリーナを育て上げる』
この二つだね!
と、いうことで。
今後とも、応援よろしく。
◇◆◇◆◇
「うぅ、緊張するなぁ。」
「……何言ってるんですか師匠。もっとヤバいこと一杯あったでしょ。」
「いやまぁそうなんですけどね?」
アルに突っ込まれ、そう返す私。今日は私たちの家にお客様がやってくる、まぁお客様というよりは新しい弟子なんだけど。彼女自身は爵位を持っておらず、身分としてはただの子爵令嬢。それにビクトリアとして対応してきた貴族向けのお遊びの指導ではなく、ガチの指導を求めてやってくる子だ。
確かにアルの言う通りもっとヤバいこと。ヘンリエッタ様を初めとした殿上人、貴族の中でも格段にえらい人たち相手にビクトリアとして接したり、一歩間違えればアルともども市中引き回しの後磔獄門になるような場面は色々体験してきた。けど今回はちょっと方向性が違うのだ。
剣闘士として自身の命を賭け金にする感覚が深く根強いている私は、自分の命を差し出すような状況であってもそこまで負担にはならない。だがそこにアルの命や、他の命。誰かの人生が関わると極端に弱くなってしまう。ビクトリアの仮面で隠すことはできるが、内心ではもうガクブルだ。
(誰かの人生を任されるのは、ね。)
今の私は、アルが大きくなるまでに何一つ不自由しないように手を尽くしている状態だが、そこにもう一人加わるわけだ。依頼として頼まれたからじゃない、自身が関わるのならば、それが彼女の人生に関わるのならば全力でやらないと申し訳が立たない。だけど、私にアルを見ながらマリーナも見ることができるのだろうか。二人の面倒を見た時どちらかが中途半端になったりしないだろうか。
この緊張は、そういった心配から来ているのだろう。
ま、なるようにしかならない。もう避けられない以上やることやるしかないのだ。
「あ、アレですかね?」
「よしっ! 切り替え完了!」
アルの指さす方を見てみれば、明らかにヘンリエッタ様の家の馬車がこちらに向かっている。新しい弟子のマリーナは確か帝都にいる間はそっちでお世話になると言っていたし、あの中に彼女がいるのだろう。ちょっとだけ『加速』を使い顔を叩くことで意識を立て直し、彼女たちを導く師としての意識を強く持つ。
「じゃあアル、お出迎えしましょうか。彼女もそう望んでいるみたいだし、普段通りでいいよ。」
「わっかりました!」
いつもよりテンション高めでそう答えるアルの頭を軽く撫でてやる。まぁ元々妹や弟のいる環境で育った彼女だし、同年代とはいえ妹が増えるのが嬉しいのだろう。ま、受け入れる側がフルオープンな感じだし、マリーナちゃん本人も"貴族たれ"という意識が少し先行しすぎている気もするがその根っこは善良でいい人間だ。そこまで心配しなくていいかな?
そうこうしている間に、ヘンリ様のところの馬車が私たちの目の前に止まる。ララクラで見た彼女の執事らしき老年の男性が扉を開け、内部から新しい弟子がゆっくりと降りてくる。顔や動作、微笑みを浮かべ貴族らしくあろうとしているが若干の震えが見える。キミも緊張してるのかー。
「いらっしゃい。」
「き、今日からお世話になります! マリーナです!」
貴族としての名ではなく、彼女自身だけを表す名を名乗る彼女。あの圧迫面接みたいな謁見の後、何度か顔を合わせた時に私が市民であることは話している。ヘンリエッタ様にお世話にはなっているけど、そこにあるのは日雇いの契約ばかりで、主従契約などは結んでいないってこと。本人はかなり驚いていたが、別にそれが理由で態度を変えることはなかった。
まぁ市民にとって貴族ってのは変に威圧されちゃうのが常だ。ウチは色々あり過ぎてマヒしてるけど、私たちが気を遣い過ぎないようにそういう名乗りをしてくれたのだろう。もしくは、貴族としてではなくただの"マリーナ"として自身を見て欲しいとの表れか。……どっちかというと後者かな~。
「アル、マリーナを庭に案内してあげて。」
「解りました、こっちです!」
「あ!」
うきうきでマリーナの手を引いていくアル。引かれた本人は少し驚いていたが、大丈夫だろう。さて、私は私で大人の話をしないと。庭へと向かった二人を見送りながら、マリーナちゃんを連れてきた執事。彼に声を掛ける。
「ハァイ、この前ぶり?」
「はい、先日の冒険者組合ではありがとうございました。……お嬢様を、よろしくお願いいたします。」
「もちろん。んで? 子爵様やヘンリ様から何か伝言とかもらってる感じ? 初日だから現状把握と軽いトレーニング程度で止めるつもりだけど。」
「いえ、御二方からは特に。先日の決定通り、と。」
「了解、んじゃ日が暮れるころには切り上げるからお迎えお願いしますね。」
「かしこまりました。」
そういうと深い礼を返した後、馬車へと戻っていく執事さん。最初は泊まり込みのブートキャンプを視野に入れていたが、ウチにはもう一人住めそうなスペースがない。いや物置とか整理すれば作れはするんだけど、その整理にどれだけ時間かかるか解らないからさ。ヘンリエッタ様のところでお世話になるみたい。
まぁあの人、『ちょうどいいし、男爵領の代官のお仕事回して英才教育するわ~!』って言ってたし、そういう教育のこともあるのだろう。大体朝ごはんの後ぐらいにウチに来て、日が沈むまで徹底的に扱いた後は帰ってもらう。毎日ではないけどまぁそんな感じだ。
「さて、時間も惜しいしさっさとやりましょうか。」
「というわけで今からお二人には殺し合いをしてもらいます。」
私の発言に、『あぁまた師匠おかしなこと言ってる』という顔をするアルに。いきなりのこと過ぎて明らかに困惑しているマリーナちゃん。どう? 声色とか雰囲気とかめっちゃ重めにしてやってみたけど良い感じ? デスゲームの司会役のオファー来るかなぁ。ジナちゃんだったらプレイヤーたちが反乱しても返り討ちにして『あらら、みんな死んでしまいました。これがほんとのデスゲーム、なのですかね?』みたいな狂人プレイできるんだけど。
どうです、デスゲーム運営さん。今ならお安くしときますぜ? まぁ貰うのはお前たちの命なんだけど。
「師匠~、普通にお願いしまーす。」
「あら、だめ? なら仕方ない。」
小道具として用意していた白い仮面に、真っ黒なマントをそこら辺へと投げ捨て、私服の姿で再登場。
「でも戦闘をしてもらう、ってのは本当なんだけどね。アル、マリーナ。」
そう言いながら木の剣を二人に投げ渡す。子供でも扱える刃渡りのショートソード、太めの木の芯を削りだした結構お高くて頑丈な木剣だ。アルが普段使っている鍛錬用の剣は、刃を潰した金属製。奴隷時代は木剣だったけど最近そっちにグレードアップした。つまりこの選択はマリーナちゃんに合わせている、ってこと。
この世界において実際のパワーが目に見える筋肉体積量と比例しないのは、一般的な鍛えられた女性の腕に見えるけど人間の頭蓋骨ぐらい握りつぶせる私を見れば明らかなんだけど。マリーナちゃんはどこからどう見ても、どう考えても必要な筋肉量に達していない。今は筋力を積み上げるよりも技の基礎を固める時期だし、振りやすい木剣の方がいい。
「あんまり話したことないし、お互いどんな人間かよくわからないでしょう? 剣を交えるだけで全部解るわけではないけど、その切っ掛けにはなる。……マリーナ?」
「あ、はいっ!」
「君の隣にいるアルという子、貴方の姉弟子に当たる子ね? 私はあの時冒険者組合で会ったあなたしか知らないけど……、アルの方が格段に強い。ハンデはいるかい?」
あの時点では剣においてはアルが優勢、魔法においてはマリーナが優勢という形だった。それは現時点でも変わらない、マリーナが持つ能力は足運びや体幹、その身に纏う雰囲気から確かに成長している。だがアルも同じように成長していて、その伸び率はアルの方が高い。魔法においては未だマリーナの方が一日之長があるようだが、あの時と違いアルも魔法を習得している。拮抗はするかもしれないが、最終的に近接の勝負となりアルの勝ちで収まるだろう。
「……いりません。」
「いいね。決して勝ちを諦めず、必ず学びを得るために全神経を集中させなさいな。ある程度実力が近い方が学びやすいところもあるのよ? んでアル。」
「はい、師匠。」
「姉弟子を名乗りたいのなら、恥じない行動をしなさい。」
深く、頷く彼女。アルとマリーナを比べた場合確かにアルの方が強いが、決してマリーナに勝ち筋がないわけではない。アルもアルで学んできた剣は十全ではない。受け流しの精度は甘いし、体格的にはマリーナの方が有利だ。隙を見せれば刈り取られてもおかしくないだろう。ま、いい感じに切磋琢磨しなさいな。
"戦いなさい"、ではなく"行動しなさい"。相手を倒すことに注力するのではなく、自身の思い描く型を再現しながら、相手にそれを見せつける。打ち込んでくる相手の位置、勢い、戦術。それを一つ一つ見極め、観察しながら自身の動きも見直していく。
マリーナちゃんにはまだ早いだろうけど、今のアルには十分可能だ。この子の目の良さと、理解力の高さ。期待してるよ。
「頭、胴体、腕、足。致命傷か戦闘不能に陥る部位に当てることで勝敗を決める。寸止めはしなくていい、私が割り込むからね? 最初は剣だけで、次は魔法も使った総力戦でいこう。さ、『3分間待ってやる。』から柔軟なり素振りなりして準備しな~。」
二人に時間を与えた私は優雅にリロードタイム……、ではなく。私も自身のロングソードを手に取り地面に突き刺す。といってもいつもの長剣ではなく、訓練用の木剣。芯に金属の棒が入っている奴だ。ケガになりそうな攻撃を打ち込みそうになっちゃった時に、これで割り込むってワケ。試合開始と同時に『加速』し、二人の全身を眺めながら改善点を纏める。それが私のお仕事だ。……っと、メモ帳忘れるところだった。どこに置いたかなっと。
庭の机に置いてある劇の資料や台本の草案をかき分けながら、まっさらな紙束を探し始める。そんなことをしながら、横目で二人の様子を確認してみると……。あら、マリーナちゃん全然慌ててないね。意外。
(急に"戦わなければ生き残れない"……ってほどではないけど、突き放したのは確か。それでもちゃんと自分で考えて動けるのは、イイね。)
アルが何食わぬ顔で少し離れ、軽く柔軟をし始めるのは解る。常日頃から無理難題や、理解不能なことを私が投げかけているせいか、彼女の状況把握能力や、精神を正常に持ち直す能力は高い。彼女の故郷から帰ってきた後はさらにそれが磨き上げられたと言えよう。……まぁ神ちゃまの来訪とかあればどんな出来事にも耐性が出来そうなものだけど。
対してマリーナは最初少し戸惑いを見せたが、アルが少し離れたのを見て自身も同じようにスペースを確保し柔軟や剣の握りなどを確認している。その一つ一つの動きが帝国の剣士がするもので、彼女の根本に何があるのかを察することが出来る。
(前よりちょっと洗練されてるし……、ヘンリ様のお屋敷にいる護衛兵たち。彼らに少し教わったのかな?)
軽い素振りを見る限り、以前私が指摘した点を改善し、その少し先に歩を進めている彼女を見ながらそんなことを考える。あのお屋敷の兵士たちは私や異形に比べると塵芥(言い過ぎ)だが、決して弱いわけではない。それこそ高望みしなければ闘技場で生き残れるくらい。彼ら彼女からすれば、一生懸命に頑張る彼女はかわいい存在だろうし、少しぐらい指導しててもおかしくはない。
(彼女が持つ型は、私やアルのような我流ではなく帝国の剣士が皆修めている流派。名前しらんけど闘技場でもよく見たよね~。……私にこの流派の指導は無理だし、型はあっちの護衛兵に任せて、こっちは実戦メインでの指導ってものありかも。)
「さて、そろそろ3分たったかな。二人とも、準備はもういいかな? ……大丈夫そうだね。じゃ、二人とも位置について。」
「始め。」
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