45:少しずつ積み上げて
「マリーナちゃん、貴方の出番よ?」
「わ、私。でしょうか?」
「そ! 強くなってバンバン功績稼いで、ララクラ家を自他ともに認める真の名家にしちゃいましょ!」
ヘンリエッタ様が、私と同じくらいの年齢の子にそう言う。彼女に詳しい師匠であれば『あれ絶対なんか企んでる顔だよ……。』と言うであろう怪しい顔で、彼女は自身の計画を淡々と話していく。あ、どうも。バリバリ従者モードのアルです。
「対外的な貴方のお父上の評価だけど、未然に反乱を防ぐことができたが多くの配下を失ってしまった。そして娘がその失敗を誰もが認める成果を上げることで精算する。お話としては完璧だし、やらかしたリンベッタじゃないおかげでとやかく言われる筋合いはない。うんうん、我ながら完璧ね! しかも貴方の性格なら孫の補佐とかも任せられそうだし元老院入りも私の方で推せる……、いいんじゃない?」
「お、お待ちくださいませ!」
楽しそうに話すヘンリエッタ様に、マリーナと名乗る彼女が声を上げる。その顔には明らかに焦りがあり、言いたいことがあるのだろう。
「わ、私は魔術も剣も未熟で! そんな私が伯爵位など……。」
「あら、それは今の話でしょう? 私は未来の話をしてるのよ。ビクトリアから聞いたけど……、強くなりたいんでしょう?」
親戚の子、それこそ孫に対して物事を教えるように言葉を紡ぐヘンリエッタ様。今更だがようやく私の中で理解が追いついた、このマリーナっていう貴族様この前師匠が言ってた風魔法を使うご令嬢だ。なるほど、道理で師匠の騎士の演技見た時ヤバい顔してたんだ。ふふん! ウチの師匠はすごいんですよ! 強さとか性格とか謎に引っ込むお腹とか。謎は多いですけど、こと演技に関してはマジで別人と思えるほどすごいんです。
一応コツとか教えてもらってるんですけど……、今の私じゃ1つの役をやり切るので精一杯。さっきからずっとやってるお澄まし従者の役だけです。
「確かに1人で強くなるのは難しいわ、でも貴方の目の前にはちょうどいい支援者がいる。あなた一人ぐらい余裕で育てられるお金に、育ててもおかしくない権力の持ち主。その上その支援者は、とてもいい先生を抱えている。というわけでビクトリア? この子お願い♡」
「……えッ! 私ですか!」
あ、師匠の素だ。めずらし。
「そうそう! ほらちょうど今アルちゃんの面倒みてるでしょ? たまにでいいからこの子に剣や実戦を教えてあげてくれない? ハーバル……、あぁ黒騎士ちゃんね? この子、手加減とか本当に無理な子だし……。そうなると人に教えられて、めちゃくちゃ強いのってビクトリアちゃんぐらいじゃない?」
「えぇ……。」
「申し訳ないビクトリア殿……。実は以前警備兵の方々と模擬戦をしたことがあるのだが、どれだけ手加減しても教会送りにしてしまい……。」
脳内に浮かぶのはぺこぺこと頭を下げて謝罪する異形さんに、担架で運ばれていく護衛兵の皆さん。まぁ『頭蓋骨? 握りつぶせるよ~』って公言してる師匠と打ち合いして勝てる力量の持ち主と戦ったらそうなりますよね……。いや護衛兵の皆さんが弱いわけではないんですよ? 確実に私が戦ったあの兵士たちよりは強いはずですし。
二人が規格外過ぎるだけで……。
「あぁ、うん。まぁお前体デカいしね。」
「本当に申し訳ない。」
本当に申し訳なさそうにする黒騎士こと異形さんにそう答える師匠。というか異形さんってハーバルって名前だったんですね。師匠は頑なに名前で呼ばないし、私も異形さんで覚えちゃってたのでなんかすごく新鮮です。今度からお話しするときはお名前で呼ばなきゃ。
「マリーナちゃんって使う魔術詠唱魔法よね?」
「あ、はい。そうです!」
「ならビクトリアに剣を教えてもらって、魔法の方は私が今度魔法学園から呼ぼうと思ってた講師の方がいるからその方に教わるといいわ。あぁ、でも元々そこにいるアルちゃんのための先生だったから、一緒に受けてもらうことになるけど……。二人とも大丈夫かしら?」
「大丈夫です。」
「あ、わ、私も大丈夫です!」
従者の姿勢を維持しながら、あまり堅苦しくならないように返答する。私に遅れて令嬢の方も、了承の旨を返答した。ふふふ、私の方がすまーと、に返答できた! 私の勝ち! 師匠の話によるとあの時点では魔法の熟練度において私が負けていたみたいだけど……、例の事件のおかげで魔法が使えるようになって以降無茶苦茶練習したおかげで火のルーン以外にも使えるようになってる!
つまり師匠の弟子である私の勝利! 勝った!
「……ヘンリエッタ様さぁ、まだ私了承してないんだけど? それにマリーナちゃんでよかったっけ? 彼女の返答も聞いてないし。というかアルも一人増えるけどいいの?」
「あら。そう言えばそうだったわね。でも……。」
「よ、よろしくお願いしましゅ!」
「私は大丈夫ですよ、師匠。」
師匠の言葉に不思議そうな顔をしながら私たちに話を振るヘンリ様。それに顔を真っ赤にしてそう答えるマリーナ嬢と、淡々と何もないように答える私。流石に毎日ずっと家にいられるとなると私も渋ったかもしれないが、たまにという話だから大丈夫だろう。そもそも私よりも弱い人が強くなろうと頑張ろうとしているのだ。"姉弟子"、としては大きな心で受け止めてあげるのが道理。そう、"姉弟子"として!
「えぇ……、反対してるの私だけ? なんかワルモノみたいじゃん。」
「あ! じゃあビクトリア? ちょっと耳かして?」
ちょいちょいと手招きして師匠を自身の近くまで呼ぶ彼女。今更だがもうテンションがいつものヘンリエッタ様、師匠と楽しく遊んでいらしている時の雰囲気になっている。一応まだララクラ子爵様とかその娘のマリーナ様とかいるんだけど、色々大丈夫なのかなぁ? と思ってしまったが大丈夫そうだ。
マリーナ様は顔と耳を真っ赤にしながら違う世界に飛び立ってるし、お父さんがそれを見てガチで困惑。一応謁見の最中ということで何とか娘さんを現実に戻そうとしているが、何をやっても想像の世界から帰って来ない。あ、鼻血出てる。マリーナ様も"そっち側"だったんですね……。
というか想像だけでなんかヤバい感じになってるのに剣とか合わせ始めたらもっとヤバいことになるんじゃない? ほんとに修行できる?
「(今回の件、対外的には私の私兵と子爵の騎士団の混成軍ってことになってるから、一部の人にしか貴女のことバレてないし……。その対処したってことでなんとかならない?)」
「(一部の人ってそれ絶対ヘンリ様レベルで身分高い人でしょうが! 私はあんまりそっち側に行きたくないんだって!)」
「(え~? あなたなら思想的にも大丈夫だし、どうせ領地経営とかもちゃんとできたりするんでしょう? ビクトリア様だし。)」
「(んなわけないでしょうが! 私にできるのは切った張っただけ! そりゃアイデアぐらいは出せるけど実務は無理なんだってば!)」
……いやアイデア出せるだけヤバくないですか師匠? 小声ということもあり何とか子爵様たちには聞こえてないだろうが、私や異形さんにはちゃっかりと聞こえている。師匠とヘンリエッタ様の会話や、オーナーとの会話を横について何度も聞いているからわかるけど、師匠の出したアイデアを実用化した場合何かしら成功しているところが多い。
いや成功した分それ以上の失敗とかあるんだろうけど、とにかく師匠が領地運営や商業への知識を持っていることは確か。ヘンリ様の思惑的に、そのアイデアの出し方とかそういうのもマリーナ様に教えて欲しいってところなんだろう。……今更だけど師匠のその知識とかどこで手に入れて来てるんですかね?
「(だから! 政治には! あんまり関わりたくないの! 位高い人に認知されるだけで小市民にはキツイの!)」
「(……あ、ごめん。そう言えばあの子、陛下にも成り行きで言っちゃったわ。てへぺろ!)」
「(ちょ、おま! 何やってんの!)」
わぁ、カオスなことになってるぅ。
あ、ちなみにもう色々収拾がつかなくなってきたのでこの謁見はお開きになりました。淡い緑色のドレスを鼻血で真っ赤に濡らしながら出血多量で気絶したマリーナ様と、無茶苦茶ほくほくしたお顔のヘンリエッタ様。そして肩で息をしながら天を仰いでいた師匠が印象的でしたね。
◇◆◇◆◇
「はぁ~~、始まる前からしんどい……。」
庭の地面にある小石を砕きながらそんな愚痴を口にする。普段はアルが傍にいるときにネガティブ100%の発言をすることはできるだけ控えているのだが、正直気が重いのは確かだ。
「確か今日いらっしゃるんですよね、マリーナ様は?」
「そうだけど……、なんかアル滅茶苦茶ウキウキしてない? 普段ならお貴族様相手だしすごく緊張してそうなものだけど。」
「確かに緊張はしてますが……、それよりも妹弟子ができるのが嬉しいんです!」
鼻歌を歌いながら庭の掃除をする彼女、今日はここで軽く素振りとかしてもらった後にアルと打ち合ってもらおうかと考えていた。年齢の割には剣が使えると言ってもアルには遠く及ばない、現実を見ながら超えるべき目の前の壁をいち早く理解してもらおうとそういうメニューにしている。
「上手く行くといいけどね。」
あの後、ララクラ子爵の謁見を済ませた後。もう一度用意された場ですべてのことが決まった。ヘンリエッタ様によるララクラ領への内政指導や、経済支援。そして現ララクラ子爵への教育と再婚相手の決定。本来なら内政干渉になるためできないようなことも、ヘンリ様の権力パワーとララクラ子爵のやらかしが原因ですべて通り、全てが順調に進んでいるらしい。
アルの故郷も例外ではなく、少しずつではあるが復興が進んでいてララクラ子爵の騎士団が定期的に見回りをしてくれているから安心して暮らせているみたい。先日少しだけ二人で顔を出しに行ったのだが、他の地域から新たに入植した人も増え無事に村として機能するよう物事が進みだしていることも確認できた。
魔物の忌み袋、盗賊たちの被害にあってしまった女性たちだがあの後ララクラにある教会でお世話になっているらしい、社会生活に復帰するまでは時間が掛かるそうだが、教会の人間がつきっきりでケアをしているみたいだし私にできることは残っていなかった。助けるのが遅くなった詫びも込めて少し多めに寄進しておいたし、後は彼女たちがもう一度立ち上がるのを祈るばかりだ。
んで、話を戻して私個人の話。ヘンリエッタ様がやらかして上に私のことが伝わってしまったようだが、まぁそれは忘れることにする。今の自身にできることは何もないし、ヘンリ様の性格的に私が本気で嫌がることはしないだろう。必要があれば貴族になることも考えるとは言ったが、それは騎士爵だったり男爵といった低い位のこと。魑魅魍魎の厄介な中央政治に関わる気は全くないのだ。
「……でもまぁ断れなかったんですけどね?」
結局言いくるめられてしまい、私は風魔法を操る彼女。ララクラ子爵の一人娘であるマリーナを弟子とすることになった。ヘンリエッタ様が『元老院にぶち込むわよ~!』と張り切っているということはいずれ彼女は予定通りの道をたどるのだろう。つまり未来の伯爵サマで、元老院議員サマだ。いくら現在の彼女が爵位を持っておらず、厳密にいうと"貴族"ではないといっても胃が痛いのには変わりない。
「『アル、姉弟子様と同じように扱ってくださいまし!』って言われても、ねぇ?」
一応親御さんである子爵様からも許可は頂いているが、大事な一人娘らしく『お手柔らかに』指導することが求められた。ヘンリエッタ様に睨まれてすぐに言い直していたが、まぁ本心はケガ一つしてほしくないのだろう。まだ彼女も体が出来上がっていないし、剣闘士のようにボコボコにしながら体で覚えさせるって方法を取るつもりはないのだが……、まぁ気を遣う。
「一応ヘンリ様から正式なお仕事としてお金貰ってるし、アルに魔法の先生の授業料全部あっちで持ってもらうことになったから頑張らなきゃいけないのは確かなんですけど。」
愚痴を吐きながら地面に落ちていた小石を踏みつぶし、砂にする。
でもまぁ、思いっきり政治案件を潰しちゃった代償としては安い方か。それが良いことであれ悪いことであれ普通貴族同士の戦争に口出しして止めてしまえば要らぬ注目を浴びてしまう。それを彼女が全部止めてくれたから今も私は一市民として生活できているわけだ。それを考えれば一人の貴族子女をまともに戦えるぐらい鍛えるってのは安い注文だよね。
両頬を軽く叩き、気合を入れ直す。
「ま、頑張りましょうか! ということでアル~? マリーナちゃんと模擬戦してもらうと思うからもう準備しときな~。」
幕間として2話ほど挟んでから、今回の最後の続き。新章を開始します。
全力でギャグに割り振ったので、苦手な方はお気をつけて。
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